このページは音声読み上げブラウザに最適化済みです。

平成30年度、福祉助成金事業、助成金贈呈式。

私たちの力を見える形に。

5月16日、平成30年度ジャンプアップ助成金の贈呈式をおこなうため、旭川市の チーム紅蓮(ぐれん)を訪ねました。北海道の5月は、まだ肌寒いかと思いましたが、旭川市は28度と、東京と変わらぬ夏日の暑さです。贈呈式に出席するヤマト運輸株式会社 道北 主管支店の佐藤賢吾 主管支店長、労組 道北支部の吉田武人 支部執行委員長と、旭山動物園で合流。ここで、チーム紅蓮が進めている事業のひとつ、車椅子でのバリアフリー観光を体験しました。その後、施設に伺い、利用者さんの仕事ぶりを見学。チーム紅蓮に、ジャンプアップ助成金500万円を お渡しする、贈呈式をおこないました。贈呈式のあとにおこなった特別座談会では、チーム紅蓮の現状と未来が見えてきました。

佐藤 主管支店長、吉田 支部執行委員長が、車椅子で観光を初体験。乗ってみて、初めてわかったことが多かった、と話しています。

この助成で、Tシャツや、横断幕、ピンバッジなど、もの作り事業の仕事と、売り上げの拡大を目指します。

北海道の旭川市にある NPO カムイ大雪、バリアフリー研究所の事業所、チーム紅蓮にジャンプアップ助成金を贈呈しました。

ジャンプアップ助成金贈呈式、特別座談会。

北の大地に広がる、車椅子に載せた夢。

車椅子というだけで就職先がない。そんな私たちに、会長がチャンスを。

本誌:先ほど、ヤマト運輸 道北 主管の佐藤 主管 支店長、ヤマト運輸労働組合 道北支部の吉田 支部 執行委員長に出席いただき、チーム紅蓮さんへ、ジャンプアップ助成金の贈呈式をおこないました。ヤマトグループの賛助会費や、労働組合の夏のカンパが、どのように役に立っているのでしょうか。五十嵐施設長に、その活用などを伺いたいと思います。まずは、チーム紅蓮の誕生の経緯からお聞かせください。

五十嵐:私は、生まれつき、骨の病気で、ずっと車椅子を利用しています。高校の同級生にも、車椅子に乗るふたりの仲間がいるのですが、私たちには、卒業後、就職先がありませんでした。

本誌:働きたくても、働き口がなかったのですね。

五十嵐:はい。企業の面接を受けても、うちには階段があるし、車椅子用のトイレもないから、と断られてしまいました。それで、毎日、プラプラとしていたのですが、そんな私たちに、当時、建築、デザイン設計会社の社長だった、只石会長が声をかけてくれたのです。

只石会長は、旭川市のみならず、全国各地で、数々の実績を持つ、バリアフリー専門家です。それまで培ってきた建設ノウハウも生かしながら、旭川市を、車椅子のかたにも快適に暮らせる街にしていきたい、と、NPO カムイ大雪バリアフリー研究所を立ち上げていました。

只石:2006年のトリノ パラリンピックのときだから、12年前のこと。それ以前から、彼らは、研究所が推進していた、障害者のスポーツ振興のイベントなどに顔を出してくれていました。いつも来てくれているが、仕事はどうしているのだろう、と疑問に思い、声をかけてみたら、そんな状況だと言う。だったら、手伝ってみないか、と話をしたのです。

五十嵐:現在、チーム紅蓮の施設となっている この建物は、当時は介護用品のレンタルショップでした。「ここを使ってなにができるか、10年、チャンスをあげるから、自分たちで考えてみなさい」と、会長が言ってくれました。

只石:ここは、バリアフリー設備が整っているからね。その頃、経産省が募集する、異業種交流で観光を推進する話がありました。私は、バリアフリー観光を提案しましたが、当時、世の中は、「バリアフリーって、ユニバーサルデザインってなに」という感じだった。それなら、車椅子に乗っている彼らが一緒になって進めれば、自然と、周りの理解が深まると考えたのです。

本誌:チーム紅蓮が誕生した瞬間ですね。

五十嵐:まだです。最初は、チームの前身となったバリアフリーツアーセンターを作り、車椅子紅蓮隊という名前で、観光ツアーの調査に、車椅子で町中を動き回りました。

本誌:どんなことをおこなわれたのですか。

五十嵐:車椅子を利用する者の視点で、いろいろな場所を体験取材、調査していきました。たとえば、飲食店に車椅子ではいると、お店や、お客はどんな反応をするのか。バリアフリーがどこまで整っているのか。移動などで困るのはどんな場合か、などを調べ、ネットなどで発信していきます。

