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実践塾2015 新塾長対談。弁当、配食サービスと農業の新塾を開講

真似る、経験する、改善する、学びを共有し、成功へ

2013年にスタートした 夢へのかけ橋 実践塾。塾生たちは、塾長がこれまで行ってきた方法を学び取り入れることで、利用者さんの給料増額を目指しています。さらに、昨年9月に弁当、配食サービスをテーマにした楠元洋子氏の楠元塾を開講。今年9月には農業をテーマにした熊田芳江氏による熊田塾を開講します。今回の対談は、このおふたりをお招きし、それぞれの塾の方針や今後の夢などを語っていただきました。より多くの施設が、障害のあるかたの夢をかなえるかけ橋となれるように。ヤマト福祉財団は、本年度もさらなる支援を進めていきます。

夢へのかけ橋 実践塾

武田塾、新堂塾、亀井塾

2013年9月スタート。2015年まで2年間

楠元塾

2014年9月スタート。2016年まで2年間。お弁当を専門とした塾

熊田塾

2015年9月スタート。2017年までの2年間。本年度パワーアップフォーラムで塾生を募集。7月17日 大阪、7月24日 東京。農業を専門とした塾

「つくる人、売る人、買う人、食べる人。そんなネットワークを構築したい」熊田氏

「利用者さんの給料アップ、その目的を忘れなければ迷うことはない」楠元氏

働いて給料を得ることで利用者さんの心の負担は軽くなる

司会 夢へのかけ橋 実践塾がスタートして約1年半が経ち、我々も多くのことを学びました。そこで、塾長と同じ事業をおこなう塾生であれば、塾長のノウハウを取り入れやすく、一足でも早く目標を達成できるのでは、と考えました。楠元さんに弁当、配食サービスを専門にした塾長になっていただき、さらに今年9月から新たに農業を専門とする熊田さんに塾を開いていただくのは、そんな目的からです。それでは、まずおふたりが塾長をお引き受けいただいた時のお気持ちからお伺いしたいと思います。

楠元 洋子氏(以下敬称略) お弁当の塾のお話をいただいた頃、私はすでに県内のいくつかの施設より相談を受けていました。そこで私なりにアドバイスを行っていましたので、これを塾生に伝えていけばよいのかなと、お引き受けすることにしました。でも実際にやってみたら凄く大変(笑い)。多くの施設が取り組みやすいモデルとなる方法を考えていくのは想像以上に難しいですね。

熊田 芳江氏(以下敬称略) 私は正直、小倉昌男賞をいただけたこと自体、想像もしていませんでしたし、塾長なんてとても私の器ではないと思いました。しかし農業と施設という塾の切り口を聞き、塾生と一緒に私も学び、今後に活かせるものをなにかを得ることができればと、お引き受けしました。ですから、人に教えるというよりも私も一緒に学ぶという意識ですし、本当に塾生の見本になれるのか不安ではあります。

司会 いま地方の農家が抱えている問題は深刻ですね。また、健康な人は都会に出て働き口を見つけることができるけれど、障害のあるかたはそうはいきません。そんな時、うちでつくった作物を売ってくれる人、うちの空いた田んぼで働いてくれる人を、福祉施設の協力で実現できれば、地方と福祉施設の両方の問題を同時に解決できるのではないかと、熊田さんにお話をしたのです。

熊田 農業は、作物をつくるだけではビジネスとして成立しません。つくる人、売る人、買う人、食べる人という一連のつながりが必要です。このネットワークを全国の福祉施設でつくることができたらと考えました。例えば、農業をおこなう施設でつくった野菜を、お弁当屋さんをおこなう施設が購入し、お惣菜をつくって売る、そんな流れができれば素晴らしいですね。

司会 私たちは、利用者さんの夢をかなえるには、働く場とより多くの給料が必要だと考え、ひとつでも多くの施設に夢へのかけ橋になってもらいたいと支援しています。

楠元 お給料をもらえれば、自分がほしいものを自由に買える喜びも生まれます。一般就労を達成した利用者さんが「正社員になれたので、いままでよりも高いお弁当をください」と注文してくれた時はうれしかったですよ。

