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瀬戸理事長の受賞者訪問。

福祉施設で働く、企業で働く、障害があるかたに仕事の選択肢を。

第12回ヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞者、柴田智宏さん。

小倉昌男賞受賞後も目覚ましい活躍を続ける受賞者を訪ね、福祉施設の支援に新たなヒントを。瀬戸理事長が訪ねたのは、企業と福祉の両輪で障害のあるかたの働く場と仕組みづくりを実践する柴田智宏さんです。

社会福祉法人慶光会、ワークスひるぜん、岡山県真庭市蒜山上長田。

就労継続支援 A 型、10名。就労継続支援 B 型、24名。就労移行支援、6名。

有限会社ドアーズ、鳥取県倉吉市関金町。

事業内容、ペットフード製造業。従業員数、27名。

製麺業で年商1.6億円の実績を上げ、2011年度 第12回ヤマト福祉財団小倉昌男賞を受賞した柴田さん。しかし、福祉施設の枠だけでは、障害のあるかたの働く気持ちに応えることはできない、と、その場に立ち止まることなく、起業への道を踏み出しました。

現在は、岡山県にある社会福祉法人慶光会の理事長と、鳥取県の有限会社ドアーズの代表取締役というふたつの立ち位置で、障害のあるかたの働く場を広げ、生き甲斐を持って地域で生活できるように支えています。

8月23日、酷暑の東京を出発。西日本でも指折りのリゾート地、蒜山(ひるぜん)高原にある柴田さんの待つ岡山県真庭市へ。避暑地の涼やかな風をひそかに期待していましたが、迎えてくれたのは厳しい真夏の陽射しでした。

西日本屈指のリゾート地で、年商1億円を超える製麺所を開所。

最初に訪ねた社会福祉法人慶光会の事業所ワークスひるぜんは、柴田さんの活動の原点となった製麺事業をおこなっています。

柴田さんは、高校を卒業後、生まれ故郷の鳥取県の社会福祉法人で、うどん、蕎麦の製麺事業の立ち上げにかかわりました。「障害のあるかたと一緒になって仕事をやり遂げていく喜びをここで知ったのです」と柴田さん。ところが配属が変わり、現場から離れることに。柴田さんは退職を決断し、隣の岡山県の蒜山高原に空き物件を見つけ、障害のあるかたとともに働ける製麺所を開業します。

1円でも給料を上げることが利用者さんの幸せにつながる。この柴田さんの考えに賛同した当時社会福祉法人慶光会の理事長とともに、実績を上げていきます。しかし、衛生環境を整えなければ、いま以上の取り引きは難しいとバイヤーに言われ、もう一段階進むために衛生管理の行き届いた新工場を完成。年商1.6億円、月額平均給料5万円の成果を上げました。

早速、清潔で明るく活気に満ちた工場の中へ。工場内はエアシャワーや空調設備、入退室経路も分離し衛生管理を徹底、異物混入を防ぐための金属探知機も備えています。

「自然のものが豊かなこの地域に合う仕事を見つけ、利用者さんの手で消費者にも取り引き先にも喜んでもらえるレベルに高めているのが素晴らしい」と瀬戸理事長は感心していました。

いろいろな障害のあるかたに働く扉を開く会社、ドアーズ。

次に県境を越えて、ペットフードの製造をおこなう鳥取県倉吉市の有限会社ドアーズへ。

柴田さんが、起業への道を選択した理由はなんだったのでしょう。

製麺所の売り上げも見学者も増え、順調に事業は進んでいましたが、その陰で『福祉施設だから、障害者を安く働かせてうまくやっているだけだ』といった声も聞こえてくるようになりました。くやしく思いましたが、自分は本当に障害者を1人の従業員として支えることができているのだろうか、と自問自答。そのとき、『たとえ給料が安くなっても、施設より企業で働きたい』と話す利用者さんの声が聞こえてきました。障害があるからと仕事の選択肢を狭めてはいけない、自分が会社を立ち上げなければと心を決めたのです。

最初の法人を辞めるとき、起業したいと話したとき、奥様はあきれながらも陰で柴田さんを支えてくれました。柴田さんは、生まれ故郷の鳥取県で地域のいろいろな立場のかたの声をリサーチします。すると思うように仕事に就けずに困っているのは、障害者だけではないことにも気づきました。

高齢者など体力がなく長時間働くのが難しいかた、シングルマザーやファーザー、親や子どもの介護をしているかたなどがたくさんいました。彼らは、働く時間に障害のあるかた、だったのです。こうした状況にいるかたも含め、私は、どんな障害も個性だと受け止めることができる会社をつくろうと決めました。社名も『すべてのかたに、いろいろな可能性のドアを開くことができる。就労に困っているすべての人に扉を開くことができる』そんな会社にしたいと、有限会社ドアーズという名前にしたのです。

有限会社ドアーズでは、中津世侍常務が我々を迎えてくれました。

「私がペットフード事業に進んだのは、中津さんと出会えたからです。最初は、姫路で会社を経営する中津さんから袋詰めの下請け仕事をいただいていたのですが、どうせやるなら製造もして会社を大きくしたら良いではないか、一緒にやろうと、鳥取県に来ていただきました」と柴田さん。

