あさあけの園がある矢巾町は今、めざましく変化しています。平成19年から、矢巾町に盛岡市の岩手医科大学と付属病院の総合移転整備事業が展開されているのです。区画整理がおこなわれ、田んぼはどんどん新しい住宅地に。工事現場が多く、通行止めや迂回の表示がそこここにあります。
あさあけの園がメール便配達事業を始めたのは、9年前。数年前からの町の変化と1年前の配達エリアの拡大で、新しい配達先が一気に増加しています。住所の確認など、困惑することが増える中、それが逆にベテランのメイトさんたちの新たなやりがいとなっているようです。
みんなで仕分けて、住所の一覧表をしっかりチェック
朝9時過ぎ、ヤマト運輸のトラックが到着。朝一番に来所する古 拓也さんが、いつもメール便を受け取ります。さっそく A から M と書かれた大きなテーブルで、担当地域の仕分けを開始。古 さんは仕分けを手伝って約6ヶ月で番地の区分けや段取りを覚え、約1年で任されるようになったといいます。その間に、利用者さんを乗せた送迎バスが到着。利用者さんは早速、いくつかのテーブルに分かれて、次々と仕分けを始めました。あさあけの園では、メイトさんや職員だけでなく、利用者さんたちも仕分け作業に参加しているのです。
また、メイトさんは、作成した住所氏名の一覧表に、配達先をマーカーで塗り、毎日の配達リストとしてファイルしています。これは、誤配のないようにと、さまざまな試行錯誤の末にたどり着いた方法。転居などの変更をメイトさんがその日のうちに書き込み、随時更新しています。
独自のルートを徒歩で配達
配達を担当しているメイトさんの寒風信昭さんは9年目、高木正春さんは8年目とベテラン。中村国義さんはまだ1年目なので、広い地域を担当する寒風さんの助手をしながら、配達地域を少しずつ広げています。朝、3人はメール便の持ち出し登録をし、冊数を確認しながら地図の上にマーカーでチェック。さらに、配達順に番号をつけ、その順番どおりにメール便を重ねていきます。数冊まとめて配達するメール便は輪ゴムでくくり、ゆっくりとそれぞれのペースで配達の準備を終わらせていきます。
「配達する順序やルート作りも、メイトさんに任せています。職員がこちらの方が早いのではと思うルートもありますが、それぞれのメイトさんの歩き方があるようです」と熊谷みを子施設長。あさあけの園では、カートを使って徒歩で配達しています。雨や雪でも濡れないしっかりとしたプラスチックケースに入れて、この日も元気に出発しました。
頭の中の町の地図も、更新中
地図が頭にはいっています。しかし、新築ラッシュと転入転出が多いため、常に更新が必要です。寒風さんは変化があれば必ずメモをとり、戻ってから記録。配達エリア内での移転なら、転居先の住所も覚えているようにしています。高木さんは、配達中に工事で通れなかった道を覚えておき、翌日の配達ルートを変更します。頭の中の地図も更新しながら、毎日配達を続けているメイトさんたち。変化する町ならではの苦労があると、感じました。
携帯電話で密に連絡して、時間や労力のロスを軽減
あさあけの園では、1日平均200通のメール便を配達していますが、時には600通になることも。配達に使っているカートは小さいため、たくさんのメール便を一度に全部は入れられません。そのため、多い日はメール便を半分だけ持って出て、残りの半分は、職員にメイトさんのいる場所まで車で届けてもらうそうです。これはメイトさんが携帯電話を持つことで、できるようになりました。いつも配達が終わると、電話で終了報告をしてから戻るのがルールです。終了報告後の高木さんの戻りが早いので職員が尋ねると、「いつもの道で踏切が開くまで待っているより、遠回りをして駅の中を通ってくる方が早い」と答えたとか。配達の回り方だけでなく、帰り道にもそれぞれのルートがありました。
ヤマト運輸に就職が決定。生きがいを見つけた
日下尚子さんが施設に通い始めたきっかけは、あさあけの園のメール便配達を知ったことでした。つらい病気の後のリハビリとして、何かできることがあるかもしれないと考えたのです。そこで出会ったのは、仕分けや住所録修正などの作業だけでなく、寒風さんたちのハツラツとした仕事ぶりだったと言います。「みんながやさしくて明るいことに励まされたし、ここが自分の居場所に思えました」。日下さんは、この春、ヤマト福祉財団東北支部の働きかけによって、ヤマト運輸に就職が決定。「ヤマトさんとはご縁を感じます。心に障害があっても、健康であれば、働く喜びに出会えると実感しました」とにこやかに話します。
チームワークに今後も期待
ヤマト運輸岩手主管支店 サービスセンター鈴木孝課長は「仕分け、記載など、施設の中がシステム化されていて、レベルが高いですね。情報が共有されているから、誤配が少ないのでしょう。先輩後輩のチームワークがすばらしい」と話します。ヤマト運輸矢巾柴波支店、小原正弘支店長は、「取り組み方や責任感など、仕事の内容がプロだと感じます。地域に密着したきめ細かいサービスをしていることが、誤配の少なさに表れています」。そして、今後も あさあけの園の活動に期待していると結びました。
明るく、楽しく、元気よく。あさあけの園では、毎日朝礼の後、みんなで大きな声で唱和します。この合言葉通り、生まれ変わりつつある町の地図を書き換えながら、メイトさんたちは今日もイキイキと配達を続けています。