本誌:その取り組みのひとつとして形になったのが、本日、体験させていただいた、旭山動物園のバリアフリー観光ツアーですね。

五十嵐:はい、私たちが車椅子で園内を周り、どのルートだとスムーズに観光できるか、段差やスロープ、トイレの位置なども記載したマップを作成し、ブログでも配信しました。

マップをクリックすると、ストリートビューでその場所を写真で確認が可能。また、全道の、宿泊施設の、バリアフリー情報もチェックできるなど、障害のあるかたの視点で、便利に活用できるホームページになっています。

視点の変化や周りの対応。体験して初めてわかったこと。

本誌:佐藤主管支店長、吉田支部執行委員長は、実際に車椅子に乗られて、いかがでしたか。

佐藤:車椅子に乗ってわかったのは、まず、目線が大きく違うということですね。私はわりと背が高いものですから、人波を上から見ていることが多かったのですが、車椅子からだと、子どもの目線と同じぐらいになります。電動は乗り心地が良かったのですが、手動にすると、すぐに腕が張ってくる。これを日常的にやっていくには、体力も必要なのだとわかりました。また、こちらは物に乗っているという時点で、人込みに はいりづらく、遠慮もしてしまう。周りのかたは、意外と注意を払ってくれないのだと感じました。

吉田:確かに想像していたより車椅子に対して、気を遣ってくれていないと思いました。バックしたり方向転換する時に、こっちはぶつかったら悪いと考えているのですが、周りは気にしない。大人よりも子どものほうが、車椅子の人が来ているから避けなくちゃ、と言ってくれる。うちの社員も、是非こういう経験をさせてもらい、車椅子の人の行動を自ら感じて、理解することが必要ですね。

自分たちの得意な仕事を増やし、車椅子でも当たり前の生活を。

只石:彼らのこうした活動は、メディアにも取り上げられ、旭川でも、車椅子紅蓮隊の名前は有名になっていきました。

五十嵐:名前が広がり、車椅子を利用するかたや、知的や、精神などの障害のあるかたとの交流も広がりました。そこでわかったのは、働く場がなく、つらい思いをしている仲間が想像以上に多いこと。障害があっても、当たり前のように生活をしたいし、給料もたくさんほしい。だったら、自分たちで、もっと仕事を創り出していこうと、6年前に、先ほどお話しした高校の同級生たちと、障害者福祉サービス 自立就労支援事業部、チーム紅蓮を立ち上げたのです。

本誌:佐藤 主管 支店長と吉田 支部 執行委員長は、旭川にお住まいだと思いますが、車椅子紅蓮隊や、チーム紅蓮のことはご存じでしたか。

佐藤:正直、知りませんでした。

吉田:知人の子どもがパラリンピック選手で、只石会長がおこなわれているスポーツ関連の活動は耳にしていましたが、どういうことをやっているのかまでは知りませんでした。

お客様に喜んでいただけること。それが私たちの仕事のやりがい。

本誌:チーム紅蓮の仕事には、どのようなものがあるのですか。

五十嵐:先ほどお話しした、バリアフリー観光の調査や、そのデータ入力、ホームページ制作などのICT業務、他にも、障害者スポーツ関連など、車椅子を利用しているからこそできる仕事があります。でも、それだけでは、利用者さん、みんなの仕事を満たすことはできませんし、売り上げも伸びません。そこで NPO の事業に関連して発生する、イベント用のグッズなどの、もの作り事業も開始したのです。

本誌:チーム紅蓮のTシャツや、ピンバッジなど、もの作りの現場も見学させていただきました。佐藤 主管 支店長、吉田 支部 執行委員長の感想をお聞かせください。

佐藤:私は、Tシャツを作る工程を初めて見学しました。今の時代は、簡単にプリンターとかでやっているのかと思っていましたが、丁寧に作られていて、その工程もとても多い。糊を付け、プレスして乾燥させる、この作業を何度も繰り返してから色をのせることができ、さらに洗濯、乾燥をおこなって、やっと完成します。ここまで時間をかけて、1枚のTシャツを作り上げていくのか、と驚きました。

チーム紅蓮では、初めてTシャツを作ったとき、プリントしても洗濯すると、すべて消えてしまう、そんな苦い失敗も経験。その後、研究を重ね、今の工程を完成させました。しかし、このやりかたでは、1日30から40枚しか完成できませんし、対応できるTシャツの素材も限られています。