熊田 お金の心配は、心の負担にもなるわけで、経済的に自立していくことはとても大切ですね。

楠元 保護者にとって一番の心配は、自分たちがいなくなった後のことなのです。子どもたちに仕事がなければ、後々の生活が不安。働く場所さえあれば、というのが切実な思いです。

熊田 訓練さえすれば、障害のある多くのかたが働けるようになります。働くことで人とふれあい、周りから認められることで自信をもって生きていくことができます。田畑で汗を流して一生懸命に働く利用者さんの姿を見て、農家のかたも理解し、より協力いただけるようにもなりました。

塾生の顔つきが次第に変わってきました

司会 楠元塾を開講して約半年が経ちましたが、塾生にはどんなことを望まれ、指導されていますか。

楠元 塾をはじめる際に、塾生が提出した申請書を読ませていただきました。それを一行一行チェックしながら、正直、本当にやる気があるの、本当にやれるの、と思ったかたもいました。私たちが目指すのは、利用者さんの幸せです。そのために事業を成功させ、利用者さんの仕事の幅を広げ、お給料を増やしていくのです。その目標がわかっていない人もいました。

熊田 それは困りますね。

楠元 そこで、まずは私の施設で見学会を開き、お弁当事業とはどういうものか、なにが必要なのかなどを実際に見てもらいました。さらに塾生の施設で見学勉強会をおこない、どこをどう改善すべきかを具体的にアドバイスしました。それでもなにをすべきか理解できない、職員を説得できないなど弱音を吐く人には「誰が事業の責任者なのかと問い、このままでは塾生を続けても意味がない」と厳しく言ったこともあります。すると、それまで1日のお弁当の売上がひとつかふたつしかなかった塾生が1ヵ月後に40個に増やしてきたのです。自ら営業に走り回って販売先を拡大したようです。それが自信になり、次はここにも営業しますと、意欲的に変わりました。大切なのは、経営者としての自覚を持ち、考え行動することですね。

熊田 施設のトップはもちろんですけど、職員も雇われているという感覚から、経営者の1人として事業を進めていく自覚を持つことが大事です。私の塾でも、そんな意識改革からはじめていく必要がありそうですね。

自分たちが苦労して覚えてきたすべてのことを塾生に伝えたい

楠元 いま、製造原価について勉強していただいています。在庫棚卸表をつけることで、はじめて正確な数字で把握できます。また、職員の勤務シフト表もしっかりと作成し、必要な時間帯にこそ人員を割り当て、効率化を図るようにも指導しました。

熊田 例えばどんな作業ですか。

楠元 1日300食をつくるようになれば、盛りつけ作業の時間帯に人員を厚くする必要があります。どの時間帯に多くの人員を割り当てると、生産性が上がるのか、人件費の無駄を省けるのか、そういった経営者としての視点を持ってほしいと指導しています。

司会 PDCAの徹底も指導されていますね。

楠元 お弁当屋に限らずすべての事業にPDCAは必要です。目標を立て、全員で動き、その結果から次の改善策を考えていく。大切なのは、これを繰り返し続けてメニュー改善や営業活動に反映し続けることです。そんな経営やビジネスノウハウを、私は施設を立ち上げてから5年間、ずっと失敗と苦労を繰り返しながら取り入れてきました。

熊田 私たちがはじめた時には、それを教えてくれる塾なんてありませんでしたからね。まさに見よう見真似、ずっと手探りでした。

楠元 あの頃に教えてほしかったですよね(笑い)。ですから私は、これまでに積み重ねてきたすべてを塾生に伝えています。いまの私は、塾生が変わっていく姿を見ることが、やりがいのひとつになっています。

熊田 私もこれまでどんな失敗をし、そこからなにを学んだかを塾生に伝えていく必要がありますね。なんだかじわじわとプレッシャーが(笑い)。でも塾長をやらせていただくことは、自分のためにもなると考えています。いままで無我夢中で走り続けてきましたが、この機会にこれまでのことを整理し、改めて見直そうと思います。