中津さんは、「私が障害者施設に仕事をお願いしていたのは、企業よりも安くやってくれるからという安易な発想でした。しかし、柴田さんの考えを聞いているうちに、手伝いたくなってしまったのです」と笑います。

必要なのは、働く仕組みと、チャンスをどうつくり上げるか。

ふたりは、ペットフードの中でもおやつに目を付けました。「ペットフード産業は、約800億円とされていますが、仕事の大半は国内の大手工場が握っています。そこで、ペットのおやつをやろうと考えたのです。メーカーが東南アジアに頼っていた生産を、信頼できる国産に変えようとしていたこと。国内でおやつをつくっている所が少なかったことも、私たちには追い風でした」。

工場内では、包丁や切断、乾燥する機械を使用する従業員の姿も。「当初、障害のあるかたに包丁を扱わせるのは危険だと考えていましたが、本人から是非やりたいと言われて、訓練をはじめました。いまでは、ひとりで肉の処理すべてをこなすかたもいます。ドアーズの従業員の約半分は障害のあるかたですが、品質もスピードも申し分ありません。私が製造ノウハウを、柴田さんが働く仕組みづくりを担当していますが、安心して働ける仕組みとチャンスさえあれば、いくらでも可能性があると感じています。私はここに来て、障害があるかたに対する考えかたが随分と変わりました」と中津さん。

柴田さんは、障害のあるかただけではなく、子育てで思うように働けないかたや高齢者なども、最初は短時間からはじめて、やがては職員として働ける仕組みもつくり上げています。

「ふたりが出会ったのは、天命だったかもしれませんね」と瀬戸理事長は頷いていました。

ペットフードビジネスは福祉施設にとって狙い目の事業。

「ドアーズの商品は、すべて OEM です。自社商品を作ってしまうと、売れ行きに左右されて仕事がなくなる可能性がありますが、 OEM なら年間契約してもらえ、安定して仕事を取れます。包材も製造レシピも支給、単価が多少安くても安定性を選ぼうという方針です」と柴田さんは話します。

「それはいいですね。自社商品をつくれば競合もつくってしまいますから。いまは、子ども以上にペットをかわいがる人が増えてきて、お金をどんどん使っています。また、小型犬や大型犬などに合わせ、形状や分量も変わるので、多品種が必要とされます。少量の製造を大手企業は避けるため、そこも狙い目となり、これからも会社は伸びていくのではないですか」と瀬戸理事長。

実際に有限会社ドアーズは、昨年対比、約150パーセントの成長率で売り上げ約5億円になっています。商品の包装は社会福祉法人慶光会や近隣の福祉施設に協力してもらい、地域に住む障害のあるかたの仕事の拡大を目指す柴田さん。ペットフードは、地方の福祉施設にとって良いビジネスチャンスになるはずだと話します。

パワーアップフォーラムで名刺交換をした長野県の福祉施設と取り引きをはじめています。そこは山奥にある施設で、仕事をつくりたくてもなにもない、是非やりかたを教えてほしいと相談を受けました。詳しく聞くと、シカが増え過ぎて害獣となり、農家も行政も駆除と後処理に苦労しているので、シカ肉を利用できないかとのことでした。だったら、加工してくれればうちが購入しますと、長野県に出かけて乾燥機を貸し出し、製造方法や機械の扱いも指導しました。

施設から話を聞いた行政も援助して体制を整え、いまこの施設は、約1ヵ月で120万円近く売り上げげることに成功しています。

「害獣駆除したイノシシの肉、サメ肉をペットフードに活用できます。また、ヒノキをチップにして猫砂にするなどいろんな可能性があると思います」と柴田さん。

「世のため、人のためになる良いモデルであり、全国の福祉施設にチャンスがありますね。当財団も応援できるように考えていきましょう」。瀬戸理事長には、福祉施設への新しい支援のアイデアが閃いているようです。

有限会社ドアーズは、ペットフードの中でも少量多品種で製造するところが少ないため、大手企業が取り引き先に困っているおやつに着眼しました。

最初は見ているだけだった利用者さん。今は原材料の準備から、スライス、加工までひとりで担う、なくてはならないメンバーです。

社会福祉法人慶光会の事業所ワークスひるぜん。豊かな自然が生む地元の食材を活かした製麺事業の成功が、柴田智宏さんのスタートでした。

「障害のあるかたにできる仕事、できない仕事と決めつけていてはダメだと気づきました」と中津さん。

「福祉施設と企業、双方のメリットをバランスよく保つことが大切です」と柴田さん。

「地方の施設に新たな仕事の広がりを生むペットフード事業のこれからに期待したい」と瀬戸理事長。

ペットフードの袋詰めを、地域の福祉施設のネットワークで取り組んでいます。写真は倉吉市の社会福祉法人 なごみ。

ドアーズからワークスひるぜんに袋詰めの仕事を発注。ドアーズへの就労を見据えての訓練にもなります。

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