障害者の働く場の現状と当財団の活動を理解してほしい。
今日はよろしくお願いいたします。今回は、ヤマト福祉財団の活動を理解してもらうため、現場で同じ仕事に携わるヤマトグループ社員のみなさんに障害者の働く場を訪問していただいた、初めての企画です。
瀬戸 薫理事長(以下、理事長): ヤマト福祉財団は、障害のあるかたの社会的自立を支援するために小倉昌男が設立した財団です。私たちの活動は、ヤマトグループの配当金や労働組合のカンパ、そして、約7万2000人の賛助会員 (脚注) の支援などによって成り立っています。でも、社員のみなさんは、その活動を実際に見る機会はなかなかありませんね。今回の経験を活かし、障害のあるかたの働きかた、姿勢や支援の現状などについて、より深く考えてほしいと思っています。
では、まず、みなさんの自己紹介と、どのような施設を訪問されたかを教えてください。
杉本 香緒里さん(以下、敬称略): ヤマトホームコンビニエンス株式会社の杉本 香緒里です。私は、本社でお歳暮、お中元などのパンフレットの企画、制作を担当しています。訪問したのは、食品の製造、販売をおこなっている社会福祉法人はらから福祉会です。私は2日にわたり計4ヵ所の事業所を見学させていただきました。
刀根 明日香さん(以下、敬称略): ヤマト運輸株式会社西東京主管支店人材育成課の刀根 明日香です。私は、キャリア社員の入社研修に携わっています。4月からは障害者雇用も担当することになりました。今回、障害者の就労、生活支援をおこなわれている社会福祉法人ヤマト自立センタースワン工舎新座を見学し、たくさん勉強させていただきました。
久利龍義さん(以下、敬称略): ヤマトシステム開発株式会社の久利龍義です。見学した有限会社奥進システムは、企業向けに業務管理システムなどの開発、運用をおこなう会社でした。私は、WEB 注文システムの開発を担当していますが、同業として抱える課題も共通していて、ここで実現されている働く仕組みなどには、いろいろと刺激を受けました。
山内昌光さん(以下、敬称略): ヤマトパッキングサービス株式会社 ドキュメンツロジスティクスカンパニーの山内昌光です。営業および工場の総括、管理を担当しています。訪問先の社会福祉法人ゆたか福祉会 ワークセンターフレンズ星崎では、DM などの封入封かんを利用者さんが中心となっておこなっています。当社にも3人の障害のあるかたが働いていますので、どんな仕事を任せているかなど、学ぶことの多い見学でした。
障害者の働く姿勢、商品の品質などすべてに感激しました。
理事長: みなさんいろいろなことを感じ取られてきたと思います。いま障害のあるかたが直面しているのは、仕事もない、お給料も少ない。そんな無い無い尽くしの状況です。このままでは、障害のあるかたの社会的自立は難しい。そこで福祉施設が経営者としての自覚を持ち、経営ノウハウを学び、事業を拡大、成功してもらいたいと、私たちはいろいろな角度から支援しています。そのひとつが福祉施設への助成事業であり、パワーアップフォーラムや夢へのかけ橋 実践塾です。これは、障害者の支援にさまざまな形で貢献されてきたかたを表彰するヤマト福祉財団 小倉昌男賞の受賞者の中から、特に給料増額で目覚ましい成果を上げてきたモデルとなる施設を運営しているかたに塾長になっていただいています。
杉本さんが訪問した、はらから福祉会は、その塾長のひとりである武田 元さんが理事長を務める施設です。
杉本: 今回、食品工場やレストランを見てきましたが、商品のレベルの高さ、利用者さんと職員の仕事に対する熱い思いに感激しました。特に衝撃を受けたのは、テキパキと働く利用者さんの姿と技術力です。視覚障害のかたもいらっしゃいましたが、そのかたはお豆腐を手に取るだけで適正な重さに仕上がっているかがわかります。それを身に付けるまで何丁ものお豆腐で失敗を繰り返したそうですが、職員は、あなたならきっとできる、とあきらめずに指導を続けてきたそうです。
理事長: 杉本さんは、お豆腐づくりを体験させてもらいましたか。
杉本: 見学だけで体験はしていません。
理事長: 私は挑戦しましたが、なかなか難しい。これを障害のあるかたたちが習得するのは並大抵の努力ではないと思います。