楠元 確かに自分にも役立ちます。塾生に勤務シフト表のつくりかたを教えようとした時、自分のつくった勤務表を見直してみたのです。すると利用者さんにはわかりにくい点があると気づきました。お陰で職員、利用者さんに、仕事の流れや目標を見やすく改善することができました。

熊田 私たちもずっと勉強ですね。

楠元 そのとおりです(笑い)。

障害のある人にしかできない、つくれない価値を提供できる農業を

司会 熊田さんは、具体的にどんな指導を考えられていますか。

熊田 事業として考えると農業は、とても幅が広いのです。例えば、どんな作物をつくるのか。地域によりいろいろな特産物がありますし、施設の規模や条件でつくれるものも違ってきます。また、それをだれにどんな形で買ってもらうのかでも変わります。塾生には地域の特性などをきちんと調べてもらい、それぞれに合った事業を一緒に考えていこうと思っています。

楠元 地域によってなにがつくれるかはまったく違うでしょうね。

熊田 10人いれば10の実践方法があると思います。例えば、いま食の安全、安心についてクローズアップされていますが、同じ農業でも大規模な農家が大量に生産するものと、障害のある人が無農薬で丁寧に育てた農産物では、消費者に伝わる価値がまったく違ってきます。

楠元 確かに丁寧に仕事をすれば、サービスの向上につながり、競争力をつけることもできます。

熊田 ひとつひとつの仕事にできる限りのことを尽くし、それをお客様に評価いただければ売上は伸び、給料にも反映できます。消費者が選び求める本物の価値を創り出せれば、成功に結びつくはずです。

お客様の求めるものをつくる。それが商品力であり、競争力

楠元 私の塾では1日300食の販売を目標にしていますが、だれもが簡単にそれを達成できるわけではありません。中には、すでに200食を超えた塾生もいますし、いまだに20食の塾生もいます。そこにはどんな違いがあるのかをつかんでもらいたいのです。例えば、ヘルシーなお弁当をつくろうと決めても、それは本当にお客様が求めているものなのでしょうか。肉体労働者のお客様が多いならヘルシーよりもボリュームです。自分たちのつくりたいものではなく、お客様が求めるもの、選んでいただけるものを提供することが最も大事なはずです。

熊田 必ずしも、つくりたいものイコール買っていただけるものではありません。いま農業も消費者の立場になって考えていく時代です。それを調べて、どう実現するかが最も難しく大切なことだと思います。これから農業をはじめる塾生は、農産物をどうやれば市場にまわすことができるのか、そこで悩むと思います。例えば、レストランを開く、加工品をつくるなど、いろいろな方法がありますが、その施設の持つ専門性を活かして実現していく必要があります。しかし、自分たちだけでは解決できないことも多いのも事実です。私は、地域のかたの協力があって実績を上げることができています。塾生には、地元にどんな企業があるのかなどをしっかりと洗い出してもらい、どういった手段がよいのかを決め、その上で目標を設定していきたいと考えています。

楠元 地域との連携は大切ですね。私もこれまで多くの地元企業などと協力してお弁当事業、リネン事業を強化してきました。そこに必要なのは、双方にメリットを生み出すアイデアと工夫です。

熊田 震災後、福島県では農産物の信頼回復を目標に、多くの人が一致団結して取り組んでいます。私が行っている土壌回復、有機栽培もそのひとつです。私たちは、農家とは違う福祉施設という立場で農業に挑むことができます。うちではシイタケの菌床栽培農家から廃棄される菌床をいただき肥料にしています。そんな実験的なことができるのも、いろいろな形で助成をいただける福祉施設だからこそ。一般の農家では、簡単に取り組めないことも、私たちになら可能です。この先の日本の農業を見つめ、実践して貢献していくことも、私たちの大事な役割のひとつだと思います。私は、安全、安心、そして美味しい福島ブランドを多くのかたに知っていただくために、地元の企業と協同して新商品の開発も行っています。こうした地域と一体となった活動も、塾生にはぜひ挑戦してもらいたいのです。

