肢体不自由の子どもが学校にかよう大変さを改めて知った
瀬戸 薫理事長、以下、理事長, 昨秋の見学では、いろいろとありがとうございました。私は、これまで夢へのかけ橋実践塾の塾長施設や新たな試みをおこなう事業所などにお伺いしてきましたが、あの時には特別支援学校なども拝見でき、大変よい勉強となりました。
藤井克徳氏、以下敬称略, じつは、瀬戸理事長の今回の見学先は、20年ほど前に小倉昌男氏が訪問したところと同じです。歴代のヤマト福祉財団理事長も同じコースを見学されています。
理事長, 「小平特別支援学校」で学ぶ子どもたちは、私がこれまで出会ってきた利用者さんたちよりも障害の重い人が多かったですね。中には、ベッドに寝たままでなければ授業を受けることができない子どももいました。
藤井, 小平特別支援学校は、小、中、高と一貫教育体制になっていて、肢体不自由などの子どもが学んでいます。
理事長, 学校の駐車場で、親御さんがストレッチャーに乗った児童を送迎する姿を見ましたが、障害の重い人が学ぶということは、保護者のかたにも大変なことなのだと改めて理解しました。
藤井, いま日本には、障害児の教育機関は1096校ありますが、自分たちの地域に学校がなく、1、2時間かけて通っているという人たちもいます。私は約40年前、養護学校に勤めていましたが、当時は障害のある人がもっと学校にかよいづらい状況でした。親は、子どもに手がかかるため仕事も思うようにできず、仕方なく就学免除を願い出る人が多かった。1979年に障害のある人の義務教育が実現してから、状況は徐々に改善されています。
理事長, 私も段々と障害のある人に開かれた世の中に変わってきていると感じますね。たとえば、私は東京マラソンに何度も参加していますが、回を重ねる度に視覚障害のある人の参加人数が増えているように思います。これまではサポートするかたと紐で結び合い一緒に走っているようでしたが、今年は少し離れて言葉をかけながら伴走されている姿も見ました。
藤井, さまざまな形で世の中も変化していますね。いまは特別支援学校だけではなく、普通の学校へ障害のある人が入学できるように、先生がたもいろいろと努力されています。
理事長, それはいいことです。一緒に学ぶことで、障害のある人への理解も進みます。そんな子どもたちが築く未来なら、きっと障害のある人にもより暮らしやすい社会になると思います。
藤井, そうですね。私たちが抱えている本当の問題は、特別支援学校を卒業した後に、どうやって生活していくかだと思っています。
理事長, 卒業後の人生のほうが長いですからね。
藤井, いま日本国民の大学進学率は約60パーセントですが、障害のある人は約2パーセントです。また、本人も家族も、学校を出たら働きたい、自立したいと願っているのですが、重度の障害のある人で、就労継続 B 型の事業所に はいれるのは、ほんの一部。多くは生活介護事業所や自宅で過ごすため、働く機会をあまり得られていないのです。
理事長, いままで見学した施設で出会った利用者さんたちは、よく笑い、自ら活発に仕事に励んでいますが、すべての人がそんな環境にいるわけではないと。
藤井, そうです。それでも中軽度の障害の人なら、多くが就労継続 B 型の事業所で仕事に従事できるようになっています。
理事長, 確かに、いまはたくさんの施設が1人でも多くの利用者さんに働く機会を増やそうと努力されていますね。そんな施設を応援していくためにも、学校や病院など、障害のある人たちを取り巻くさまざまな状況を、私はもっと学ばなければと考えています。
大事なのは退院後、医療と福祉と就労をうまく連動させたい
理事長, 国立精神、神経医療研究センターのような先進の医療機関を視察したのも初めての体験です。全病室が個室で想像していたよりも快適な環境に見えました。
藤井, あのセンターは、日本の最高レベルの設備が整った病院で、公立の病院で全室が個室というのはあそこだけです。昔のようにすべての患者を大部屋に押し込めてしまう、といった状況からは改善されてはきましたが、まだまだです。
