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私たちの賛助会費が活かされています: 障害者給料増額支援助成金: 助成先レポート Vol. 29.

プロ不在、経験ゼロからのパン屋稼業。

ふだん雪はあまり多くないという八戸。訪問したのは珍しくまとまった降雪のあった翌日のこと。しかし、小綺麗な作業所は、利用者さんの活気に満ちていました。経験ゼロから始めたパン製造は、今や日に食パン70斤、菓子パンは300から400個を生産し、地域に知られた存在です。

社会福祉法人、田面木会。

障害福祉サービス事業所、田面木の家。

青森県八戸市。

スタートは衝撃の出会い。

新八戸の駅から車で15分くらい。雪景色の中に訪れたのは、25年以上にわたって地道な活動をしてきた田面木の家です。昨年の7月に当財団の助成を利用して、一度に16枚の鉄板を いれ、製造量を上げることができる大型のパン焼きオーブンを購入。併せて、作業スペースを10平方メートルほど広げる改修も施しました。

パン製造に乗り出したのは15年ほど前のことです。それまでは安価な下請け作業一辺倒。チラシ配りや衣類の糸切り、地元の芸能神事、八戸えんぶり を彩る烏帽子の製造などを手がけていました。

しかし、これではいくら障害者でも、どうしようもない。そう感じていた理事長の森内武三郎さんは、とある研修会の存在を知り、何の気なしに参加します。当日は酷い嵐で鉄道が遅れ、浅虫の会場に着いたときは、仕方なく30分ほどの遅刻。「そしたら、小倉昌男さんから『なんだ君たちは』って怒られて。天候は言いわけにならない。先を見て行動しなければいけないと言われて、びっくりしました」。研修会は当財団のセミナーで、売れるものを作ることの大切さが、そこでは熱心に語られていました。

「それで目覚めたというんですかね。何か自主製品を作るしかないと。職員会議を開き、食品関係だったら毎日需要があるだろう。野菜関係だと鮮度が問題だ。それならパンを作ったらどうかという話になりました」。

手作りのこだわりがセールスポイント。

しかし、パン作りの経験など皆無の素人ばかり。そこでつてを頼って、パン工場を運営する神戸の社会福祉法人まほろば に職員を派遣し、技術をいちから学びました。販路は地域の直売所や、市庁の売店、福祉関係の各施設とし、店舗は構えませんでした。町の中心街から事業所は離れていたからです。

パン製造の初年度にあたる2003年の売り上げは約550万円。手作りのパンを標榜し、冷凍生地は使いません。菓子パンのカスタードクリームはもちろん、あんこも地元の小豆を自分達の手で煮たものです。大手製パン業者のものより少し安い値段設定もあって評判を呼び、市内のスーパーなどへ販路も順調に広がりました。

2008年には1000万円を突破。一昨年の2015年はブームにもなった塩パンがヒットし、年間売り上げは1500万円。給料も平均2万5000円に達しました。

壁をひとつひとつ乗り越えて。

しかし、生産数の限界を感じ始めたのもこのころです。自前の店舗を持たないビジネスモデルのため、非常勤の職員が午前3時から製造に はいり、7時までにその日に卸すパンをすべて焼き上げてしまいます。その後は、出勤した利用者を中心に仕上げや包装を一気におこない、配送する流れです。しかし、オーブンの生産能力、30平方メートル程度の狭い作業場がネックになって、納品時間に遅れる事態も生じるようになっていました。

そこで今回の改修です。スペースにゆとりができて、作業テーブルも増やし、作業もぐっとスムーズになりました。塩パンブームは鎮静化しましたが、効率が上がった分で売り上げはキープ。しかし、現状に満足しているわけではありません。「目標は月給5万円です。いつになるかは分かりませんけど、頑張ります」と理事長。

現在、日曜、祝日は営業をおこなっていませんが、取り引き先のスーパーからは納品を期待されています。

「それで、今は祝日が続くときには利用者さんに代休を取ってもらうようにして、土曜、祝日の営業日を増やし納品回数の増加を考えています」。

また、グループホームの建設も思案しているところだそうで、隣接地の購入を検討中です。グループホームができれば、利用者はそこから早朝の出勤も可能となり、仕事の種類や給料の増加が見込めると言います。

田面木の家の未来が楽しみです。

納品時間を前に包装作業は大わらわ。

増改修をおこなったパン工房。

4段式で一度に焼ける新たに整備した大型の電気式デッキオーブンの前で。左より森内武三郎理事長、ベーカリー部門主任の森内武師さん、目標工賃達成指導員の森内善伸さん。

人気商品のフーディブレッドと新商品のチョコイップ。フーディブレッドの材料は、小麦粉と塩とイースト、モルトのたった4つ。トーストすると小麦本来の風味が最大限に広がる。

パンの納品が終わったら、翌日の仕込みを担当するものとクッキーの製造班に分かれて作業。

既製品を使わず、信頼できる小豆を仕入れ、いちから炊きあげたこだわりのあんを使った小倉サンド。

スーパーへ納品に行く利用者さん。

労働組合支部執行委員長: 助成先訪問: Series 24.

ヤマト運輸労働組合 青森支部執行委員長、三上 雅仁 さん。

金儲けが福祉を変える。その実践に私たちのできること。

役割分担や指導をどのようになさっているかに興味があったのですが、利用者の能力に合った場所で、各々が100パーセントの力を発揮している様子に感心しました。そして、それが利用者さんの給料に反映される。そこでは小倉初代理事長の訴えた、金儲けが福祉を変えるという理念が実践されていました。

こうした作業所でさらにひとりでも多くの笑顔が生まれるよう、私たちは地域に愛される企業として、夏のカンパやふくしねぶた、見守りサポートといったものに加え、つぎに何ができるのかをもっと前向きに考え、これからも協力を継続していきたいですね。

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