福祉施設ではなくお弁当屋さんとして地域に定着できる存在へ

司会 最後に塾長としての今後の抱負をお聞かせください。

楠元 うちのお客様の大半は、キャンバスの会をお弁当屋さん、クリーニング屋さんとして覚えていて、福祉施設だとは思っていないんです。私は、それをとても誇らしく思っていますし、塾生にも、ぜひそうなってほしいと期待しています。障害者の施設だから仕事をもらう、商品を買ってもらうのでは、今後売上を伸ばすことはできません。いろいろと努力、工夫を重ねて生き残るところが、本物だと思います。それができてこそ、利用者さんが満足できる仕事を創出し、お給料もたくさん支払えるようになるのです。この目的を忘れなければ、どんな壁にぶつかっても迷うことなく前に進むことができます。

熊田 これからの農業も、新たな価値を創り出し、競争力をつけることが大切です。そのためには、先ほどお話ししたように、ただ農作物をつくるだけではなく、それを買ってもらうところ、商品にしてもらうところを確保することが必要です。このネットワークを構築するために、楠元さんや塾長のみなさまにも知恵をお借りしたいと思います。

楠元 みんなで力を合わせ、お互いに一般企業に負けない新しい価値を創り出していきたいですね。

熊田 ありがとうございます。これで塾長として頑張っていく元気もわいてきました(笑い)。

楠元 頑張っていきましょう(笑い)。

楠元塾、楠元洋子塾長

社会福祉法人キャンバスの会理事長

第13回小倉昌男賞受賞。紙おむつの共同購入や食品販売をおこなう施設を大阪で設立。その後、故郷の宮崎に引っ越し社会福祉法人キャンバスの会を立ち上げる。障害の重さに関係なく、ひとりでも多くの利用者さんに働く場とお給料を、のテーマで配食サービスを開始。高齢者施設や保育施設、葬儀社などと連携し販売数を拡大。現在1日2000食以上、利用者さんの中には月給11万円を超えるかたもいる。さらに、質の高いサービスと効率的な生産体制を目指してお弁当の製造工場を株式会社として設立。他にもレストラン、リネン事業を展開するなど、障害のあるかたの働く場を創出しながら、利用者さんの一般就労も次々と達成している。

事業所のひとつ、お弁当のまるよし

社会福祉法人キャンバスの会で見学する塾生

熊田塾、熊田芳江塾長

社会福祉法人こころん 常務理事、施設長

第14回小倉昌男賞受賞。平成14年にNPO法人を設立し、直売カフェ、こころや や養鶏事業など地域と密着した農業事業を開始。里山再生プロジェクトにも積極的に取り組み、農と福祉の地域ネットワークづくりに取り組んできた。東日本大震災後は、地元農業復興のために本格的に農業分野へ進出。地域住民と協力し、障害のあるかたの働く場を創出する、という目標を掲げ社会福祉法人こころんを立ち上げる。土壌回復と有機栽培に切り替えた田んぼで安心、安全な農作物を耕作。地元企業と6次産業化を目指した新商品も開発し、地元の野菜や加工品と一緒に こころや で販売。農商工を連携する一員として地域活性化に貢献している。

カフェも併設した直売所のこころや

地域の生産者と連携してとれたて野菜が並ぶ、直売カフェこころや

もうひとつの農業支援、水稲自然栽培チャレンジ

3月9日、株式会社パーソナルアシスタント青空、代表取締役佐伯康人氏、の掲げる自然農法による水稲栽培で、高給料モデルづくりに参加する5施設、うち1ヵ所は野菜 果樹、が集まり、今後の進めかたなどを話し合いました。

これは2015年4月から休耕田、耕作放棄地で水稲自然栽培を開始し、売上、就労人数、就労時間を記録することで高給料モデルを実証するプロジェクトです。ヤマト福祉財団では、2年間で600万円の助成金を用意し、耕運機、田植え機、コンバインなどの購入、レンタル費用などを支援します。

参加5施設

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