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対談, 瀬戸理事長, 藤井克徳氏

障害のある人の教育、暮らし、働く場, これからのありかたを考える

昨年9月、瀬戸理事長は、障害のある人がいまどのような環境で教育を受けているのか、卒業後の進路はどうなっているのかなどを知るため、見学会をおこないました。お伺いしたのは、東京都立小平特別支援学校、国立精神、神経医療研究センター、リサイクル洗びんセンター。

今回、対談にお招きしたのは、その時ご案内いただいたきょうされんの藤井克徳専務理事です。各見学先を振り返りながら、障害のある人がいまどのような立場におかれているのかなどの最新事情を藤井氏が詳しく解説。今後、ヤマト福祉財団になにができるのか、なにを目指していくのかなどをおふたりに語り合っていただきました。

肢体不自由の子どもが学校にかよう大変さを改めて知った

瀬戸 薫理事長、以下、理事長, 昨秋の見学では、いろいろとありがとうございました。私は、これまで夢へのかけ橋実践塾の塾長施設や新たな試みをおこなう事業所などにお伺いしてきましたが、あの時には特別支援学校なども拝見でき、大変よい勉強となりました。

藤井克徳氏、以下敬称略, じつは、瀬戸理事長の今回の見学先は、20年ほど前に小倉昌男氏が訪問したところと同じです。歴代のヤマト福祉財団理事長も同じコースを見学されています。

理事長, 「小平特別支援学校」で学ぶ子どもたちは、私がこれまで出会ってきた利用者さんたちよりも障害の重い人が多かったですね。中には、ベッドに寝たままでなければ授業を受けることができない子どももいました。

藤井, 小平特別支援学校は、小、中、高と一貫教育体制になっていて、肢体不自由などの子どもが学んでいます。

理事長, 学校の駐車場で、親御さんがストレッチャーに乗った児童を送迎する姿を見ましたが、障害の重い人が学ぶということは、保護者のかたにも大変なことなのだと改めて理解しました。

藤井, いま日本には、障害児の教育機関は1096校ありますが、自分たちの地域に学校がなく、1、2時間かけて通っているという人たちもいます。私は約40年前、養護学校に勤めていましたが、当時は障害のある人がもっと学校にかよいづらい状況でした。親は、子どもに手がかかるため仕事も思うようにできず、仕方なく就学免除を願い出る人が多かった。1979年に障害のある人の義務教育が実現してから、状況は徐々に改善されています。

理事長, 私も段々と障害のある人に開かれた世の中に変わってきていると感じますね。たとえば、私は東京マラソンに何度も参加していますが、回を重ねる度に視覚障害のある人の参加人数が増えているように思います。これまではサポートするかたと紐で結び合い一緒に走っているようでしたが、今年は少し離れて言葉をかけながら伴走されている姿も見ました。

藤井, さまざまな形で世の中も変化していますね。いまは特別支援学校だけではなく、普通の学校へ障害のある人が入学できるように、先生がたもいろいろと努力されています。

理事長, それはいいことです。一緒に学ぶことで、障害のある人への理解も進みます。そんな子どもたちが築く未来なら、きっと障害のある人にもより暮らしやすい社会になると思います。

藤井, そうですね。私たちが抱えている本当の問題は、特別支援学校を卒業した後に、どうやって生活していくかだと思っています。

理事長, 卒業後の人生のほうが長いですからね。

藤井, いま日本国民の大学進学率は約60パーセントですが、障害のある人は約2パーセントです。また、本人も家族も、学校を出たら働きたい、自立したいと願っているのですが、重度の障害のある人で、就労継続 B 型の事業所に はいれるのは、ほんの一部。多くは生活介護事業所や自宅で過ごすため、働く機会をあまり得られていないのです。