杉本: そうですね。牛タン加工場では、包丁を扱うかたもいて、これにも驚きました。武田さんは、「障害者のできる範囲で仕事ができれば良いと考えるのは違う。 いままでの福祉施設の常識を破ることこそ必要」と話されていました。でもこれは福祉の世界だけではなく、私たちへのメッセージとも言えます。私たちには、変な思い込みがあり、勝手に障害のあるかたたちの仕事に限界をつくってしまっているかもしれない。はらからで働く利用者さんたちを見て、私はそう強く感じました。
理事長: 実際の仕事を拝見すると考えかたが変わりますよね。
杉本: はい。衛生面も私たちが取り引きしている会社と変わらない徹底ぶりで、身だしなみ、手洗いはもちろん、エアーカーテンや異物混入をチェックする機械などの設備もしっかりしていました。これなら、当社で提示する衛生、品質チェックもクリアできると思います。
理事長: はらからの豆腐も牛タンも本当に美味しいですからね。消費者にとっては、企業も福祉施設も関係ない、大切なのは品質です。
杉本: これを機にはらから福祉会だけではなく、もっと多くの福祉施設の商品にも目を向けていこうかと思っています。私たちがそんな
企画を立てることで、障害者支援のひとつとして貢献できたら、そんなことも考えさせられる良い体験となりました。
障害のあるかたが働きかたを学ぶ、訓練の場を初めて見学しました。
理事長: 刀根さんは、ヤマト自立センター スワン工舎新座に行かれたのですが、株式会社スワンのスワンベーカリーとは、別の会社だと知っていましたか。
刀根: じつは見学に行くまで、同じだと思っていました。
簡単に説明しますと、スワン工舎は、障害のあるかたが就労に必要な社会的ルールや仕事の技術を学ぶ社会福祉法人です。パンの製造販売とクリーニング事業、SD シューズのクリーニングやメンテナンス事業も展開しています。
刀根: スワン工舎新座に伺って印象に残ったのは、障害のあるかたたちが自分の仕事にプライドを持ち、職員から指示されなくても自ら判断し、キビキビと動かれている姿です。みなさんとても凛々しく頼もしく見えました。
理事長: でも誰もが最初からそんな一人前の働きかたができたわけではありませんね。
刀根: そのために、職員は障害のあるかたたちが、自ら考え動きやすくする工夫をいろいろと凝らしていました。たとえば、パンの注文量はその日その日によって違いますが、その量がボードに貼付けた紙の枚数でわかるようにしていました。この紙を見るだけで、今日はこのくらい、明日はもっとたくさんあるなど、ひとめでわかるようになっています。
理事長: 言葉でわざわざ説明するのではなく、視覚的に理解できる工夫ですね。
刀根: はい、さらに凄いのは、これを見た障害のあるかたが、「明日、私はお休みだけど、注文がたくさん来ているので出てきます」と自ら判断されていた点です。
理事長: プロの責任感が生まれていますね。
刀根: 私の職場にも、今期から2人の障害のあるかたが働くことになりますが、一緒に働く環境を整えることは、想像以上に難しいと感じました。でも新座の職員のかたに、気軽にいつでも相談ができるようにと、西東京主管支店の近くにある障害者就労、生活支援センターを紹介いただき、ほっとしています。地域にこうした場があるのは、受け入れる企業にもとてもありがたいことです。障害のあるかたが働きやすい環境づくり、ともに働く社員の意識を変えていくために必要な点を、センターのかたが講師として来社いただけることもわかりました。学びたいことは山ほどありますし、互いに情報交換することで、双方にメリットも生まれると思います。
理事長: そういえば、刀根さんは昨年のパワーアップフォーラムに参加されていましたね。パワーアップフォーラムには、さまざまな福祉施設の関係者が参加し、現場の声を発信されているので勉強になったでしょう。
刀根: はい、なにもかも初めて知ることばかりでした。今回の見学でも、障害者就労、生活支援センターのみなさんが、地域企業と障害のあるかたとのネットワークづくりにも奔走されていると知り、感心しました。こうした障害者を送り出す側と迎える側との繋がりを活かしていけば、私たちの職場で障害のあるかたをもっと雇用していけるのではないかと考えています。そして、ヤマトグループがこんな素晴らしい事業をおこなっていることを、個人的にもとてもうれしく、誇りに思いました。
