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第15回 ヤマト福祉財団、小倉昌男賞 贈呈式

手間をかけること、じっくり取り組むこと。障害者の強さが農業で輝く

2014年12月4日、東京、日本工業倶楽部

北と西から農業で優れた成果

毎年12月の障害者週間に開かれる小倉昌男賞贈呈式。あいにく肌寒い雨がそぼ降る当日でしたが、障害者の経済的自立にめざましい実績を上げていらっしゃるおふたりを、第15回となる今年も大勢の方が讃えました。

受賞されたのは、北海道のほぼ中央に位置する新得町から農事組合法人 共働学舎新得農場の代表、宮嶋望さん。もうお一方は、愛媛県松山市郊外で自然栽培による農福連携を展開する株式会社パーソナルアシスタント青空の代表取締役、佐伯康人さんです。

期せずしてご両名とも農業分野を手がけられています。

手間暇が生きる職場づくりを

宮嶋さんが、日高山脈の麓で新得共働学舎の牧場づくりを始めたのは1978年のことです。町からの申し出で30ヘクタールを無償で借り受け、6人からスタートしました。ここに集う人たちの背景はさまざまです。障害者だけではありません。舞踏病やひきこもりなど、一度は社会に居場所が見つけられなかった人たち約70名を現在は受け入れています。

新得農場が掲げるモットーは自労自活。農場は生活の場であると同時に働く場でもあります。自分たち自身で日々の仕事を決め、仕事を通じてやりがいや自立を促すことに、心を砕いています。

そんな彼らが手間暇をかけて生産した商品は、新得共働学舎の名を世界に知らしめています。それは牛飼いから熟成まで、一貫して手作りで仕上げたナチュラルチーズ。本場ヨーロッパのコンクールに出品した さくら は2004年に金メダル獲得の快挙を成し遂げました。

現在はチーズを中心に、有機野菜やパン、ケーキ、工芸品などの販売で2億円超の売上を立て、もっとも給料の高いメンバーの月給は6万円の水準に及んでいます。

自然農法で福祉を、地域を再生

障害のある3つ子を授かり、福祉の世界に足を踏み入れたという佐伯康人さん。やがて地域に暮らす障害を持った子どもたちが学び、働く場を見学するようになると、クッキーの製造や下請けなど、どこも同じような作業ばかり。また育児、介護、リハビリを支援してくれる行政サービスも多くは、利用者本位より事業所都合が優先しているように映りました。このままでいいわけがない。

障害者ひとりひとりと、支援者ひとりひとりが向きあい支援するパーソナルアシスタント制度の存在を欧米に知ると、自ら B 型をおこなうパーソナルアシスタント青空を2005年に立ち上げました。

ほどなく支援者より1反の農地を借りたことから、脱下請けの一環として農業に取り組み始めます。当初は慣行農業でしたが、奇跡のリンゴで知られる木村秋則氏の自然栽培と出会い、試行錯誤を繰り返しました。

いまでは佐伯さんたちのつくった自然農法米は、一般の平均卸価格の3倍、じつに1キログラム730円の値がつくほどの人気です。地域に増える耕作放棄地を活用し、耕地面積は11ヘクタールに達しました。18人の利用者への月給は、平均5万円をクリアしています。

相対的貧困線を超えるために

受賞者には賞状ならびに正賞として、母子のブロンズ像、愛が贈呈されました。またいつも式典を大いに盛り上げる花田春兆さんも登壇し、おふたりを詠んだ俳句を披露。贈句されました。

あいさつに立った有富慶二財団理事長からは「おふたりのすばらしいところは質の高い商品を開発生産し、お客さんが高いお金を払ってもいいという状況をつくっていること。それが給料をたくさん払えるビジネスを成立させています」と考察。続けて障害者の置かれている経済的な環境について、「 B 型の福祉施設では約20万人の障害者が働いていますが、その平均月給は1万4000円です。

いっぽう OECD が定める相対的貧困線を日本に当てはめて計算すると、そのラインは112万円。これは障害者年金77万円を受給して、月給を3万円もらえれば、なんとかクリアできるという数字でもあります。

そうした面から見ても、おふたりが率いるところは一段も二段も上を行っている。このすごさを会場のみなさんにもぜひご理解いただきたい」と功績を讃えました。

贈呈式のあと、参加者はフロアを移し、華やかな雰囲気の祝賀会で親交を深めました。

「これまで正直、僕たちはあまり認めてもらえませんでした。賞状の文言から、僕らの36年間をきちんと細かく見て評価してくださったことが伝わり、うれしく思いました」。宮嶋 望さん。

「おふたりの業績は小倉昌男賞にふさわしい、たいへん優れた業績であります。審査員一同高く評価しております」。選考委員を代表して、一般財団法人厚生年金事業振興団 、前理事長、渡辺 修さん。

「ミッションとも言うべき、なにかものすごい大きなものが、宮嶋さんを動かしている気がします」。宮嶋さんを推薦した、NPO コミュニティシンクタンクあうるず専務理事、菊池貞雄さん。

新得町から町長、町議会議長もお見えになりました。

「けっしてユーモアを忘れず、関わる人たちをつねに笑顔にしながら、とうとう東京ドームを超えるような、大きな農地でたくさんの野菜を作るようになった」と佐伯さんを評する推薦人の株式会社ココシマ、津田和泉さん。

来賓を代表してご祝辞をいただいた厚生労働省 社会、援護局 障害保健福祉部長の藤井康弘さん。

「今日の雨は、『このような賞をいただくには、おまえはまだ早い』と天が怒ってるんじゃないかなと思います」。佐伯康人さん。

今年も多くの方をお迎えしました。

受賞者の佐伯康人さんと奥様の恵さん、宮嶋望さんと奥様の京子さん。

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