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水稲自然栽培:給料アップ、チャレンジで

障害のあるかたが農業再生の原動力に

無農薬、無肥料、無除草剤の水稲栽培で、利用者の仕事の拡大と給料アップを目指す、それが水稲自然栽培チャレンジです。昨年4月、このプロジェクトに参加したよっつの施設は、田んぼづくりや育苗など、自然栽培独自の方法を学び挑戦を続けてきました。そして昨秋、自然の恵みと利用者の愛情をたくさん吸収し、すくすくと成長した稲穂は、無事に収穫の時を迎えました。

社会福祉法人 無門福祉会

水稲自然栽培での初収穫へ。戸惑いながらも一歩ずつ前進

10月10日、愛知県豊田市にある無門福祉会が稲刈りをおこないました。あいにくの曇り空でしたが、秋風にそよぐ黄金色の稲穂を見ると、自然に笑顔がこぼれてきます。応援に駆けつけてくれた周辺農家、家族で参加されたボランティアなど、大勢のかたが一緒に作業を開始しました。

「私たちは30年近く農業をおこなっていますが、水稲自然栽培は初めての試みです。じつは農業の収益がまったく上がらず、売上も年間でわずか5万円。もう止めてしまってはという意見も出ていました。そんな時、佐伯さんのお話を聞き、水稲自然栽培なら給料増額に結びつくのではと考えたのです。肥料を与えない、疎植にするなど、これで大丈夫だろうかと不安になることもありました。それでも、豊かに実った穂は重く垂れ下がり、次に強風が来たら倒れてしまうのではと心配するほど立派に育ってくれました」と磯部竜太事務局長は話します。

周りの農家が驚くほど太く立派な株の稲穂に成長

その稲穂は、いろいろな田んぼを見てきた佐伯さんも「200点満点の実りですね」と評価するほど。近隣の農家のかたは「肥料を与えていないのに1本の株がこんなにも太く大きく育つなんて」と驚いています。

「肥料を与えないことで、根が養分を求めて深く強く張り、大きく育っていくのですね。土の硬い部分が深い田んぼと浅い田んぼで、根の張り具合も変わってくることを知りました。今年は2度台風が来ましたが、強い根のおかげでうちの稲は負けませんでした」。

与えられるだけでなく利用者自らが考え作業を開始

無門福祉会が水稲自然栽培をおこなった田んぼは約4反。今年の収穫量は約1350キログラムで、利用者ひとり当たり約1万6800円の給料アップができる計算になりました。

「水稲自然栽培では、草むしりや害虫対策、水の管理など、日々こまめに対応すべき作業がたくさんあります。利用者さんは、それぞれ自分にできる仕事を担当していきました。凄いなと感じたのは、苗が育っていく過程で利用者さんが作物を育てる面白さを肌で感じ取り、こちらが指示する仕事だけでなく、自ら草をむしる、休日に田んぼをパトロールするなど、自分たちにできることを考え、自発的に動き始めたことです」。

そんな姿を見た周りの農家のかたは「頑張っているね」と気軽に声をかけてくれるようになりました。

しかし、すべてがうまくいったわけではありません。アオミドロが発生したり、カメムシやイナゴの被害も受けました。

「まだまだ勉強しなければならないことは山ほどあります。来年は、法人全体で水稲自然栽培に取り組み、倍の面積に田んぼを広げ、より成果を上げたいと思います」。

NPO 法人 縁活 作業所おもや

自然栽培の田んぼでは多くの命が共生している

11月3日におこなわれた作業所おもやの稲刈りは、これまで協力いただいたかたへの感謝を込め、収穫祭というイベントになりました。前日の雨で田んぼに多少のぬかるみはありますが、収穫を祝うように、午後からは気持ちよく晴れてきました。お昼ご飯には、オモヤキッチンが、利用者が自然栽培で育てた野菜を豚汁にして振る舞い、あちこちで笑い声、歓声があがるにぎやかな稲刈りになりました。

「しっかりと実がつまった立派な稲穂に育ちました。昨年、育苗に失敗したこともあり、不安と期待がいり交じりながらの作業でしたが、みんなよくがんばってきたなと、いまは胸がいっぱいです」と話すのは杉田健一施設長。

耕作放棄地を借り受け、小山ができるほどの雑草を刈ることからスタート。佐伯さんのアドバイスで育苗も無事に成功し、田植えも順調に終えました。

「田植えの後は、毎日が雑草との戦いでした。朝5時、1人で田んぼに出て草取りをしていると、日の出とともに何千匹のトンボが一斉に飛び立つのです。トンボは卵を産み、ヤゴが生まれ、それが羽化していく。ああ、この田んぼでは稲だけではなく、いろいろな命の営みがある、それだけ豊かな土地なのだと実感しました」。

だれもが主役になれるそれだけたくさん仕事がある

土、水、草、虫などと関わる自然相手の仕事ですから、なにもかもマニュアルどおりとはいきません。

「水温が低く水の管理がうまくいかない、気がついたらゾウムシが大量に発生していたなどの問題も発生しました。でもそこから新しい仕事も広がったのです。たとえば、田んぼに出ることができない利用者さんは、芽が出たばかりの苗を食べにくるスズメを追い払う仕事を担当しました。たくさんある仕事の中から、自分の得意な仕事を、自分が主役になれる仕事を見つけることができる、これも自然栽培のよいところですね」。

