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第16回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞 贈呈式

自分らしい暮らしを支えて、人や土地の元気を取り戻す。

2015年12月3日、東京、日本工業倶楽部

今回は3名の受賞者

仕事づくりや労働条件の改善など、障害者の経済的自立に尽力し、その生活向上に多大なる成果を上げたかたにエールを贈るヤマト福祉財団 小倉昌男賞。今回はおふたりの開拓者とともに、もうおひとかた、8年ぶりに特別賞が設けられ、3名の受賞者が登壇しました。

本賞に輝いたのはまず、東京の世田谷区で25年にわたり、精神障害者の働く場づくりに邁進されてきた西谷(にしや)久美子さん。社会福祉法人はる の常務理事です。そしてもうおひとりは、福井県は坂井市、あわら市にまたがる坂井北部丘陵地で、主にナシ、ブドウといった果樹栽培を手がけ、高工賃を実現している、特定非営利活動法人ピアファーム 理事長、林博文さんです。

特別賞は、90歳を迎えられた俳壇の大家、花田春兆さんに贈られました。

精神障害者だって働きたい

精神障害者の福祉作業所での勤務を通じて、西谷さんはある確信をいだきました。彼らには働くことが必要であり、それが一番のリハビリになる。自信を取り戻すきっかけになる。

しかし当時、精神障害は福祉の範疇ではなく医療の問題として取り扱われる時代。精神障害者が働くこと自体、タブー視される風潮にありました。

それでも西谷さんの熱意は冷めることなく、次第に周囲の理解を獲得し1994年、念願の共同作業所、パイ焼き窯を開設。それがやがて、社会福祉法人はる へとつながります。

現在では第2の作業所、パイ焼き茶房、クロネコ DM 便配達や清掃作業などをおこなう世田谷唯一の就労支援 A 型事業所しごとも やグループホームの運営のみならず、福祉の仲間、医療や行政、市民をも巻き込んだネットワークづくりに力を注ぎ、地域の連携にも欠かせない存在です。

瀬戸 薫理事長は、当時は高級住宅街に作業所を開設するのにもパイオニアとしてのご苦労があったのではないかと西谷さんの功労を讃えるとともに「世田谷産のリンゴを使ったアップルパイの美味しさもさることながら、地元のものを使って地元に尽くす姿勢に感心しました。また、仕事の評価も客観的な基準がしっかりできており、利用者も次なる目標を持ちやすいのではないか」と評しました。

高い給料を出すための農業経営

西谷さんの都会型の事業展開とは好対照を成すのが、福井で耕作放棄地の再生を通じて、障害者の自立に挑む 特定非営利活動法人ピアファームの林さんです。

農業で高い給料を出すことを最大の目標に据え、それまで勤務していた社会福祉法人から10名の利用者、3名のスタッフとともに2008年に独立分社。以来、果樹栽培に取り組んでいます。果樹は、一般的な野菜にくらべ栽培に手がかかるものの、販売単価を高く設定でき、収益を上げやすい点に注目したのです。

地元あわら市はかねてよりナシの栽培が盛んな地域でしたが、多くの地方と同じように後継者不足で耕作放棄地が増え、荒れた農地が目立っていました。ナシ栽培はそんな地域への貢献も果たしており、まさに、してもらう福祉から地域に貢献できる攻めの福祉への転換です。

福井(北陸農政局管内)では NPO 法人初の認定農業者の承認を2011年に取得。福祉の延長で農業に携わるのではなく、あくまで農業の一環に障害者の活躍の場を作るという姿勢に徹し、平均月給5万円以上を実現しています。

「障害者が4、5人で肥料をいれる作業を拝見しましたが、職員のかたの手伝いなしでおこなっていたことに驚きました。作業は膨大なはずですが、みなさんにこやかにお仕事に励んでおられました」と、瀬戸理事長は訪問時の印象を語りました。

花田春兆さんに特別賞

「我々の小倉昌男賞にはなくてはならない人です。春兆さんは言葉の魔術師ではないかと思います。俳句を詠みますと、まぶたの裏にわぁっと情景が浮かんできます」。

特別賞に輝く花田春兆さんは、昨年10月に90歳、卒寿を迎えられました。俳句に加え日本文化の研究にも深く功績を残し、その仕事ぶりは偉業と呼ぶにふさわしいもの。小倉昌男賞では毎年、受賞者にお祝いの俳句を詠んでいただきました。今年はご自身も受賞者のひとり。奥様の遺影とともに式に臨まれました。

3名の受賞者に賞状ならびに正賞として、母子のブロンズ像、愛が贈呈される度に、会場は拍手で満たされました。

「25年間にわたって、ともに支え合った はる の利用者と職員、障害団体や地域のみなさま、そして夫と子どもたちに心から感謝し、ともに喜びを分かち合いたい」。西谷久美子さん

「西谷さんは134人の利用者に高水準の工賃を給付している実績に納得。林さんは農福連携という枠を超えた新しい境地を期待させます。そして、花田春兆さんは日本の宝だと思います」。選考委員を代表して、きょうされん 専務理事、藤井克徳さん

「障害者が働くことを家族でさえ想像できない時代があった。だから今、はる で働いているかたはもちろん、彼らを取り巻く家族のうれしさも深く感じます」。西谷さんを推薦した、有限会社まるみ名刺プリントセンター代表取締役で東京中小企業家同友会 理事障害者委員長の三鴨岐子さん

「障害児教育の草分けとして知られる田村一二氏の『賢愚和楽』『流汗同労』を、現代に実践しているのが林さん」。林さんを推薦した、社会福祉法人ほっと福祉記念会、福島県被災地における障害福祉サービス基盤整備事業アドバイザー派遣事務局、統括コーディネーターの山田優さん

厚生労働省、社会、援護局、障害保健福祉部障害福祉課長の田中佐智子さん

「今日、東京に来ましたら頭が痛くなりました。東京の空気が合わないんですね(笑い)。やっぱり田舎がいい。可能性はまだいくらでもあると思っています」。林博文さん

卒寿を迎えた花田春兆さんに特別賞が贈られました

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