五十嵐:インターネットなどで買える、大企業が製造する安いものは、うちとは違うやりかたです。ベルトコンベアみたいな機械にデータを送ったら、あとは横に流れてプリント、糊付け、プレスと大量生産していきます。ここには、そんなスペースもないし、お金もないので、1枚ずつ丁寧に作らせてもらっています。

吉田:五十嵐さんは見学した際、「小ロットにもしっかり対応していく」と説明をされていました。「これだけの枚数しか作らないけれど、それでもお願いできますか」というお客様は、多くいらっしゃると思います。

五十嵐:小ロット対応は、ひとりでも多くのお客様の需要にきちんと応えて、喜んでもらいたいからです。これこそが、私たちの仕事のやりがいです。

新しい機械を助成で購入し、もっと、お客様の要望に応えたい。

本誌:助成を申請された いきさつをお教えください。

五十嵐:Tシャツのプリントを始めてからは、「こういうものが作れますよ」と、自分たちの商品を持ち、街に出かけ、PR もしています。それが口コミで広がり、いろいろな企業や、団体から、「こんなことはできる? あんなこともできる?」と声をかけていただけるようになりました。しかし、実際には、すべての注文に応えることはできていません。今の設備では、綿のTシャツにしかフルカラーのプリントをできないため、たとえば、ジャンパーにフルカラーでプリントしてほしいと注文があっても、お断りするしかないのです。でも、そういった要望にもお応えして、少しでも収入を増やし、給料をアップしていきたい。仕事を拡大できれば、「私たちも働きたい」と願う、障害のあるかたたちも雇用できるようになります。そこで、新しい機械を購入、整備するための資金の申請をしました。

吉田:新しい機械を入れることで、小ロット、多品種に応えられるようになるわけですね。

五十嵐:はい。今は綿素材にしか対応できていませんが、今後は、さまざまな素材にカラープリントができるようになります。今までは、注文をいただいても、「それは作れませんが、こっちのプリントならできますが」と、ご要望とは違うものを薦めるしかありませんでした。でも、新しい機械がはいれば、逆に、「こんなこともできますよ」と、自信をもって、いろいろと、ご提案もしていけます。

佐藤:売り上げの目標はありますか。

五十嵐:別の新しい機械も導入することで、屋外対応の横断幕や、プレートも制作できるようになります。現在、Tシャツのプリントだけで400万円強の売り上げですが、今までお断りしていた仕事を受注でき、さらに、新しい仕事も獲得できるようになれば、売り上げは約3倍強にまで伸ばせる、と考えています。

只石:今まで、営業は、この地域のエリア外へは、あまり出ていません。でも、今後、体制が整えば、カムイ大雪バリアフリー研究所が築いてきた、全国各地とのネットワークを活かし、広く、道外にも活動していけるかもしれません。徐々に、体制を作り、いろいろなオーダーを受けることができるように、彼らを応援していきたいと考えています。

吉田:これからが楽しみですね。労働組合としては、会社のイベントなどで必要となるTシャツも出てくるでしょうから、そのときは是非、お願いしたいと思います。せっかく、こういう繋がりができたわけですから、一緒にいろいろと、やっていけたら素晴らしいですね。

佐藤:私は旭川に来てからまだ日が浅いのですが、商売をさせていただいている以上、地域の雇用、経済の成長に貢献することが不可欠だと思っています。企業が大きくなるほど、社会的責任も大きくなります。道北 主管支店でも14名の障害のあるかたに働いていただいていますが、今回、仕事ぶりを拝見させていただいて、障害のあるかたに、もっと仕事を広げていくことができると実感しました。いま、北海道の労働人口の減少、特に、道北以北は過疎化が懸念されています。日本の縮図といわれる北海道の中で、この旭川を拠点として、一緒に、障害のあるかたの雇用を促進できたら素晴らしいと思います。チーム紅蓮の商売が繁盛できるようなお手伝いもできれば、と考えています。

吉田:お金だけではないとわかっていますが、今回、現場を拝見し、お話を聞くことで、資金の必要性を改めて感じました。私たちは、毎年恒例で、夏のカンパを30年くらい続けています。全国ヤマトグループの社員約18万人に声をかけ、昨年は約7700万円を集め、ヤマト福祉財団に5700万円を贈りました。また、ヤマトグループでは、フルタイマーの社員、正社員に賛助会員になってもらい、年間でひとり1000円をヤマト福祉財団に届けています。まだ全組合員が賛助会員になっていないので、もっと人数を増やし、少しでも、地域で働いている障害のあるかたを援助したいと考えています。