みんなで共働すればどんな困難も乗り超えられる

今回の収穫量は、はざ掛けしてある分も含めて約1080キログラム、売上を計算すると月約3000円の給料増額が見込めそうです。

「この収穫量では、利用者が満足できる給料には到達できません。もっと効果的に成育できる工夫をして、収穫量を上げていきたい。佐伯さんからは、田んぼに傾きがあり、低い部分に水が溜まりやすいので水のコントロールが大切だと教えられましたので、稲刈りの後、田んぼをよく乾燥させて来年の準備を進めています。来年は新しい田んぼを5反借りて約2倍に増やす計画です。今回、私たちは職員も利用者も関係なく、みんなで力を合わせていろいろな困難を乗り越えてきました。共働する強さを知った私たちなら、きっと目標を達成できると信じています」。

プロジェクトリーダー 佐伯康人さん

耕作放棄地を福祉施設が自然栽培で再生する、これが成功すれば日本の農業も福祉も変わっていく、とプロジェクトリーダーの佐伯さん

水稲自然栽培チャレンジとは:休耕田、耕作放棄地で水稲自然栽培による高付加価値のお米を育成、販売し、施設で働く障害者の収入につなぐモデルを実証するプロジェクトです。参加施設には、第15回小倉昌男賞を受賞した株式会社パーソナルアシスタント青空 代表取締役の佐伯康人さんがプロジェクトリーダーとなり水稲自然栽培のノウハウを指導。ヤマト福祉財団は、参加施設が耕運機、田植機、コンバインなどを購入、レンタルするための費用、またプロジェクトリーダーの派遣費用などを支援しています。

水稲自然栽培チャレンジ 検証報告会

初めての挑戦ということもあり、2年間の検証期間を予定していましたが、参加施設は順調に成果を上げることに成功。予定を繰り上げ11月9日に検証報告会を開催しました。

ゆめサポート バクは「利用者6名と2反弱の田んぼで挑戦。自然栽培は、最初だけ手をかければ後は勝手に成長してくれるイメージでいましたが、想像以上に大変でした。でも、利用者の楽しそうに働く姿と、すくすくと成長する稲穂を見ていると、苦労もすべて吹き飛びます」と報告。

レストランを運営する六丁目農園は「水が冷たい土地で水管理が難しく、またいもち病の心配もありましたが、収穫までこぎ着け、その品質を周りの農家にも認めていただきました。地元のかたからは、レストランと自然栽培で地域復興に手を貸してほしいと声をかけられ、早速、動き出しています」と次の計画についても報告しました。

各施設の頑張りを見守り、アドバイスを続けてきた佐伯さんは「お米はもちろん、その土地に合った野菜や果物を自然栽培でつくり、みんなでネットワークを構築して全国販売できれば成果はより拡大していくと思います。日本の農業の再生を、障害のあるかたの手で実現していきましょう」と呼びかけました。

翌日は、農林水産省と厚生労働省が共催する農福連携マルシェにも参加。収穫したお米や野菜の直売をおこない、大きな手応えを得ることができました。

今後、ヤマト福祉財団では、水稲自然栽培チャレンジにより多くの施設が参加できるように体制を整え、また佐伯さんが推進する自然栽培パーティのブランドを全国展開していく支援を同時に進めていく計画です。

定量集計結果

栽培面積収量予定価格
キロ単価
収入見込み作業人数増額予想の給料
1人当たり月額
社会福祉法人無門福祉会
(愛知県豊田市)
45アール1,350キログラム600円810,000円316,781円
株式会社アップルファーム福祉事業所六丁目農園
(宮城県蔵王町)
35アール900キログラム800円720,000 円320,000円
社会福祉法人 ゼノ 少年牧場ゆめサポート バク
(広島県福山市)
18.5アール450キログラム500円225,000 円63,125円
NPO 法人 縁活 作業所おもや
(滋賀県栗東市)
40アール1,080キログラム600円648,000円183,000円
合計138.5アール3,780キログラム635円2,403,000円306,675円

合同会社ソルファコミュニティ(沖縄県北中城村)、障害者福祉施設さんすまいる伊都(福岡県糸島市)、社会福祉法人ゼノ 少年牧場 JOB プラスはんど(広島県福山市)の3施設が新たに参加することになり、検証報告会に出席しました。

左が無門福祉会で育てた稲。分けつを繰り返し根が太く長くなっている

参加した子供たちをコンバインに乗せて一緒に稲刈り

まさに頭を垂れるほど豊かに育った稲穂

視察に訪れた瀬戸理事長と磯部さん(左)

稲を刈る手応えも十分に太く立派に育った

これを自分たちが育てたと自信満々に稲穂を掲げる利用者

稲刈りした一部は、品質よく保存できるよう天日で乾燥させる はざ掛けに

刈り取った後を見ると太く育った株からいくつにも枝分かれしていることがわかる

正面から朝日があがり、命の営みを見せてくれる、おもやの田んぼに訪れた実りの秋

近隣農家や地元の仲間、家族も参加

利用者の成長した姿と収穫の手応えを報告する水稲自然栽培チャレンジの参加施設

検証報告会の翌日は厚生労働省で開催した農福連携マルシェに参加

こんなに大きく育つのかと、稲刈りを手伝った近隣農家のかたも驚くほど

利用者、職員、そして近隣のかたもみんなで力を合わせて稲刈りを完了

応援に駆けつけた仲間と、豚汁、ごはんで昼休みのひととき

来年はもっと田んぼを広げるぞ、収穫の喜びはさらなる挑戦意欲につながっていく

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