待ちに待った県内唯一のノリ種苗施設がやっと復活
2013年10月19日、地元の養殖ノリ生産者たちが待ち望んでいた七ヶ浜町水産振興センターがついに完成。竣工式で宮城県漁業協同組合、以下、宮城県漁協の経営管理委員会菊地伸悦会長は「本施設を最大限活用し、技術開発に取り組むことが、真の意味でのブランド力の向上につながると確信しています」と挨拶しました。
宮城県漁協では、水産業復興の旗印にみちのく寒流のりのブランド化を掲げています。しかし、県内で唯一ノリ種苗を生産し、マコガレイの種苗、ヒラメやホシガレイなどの中間育成も行っていたこの施設は、津波に機能のすべてを奪われました。
「震災から3日後、やっと水が引き施設にはいってみると、大切に育てていたノリ糸状体のフラスコは跡形もなく流されていました」と宮城県漁協の小野秀悦理事は、当時を振り返ります。地元の養殖ノリ生産者も甚大な被害を受け、事業を再開できたのは44人、以前の約6割近くまで減少しました。それでも「自前のノリ種苗で育てた本物のみちのく寒流のりで再出発したい」と願うノリ生産者の思いに応え、施設の再建を進めてきました。
ところが、なかなか着工できなかったと小野理事は話します。県が防潮堤を建設するのに、この施設があると海から工事をおこなわなければならないため、着工を1年延期しました。「しかもその間に資材が3割以上も高騰してしまったのです。でも自前のノリ種苗を生産者に提供することがこの施設の使命ですから、嘆いてなどいられません。最終的には、以前に比べ規模で1.5倍以上、ノリ種苗用の培養水槽は102基、また海水の殺菌や水温のコントロールなどの設備も強化した新施設として完成することができました」。
地元の環境に合った糸状体と最適な培養設備を整備
「地元のノリ種苗にこだわるのは、養殖するその海の環境に合わせた種苗を使うと、ノリの色、光沢、歯触りがまったく違ってくるからです。私たちは、七ヶ浜の海に一番適したノリ糸状体を選び、培養し、生産者に提供していきます」と小野理事。
糸状体とは、ノリ種苗の元株です。最適な糸状体を選定し、ノリの胞子をたくさん蓄えるまで培養してから生産者に提供。生産者は、この糸状体を使って採苗し、七ヶ浜の海で養殖をはじめます。
「糸状体を安定して育てるには、どのような設備を整えると良いか、国内最先端とされる兵庫県の種苗センターを参考にし、良いところ取りで設計しました」と菅原潤さんは話します。画期的なのは、床全面に床暖房システムを導入したことです。日本最北端のノリ生産地となる宮城県は、冬の海水温は6℃前後。海水殺菌装置を通した海水を水槽に入れておくと1℃くらいまで下がり、凍結することもあります。このままでは糸状体の成長は止まってしまうため、より効果的な方法はないかと検討していく中、床暖房に着眼。厳しい冬場でも成長を維持できる海水温の管理対策を施しています。また、カーテンも二重にして時期に応じた適切な採光もおこない、春先に種苗がしっかりと成長できる状態に管理。こうして震災前の1.5倍近いノリ種苗30万枚を提供できる体制を整えています。
いろいろな可能性を視野に水産業の復興に貢献
「養殖のノリ種苗以外にも、アサリ種苗100万個体、ナマコ種苗10万個体、さらにアワビやウニの種苗の放流も考えています」と佐々木良さん。アサリやナマコなど天然の水産物は、水揚げ量が不安定なことがネックです。そこで種苗を育て海に放流し、安定させていく計画を立てています。「これから町の未来を担う若い人たちが、養殖だけでなく天然のアワビなどの水揚げも視野に入れ、七ヶ浜の海でいろいろな可能性を思い描けるようにしたい」と佐々木さんは話します。
また、ノリ糸状体を培養する棚は大量のカキ殻で製作しますが、その作業を地元のかたがおこなえるようにし、地元雇用の機会を増やせるように考慮もしています。
みちのく寒流のりのブランド化の推進とともに、町おこしの新拠点として多くの住民が期待を寄せる、七ヶ浜町水産振興センター。これからどのような可能性の種を蒔き、育てていくのか楽しみです。
写真説明
宮城県漁協のみなさん
完成を記念して建てられた竣工碑
カキ殻の培養棚は地元のかたが手づくりでおこなう
完成した栽培種苗生産棟で説明を受ける有富理事長
作業棟の実験室では、糸状体の成長や病気の原因を調査できる
養殖用のノリ種苗の元株である糸状体、放流するアサリやナマコなどの稚貝、稚魚を育てる
アサリ種苗の生産
写真説明
浮遊幼生を飼育するタンク
着底できる状態にまで育てる
着底稚仔の育成タンクに移し稚貝にまで育ててから放流
ノリ糸状体の培養
写真説明
七ヶ浜に適した糸状体を選定
カキ殻の棚で糸状体を培養
糸状体がたっぷりノリの胞子を蓄えたら養殖業者に出荷