農機具の修復で収穫もはかどる。
冬の陽射しを凝縮したような黄色い実が、山の険しい斜面で、収穫を待っていました。木々の合間を縫うように見え隠れするレールの上を、利用者さんが手摘みした、山盛りのミカンが運ばれていきます。
柑橘類を中心に、山椒や、梅、野菜の生産を、2012年から手がける早月農園ですが、その母体である、つくし共同作業所では、内職や、パンの製造販売をおこなっていました。
「地域のかたから好評をたいだいて、パンは、やり甲斐や、責任のある仕事になったのですが、内職や、パンの製造販売とはまた違った視点の作業である農業に着目しました。当時、畑仕事のセラピー効果も注目されており、廃校を内償でお借りできる話もあったので、そこを拠点に、農業に取り組むことにしたんです」と支援員の大辻宰さん。
訪問したのは、ミカンの収穫がピークを迎えるころ。多い日の出荷は、日に1トン以上。耕作放棄地を借りた柑橘類の栽培面積は現在、4.25ヘクタールまで増えました。その多くは山間。農業用モノレールは生産性の向上に不可欠です。しかし、長く放置されていた、ミカン畑のモノレールは劣化が激しく、安全性にも問題がありました。そこで、早月農園は、当財団の助成を活用し、2017年12月に、モノレールの新設を含む、修復整備を果たしました。
失敗はざら。それでも辿りついた3万円。
設備整備は、利用者さんにとっても良い変化をもたらしている、と大辻さんは続けます。「新しい機械に興味を抱いて、より前向きになる利用者さんは多いです。仕事への誇りや、責任感が増しているのを感じられる利用者さんもいます。設備投資が、早月農園の売り上げ、ひいてはみんなの給料アップに繋がっていること、そこに自分も関わっているんだ、という意識を利用者さんの多くが持っているのを、日々の支援の中でよく感じます」。
農園を始めて2年目、2013年度の売り上げは、柑橘類以外の野菜販売や、パンの訪問販売なども含めて約350万円。とくに農業の専門家がスタッフにいたわけではありません。近隣の農家からアドバイスを受けたり、講習会に参加したり。でも、「地形や、土壌の違いもあって、行き着くところは千差万別。挑戦と失敗の繰り返しだった」といいます。それでもミカン農地を借り増しして、規模を順次拡大。販路は、様々なコミュニティでの情報収集や宣伝、口コミを中心に地道に広げてきました。当財団の実践塾に参加して知り合った仲間の作業所なども、早月農園のミカンの美味しさを知って、買ってくれる大事な取り引き先になりました。その甲斐あって、2017年度の売り上げは1627万円。平均給料が初めて3万円を超えました。
想い描く夢のまだ途上。
早月農園が思い描く農福連携とはどのようなものなのでしょうか。「農福連携が謳われるようになったのは最近のこと。僕らがまず目指すのは、この地域にちゃんと根を生やして、地域のかたたちといっしょに、強く生き残っていくことです。利用者さんの頑張りを、早月農園から周囲に広げていって、相乗効果が引き出せれば。そうした地域貢献こそが、農福連携と呼べるものなのかな、と思っています」。そのためには、高いアンテナを張って、柔軟に対応できる力を身につけたい。近隣の作業所とも、より連携を深めていきたい、と語る大辻さん。そして、利用者さんの平均給料を、5万円の大台に早く乗せたい。これも早月農園が いだく、もうひとつの夢です。今回の助成ではモノレール以外に、じつは、加工食品用撹拌機、充填機も併せて整備しました。ジャム、マーマレードの製造用です。規格外の果実に付加価値をつけて商品化。安定的に生産できれば、収穫期以外の売り上げアップも期待できます。3年先、5年先の早月農園が楽しみです。