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私たちの賛助会費が活かされています。障害者福祉助成金、助成先レポート vol. 18

シイタケ栽培で稼ぐ。いいものを作って売り切るまでが農業

立場の弱い下請けでは利用者の工賃を守れない。交渉の場にも対等に立てるよう、下請け以外の収入が必要だと痛感した いっすんぼうし の選択は、シイタケの菌床栽培を柱とする農業。七転び八起きしつつも、前進を続ける作業所を訪ねました。

社会福祉法人 明光シズヒロ会、社会就労センター いっすんぼうし、就労継続 B 型、栃木県小山市

受注ゼロの大ピンチ

栃木県の南部、北関東の拠点である小山市。工業団地や農地に加え、新幹線で45分の利便性から、東京のベッドタウンになっています。この地に2006年に発足した いっすんぼうし は農業、とりわけシイタケの生産販売を武器に、障害者の経済的自立を目指しています。

理事長の大塚栄さんは地元で開業する歯科医です。治療に来る近隣の養護学校の生徒や保護者さんから「卒業しても行き場がない」、施設に通っても「給料はわずかばかり」といった話をたびたび耳にし、一念発起。働くことを大切にする、をポリシーに据え、社会福祉法人を立ち上げました。

当初から3年の間、もっぱら下請け作業が事業収入を支えました。しかし、下請け作業は発注量に波があり、単価の設定は相手次第です。それでも開設当初から1人平均月8000円を実現させていましたが、「ある年、3月で大口の発注がバタっとなくなくってしまうというピンチにぶつかったんです」と語るのは、理事長の夫人で施設長を務める泰子さん。

そこから脱下請け依存の多角化が始まります。チーズケーキの製造販売を皮切りに、農業などにも手を伸ばし、シイタケの菌床栽培に辿りつきました。

シイタケ豊作、あふれる涙

シイタケを発生させるには、まず菌床を一晩、水に浸す浸水という作業が必要です。その後、温度と湿度を管理しながら時折水やりをします。すると浸水から7日程度でシイタケが発生し始め、複数回の収穫が可能です。ひとつの菌床からはだいたい60個、1キログラム程度のシイタケが収穫できます。

2012年6月には当財団の助成金を活用して、シイタケ栽培用のビニールハウスを2棟新設して倍にし、大幅な売上増を狙いました。

「だけど、これがまた失敗だったんです」と大塚理事長。一度にたくさんのシイタケが発生してしまい、売り先に窮したのです。結局500キログラム、売上にして50万円ほどを泣く泣く廃棄せざるをえませんでした。

「いいもの作れば必ず売れる。そう信じていました。でもその考えが間違いのもと。いいもの作るのは当たり前で、ちゃんと販路を確保すること、現金化の方法をしっかりと立てておくことの大切さを学びました」。この反省から市長に直談判を申し込む機会を得た大塚理事長。

「福祉の向上と地産地消を促進する市の理解が得られ、市内の小中学校、保育所の給食食材に採用していただけることとなり、直売所以外に大口販路を確保できました」と話します。

次のステップは付加価値

いっすんぼうし では、必要な水を井戸水でまかない、温度調節も窓の開け閉めなどで対応し暖房を用いません。その分、シイタケの発生時期や量をコントロールするのは難しくなりますが、経費は大きく節減できます。

また、地元の料理屋さん等の協力により直接取引で販売することで原価率を3から4割に抑えることに成功しています。その甲斐あって、平均工賃は前年より約9000円アップし、2013年度は約3万4100円になる見込みです。

小山市では農政課が募集して新たな商品やサービスを生み出す、おやまアグリビジネス創出事業を展開しています。 いっすんぼうし も、一昨年に手を上げ、自分たちで育てた落花生やカンピョウをつかった煎餅などの開発に取り組んでいます。手塩にかけた農産物にいかに付加価値をつけるのか。オリジナリティーが交渉力の源になると信じて、苦労や失敗は覚悟のうえ目下、挑戦中です。

いずれセンターはあくまで就労訓練の場とし、「将来は農業法人組合を設立し、利用者の一般就労の場となれば」。

大塚理事長の意気込みはますますみなぎっています。

写真説明

いっすんぼうしのみなさんと。後列右が、栃木支部田中執行委員長

助成で建てたハウス。ハウスのまわりは、ソバ、ニンニク、カンピョウなどの農地が広がる

シイタケの発生具合によって、菌床の場所を移動させ、収穫をおこなう利用者さん

朝取りシイタケの収穫、納品

ひとつのビニールハウスに4000床がずらっと並ぶ

食品メーカーと契約した農地。「メーカーの基準に従って生産するので、全部買ってもらえるんです」と施設長の大塚泰子さん

農業以外に手がける委託事業、クロネコメール便配達

「どう管理すれば、狙った時期に狙った量のシイタケを発生させることができるのかが、難しく面白いところ」と言う大塚栄理事長

労働組合支部執行委員長 助成先訪問 シリーズ13

楽しく働く歓びに、障害のあるなしは関係ない

ヤマト運輸労働組合 栃木支部執行委員長 田中克明さん

シイタケの菌床栽培について、素人なのでまったく知識がありませんでした。収穫をいっしょに少しお手伝いしたのですが、働いているかたたちが、傘の開き具合や大小など、いろいろと真剣に教えてくださって感激しました。

主管支店には障害のあるかたも雇い入れしていますから、そうした人たちと接する機会はこれまでも持っていました。いつも一生懸命、仕事をしてくれています。ただ、どうしても職場に溶け込むのが簡単ではないところもあります。でも、いつも明るく元気に挨拶してくれて、声をかければ、彼らも返してくれる。そんなとき、障害のある、なしは関係ないと感じます。

明るく楽しそうに仕事をしている人たちを見ると、よかったなと思うし、助成金の行方をこうして直に知り、「もっと熱を込めてカンパ運動を盛り上げていきたい」そう思いました。

写真説明

利用者さんに収穫の仕方を教わる田中委員長