このページと、以下のページは音声読み上げブラウザに最適化済みです。

私たちの賛助会費が活かされています。奨学生レポート Vol. 11.

ささやかな夢、大きな夢。夢を夢で終わらせないために、大学に進み、将来の飛躍を誓う奨学生がいます。彼ら彼女らの前向きな日々をご紹介します。

池田ブライアン雅貴 さん:慶應義塾大学 総合政策学部2年。

1歳半のころ、先天性の感音性難聴と診断され、4歳のころに重症化するも幼少期を除いて普通学校で学んだ。陸上400メートルでは高校2年のときに日本ユース出場の標準記録をクリア。世界 ろう ジュニア記録と日本 ろう 記録を更新するタイムを残す。2016年にブルガリアで開催された、世界 ろう者陸上選手権大会マイルリレー(4かける400メートル リレー)で日本新記録で、銀メダルを獲得。

障害者奨学金制度。

卒業後に社会の役に立ちたいと、障害を乗り越えて多くを学ぼうとする大学生のかたに月額5万円(返済不要)を助成しています。

知名度の低さ、資金不足、競技レベルの足踏み。障害者スポーツの悪循環を断ち切りたい。

世界のステージにいざ出陣。

本誌がちょうどみなさんの目に触れるころ、池田ブライアン雅貴さんは、アスリートとして障害者スポーツの祭典に出場。日本代表のひとりとして世界に挑みます。

いや、パラリンピックにはまだ早いよ、そう、いぶかしがるかたも多いかもしれません。池田さんが出場するのは、デフリンピック2017。4年に一度開催される夏季大会が、今年、黒海沿岸のトルコの都市、サムスンで開かれます。

障害者のための世界的な総合スポーツ競技会はパラリンピックだけではありません。身体障害者を対象としたパラリンピック。知的発達障害の選手が競うスペシャル オリンピックス。そして、デフリンピックは聴覚障害者のための大会です。パラリンピックよりもずっと長い歴史を持っています。

総勢177名の日本選手団の一員として池田さんが出場するのは、400メートル リレー走。走者4人がバトンをつなぐトラック種目です。

週5日は練習をしているという慶應義塾大学、日吉キャンパスの陸上競技施設を訪れ、パソコンの画面にテキストを打ち合ってお話を伺いました。

もっと知ってほしい、僕たちを。

「陸上競技を始めたのは小学3年生のとき。母の勧めでした。ハーフで、耳が悪いことが原因で、学校でいじめに遭うのではと心配していました。それで、何かひとつ得意なものがあればと考えたようです」。

先天性の感音性難聴に端を発し、幼少期に重度の聴覚障害となった池田さんにとって、運動は大の苦手。健常者との意思疎通に追われて、スポーツに目を向ける余裕もなく、体育の時間も先生の指示が聞き取れず、消極的だったといいます。

しかし、恩師とも言える顧問の先生と、中学に上がって出会うと一転、「陸上が好きになりました」。選手としての才能も一気に開花し、全国大会で3位となるまでに。高校ではインターハイに3年連続出場し、高校2年のときには400メートルで48秒04を記録。全国同学年の個人ランキング7位に食い込み、高校1年からは聴覚障害者の陸上競技会にも参加するようになりました。

「そこで聴覚障害者アスリートと接しているうちに、『記録や良い成績を残しても知名度が低いから、なかなか注目されず悔しい』という声を聞き、十分ではない環境の実態を知りました」。

彼自身、高校時代にデフリンピックの日本代表に選出されたものの、環境が整わず、出場を果たせなかった苦い経験を持っています。

目をそらさず、中退を決断。

2015年、彼は体育の教諭を目指し、晴れて東京の大学に進学しました。しかし、次第に自分が本当にするべきこと、そのために学ぶべきことはなにかと、あらためて見つめなおすようになります。同時に障害者スポーツや障害者アスリートを専門とする研究者が、あまりに少ないことも分かってきました。

「障害者の置かれている環境を、もっと社会に理解してもらいたい。でも問題の根はひとつではなく、さまざまな要素が絡み合った結果です。そこで、ひとつの領域にこだわらず様々な視点から学習し、研究したい気持ちが強くなりました」。

体育教諭とは異なる夢を描き始めた池田さんは、すっぱりと大学を中退し、新たに自分が学ぶにふさわしい場として、慶應義塾大学の総合政策学部を志望。 AO 入試出願までの期間も短く、苦労は相当のものだったようですが、「準備を重ねるうちに、漠然としていた将来のビジョンが、明確なものに変わったのでとてもよかったなと思います」。見事、秋には合格を果たし、翌年4月に入学。同大の競走部にも所属し、部の合宿所で学生生活を送っています。

全力疾走。それは成長の糧。

現在は、法律や憲法、行政、日本内外の経済や政治政策について勉強しているという池田さん。「グループで解決策を練り、プレゼンする形式の、社会保障政策の講義は特に興味深い」と、勉学にも熱がはいります。

いずれは、文部科学省に入省し、行政の立場から、聴覚障害者の置かれている環境の改善に関わっていきたい。

そんなビジョンを実現するために、社会関係を中心に学びつつ、障害者スポーツに関する研究会、ゼミにも参加する多忙な日々。競走部の練習もハードですが、「合宿所の生活は、みんなで助け合って、楽しいです」と画面に打ってくれました。

トルコのトラックを全力で駆け抜け、そのままの勢いで夢のバトンを未来につなげてほしい。池田さんにエールを送ります。

課題の資料を探す。湘南藤沢メディアセンター。

授業の合間の一息。湘南藤沢キャンパスのガリバー池、通称 鴨池は学生達の憩いの場。

ウエイトトレーニングのメニューも豊富。筋力アップにかかせない。

湘南藤沢キャンパスで講義を終えたら、日吉キャンパスに移動し、競走部の練習が始まる。週5日、朝練も含めて毎日3、4時間の練習。写真は、競走部のメンバーとトラックでアップの様子。

公益財団法人 ヤマト福祉財団 トップページへ戻ります。
ヤマト福祉財団 NEWS の目次へ戻ります。