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2016年度、障害者の働く場、パワーアップ フォーラム.

経済的自立力を備えた、新しい福祉を目指して。

今年はサブテーマを設け、4会場で開催。

本年度のパワーアップフォーラムは、盛岡、福岡、大阪、東京の4会場で開催しました。経済的自立力を備えた、新しい福祉を目指して、をベースに、今年は、会場ごとにサブテーマを設けて、より深く学び、考えることができるようにしています。

盛岡会場:7月1日:アイーナ.

地域と連動した、6次産業化の取り組み.

福岡会場:7月15日:エルガーラホール.

地域密着型の仕事作り.

大阪会場:7月22日:大阪国際会議場.

重い障害のある人の働く場作り.

東京会場:7月29日:全社協、灘尾ホール.

就労継続支援 A 型事業所の未来.

全社員が経営者の視点で見つめれば、お客様の声は宝の山になる。

例年より一足早く厳しい夏の暑さが到来した7月、盛岡 7月1日、福岡 7月15日、大阪 7月22日、東京 7月29日の順で、パワーアップ フォーラムを開催しました。今年は、共通テーマ、経済的自立力を備えた、新しい福祉を目指して、に加え、会場ごとにサブテーマも設け、さまざまな視点から、講師が講演しています。

最初に登壇した瀬戸理事長は、クロネコヤマトの満足創造経営と題し、あと3年で100周年を迎えるヤマト運輸株式会社が、これまでに歩んできた歴史や、ビジネス展開について講演しました。今や、全国の家庭で気軽に愛用される、クロネコヤマトの宅急便ですが、さまざまな問題を、独自の経営発想や、社員教育方法などで解決しながら、事業イノベーションを繰り返し、今日に至っています。

「かつて私が、大型団地のあるエリアを担当した際、受取人不在が多く、配達の二重手間になることで悩みました。このままでは効率が悪いと、駅で人の動きをリサーチ。すると、午前9時までに人の波が終り、それ以降は、大半が不在になる、と気づいたのです。早速、通勤前に配達できる勤務体制にし、不在配達の問題を解決できました」。

現場とお客様の声に耳を傾ければ、いろいろなことが見えてくる、と瀬戸理事長。

「一方、ビジネス街のお客様のご要望に応えるには、どうしたらよいかも考えました。オフィスへは、午前9時から11時に配達し、午後4時から6時に集荷するのが理想的です。この ふたつの時間帯でパートさんを募集し、人員を増やして、サービスの充実と効率アップを目指しました」。

他にも、ドライバーが、お客様への配達に専念できるように、荷物の積み込みを、他の社員がおこなうアシストシステムも確立しています。しかし、いくら体制を変えても、社員が変わらないと何も動き出さない。現場力が大事だ、と瀬戸理事長は話します。

「お客様と正面から向き合って、一生懸命に仕事をすると、感動が生まれます。その感動を共有することで、社員と会社の成長につなげたいと考えました。新たなサービス向上も、仕事の合理化も、すべては、お客様の声の中にヒントがあります。

全社員が、経営者としての視点で、お客様の声に耳を傾ければ、お客様の声は、宝の山へと変わっていきます。これは、企業でも、福祉施設でも、同じことが言えるはずです」と会場に呼びかけました。

障害のあるかたが、社会で認められ、自立していくために必要なこととは。

時流講座では、きょうされんの藤井克徳専務理事が、障害のある人のディーセント ワーク、と題し、障害のあるかたの働く権利を守り、さらに働く喜びを広げるために、いま、福祉施設が果たすべき役割について講演しました。

ディーセント ワークとは、尊厳ある、人間らしい、働きがいのある労働という意味ですが、その中には労働で得られる対価、イコール 給料も含まれます。

「現在、障害のあるかたの年収は、約61パーセントが100万円以下と言われています。これで満足な生活ができるのでしょうか。より高い給料を、と一般企業を希望しても就職できるかたは、ごく ひと握りであり、多くのかたの暮らしは、福祉施設の手に ゆだねられています。さきほど、瀬戸理事長がお話しされた、企業のノウハウなどを取りいれることで、より収益の高い事業へと改善することも可能だと思います。大切なのは、障害の重い軽いに関わらず、利用者さん、みんなに、十分な仕事を提供できているかどうかです」。

