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第14回 ヤマト福祉財団 小倉昌男賞 贈呈式

働きたい、は誰でも同じ

ひとりひとりの力に合わせ、精神障害者の働く場をつくる

2013年12月3日、東京、日本工業倶楽部

今年で第14回を数える小倉昌男賞は、障害者の経済的自立に尽力し、成果を上げられたかたがたを表彰するものです。受賞されたのは昨年につづき女性お2人。 NPO 法人 多摩草むらの会の代表理事 風間美代子さんと社会福祉法人こころん常務理事、施設長の熊田芳江さんです。ともに精神障害者の支援に力を入れていらっしゃいます。

「障害のある方は日本にどれだけいらっしゃるのでしょうか?」。有富慶二財団理事長のこんな問いかけから贈呈式は始まりました。「約800万人です。日本の人口は1億2700万人ですから、6パーセント強です。身体障害のかたがそのうちの50パーセント。精神的な障害をお持ちのかたが40パーセント の320万人。残りの10パーセント、すなわち80万人が知的障害のかたです。精神障害は一見して分かりませんし、入院や通院している患者数をもとにした数字ですので、精神障害のかたはもうすこし多く、実際には50パーセント近くになるのかもしれません」と指摘しました。そのうえでお2人の業績を、「精神障害者で一般企業に勤められているかたはまだ少なく、難しい側面もあるようです。しかし、今回受賞されたお2人は、そんな精神のかたへの支援を中心に、がんばっていらっしゃいます。しかも、かたや300名、かたや150名という規模で利用者を抱えているのです。全国の福祉施設で工賃を得ている人の数は平均を取れば、1施設約30人ですから、すごいことだと感心せざるを得ません」と讃えました。

風間さんはご家族の障害をきっかけに、同じ境遇の仲間たちと NPO 法人 多摩草むらの会を立ち上げました。およそ15年前のことです。設立当初は苦労の連続でしたが、施設側の都合ではなく障害者1人ひとりの個性を重んじ、その希望や個性に合わせた事業展開を次から次へとおこない、飲食店、農園、パソコン事業、和菓子製造、レストラン、ファブリック縫製など8ヵ所の事業所を設置。利用者300名超という都下でも最大級の就労支援施設、支援機関にまで規模を拡大されました。

一方の熊田さんは、福島県南部の泉崎村を拠点に、精神に障害のあるかたたちが地域の中でいきいきと働くだけでなく、そこに地元住民のかたもいっしょに参加して、地域おこしにつなげていく活動を続けています。そのひとつの形である里山再生プロジェクトは東北経済産業局の農商工連携補助対象事業に選定され、地域の農業生産法人、酒造蔵元と手を取り合って、酒米作りから新銘柄の販売までを成し遂げました。日本のみならず世界からも優れた事業モデルとして注目を集めています。

お2人には賞状ならびに正賞の母子ブロンズ像、愛が、そして副賞として賞金100万円が贈呈されました。また小倉昌男賞になくてはならなお祝いの俳句も、米寿を迎えられた花田春兆さんから寄せられました。

期せずして、精神障害のかたへの支援のすばらしいお手本となるお2人が揃い、この10年、15年の進展の大きさを頼もしく感じた、本年度の小倉昌男賞でした。

草むらは 枯れること無し 年を継ぐ。花田春兆

風間さん。多摩地区といえば、半世紀前後昔、戦後いち早く新しい福祉社会への道を切り拓いた、美濃部都政スタートの拠点地域として、憧れてもいた、私たち戦後世代の障害者にとっては、まさにメッカでした。その印象は、今も鮮明に甦ってきます。

その多摩に当初からおられて、以後絶えることなく、一貫して継続されているのに、東京の西と東、親と子、の違いはありながらも、同じ障害者福祉の世界を、時を同じくして、生涯をかけて辿るという、相似た人生を生き抜いてきているのに、何故か、不思議に、呼び合って知り合う機会に恵まれず、未知のままに過ごしてしまっていたことも、却ってお会いしたさを募らせ、親しさを増していくようにも思われてなりません。

銘菓なり 冬至南瓜も 大変身。花田春兆

熊田さんは、年齢こそ相応に開いてはいますが、「戦後の永い歳月を、一貫して在野で通し、地域団体を拠点に活動し続けながら、その中で時に応じて、さまざまな試みを実施され続けて来られている」と、並べ上げられると、経済観念や規模の大きさに雲泥の差はあっても、共通点のいくつかは私にもありそうで、勝手に親しみを倍化させ、お会いするのを、余計楽しみにしています。

それは良いのですが、それも原因して、例年になく俳句に迷った。特に熊田さん。最初は上映された朝市や養鶏場の映像に惹かれて、「授賞重ねて祝う会津のくるみ餅 歳祝うみんなお出でよ人も とり も」と、浮かんだが、中通りは正式には会津と呼ばないようだ、と、早川さんに注意されて、「相馬 白河 みちのく」としてみても、どれもピッタリ来ない。結局ご当人の熊田さんまで煩わして、素材の南瓜に変身願って、漸く落着、こんなお粗末な一幕があったのも、今年を余計に親しみ深く、忘れられない年にしそうな気もしてきます。

とんだ楽屋話で終わりそうですが、お祝いする気持ちに変わりはありません。改めて、おめでとうございます。

写真説明

「副賞は、利用者が待ち望んでいる PC の買い換えに充てます。みんな大喜びです」と風間美代子さん

「今年も熱心な、というか激烈なやりとりが選考委員会では繰り広げられました。それほど皆さん素晴らしかった」。選考委員を代表して、ダイヤルサービス株式会社 代表取締役 今野由梨さん

「成果を年々高めているのは、風間さんの優しさと起業の動機が正しいからに他なりません」。風間さんを推薦した法政大学大学院 教授 坂本光司さんが欠席のため、同大学院中小企業研究所特任研究員 坂本洋介さんが代読

「こころんは今年で10年目を迎えました。こうした時期にすばらしい賞をいただき、たいへん喜ばしい節目となりました」。熊田芳江さん

「一見すると、ごくごく平凡な人に見えるが、やり遂げた仕事は非凡。言い換えると、熊田さんはもっとも恐ろしくない、恐ろしい人」。熊田さんの推薦人の1人、独立行政法人高齢、障害、求職者雇用支援機構障害者職業総合センター 主任研究員 野中由彦さん

「被災時には、こころんの職員と利用者を総動員して、おにぎりと味噌汁を作り、地域や関係者に配られました。あれほど、ほっとしたことはありませんでした」。熊田さんを推薦された利用者保護者の田中志保美さん

脚注

障害者数:社会保障審議会障害者部会、第50回、平成25年7月18日資料

総人口:総務省統計局人口推計、平成25年8月概算値、平成25年8月20日公表