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この街で、一緒に生きていく。公益財団法人ヤマト福祉財団、障害者のクロネコメール便配達事業

チーム意識が高くなるほどミスの数が減っていた

北海道の西側に位置する岩内郡共和町。高速バスで札幌から約2時間30分、冬には冷たく厳しい海風が吹き抜ける港町に前田の家はあります。メール便配達事業を始めて6年目。5人のメイトさんがチーム意識を持って、仕事に取り組む日々を取材しました。

積丹半島の南部に位置し、美しいニセコ連峰を望む北海道岩内郡共和町。前田の家は、緑豊かな前田という名の地にあります。メール便配達事業を始めて6年目。ここから少し離れた港に近いエリアを、男性4人、女性1人の5人のメイトさんが、歩いて配達しています。昨年12月にエリアが広がり2地区に。毎日5人のうちの2人が、順番に配達するようにシフトが組まれています。

チームリーダーがシフト表を作成

「メール便配達のリーダーを中村知崇さんに任命してから、彼が責任を持ってシフトを組み立ててくれています」と土野美和子所長。週に3日、別の仕事を持っている人、病院に行く人などの予定を踏まえて割り当てること。配達の回数をほぼ均等にすること。同じ地区を続けて担当しないことなど、すべてが考慮されています。「もうすぐ1地区増える予定ですが、安心して任せていられます」と話します。

会議でチーム意識を育てた

土野所長が前田の家に就いたのは5年前。すでにメール便配達事業は始められていました。当時、土野所長が感じたのは、情報が共有されていなくて、バラバラだということ。配達が終わると、すぐに帰宅してしまう人がいたためです。

そこで月に1回、担当者会議を開くことに。転居、閉店、定休日などの情報を報告しあって、地図の裏に書き込むことにしたそうです。数人で行っていた仕分け、端末の操作、配達のすべてを、1人で担当することに変更。さらに、メール便配達を初めから担当している宮野健次さんを相談役とし、中村さんをリーダーとしました。そこから、約2年。時間はかかったけれど、責任感と共に、チーム意識を育てることができたと言います。

出船精神という港町の伝統の教え

朝、ヤマト運輸のドライバーによって前田の家にメール便が届きます。早速、仕分けを開始。広い地区は4つに分類し、配達先を地図にマークしていきます。配達件数と冊数を数えた後、配達するルートを線で書き込みます。2冊以上同じ場所に配達するものは1つの袋にいれながら、メール便を配達順にセット。4つの地図を並べて、最短のルートになっているかを確認します。最後にメール便の総数を再確認してから、配達用のバッグにいれます。30件の準備を約25分で終了。何度も何度も確認してから前へ進む、丁寧な仕事ぶりでした。

「すべてが段取りの訓練」と土野所長は言います。たとえば、地図は1地区を4枚に分けてあります。その1枚1枚の中でルートを考えるのではなく、全体で考える。並べてみて、もっと早くてラクなルートはないかと考えることは、頭を柔軟にすることに役立つとか。そして、配達が終わったら、次に担当する人のために準備しておくことも、大切な仕事。メイトさんたちの共通のケースに、メール便をいれる袋や、留守の時にポストに残す連絡票をいれておくそうです。

「これはこちらでは出船精神と言われています。魚が来たときにすぐに出港できるように、船首を港口に向けて、船尾を桟橋に係留するという考えかたです。準備を怠らない精神のことですが、それができて初めてチームと言えると思います」と港町ならではの教えを紹介してくれました。

ベテランになっても慣れすぎないこと

仕事に慣れてくると、つい確認をおろそかにしがちです。だから「必ずすべてを地図に書き込み、地図を確認しながら配達する」という原点を大切にすること。それが前田の家のルールです。

地図の表記の仕方も、会議でみんなで考えたそうです。たとえば、小さな店がたくさんはいっている集合ビルは、店名を外に書き出して、そこをマークするというやりかた。「これは他の人の失敗を共有することから出たアイデアです。失敗を検証して、チームの中でミスをなくしていくことが大切です」と土野所長は語ります。

