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瀬戸理事長が塾長施設を訪問しました

利用者の給料アップ、3万円、5万円、7万円の壁を越える新たな発想を

今年7月に就任した瀬戸理事長は「利用者の働く姿や職場環境、暮らしぶりを実際に拝見したい」と、夢へのかけ橋実践塾の武田塾長、新堂塾長、亀井塾長の各施設を訪問しています。その様子を振り返りながら、3塾の塾長とともに、利用者の給料アップに、これからなにが必要かをお話しいただきました。

障害の重さに関係なくその人らしく働き、暮らす

瀬戸 薫理事長(以下:理事長):机上のデータや知識だけではなく、障害のあるかたが実際にどのような仕事をおこなっているのか、現場を見て、たくさんの利用者の話を聞くことができた今回の視察は非常によい勉強となりました。みなさんありがとうございます。

新堂 薫氏(以下:敬称略):瀬戸理事長には、私の施設に最初に訪問していただきました。

理事長:新堂塾長の施設では、たくさんのかたが働かれていますが、みなさん明るくて、元気に挨拶をしてくれる、それがとてもうれしかったですね。

新堂:挨拶は、社会人としての基本ですからね。「おはようございます、失礼します、ありがとうございます」などがきちんと言える習慣を身につけるようにしています。ですから、朝はまずみんなで挨拶の練習から始めます。その後はラジオ体操でウォーミングアップ。楽しく仕事をスタートできるように、みんなの好きな曲を選びダンスをするなど、職員はひと工夫しています。

理事長:見せていただいたのは、DM の封入封かん作業の様子でしたね。ここでは細かく工程が分けられ、障害の重い、軽いに関係なくみんなそれぞれの能力に合った仕事を任せられている。機械操作を担当されているかたが、とても誇らしげに仕事をされていたのが印象的でした。

新堂:利用者は、それぞれにできる仕事を担当していますが、向き不向きもあります。それをきちんと見抜き、力を発揮できる仕事を割り当てることも職員の大切な役目です。仕事が楽しければ、より技能を高めようと意欲的になりますし、自信もつき、成果も給料も上がっていきます。すると「これが自分の職業だ」と胸を張って言えるようになれます。

理事長:みなさんがやりがいを持って働いているのは、表情、態度に現れています。今回は、グループホームも拝見させていただきましたが、各人の部屋はそれぞれの趣味が色濃く出ていて、みんな楽しそうに説明してくれました。大好きな鉄道関係の資料をたくさん集めているかた、太極拳に凝っているかた、英会話の勉強中だというかたもいました。自分で稼いだお金で自分のほしいものを買う、そんな喜びが部屋中にあふれていました。

新堂:大切な給料ですので、計画的に使えるようにと、小遣い帳をつけて管理している人もいます。それが難しい人は、レシートを取って置き、職員にチェックしてもらっています。

理事長:いろいろと工夫していますね。各人の部屋には、その人らしさが見える暮らしが、息づいていたと思います。

キビキビとしてだれが利用者か職員か見分けがつかないほど

理事長:亀井塾長の施設を訪ねた時、最初は、だれが利用者か職員か見分けがつきませんでした。それくらいみんなキビキビと働いていました。

亀井 勝氏(以下:敬称略):見分けかたは帽子です。背の高い帽子を被っているのがパティシエの職員。

理事長:それになんといってもお菓子が美味しい。駅前のカフェで販売されていますが、周りのお店に負けていない。多くのお客様が来店されて、利用者が販売員として元気に活躍されていました。

亀井:お菓子づくりは、いろいろな施設がおこなっていますが、大事なのは、市場競争して勝てるだけの商品力を持つこと。私は、お菓子づくりを始めると決めた時、まずは職員をお菓子の専門学校に通わせ、プロに育てることからスタートしました。だから準備に時間もかかりました。塾生には、自分たちがつくれるものをつくるのではなく、お客様が求める商品をつくっているのか。それはまた買いたいと思える品質なのか。求められる個数をきちんと納期内で生産できているのか。そして原価計算などをしっかりおこなっているのかなどを問いかけてきました。

理事長:まさにものづくり、商売の基本ですね。

亀井:残念ながら、福祉施設にはこういった商売のルールを平気で破ってしまうところがある。決められた納期があるのに、行事があるからとか言って守らない。だから「福祉の常識イコール社会の非常識」と陰で言われるんですよ私の施設では、約束は絶対です。