理事長, いままで見学した施設で出会った利用者さんたちは、よく笑い、自ら活発に仕事に励んでいますが、すべての人がそんな環境にいるわけではないと。

藤井, そうです。それでも中軽度の障害の人なら、多くが就労継続 B 型の事業所で仕事に従事できるようになっています。

理事長, 確かに、いまはたくさんの施設が1人でも多くの利用者さんに働く機会を増やそうと努力されていますね。そんな施設を応援していくためにも、学校や病院など、障害のある人たちを取り巻くさまざまな状況を、私はもっと学ばなければと考えています。

大事なのは退院後、医療と福祉と就労をうまく連動させたい

理事長, 国立精神、神経医療研究センターのような先進の医療機関を視察したのも初めての体験です。全病室が個室で想像していたよりも快適な環境に見えました。

藤井, あのセンターは、日本の最高レベルの設備が整った病院で、公立の病院で全室が個室というのはあそこだけです。昔のようにすべての患者を大部屋に押し込めてしまう、といった状況からは改善されてはきましたが、まだまだです。

理事長, 精神、神経の疾患に対する原因究明は進んでいるのですか。

藤井, 研究は進んでいますが、原因究明まではあと一歩の状態です。統合失調症などは対症療

法主体で治療していますが、再発してしまうケースも多くあります。大事なのは退院した後、医療と福祉と就労が連動していくことです。

理事長, 働く環境というのはとても大切ですね。最近、農業をおこなう事業所が増え始めていますが、職員のかたから、室内の作業よりも出勤率がよくなったと聞いています。実際に利用者さんの表情は、とても明るく活き活きとしていました。

藤井, いま障害に対する捉えかたは大きく変化しています。大切なのは、その人を取り巻く環境です。暮らしやすい、働きやすい環境に変えることが、障害を軽く感じさせる第一歩となります。自然とふれあい働くことは心身ともによいことですし、仕事をとおした病気の改善、そんな提起もできるかもしれません。

理事長, 我々は、利用者さんの給料増額に比重を置いて活動をしていますが、医療の観点から、こんな仕事で症状が改善ができたといった報告をあつめることも必要だと感じます。

藤井, 財団のパワーアップフォーラムには、精神医療関係者も参加してほしいですね。

障害の重い軽いに関係なく、すべての人に働く喜びと給料を

理事長, 藤井さんは、精神障害のある人が働く場を日本で初めて開設されたと聞いています。

藤井, はい、1976年に、あさやけ第二作業所を作りました。医者からは「精神障害がある人に仕事は無理だ」と断言されました。しかし私たちは、障害があるから働けないのではなく、働く場、働きやすい環境、支援の方法などが整っていない社会こそが問題なのだと考えました。

理事長, 先日拝見した「リサイクル洗びんセンター」には、びんを洗浄しリユースするなど、手間のかかる仕事を利用者さんが効率的におこなうための設備が整っていましたね。

藤井, センターでは、多くの利用者さんが働けるように、また企業のニーズに応える品質、コストを満たすために必要な機械化をおこなっています。

理事長, 企業からの反応はいかがでしたか。

藤井, びんなどを自社洗浄するとコストがかか

るため、この施設への関心は高く、食品メーカーやびん業界から多くのかたが見学に訪れています。そして、注文も増えています。

理事長, 酒類やジュースのびんだけでなく、ペットボトルなどもリユースできそうですね。

藤井, 必要なのは回収するシステムです。リユースの先進国であるドイツには、細かく分別して回収できる社会的仕組みが整っています。

理事長, リユースは、地球環境にもよいわけですから、企業、国は目先の利益にとらわれず、ワンウェイの使い捨てから脱却を目指すべきです。

藤井, センターには100人近い利用者さんがいますが、環境という社会の重要な課題にかかわる仕事をしていることに誇りを持っています。

理事長, 仕事に誇り、喜びを感じることはとても大切だと思います。それが技術を高め、給料増額にもつながり、暮らしを変えていくことにもなります。彼らの作る安心、安全な商品は、多くの人に喜ばれ、受け入れられています。これも社会、地域に貢献できる仕事のひとつであり、利用者さんは、自分の仕事にやりがいを感じています。