理事長, 精神、神経の疾患に対する原因究明は進んでいるのですか。
藤井, 研究は進んでいますが、原因究明まではあと一歩の状態です。統合失調症などは対症療
法主体で治療していますが、再発してしまうケースも多くあります。大事なのは退院した後、医療と福祉と就労が連動していくことです。
理事長, 働く環境というのはとても大切ですね。最近、農業をおこなう事業所が増え始めていますが、職員のかたから、室内の作業よりも出勤率がよくなったと聞いています。実際に利用者さんの表情は、とても明るく活き活きとしていました。
藤井, いま障害に対する捉えかたは大きく変化しています。大切なのは、その人を取り巻く環境です。暮らしやすい、働きやすい環境に変えることが、障害を軽く感じさせる第一歩となります。自然とふれあい働くことは心身ともによいことですし、仕事をとおした病気の改善、そんな提起もできるかもしれません。
理事長, 我々は、利用者さんの給料増額に比重を置いて活動をしていますが、医療の観点から、こんな仕事で症状が改善ができたといった報告をあつめることも必要だと感じます。
藤井, 財団のパワーアップフォーラムには、精神医療関係者も参加してほしいですね。
障害の重い軽いに関係なく、すべての人に働く喜びと給料を
理事長, 藤井さんは、精神障害のある人が働く場を日本で初めて開設されたと聞いています。
藤井, はい、1976年に、あさやけ第二作業所を作りました。医者からは「精神障害がある人に仕事は無理だ」と断言されました。しかし私たちは、障害があるから働けないのではなく、働く場、働きやすい環境、支援の方法などが整っていない社会こそが問題なのだと考えました。
理事長, 先日拝見した「リサイクル洗びんセンター」には、びんを洗浄しリユースするなど、手間のかかる仕事を利用者さんが効率的におこなうための設備が整っていましたね。
藤井, センターでは、多くの利用者さんが働けるように、また企業のニーズに応える品質、コストを満たすために必要な機械化をおこなっています。
理事長, 企業からの反応はいかがでしたか。
藤井, びんなどを自社洗浄するとコストがかか
るため、この施設への関心は高く、食品メーカーやびん業界から多くのかたが見学に訪れています。そして、注文も増えています。
理事長, 酒類やジュースのびんだけでなく、ペットボトルなどもリユースできそうですね。
藤井, 必要なのは回収するシステムです。リユースの先進国であるドイツには、細かく分別して回収できる社会的仕組みが整っています。
理事長, リユースは、地球環境にもよいわけですから、企業、国は目先の利益にとらわれず、ワンウェイの使い捨てから脱却を目指すべきです。
藤井, センターには100人近い利用者さんがいますが、環境という社会の重要な課題にかかわる仕事をしていることに誇りを持っています。
理事長, 仕事に誇り、喜びを感じることはとても大切だと思います。それが技術を高め、給料増額にもつながり、暮らしを変えていくことにもなります。彼らの作る安心、安全な商品は、多くの人に喜ばれ、受け入れられています。これも社会、地域に貢献できる仕事のひとつであり、利用者さんは、自分の仕事にやりがいを感じています。
藤井, そういった姿をより多くの人に見ていただくとともに、障害のある人が直面している現状を知れば、障害を特別なものと捉えない意識が社会に広がります。これまでパワーアップフォーラムでは、約9000人が受講されていますが、ヤマト福祉財団には、引き続きたくさんの種をまいていただきたいと思います。できれば福祉関係者以外にも枠を広げ、他分野からの参加もできるようになることを期待しています。
理事長, しっかり検討していきたいと思います。私たちの最大のテーマは、小倉昌男の目指した「障害のある人の自立を支える」、これを継承しやり遂げることです。今後も福祉施設、利用者さんの伴走役として一緒に走り続けていきます。今日は、ありがとうございました。