藤井 氏は、障害者権利条約にある三つの支援の意味を、三段重ねの重箱のイラストを使って説明し、利用者さんの働く場と、支援の改善を呼びかけています。

「一段目の箱は、ユニバーサルデザイン。二段目の箱は障害のあるかた、すべてに共通する支援。一番上の三段目の箱は、ひとりひとりに合わせた、合理的配慮と呼ばれる支援です。この合理的配慮ができているか、自身の施設の仕事場に置き換えてみましょう。障害の重いかたが、他の利用者さんと同じように仕事ができるように、治具などを整えていますか。能力向上の訓練をおこなっていますか。ディーセント ワークは、すべての人に等しく与えられるべき権利です。福祉的支援と就労支援を同時におこなうのは大変ですが、だれの幸せを実現するための福祉施設なのかを見つめ直して頑張ってください」と伝えました。

会場ごとにサブテーマを設定し、講演。福祉事業所で働く障害者も登壇。

各会場では、サブテーマに合わせて、歴代の小倉昌男賞受賞者を初めとする3名の特別講師が講演。それぞれが抱える問題点と、独自に考えた解決方法、次の目標設定や、地域と一体となった新事業などを発表しました。中には、「福祉施設の立場では支援できなかった就職弱者を守るため、今まで築き上げてきたことをすべて後輩に託し、借金をして起業の道を選んだ」と話す講演者もあり、来場者は自らの状況と置き換え、その行動力と、着眼点に感心することしきりでした。

また本年度は、新たな試みとして、各地域の事業所で働く利用者さん2名が登壇し、当事者の声を発表しました。事業所に かよう 前と、通所するようになってからの健康状態や、生活の変化。仕事に就き、給料を手にして実感した、働く喜び、今の目標などを、来場者に伝えました。

先輩がたの失敗、成功談を参考にして、是非、勝ち いくさ をおさめてほしい。

シンポジウムでは、現場最前線での取り組みなどをお話しいただいた講演者が、シンポジストとして再登場。藤井 氏が司会役となり、各会場ごとのサブテーマに対し、今後どう取り組むべきか、細かく、各人の意見を引き出しています。

シンポジストへの質問タイムでは、利用者さんの職業訓練では、どの点を配慮すべきか、 B 型事業所として進む上での課題とは、今日学んだことを、事業所の職員に、どう伝えれば理解してもらえるのか、など、来場者が日頃から抱えている疑問や、悩みを、シンポジストに問いかけました。

最後に、瀬戸理事長は、「みなさんは利用者さんのために、負け いくさ をするわけにはいかないと思います。今日、伺った、先輩がたの失敗、成功談は、勝ち いくさ をおさめる重要なヒントになるはずです。しっかりと事業所に持ち帰り、将来のために是非、役立ててください」とエールを送りました。

「事業所経営の参考に」と瀬戸理事長が、ヤマト運輸株式会社の事業展開などを講演。

「ディーセント ワークの実現には合理的配慮も必要」と、きょうされんの藤井専務理事。

シンポジウムでは、会場ごとのサブテーマに沿って、講演者たちが、自ら進める具体的な取り組みを紹介。今後の指針となる事例を示すとともに、それぞれの考えかたを伝えました。

各会場は、予約段階でほぼ満席に。今後の事業経営や、利用者さんへのケアのありかたなどを模索する多くの福祉関係者が、熱心に講演に聞きいって いました。

初の試みとして、今年は各会場、2名の利用者さんが当事者の声を発表。

現場の問題点を解決する糸口をつかみたい、と来場者は、講演者に次々と質問を投げかけました。

4会場共通のメインテーマは、経済的自立力を備えた新しい福祉を目指して。障害者の働く場を拡大するために、今、何が必要かを問いかけました。

盛岡会場、アイーナ

地域と連動した、6次産業化の取り組み

農業や、6次産業の経験はないが、事業改革の参考にしたいと、多くのかたが会場につどいました。

社会福祉法人はらから福祉会、理事長、武田 元 氏。第3回ヤマト福祉財団賞.

NPO 法人 ピアファーム、理事長、林 博文 氏。第16回ヤマト福祉財団、小倉昌男賞.

社会福祉法人こころん、常務理事、施設長、熊田 芳江 氏。第14回ヤマト福祉財団、小倉昌男賞.

