一念発起し、社会起業。
ごきげんファームは、6年前、つくば市に発足した NPO 法人が運営する農場です。野菜の栽培から販売を中心とした事業に、45名以上の障害者が従事しています。夏場の作業効率アップと、冬場でも栽培できる環境を実現するために、当財団の助成を得てビニールハウス3棟、小型トラクター、1トントラックを整備しました。
「現在は品目で言うと50種くらい。でもネギだけでも8種類くらい作っているので、厳密な品種数だと、すこし前に数えたときには128でした。この中から、旬の野菜を7、8つほどまとめ、野菜セットという形で、定期的に、近隣450世帯に配送する契約販売をしています」と語るのは、 NPO 法人の副代表理事で農場長を兼務する伊藤文弥さん。28歳の若き、ファームのリーダーです。
伊藤さんがこの世界に飛び込んだきっかけは大学2年生のとき。筑波大学で化学を専攻していたものの、化学より政治に関心があったという伊藤さんは、たまたま、地元市議のインターンシップに参加。期間はたったの2ヵ月でしたが、市議の手伝いで、農業と障害者のテーマを調べることに。障害者の置かれている現状が分かるにつれ、他人事ではないと思うとともに、障害者の給料の低さに衝撃を受けました。
農業成功、商売失敗。
「障害者は働く場がない。片や、地元の農業は深刻な担い手不足。だったら、この2つを一緒にすればハッピーになれるんじゃないか」。翌年から準備を始め、大学4年生のときには、市議とともに、 NPO 法人を設立。卒業と同時に事業をスタートさせました。
しかし、つまずきは早かったと言います。
1.2ヘクタールの農地で最初に作ったのはホウレンソウ。化学肥料を使用する慣行農法で、「完全なるビギナーズラックですけど、すごくおいしかったんですよ。でも売れなかった」。ホウレンソウは競合が多すぎたと判断し、「つぎに、チコリとかバターナッツといった、珍しい野菜を作ることにしました」。直売会では誰もが興味を示すものの、調理の仕方も分からない新顔野菜はやはり売れません。そこで、たどりついたのが契約栽培の受託です。
プロに頼って、疲弊から成長へ。
「それでやっと売れるようになったんですけど、そこからが一番の暗黒時代になりました。仕事が追いつかず、社員は夜中まで作業に追われ、バタバタと辞めていきました」。
障害者の活躍が第一だったはずなのに、売らなきゃいけない、に縛られすぎ、組織は疲弊の一途をたどったのです。それで4年前、「設立当初の原点に立ち返り、農業を通じて、地域と障害者の壁を取り除きたい。そのためには、地域のお客さんと直接、繋がることのできる今の少量多品目の有機栽培をやろうということになったんです」。
品目が増えれば、これまでの自己流にも限界が生じます。改めて、実績のある農家と契約し、2年かけて実践的なノウハウを学びました。その効果は絶大で、途端に作業のムダが減り、収穫も安定するようになりました。「本屋に並ぶ指南書は家庭菜園向けがほとんどです。プロの教えは大事だと痛感しました」。ソーシャルベンチャーを支援する NPO などにも積極的に助けを求め、農業以外にも販売促進や、顧客管理システムといった面の見直しを着実に進めました。その甲斐あって、いまでは月850セットを売り上げ、フルタイムで働く B 型利用者は月平均、約35000円の給料を得ています。
「1000セットを達成したら、みんなでディズニーランドに行く約束をしています。僕は、もう、今年中に行くと決めていますけど」。
ごきげんな笑顔が弾けるその日は目前です。
助成で整備したトラクターでマルチを貼るのは利用者の益子さん。
選果場で野菜セットの袋詰め。ファームでは1年間をとおして、野菜が途切れることのないよう、多品種を並行栽培している。
スナップエンドウは収穫の季節。
農場長の伊藤文弥さん。
この日の作業のひとつは、サトイモ畑の草取り。
助成で整備したビニールハウス、トラック、トラクターの前で全員集合。
旬の朝採り野菜を定期的に宅配する野菜セットのチラシ。