京野菜の生産に名乗り
日本三景で唯一、日本海側に位置する天橋立。その美しい景観から野田川沿いに車で20分ほど上ったあたりに、野田川共同作業所はあります。
ヤマトグループ企業労働組合連合会の会長、森下明利さんと、兵庫支部執行委員長の田中秀信さんが訪れたこの日は、当財団のジャンプアップ助成金を活用して建設された大型ビニール育苗ハウスが稼働し始めてちょうど2週間というタイミング。ハウスの中では働く8名の利用者さんの姿がありました。
地元支援学校卒業生の受け皿として、発足以来35年の歴史を持つ野田川共同作業所。近年は55名の利用者がお弁当製造や、寺社で販売されるお守りづくりなどに精を出してきました。とくに、エアコン用電気ケーブルの下請け作業では月4万円の給料を実現し、地域のみならず京都府北部でも高い水準を維持してきました。そして2005年からは、九条ネギの生産にも挑戦しました。
「府が京野菜のブランド化を目指して、この地域で九条ネギの生産者を募ったところに手に挙げたのがきっかけでした」と語るのは所長の小谷勝己さん。
「事業の多角化を手探りしていた折り、本格的な農生産は未経験でしたが、農協等の指導を受けながら始めました」
決め手は、苗の善し悪し
しかし、九条ネギはとてもデリケートな野菜。一筋縄ではいきません。雪深い冬、高温になる夏は出荷量がグンと下がるのを避けられませんでした。それでも府の授産振興センターの研修を受けたり、相談に乗ってくれる園芸店の助けを借り、着実にノウハウを蓄えてきました。
九条ネギを担当している藤岡克彦さんは、「突き詰めていくとやっぱり苗。ネギ栽培はしっかりとしたよい苗を育てることで8割は決まることを学びました」と言います。それまで苗を育てていたのは、借り物の老朽化したハウス。水も電気も引いてありません。川の水は農薬や雑菌の混入もあり、これまでは5キロメートル離れた作業所から水道水を運んでいました。
そこでついに、しっかりとした設備の育苗ハウスを建てることを決断したのです。
下請けリスク克服の武器に
藤岡さんは新しいハウスでの育苗に手応えを感じています。「びっくりするくらいです。7日間で発芽しました。この分だと今まで冬には3ヵ月かかっていた育苗が半分でできそうです」
昨年は年間19作でしたが、今年度は25作ぐらいまで伸ばせるかもしれません。給料アップにつながる朗報です。
じつは電気ケーブルの下請け作業は昨年から、受注量が大きく下がりました。発注元が海外での生産にシフトしたためです。そこで徐々に下請け作業を担当していた利用者さんたちに、九条ネギづくりに移ってもらえればと考えています。
「自然の空気を吸って、土に触れると、もっと元気になってもらえるのでは」と藤岡さん。小谷所長も「身近なラーメン屋さんやうどん屋さんで、自分たちの育てたネギを実際においしいと言ってもらえる機会があることは、給料だけでなく、やりがいにもつながりますし」と、効果に期待しています。
九条ネギの人気は年々高まっており、現在まで販路に困ったことはありません。むしろ生産が追いつかない状況がつづいていました。念願の育苗ハウスの完成で、設備面の体制は格好がつきました。あとは出荷の需要に合わせて、いかに人員を配置していくのかが課題です。
農薬をできる限り使わず、手作業にこだわって育てた安全安心の九条ネギ。郷土の伝統野菜で働く場の維持拡大、給料アップに挑む野田川共同作業所の今年度の成果が、今から楽しみです。
写真説明
野田川共同作業所九条ネギ班のみなさん、後列左から田中兵庫支部執行委員長、ヤマト労連森下会長
ひとつのくぼみに5粒ずつ種をまく細かい作業
種から育てた苗
播種から7日。よく見ると発芽が分かる
苗から収穫までの定植用ハウス。順調に育てば1棟で30万円ほどの売上になる
新たに建てた育苗ハウスは雪の重みにも耐えられる仕様。室温が12℃を下回るとボイラーが自動運転する仕組みも。上水道を散水する設備や遮光カーテンも備えた
「九条ネギは水が多くても、温度が高くても低すぎてもダメ」。栽培の指導にあたった園芸店、三光園の三浦浩さんと田中委員長
「三光園さんのような園芸のプロから指導を受けられたことが大きかった」と、これまでの苦労を語る小谷勝己所長。九条ネギ班支援員の藤岡克彦さん
ヤマト労連の森下会長も見学に
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ネギは好きなんですけど、これほど手間のかかるものとは知りませんでした。コツコツと根気のいる仕事なんですね。
細かい作業にも真面目に向かう様子は、主管支店で作業をしている障害のあるかたといっしょ。明るく挨拶してくださるところも共通していました。
「力まず、じょうろの先を下に向けた方がラクですよ」と、利用者さんから水まきのコツを教わりましたが、楽しんで仕事をされているのが伝わってきました。
と同時に、私たちが何気なくカンパしたお金が、熱い想いを持って運営されている作業所で生かされている。育苗ハウスという形に姿をかえて、立派に役立っているのを目の当たりにして、うれしさが湧き上がってきました。
こちらのような、楽しく健やかに働ける場がどんどん広がってほしいと思います。
写真説明
定植用ハウスで、水まきを手伝う田中委員長