地域の農家や企業とネットワーク。1次から6次産業まで、利用さんの仕事に。

地域と連動した、6次産業化の取り組み、が盛岡会場のサブテーマです。社会福祉法人 はらから 福祉会の武田理事長は、製造環境を整え、品質と生産性を高めてきました。「よい物を つくれるようになったら、次の課題は、売りかた、地元企業との提携です。うちは、宮城県が実施する衛生基準、宮城 HACCP をクリアし、食品加工のプロも納得できるクリーンな製造環境を整えることで、より高い価格で企業と契約を結び、牛タンの年間売り上げを2億円以上にできました」。

NPO 法人、ピアファームの林理事長も、販売あっての農業を強調。「農業の高い技術があり、美味しい野菜や果物を栽培しても、売りかたがまずいと経営は成立しません。うちは、複数の直売所やスーパーを、街中などで運営し、売り上げを伸ばしています。大事なのは、必要とするかたに、必要な物を販売すること。お客様には、お年寄りも多く、福祉施設ならではの視点でおこなう、私たちのサービスは、リピーター拡大に つながって います」。

社会福祉法人 こころん の熊田常務理事は、「6次産業化のアイデアは、福祉施設や、地域のかたとのネットワークを築き、互いの特長を理解することで、いろいろと広がってきます。大事なのは、顧客ニーズを捉え、自分たちのこだわりに固執しないこと。農業による6次産業は、企業主導の下請け仕事よりも、自分たちの意志を反映でき、やり甲斐がありますよ」と伝えました。

HACCP (ハサップ)とは、食品の製造工程において、製品の安全を確保する衛生管理手法です。

当事者の声.

社会福祉法人 ひまわり会、小野寺 初美さん.

4歳の時に脳性麻痺と診断された私は、父の つくった 事業所に通っています。今の私の支えは、仕事と趣味。仕事を頑張り、稼いだ給料で、趣味の買い物をするのが楽しみです。

NPO 法人コーヒータイム、志賀 千鶴さん.

私の担当は、喫茶店での接客、カウンター業務など。「美味しかったよ、また来るからね」という言葉を聞くと、私も人の役に立っている、と嬉しくなります。

福岡会場、エルガーラホール。

地域密着型の仕事作り。

シンポジウムでは、地域と一体となり、売り上げ拡大を目指すための方法も、意見交換しました。

社会福祉法人キャンバスの会、理事長、楠元 洋子 氏。第13回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞。

社会福祉法人ひびき福祉会、理事長、亀井 勝 氏。第7回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞。

社会福祉法人キリスト者奉仕会 大牟田恵愛園、施設長、叶 義文 氏。

地域のかたや、企業と つながる ことで、双方にメリットある、事業アイデアも生まれる。

地域密着型の仕事作り、のサブテーマで講演の口火を切ったのは、高齢者への配食サービスなど、地域のニーズを捉え、利用者さんの仕事を拡大している、社会福祉法人キャンバスの会の楠元理事長です。「都城では、ふるさと納税者に、地元の焼酎や宮崎牛などを送っています。そこでお酒の販売免許を取得し、キャンバスの会も参入しました。地域の資源を活かし、地元企業と力を合わせて取り組めるふるさと納税は、双方にメリットのある事業だと思います」。

社会福祉法人ひびき福祉会の亀井理事長は、「ひびきの理念のひとつに、連帯という言葉があります。独りよがりにならない、地域の人たちと、しっかり手を結び、歩んでいこうという考えかたです。自分たちの住む町と、人々の生活を見つめていると、新しい事業アイデアもひらめいてきます。たとえば、高齢者が増えて、お墓が荒れてきたという話を耳にした時、お墓掃除の代行サービスというプランも浮かんできました」と話しています。

社会福祉法人キリスト者 奉仕会 大牟田恵愛園の事業所のひとつ、たんぽぽは、地域住民が世代を超えてふれあえる、地域交流センターとしての機能も担っています。叶施設長は、地元との つながり を大切に、次の事業展開を模索中です。

「障害のある人たちが、地元で暮らしていくための働く場をどう つくれる のか。どれだけ本気になれるか、我々にかかっていると思います」。

当事者の声.

社会福祉法人キリスト者奉仕会、障害者就労、自立支援センター たんぽぽ、杉本 亮さん.

僕の担当は、食べ物の原価計算です。職員会議にも参加し、栄養などを考えて、食材を注文します。目指すは、給料アップです。

社会福祉法人そら とわ え もあ、西本 明日香さん.

ケーキ作りと接客が私の仕事で、お給料は月約6万5000円。事業所で働き始めた年に、ひとり暮らしも始め、いろいろと自信もついてきました。

大阪会場、大阪国際会議場。

重い障害のある人の働く場作り。

利用者さんができることに目を向けよう。シンポジウムでは、職員の指導姿勢も話題にあがりました。

社会福祉法人武蔵野千川福祉会、常務理事、新堂 薫 氏。第9回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞。

社会福祉法人はる 常務理事、西谷 久美子 氏。第16回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞。