チームワークについてのお話を伺っているとき、たまたま配達中のメイトさんから、配達先の名前を確認する電話がはいりました。職員がリーダーの中村さんに尋ねると、「その住所は○○さん」とすぐにこたえを返していました。情報を共有し、助け合う。そして、1人でできることを増やしていく。土野所長や職員、メイトさんたちのしっかりとしたチームワークを感じた瞬間でした。

地域に愛されるパートナー

「つねに基本を大事にするという姿勢がいいですね。ヤマト運輸と同じ考えで取り組んでもらっていると感じました。いつも笑顔を絶やさないこともすばらしい。時間をかけて歩いて配達してくれるメイトさんの想いを共有し、やりやすい環境を整えていきたい」とヤマト運輸倶知安支店 工藤健児支店長。また、ヤマト運輸千歳主管支店営業企画課 志摩恵一係長は、「誤配をいかに少なくするかという工夫を感じます。改善の成果も一目瞭然。地域密着型の愛される企業を目標とするヤマト運輸にとって、欠かせないパートナーです。今後エリアが拡大しても、安心して任せることができます」と結びました。

1人1人の長所を伸ばし、自信をつけて、就労に結びつけることをめざす前田の家。チームワークのチカラで、みんながひとつとなって夢に向かって歩き続けています。

写真説明

地図を見ながら、配達順にメール便を並べる笠原郁美さん。目標は札幌でリフレクソロジーを勉強して資格をとり、それを仕事にすること

ボランティアさんが描いた似顔絵。メイトさんたちにそっくりです。朝礼では、全員が隣に座っている人の長所を褒める時間があります

新人がみても分かる、をコンセプトにみんなで作った地図。裏には、転居や定休日などの情報を記載。新情報は手書きで加え、2カ月に1回、パソコンで書き換えます

メール便配達チームのリーダー中村知崇さん。しっかり住所と名前を確認して投函します

ずっしりと重いバッグを下げて配達をする笠原さん。冊数が多いときは、カートも使います

岩内地方文化センターの受付へ、元気に挨拶をする笠原さん

いつも笑顔を絶やさない、頼れるリーダー中村さん。ニセコ連峰の美しい山並みがすぐそこに。「冬は零下になり、吹雪やみぞれの日の配達は大変です」港からの強い海風で、体感温度は実際よりかなり低く感じるそうです。

「新人には職員やリーダーの中村さんが1カ月ぐらい配達に付き添います」と土野美和子所長。「ひとり立ちの日は、いつでも電話をしてねと言って、携帯がつながりやすいところにいます。ミスをしたらシフトを替え、すぐに再度配達を担当させて、ミスを引きずらせない工夫も。どうサポートするかをいつも考えています」

前列向かって左から宮下拓朗さん、永田健さん、宮野健次さん、笠原郁美さん、中村知崇さん、後列向かって左からヤマト運輸千歳主管支店営業企画課 志摩恵一係長、ヤマト福祉財団北海道支部 千葉栄一事務長、ヤマト運輸倶知安支店工藤健児支店長、前田の家 土野美和子所長、前田の家 職員 髙島景さん

千歳主管支店 岩内センター

面積 605.65㎢、人口 23,883人、世帯数 11,664世帯

特定非営利活動法人 前田の杜、地域活動支援センター 前田の家

2008年からメール便配達事業を開始。1日の平均配達数50から60冊。その他の活動は、冬期の雪かき、貝殻ストラップ作りなど。

障害者のクロネコメール便配達事業

参入施設数 322施設、従事者数 1,625人。2014年5月現在

お問い合わせは公益財団法人ヤマト福祉財団 メール便担当

電話 03-3248-0691、ファクス 03-3542-5165

http://www.yamato-fukushi.jp/

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