五十嵐:助成いただいた資金を活かし、利用者さんの給料と仕事の拡大に努めたいと思います。そして、スポーツや、町作りや、もの作りをとおして、地域のかたたちと一緒になって、仕事をしていけるように頑張りたいと思います。

佐藤、吉田:期待しています。

座談会出席者。敬称略。左から、チーム紅蓮、施設長、バリアフリーセンター長、五十嵐 真幸 氏。NPO カムイ大雪、バリアフリー研究所、会長、只石幸夫 氏。ヤマト運輸株式会社、道北 主管支店、主管支店長、佐藤賢吾 氏。ヤマト運輸労働組合、道北支部、支部執行委員長、吉田武人 氏。

カバが泳いでいるのを、下から見ることができる、迫力の かば館。かば館と地下で繋がっている、きりん舎の観察テラス。ガラス1枚で、キリンが目の前に。

お客様の依頼を受け、オーダーメイドの図柄で、オリジナルのTシャツや、ピンバッジを制作。

チーム紅蓮の、もの作りの現場を見学する、佐藤 主管 支店長、吉田 支部 執行委員長。

助成で新しい機械を導入することで、いろいろな素材での制作も可能に。

チーム紅蓮とは。

チーム紅蓮は、NPO カムイ大雪バリアフリー研究所の事業所で、車椅子を利用するかたや、知的障害のあるかたなどが、働いています。高齢者や、障害者の旅を支援する、アダプテッドイベント事業、障害のあるかたのニュースポーツの企画や、用具の開発。そこから発生し、広がっていく調査研究や、ICT事業。さらに、もの作り事業として、Tシャツや、看板、横断幕などの製作を手がけています。地域と共生できる、いろいろな仕事を創出しています。

バリアフリー観光とは。

チーム紅蓮の事業のひとつに、旭川市の観光エリアのバリアフリー推進があります。「車椅子に乗っている者だから見えること、わかることがたくさんあります」と五十嵐施設長。車椅子利用者ならではの視点を活かし、今回体験した、旭山動物園だけではなく、旭川市各所のガイドマップの作成や、ツアーの企画などもおこなっています。

チーム紅蓮のガイドスタッフのみなさん、吉田 道北 支部執行委員長、佐藤 道北 主管支店長、畠山 旭山動物園広報と、ヤマト 道北 主管支店のみなさんで記念撮影。

マップのカメラマークをクリックすると、その場所が実際にどうなっているのか、車椅子でどう動けるのかを、写真で事前に確認することができます。

自分たちが得意とする事業を。

私たちの得意なことで、地域のかたと一緒に旭川を盛り上げていきたい。チーム紅蓮は、車椅子で楽しめる新しいスポーツも、産学連携で企画し、その用品も開発しています。また、冬の北海道は、雪のために、車椅子での外出は困難とされていますが、冬道にも強い、最新の車椅子を旭川駅でレンタル。道外から訪れるかたにも、便利な旅のサポート役として、いろいろな角度からアイデアを考え形にしています。

必要とされるかたが、いつでも快適に利用できるように、車椅子のメンテナンスも、万全にしています。

フロアスレッジホッケー、パラアイスホッケーという競技を、室内で楽しめるように開発。台車にローラーをつけ、前後左右に進み、スティックは台車を漕いだり、ボールを打つために使用。右は、フロアスレッジの制作中。

就労継続支援事業所、チーム紅蓮。就労継続 A 型、 B 型。

刺繍ミシン、 UV プリンター、自動プレス機等の購入。

平成28年度平均給料、123,943円。5人。

平成31年度目標給料、134,524円。7人。

もの作り事業の対応力拡大へ。

チーム紅蓮は、Tシャツプリント性能の強化に加え、野外にも使用できる横断幕や、プレートなどもデザイン、制作できる機器などの購入、整備を目的に、助成を申請しました。ジャンプアップ助成金、500万円を使い、ひとりでも多く、障害のあるかたが働くことができる新しい仕事を創出し、売り上げを拡大。障害のあるかたも、普通の生活を送れるように、より高い給料の支給を目指しています。

ジャンプアップ助成金 贈呈式の様子は、地元の北海道新聞、5月17日号に掲載されました。

公益財団法人 ヤマト福祉財団 トップページへ戻ります。
ヤマト福祉財団 NEWS の目次へ戻ります。