社会福祉法人よさのうみ福祉会、理事長、青木 一博 氏。

障害が重いのではなく、ニーズの多いかた。そう考えると、職員にできることも広がる。

大阪会場では、重い障害のある人の働く場作り、を、サブテーマにしています。

社会福祉法人 武蔵野 千川 福祉会の新堂 常務理事は、ひとつの作業を、複数の動作に分け、多くの利用者さんが、作業を担当できるようにしています。「障害が重くても、手を動かす、指を動かすことができれば、その動作を作業につなげることができます。障害の重い軽いに関係なく、だれもが生き甲斐を求めています。私たちにできる支援は、まだまだあるはずです」と話しました。

「私も障害の重さに関係なく、その人に合った環境が整えば、できる仕事を探せるはずだ、と考えています」と社会福祉法人 はる の西谷常務理事。「当施設では、医師に相談すれば、働くのは無理と診断されてしまう、重い精神障害のあるかたが、18年間も清掃業務に就いています。大切なのは、働きたいという本人の意志と、それを支える周りの環境。利用者さんのニーズをきちんと受け止め、答えを出すことが、私たちの使命です」。

社会福祉法人 よさのうみ 福祉会の青木理事長は、「利用者さんにとって、良い支援とはなにか。当施設では、理想の職員像を全員で討論し、それを目標に、職員自身が変わろうとしています。障害のある人たちが自分の希望、特性、能力に応じて働く場を選択する。もし、選択に失敗しても、再挑戦できる。そんな環境を整えることにこそ、大きな意味があります」と来場者に伝えました。

当事者の声.

社会福祉法人コスモス、森のキッチン、松浦 左衣子さん.

私は耳が聞こえませんが、お客様にメニューを指差していただき、注文を受けます。美味しい料理をたくさん用意していますので、是非、食べにきてください。

社会福祉法人かがやき神戸、なでしこ工房、大坪 真由美さん.

私は恵まれています。食べるものにも、着るものにも、眠るところにも困っていません。世界には、不幸な人がたくさんいます。感謝の気持ちを決して忘れません。

東京会場、全社協 灘尾ホール。

就労継続支援 A 型事業所の未来。

東京会場では、7月26日に、相模原市で起きた事件の被害者の冥福を祈り、全員で黙祷を捧げました

一般社団法人ディーセントワールド、代表理事、天野 貴彦 氏。第5回ヤマト福祉財団賞。

有限会社ドアーズ、代表取締役、柴田 智宏 氏。第12回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞。

社会福祉法人進和学園 統括施設長、全 A ネット 理事長、久保寺 一男 氏。

障害のあるかたと、雇用契約を結ぶ、就労継続支援 A 型事業所の課題と、可能性を語る。

東京会場のサブテーマは、就労継続支援 A 型事業所の未来、です。 A 型事業所を運営する者、起業し、新たな角度から就労を支える経営者、さらに、全国の事業所を結び、情報共有を推進する協議会と、それぞれの立場から話をしました。

一般社団法人ディーセント ワールドの天野代表理事は、東京都町田市で2店舗のスワンベーカリーを経営。1号店では、新たにチョコレートも商品に加え、給料増額に挑んでいます。「町田市唯一の A 型事業所というプレッシャーもありますが、利用者さんはプレイヤー、職員はそれを支えるサポーターという基本姿勢を貫き、新事業を成功させたい」と講演しました。

「障害者だけではなく、高齢者や、シングルマザーなど、就労弱者の役に立ちたい」と話すのは、有限会社ドアーズの柴田代表取締役。ペットフードの製造、流通をおこなう会社を設立し、従業員としての雇用だけではなく、福祉施設を外注先に加え、地域全体で利用者さんの働く場を広げています。

最後に講演した、社会福祉法人 進和学園 統括施設長で、全 A ネット理事長の久保寺 氏は、来場者に呼びかけました。

「全国の A 型事業所にアンケートを取りましたが、集めた数字を見ても、問題は山積みです。障害者と雇用契約を結ぶ A 型事業所としての、あるべき姿を、全施設の職員が自覚し、目の前の課題に、正面から向き合ってほしいと思います」。

全 A ネット:就労継続支援 A 型事業所全国協議会。

当事者の声.

社会福祉法人 はる、パイ焼き茶房、 A さん.

精神障害と診断された時は落ち込むばかりで、家族にもいろいろと迷惑をかけてしまいました。でも、今は、技能職員として働き、毎日がとても充実しています。次は、事務関連の正社員を目指し、パソコンの練習も始めています。

社会福祉法人武蔵野千川福祉会 チャレンジャー、西村 薫さん.

仕事は DM の封入封緘です。最初は、月給5000円でしたが、今は10万円。好きなものを買い物でき、今日のためにスーツも買いました。

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