NPO 法人レスパイト ケア はちもり、森のこびと。長野県東筑摩郡朝日村.
村で最初の作業所。
「こっちの人は、いよいよハウスが危ないとなったら、ビニールを破るんですよね。それを知らなくてね。いただいたばっかりだったから、もう情けなくてね」。
2年前の2月、全国的な大雪で、雪崩や停電、孤立化を各地で引き起こした、平成26年豪雪を振り返るのは、理事長の大和章さん。当財団の助成金を得て、灌水装置付きのビニールハウス3棟を新設したばかりの出来事でした。雪害でフレームまで損傷したハウスでしたが、その後、さまざまな人の助けもあって、秋には復活。今も 森のこびと の農作業では大きな役割を担っています。
木曾義仲にまつわる伝説も残る朝日村は、長野県のほぼ中央に位置し、標高はおよそ800メートル。昼夜の寒暖差を生かした、高原野菜の栽培が盛んな土地です。
知的障害のお子さんを持つ大和理事長は、お子さんが小学校に上がる前、落ち着いて子育てができる環境を求めて、東京から移り住んできました。お子さんが養護学校を卒業する15年ほど前、村には、ひとつの作業所もありませんでした。
そこで村と掛け合って、初めて立ち上げた作業所が 森のこびと のルーツです。パンやクッキーの製造、くるみ細工などの工芸品製造、資源物の回収、そして野菜の生産販売といった仕事を、創設以来、ずっと利用者に提供してきました。
地域ニーズをしっかり掴む。
森のこびとは育てた野菜を、直売所と、道の駅を中心に、他にも、近くにある工場や、大学などで販売しています。訪れたときに栽培されていたのは13 エーカーに、カボチャにコリンキー、ニラやトマト、ナスにピーマン、サツマイモ、中国野菜など20品種ほど。
朝日村は高原野菜の名産地ということで、周囲の農家は、レタスなどを大量に生産し、 JA や都会の消費地に出荷しています。しかし、森のこびと はまったく違います。
自分たちは農業の素人だから、と説明しつつ、大和理事長は、こうも補足してくれました。
「近隣の農家さんは、 JA へ出荷する際に、重さが合わないとか、形が合わないなど、規格に合わない野菜を格外品として直売所に出すんですよ。彼らは、レタス1個50円なんて値段で並べることもあるから、そうすると価格的に対抗できないんです。そんなわけで、みんなが作らないもの、この辺の JA に納めていないようなものを選んで作っています」。
なるほど、高原野菜に特化した農家のかただって、食卓がレタスとキャベツのみというわけにはいきません。日常遣いの野菜を、他品種少量、安心できる品質で生産販売しているというわけです。
「だから、直売所の店員さんも、『森のこびと の物から売れてくよ』と言ってくれます。どうもコンビニの人も、直売所で仕入れて、お店で売っているみたい」と笑います。
苦境にも、粘り強く、前を向く。
じつは、これまで借りていた農地を返した関係で、ここ数年は苦しい状況にありますが、ビニール ハウスを手にいれたおかげで、冬の仕事を確保。冬季の売り上げは大幅に上昇して、年間売り上げの落ち込みを回避することができました。昨年度の給料も、高い人では、8万円を超えています。
管理者の池田保由さんは、生産数をじわじわと増やして、商品不足の機会を減らしていくのが、当面の目標、と言います。
一方、理事長は、事業をむやみに大きくする気はないとしつつも、入所希望の順番待ちが出ていることを思うと、いろいろと試算している様子。「場合によっては来年、新しい事業所を開設するかもしれない」。
地道に一歩ずつ切り拓く。それが、森のこびと の、これまでも、これからも、です。
森のこびと が大好きで、仕事を楽しんでいる利用者さん。
果肉が厚くて、甘味が強いミニトマト、アイコは、価格も高く売れる。
朝どれ野菜をすぐに包装。新鮮なままで販売します。
助成金で整備したビニールハウスの前で集合していただきました。
農業を始めたのは、たまたま土地を貸してくれる人がいたから。経験もなし専門家もなし。「だいたい独学です」と、大和 章理事長。
森のこびとがある朝日村。北アルプスが見えるレタス畑が広がります。
近くのファーマーズガーデンで品出しをおこなう利用者さん。