理事長: 会社に戻ったら、是非、周りのかたにもどんどん話してください。
働きやすい仕組みづくりは、徹底できるかが成否を決める。
今回、久利さんに見学いただいた奥進システムは、第17回ヤマト福祉財団 小倉昌男賞を受賞した奥脇 学さんが経営する会社です。奥脇さんは、自社で働く障害のあるかたの体調管理をはじめとする日常的なケアをデータベース化し、周囲のみんなで支えやすくしていくSPIS という就労支援システムを開発されました。現在、約50の企業がこれを利用されています。
久利: 奥進システムについては、今回見学をする前に、いろいろと情報をいただいていましたので、働く環境や仕組みづくりをどうやっているのか、とても興味がありました。
理事長: 実際に現場を見ていかがでしたか。
久利: ハード面では、オフィス内やトイレなどの段差をなくしてスロープをつくり、車椅子でも動きやすいようにしていましたが、なるほどと感じたのはシステム開発会社ならではの細かな配慮です。パソコンにつなぐたくさんのケーブルや電源を、車椅子のタイヤで踏まないように工夫している点はさすがでした。
理事長: 天井にケーブルを配線していましたね。社員のかたとはお話をされましたか。
久利: 開発リーダーに説明を受けたのですが、彼は頸椎損傷で手を動かすことができません。そこでマウスにトラックボールを採用し、指先だけで操作できるようにも工夫していました。彼と話していると普通に同業者と会話している感じでなんの違和感もありません。それだけこの会社が、障害のあるかたが、自信を持って働けるように環境を整えているからだと思います。
理事長: ハード面だけでなく働く仕組みについては。
久利: 最も感心したのは残業ゼロの取り組みでした。奥脇さんは、残業ゼロにするためのさまざまな工夫や、仕組みを作っています。その中のひとつが、30分ルールです。これは、ひとつの問題点にぶつかった時、30分考えても答えが見つからなければ周りの人にすぐ相談しなさい、というルールです。精神障害のかたは、思い詰めてしまうとパニックしてしまうことがあると聞きましたが、明確なルールにすることで気軽に相談をできますね。
理事長: 久利さんも思い悩むことがある。
久利: あります、そして、行き詰まってしまう。本人にはなかなか発見できない解決策も端からだとすぐ見つかったりするものです。でも周りも大変そうだとか考えるとついひとりで抱え込んでしまう。それが社内ルールになっていれば、周りも相談に乗ってあげやすい。非常に効率的で実用的。うちにもすぐに取り入れたい素晴らしいアイデアです。
理事長: ここにはテレワーク(在宅勤務)されているかたもいますね。
久利: シングルマザーで子育てをされているかたなど、時間に制約のあるかたにテレワークは理想的ですね。それにしても残業ゼロを徹底されている点は本当にすごい。残業ゼロを徹底するためにどのような努力をしているかとお聞きしたら、どうしても残業をしなければならない時は、申請書を提出してもらうが、奥脇さんは簡単には受理しないと言います。定時内で終るように周りがサポートできないか、それでも無理なら納期を伸ばせないかを顧客に交渉すると話されていました。
理事長: これは業界的にはあり得ないこと。
久利: システム開発では納期が絶対。普通は、
納期が間に合わなくなると残業して当たり前。それが常識と思っていましたが、その中で残業ゼロを徹底されているのは、もう驚くしかない。
理事長: 新しい働く仕組みを思い立っても、それを会社に根付かせていくには、上に立つ人間がスタンスを変えない強い意志が必要でしょう。是非、会社をあげて見学におこなってほしいですね。
やってはダメではなく、できることを見つける指導へ。
山内さんが訪問したワークセンターフレンズ星崎は、DM の発送代行事業を事業の柱に絞り込み、利用者さんの給料増額を進めています。現在、夢へのかけ橋 実践塾の塾長を務める新堂 薫塾長が、その前身として2010年に開講した、働くちから革新塾にも参加。生産性を高めるためのライン化などを学び、作業の質と効率アップを工夫しています。
理事長: ワークセンターフレンズ星崎は、当財団がおこなう助成事業のひとつ、障害者給料増額支援助成金の助成を受け、自動重量検査機を導入した事業所でしたね。