藤井, そういった姿をより多くの人に見ていただくとともに、障害のある人が直面している現状を知れば、障害を特別なものと捉えない意識が社会に広がります。これまでパワーアップフォーラムでは、約9000人が受講されていますが、ヤマト福祉財団には、引き続きたくさんの種をまいていただきたいと思います。できれば福祉関係者以外にも枠を広げ、他分野からの参加もできるようになることを期待しています。

理事長, しっかり検討していきたいと思います。私たちの最大のテーマは、小倉昌男の目指した「障害のある人の自立を支える」、これを継承しやり遂げることです。今後も福祉施設、利用者さんの伴走役として一緒に走り続けていきます。今日は、ありがとうございました。

大切なのは卒業後、長い人生は始まったばかり/瀬戸 薫 理事長

障害を特別なものと捉えない意識を多くのかたに/きょうされん 藤井 克徳 専務理事

障害のある人と施設の伴走役として走り続けたい/瀬戸 薫 理事長

東京都立小平特別支援学校

東京都小平市小川西町2-33-1

小、中、高一貫体制の東京都立小平特別支援学校には、肢体不自由や病弱など重い障害のある子どもたち186人、うち在宅など30人が2015年現在学んでいます。学校では、ひとりひとりの個性を見つめ、自立活動の内容などを工夫。小学部では休みがちだったが、高等部では体力をつけて休むことが減ってきたという生徒もいます。しかし、ここで学ぶ子どもたちで介助なしで歩行できるのは10人に1人ぐらい。授業を受けるだけでも大変な状況です。いまは医療的なケアを教員がおこなってよい制度に変わってはきましたが、人工呼吸器が必要な子どものケアは看護師さんの支援が必要であり、親が別室で待機しながら授業を受けています。瀬戸理事長が関心を示したのは、卒業後の問題。学校では、卒業後もアフターケアで自立への指導をおこない福祉との連携を図っていますが、課題はまだ山積みとなっています。

国立研究開発法人, 国立精神 神経医療研究センター

東京都小平市小川東町4-1-1

国立精神 神経医療研究センターは、日本における医療分野での3番目のナショナルセンターとして1986年に発足。前身は1940年開設。精神、神経、筋疾患、発達障害、この4つの領域の病院と研究所の統合施設です。精神、神経の分野では、研究成果がなかなか臨床に届かないと言われますが、ここでは研究者、医療者、その他の従事者が連携し、それぞれの疾患に立ち向かっています。医療スタッフは、地域に出て現場で治療をおこなうアウトリーチも展開し、病の早期発見、治療にも尽力。また、地域に開かれた病院、研究所として、地域の子どもたちと精神疾患の患者さんが自然にふれあえるように配慮し、社会の偏見の壁を取り除くようにしています。さらに就労支援にも力点を置き、年間30人くらいのかたが精神障害を克服し就労移行を達成。瀬戸理事長は「昔の精神病院のイメージとはまったく違いますね」と話しています。

社会福祉法人きょうされん, リサイクル洗びんセンター

東京都昭島市武蔵野3-2-19

1994年に生協ときょうされんが協力して設立したリサイクル洗びんセンターには、生協の商品に使用するびんを回収、洗浄してリユースできる仕組み、設備が整えられています。目標は、障害種別を超えて知的、精神障害のある人にも働く場を設け、地域で自立し生活できる給料を保障できるようにすること。能力により差がありますが時給約550円、月給7万円を超えるかたもいます。生協以外では酒類メーカーなどが取引先ですが、最近は紙パックが多くなり日本の伝統的な一升瓶の需要は減少しています。それでもワインのボトルをリユースする話や、外資系企業などからオフィスのコーヒーメーカーに使用する紙コップをプラスチックにしてリユースを検討したい、そんな新たな需要も生まれています。「環境保全への意識が高くなるほど、もっと仕事は広がりますね」と瀬戸理事長は、さらなる給料増額に期待していました。

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