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受賞のことば

働くことは自分らしい生きかたや誇りを取り戻すための道筋

心に染みこんだ言葉

現職に就くまえに、私はいくつかの仕事をしてきました。その折々で、障害児とその保護者や仕事仲間から、社会人の心構えや生きかたを教えていただきました。

やがて、働くことを通じて得た能力を障害者の暮らしに生かしたいと思うに至りました。

公務員時代は児童福祉の分野で14年間働きました。入職式で組合委員長からいただいた祝辞は、「私たちは誰のために働き、その人の幸福のために何をなすべきか。その仕事があなたの本来の仕事であり、それによってあなたがたはプロと言えるのです」。

その言葉こそ、私の仕事の原点。道に迷ったときには、そこに立ち返って方向を選んできました。

どんなに重い障害を持っている子どもでも、ともに遊ぶ仲間と生活環境が整えば、必ずその子なりの成長、発達がある、との確信を、仕事を通じて得た私は、おもいっきり働ける仕事を目指して区役所を退職し、現在の精神障害分野で働きだし、まもなく25年の歳月が流れます。

今の私に自信を持てる社会に

成人期の精神障害者は何を求めているのだろう。

ほぼ全員のかたが健康でごく普通の社会人らしい暮らしを取り戻したいと願っている。

障害児が異年齢の子ども集団の中で大きく成長したこと、自分自身が仕事をして成長した実感を思い返し、働く場づくりが精神障害者の願いに沿うものではないかと考えました。それからは何かに追い立てられるように障害者の働く場をつくってきました。

共同作業所、パイ焼き窯をつくった当時、精神障害者の経済的自立支援を謳う作業所は、かなり異端の目で見られました。働かせるイコール無理させるイコール再発させる。そんな方程式がこの世界では一般的でした。

過去に会った多くの精神障害者は、発症前の良き時代を語り合い、過去の自分にアイデンティティーを見つけようとしているように見えました。そこには今の自分を語れない自信のなさ、そして未来への不安が私には感じられました。

しかし、パイ焼き窯で見られる多くの利用者は異なります。昼休みの話題はお菓子づくりや調理の出来具合。まるで職人のような会話。まさに今の私で生きていたのです。

障害を持つ人が、自分らしい働きかたや生きかたを選択できることは、獲得されるべき権利の回復です。障害者の権利条約が社会の隅々にまで浸透し、彼らから「暮らしが豊かに、生活が楽しくなった」という声を聞くまで、一生懸命精進することを天国の小倉昌男さんと会場のみなさんに誓います。

受賞のことば

メンバーやスタッフが地域で輝く場をつくっていく

果樹栽培のひらめき

私はもともと農業が嫌で福祉の道にはいって35年です。当初は重い障害を持つかたの支援、介護中心にやってきました。

本日、会場に私の関係者として同席されている松永正昭さんの C ネットふくい で、1993年から働くことになりました。なぜかと言いますと、いろんなことをしてみてみたい自分もありましたし、狭い福祉の範囲にとらわれず学びたい気があったからです。

その当時の担当は福祉工場、A 型の事業所をいくつもつくっていく仕事です。豆腐屋や餅屋、最終的に農業もやりました。その農業法人は、今もそちらで活動をつづけております。

そうしているうちに果樹栽培に着目したのですが、じつは果樹栽培は稲作とはかなり異なる農業です。一般的な農作物より何倍も手がかかる。それで「分社して挑戦したい」と申し出ますと、「よかろう、やってみなさい」ということで、独立分社してピアファームを立ち上げ、現在の形になりました。だから、今の私どもがあるのも、松永さんのお陰と心より感謝しています。

福祉自身も自立を

同じく同席されている山田直樹さんは農業用ハウスを扱っている福井ハウス株式会社の代表取締役社長です。ブドウはハウス栽培しています。雨の日でもできる作業を確保するためでもあります。

彼には30枚、40枚、と私たちに合ったハウスのために何遍も見積もりを書いてもらいました。障害を持った人にとって安全で働きやすい環境をいかに作るのか。そのために「明日、見積書持ってきて」と。無茶なお願いをしました。本当に感謝しております。

つぎに山口敏彦さんは良き相談相手で、福井県立嶺北特別支援学校、親の会の理事をなさっており、じつはうちの法人の監査役でもございます。今日もこの会場に来ていただきました。

それから、スタッフの田嶋安希子さん、上田晃司さん。てきぱきと事業を動かしながら、今のピアファームをつくってくれました。

今年の売上は3億円に届くだろうと思っております。そうして得たお金は利用者の給料なり、運転資金として地域にまたまわっていく。

これがこれからの福祉の姿なのではないか、事業で自立しながら、障害を持ったかたもいっしょに自立していくということではないかと思っています。

好きなことをやらせてもらっていますから、苦労とは感じません。せっかく植えられた梨を託されたわけですから、土地を提供して下さった地域のかたや福祉関係のかたに感謝しながら努めてまいりたいと思います。

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