山内: 当社の工場では、DM などの封入封かん作業は、ほぼ機械化していますが、ここでは利用者さんの手作業と機械化を効果的に分けて進めていました。 DM などをひとつひとつ手折りする人、仕分け作業をする人、新しい機械を操作する人、みなさんそれぞれに担当する仕事は異なりますが、誰もが生き生きと楽しそうに働いている姿がとても印象的でした。彼らのような笑顔で、いま自分たちは働いているのだろうか。いつの間にか、仕事にしても便利な機械にしても、あって当たり前という感覚になってしまっているのではないかと、ちょっと考えてしまいました。
山内さんは、障害者職業生活相談員の資格を取得されていると聞きましたが。
山内: 現在、うちの工場には、3人の障害のあるかたが働いていますが、彼らが入社する時に、障害者のことをなにも知らないのに、仕事を教えることができるのだろうかと考えたのです。
理事長: それで資格を取られたのですか。
山内: 形から はいるのは好きではないのですが、資格を取ることで彼らに少しは認めてもらえたかなと。一方的に努力しなさいと伝えるのではなく、こちらも頑張らなければ、彼らは心のシャッターを閉めてしまいますからね。
理事長: なるほど。今回は、職員さんの指導方法から得られることも多かったでしょう。
山内: たくさんありました。私は、「機械の中に手を いれてはダメ、フォークリフトの前に飛び出してはダメ」と、やってはいけないことばかり伝えていました。働きに来ているのに、やってはいけないと言われるのはおかしな話ですね。ワークセンターフレンズ星崎ではもっとできることを見つけ、彼らの働く意欲を引き出しながら指導をしています。私たち企業は、福祉施設の職員さんが大切に育てた利用者さんの可能性のバトンを受け取り、より広げていくことが使命なのだと感じました。
理事長: 同業として福祉施設の仕事のクオリ
ティはどう見ましたか。少量多品種の手間のかかる DM 代行発送は、多人数で手作業する福祉施設に適した仕事だと思いますよ。
山内: 確かに当工場では大量の仕事を機械化でこなしていますから、そういった仕事を依頼していくのは検討の価値がありますね。
障害のあるかたのために、私たちにはまだなにかできるはず。
理事長: 当財団では、今期から小倉昌男賞受賞者の竹内昌彦さんが推進するネパールでの眼科治療を支援する調査も開始します。他にも農福連携を全国に広めている自然栽培パーティへの支援、障害のある大学生への奨学金など、いろいろな活動を展開します。今回、みなさんには福祉施設の現状や当財団の活動を、その目でご覧いただきました。そこで感じたこと、考えたことを職場でも是非、話してください。その言葉が、私たち財団の活動を後押しする力になります。
一同: 私たちヤマトグループの社員にも、障害のあるかたのお役に立てることが、なにかあると感じました。今回の体験を他の社員にも伝え、理解してもらいたいと思います。ありがとうございました。
脚注: 賛助会員: ヤマトグループ社員で当財団の目的、趣旨に賛同いただけるかたなら、どなたでも賛助会員になれます。
ブランド品の、はらから豆腐づくりをおこなう、社会福祉法人 はらから福祉会の事業所、蔵王すずしろ。
ヤマト自立センター スワン工舎新座ではパン製造の他にクリーニング事業もおこなう。
有限会社奥進システムで開発リーダーの技術的なこだわりに思わず身を乗り出して見入る久利さん。中央、奥脇社長。
封入封かん作業を効率的に分業、ライン化。ワークセンターフレンズ星崎。
ひとりでも多くの社員に、感じたこと、考えたことを伝えてほしい。
公益財団法人ヤマト福祉財団、理事長、瀬戸 薫。
私たちが勝手に、障害者の仕事の限界をつくっていたのかも。
ヤマトホームコンビニエンス株式会社ビジネスコンビニエンス事業本部、杉本 香緒里。入社5年目。
障害者を送り出す側と迎える側、繋がりを大切にしたい。
ヤマト運輸株式会社 西東京主管支店、人材育成課、刀根 明日香。入社2年目。
働きやすさの追求、そこに障害の有無は関係ない。
ヤマトシステム開発株式会社 システム開発本部システム開発グループ、チーフ、久利龍義。入社5年目。
福祉施設が育てた利用者さんの可能性を私たちの手で広げたい。
ヤマトパッキングサービス株式会社ドキュメンツロジスティクスカンパニー 東京主管支店、東京第一支店、支店長、山内昌光。入社21年目。