幼いころの体験が源泉に。
千葉の一大観光エリア、南房総。太平洋を一望するキャンパスに、藤田裕大さんを訪ねたのは、夏の盛りのことです。小中高校を都内の公立校で学んだ彼は、進学を機に、大学のある鴨川市に越してきました。
10代前半から、高校卒業後も何か学びたいと考えていた藤田さん。両親や東京大学先端研が主宰し、障害高校生の大学進学を支援している、DO-IT Japan などにも相談して、入念に準備し、大学受験に挑みました。この大学を第一志望にしたのは、観光学への関心が次第に膨らんでいたから。
「2歳のころから、南大阪療育園に母子入園をしたり、手術のために長期入院することがありました。手術後も経過観察を兼ねて、3ヵ月に1度は、リハビリ入院で大阪を訪れました。そんなわけで、新幹線に乗って移動したり、長期宿泊の経験をしているうちに、旅行が自然と好きになって、トラベル プランナーとかになりたいなと思い始めたんです」。
また、ご両親も旅好きで、いろいろなところへ連れていってくれました。こうした思い出の数々が、彼を観光学へと誘ったのです。
旅とバリアフリーを思う日々。
エコツーリズムや、医療ツーリズムなども含め、現在は、観光について、多角的な視点から学んでいるという藤田さん。大学は実践的な学習に力をいれており、1年次には、マレーシアへの海外研修にも参加しました。リゾート ホテルのバックヤードを垣間見る経験も、現地では得ました。
「今度、学校で行く予定の国内旅行研修に参加予定ですが、そこでもユニバーサル ツーリズムをテーマに、という話が持ち上がっています」。
同キャンパスに かよう 学生で、障害があるのは彼、ただひとり。障害学生第1号です。
町並みに古い名残が見られる鴨川は歩道が狭く、電動車椅子では車道側に脱輪してしまうこともしばしば。最初は怖い思いもしましたが、「今は慣れました」と笑います。「大学側も『授業の面でも、対応できるところはします』とおっしゃってくれて、心強いです。また、バス会社の配慮にも本当に感動しました」。
大学からの相談を受けた、地元の鴨川日東バスはふたつ返事で、藤田さんの通学路線を全車、ユニバーサルデザイン車に変更してくださったそうです。
旅する楽しみを誰にでも。
資格取得の勉強や、語学のレッスンなどで、プライベートも忙しい藤田さんですが、この夏、友だちと一大プロジェクトを成功させました。日本の渚百選にも名を連ねる、市内の前原海岸に、砂浜用の特殊な車椅子を設置する計画です。鴨川チャレンジと銘打ち、必要な資金をクラウド ファンディングで募りました。結果は見事、目標の50万円をクリア。8月1日には市役所に赴き、寄贈式も済ませました。
「ユニバーサル ツーリズムを推進していきたいので、さらに勉強を進めて、全国に点在する、バリア フリー ツーリズム センターなども訪問し、その裾野を、まずは学内に広げたいです。そして、社会へ出たら、誰もが楽しめる旅行を提案していきたいと思っています」。
藤田さんの夢には、行く手を阻むバリアはありません。
路線バスとして、安房鴨川駅から、城西国際大学を走る鴨川日東バス。藤田さんの乗降は、一般の乗客の一番最後。乗り降りには、ドライバーさんがいつもサポートしてくださるそうです。
観光学部の同級生と情報交換。藤田さんのスーツ姿にビックリしていました。
取材日は、エコ ツーリズムのレポート提出日でした。岩本英和助教に手渡す藤田さん。
車椅子の藤田さんに見えるように大学も配慮し、掲示物を低い位置に貼り出しています。