理事長:できない言い訳をつくらないと言うことですね。

亀井:利用者にもその考えが浸透していますので、うちの利用者はそれぞれプロ意識を持って仕事に取り組んでいます。たとえば、シュークリームづくりが得意な利用者がいますが、毎日、大きな銅鍋の中のカスタードクリームをかきまわし続けています。非常に力のいる仕事ですが、彼の仕事ぶりはもう職人技です。

だれのために、なんのために機械化するのかを考える

理事長:武田塾長の施設では、豆腐づくりを体験させていただきました。初めて作ったにしてはなかなかの出来映えだったと思います(笑い)。

武田 元氏(以下:敬称略):豆腐づくりには人間性が出ます。理事長のつくられた豆腐は優しい味でしたね(笑い)。

理事長:牛タン加工がおこなわれている事業所も拝見しましたが、牛タンの原材料があんなにも大きなものだったとは驚きでした。この牛タンの加工は特別な機械を使われていましたね。

武田:導入したのは、切り取った1枚1枚の牛タンに切り込みを入れる機械です。この作業は、いくら利用者が訓練をしてもなかなか上手にはおこなえない難しい職人の作業です。それを機械化することで商品価値を高め、売上を伸ばしました。機械化で生産効率が上がっても、利用者の仕事を奪ったのでは意味がありません。また、きちんと採算が合う設備投資になるのかを計算することも必須です。それができていないと、せっかく導入した機械もブルーシートを被ったままになってしまいます。

理事長:採算が取れるかどうかもわからないのに、設備投資する企業はいませんからね。武田塾長の施設を訪れてもうひとつ驚いたのは、衛生管理の徹底ぶりです。食品製造をおこなう大手企業と変わりありませんでした。

武田:うちでは、豆腐の売上が約1億円になりました。しかし、これ以上大量に製造するための時間も人数も設備も限界にきています。ではどうやって売上を伸ばすのか。新商品を開発する、販売ルートを変えるなど、いろいろな案が出た中で、私は衛生管理のレベルを上げ、取引先との信頼関係を深めて単価を上げる計画を実行しました。利用者には、手の洗いかた、乾燥の仕方、どれくらい時間をかけるのかなど、わかりやすくかつ徹底して指導しています。この衛生管理体制を見た取引先の私たちに対する評価、信頼は大きく変わってきました。施設と企業の取引関係から、企業と企業の対等な取引関係へ、いまはらから福祉会は新しい一歩を踏み出しています。

売上を伸ばし利用者の給料を上げる。方法は違っても3塾の目的は同じ

理事長:みなさんが2年間塾長を務め指導されてきた夢へのかけ橋実践塾の1期生たちも、9月には修了式を迎えます。それぞれの塾でのテーマや活動について振り返っていただけますか。

新堂:私の塾では工程分けとライン化により生産性を高め、売上向上と給料増額を目指しました。さらにわかりやすい職場環境への改善と、5S (整理、整頓、清掃、清潔、躾)の徹底を進めてもらいました。その実現状況を確認するため、塾生たちの施設をひとつひとつ訪ね、勉強会も開きました。視察先の施設以外の塾生は、現場の問題点を客観的に分析することで、自分の施設の課題を再認識できたと思います。こうした学びを経て、試行錯誤を繰り返しながらなんとか5万円を超える塾生も出てきました。他の塾生たちも成果を上げています。

理事長:亀井塾での取り組みはどのようなものでしたか。

亀井:私はまず塾生に脱下請けを呼びかけました。その理由は、これまで福祉施設が受注していた下請け仕事の多くが、海外に流れてしまい、売上が縮小し続けているからです。そこでものづくりとはなにかを1から学び、新たな事業所の顔となる事業をつくることを目標にしました。ただし福祉施設の職員は、ものづくりの素人ばかりです。たとえば、だれにどんな商品をつくり買ってもらいたいのか、それも決めずに動いているから使っている道具も家庭にあるようなオーブンだし、つくるお菓子も趣味でつくるものと大差がない。お客様がお金を出して買いたいと思う商品を、プロはどうやってつくっているのかを知ってもらうために、パティシエによるお菓子分科会を開きました。塾生たちは真剣に取り組み、新事業を開始したところもいくつかあります。ただ途中リタイアしてしまった塾生もいました。その原因は、トップがしっかりしていなかったから。どんなによい企画を立ててもトップが理解してくれず疲れ果ててしまったのです。施設のトップに立つ者の資質の重要性を、この実践塾で私は痛感しました。

武田:私は事業経営に必要な、当たり前のことをきちんとおこなうこと、それだけを話してきました。例えば、PDCA サイクルをやりとおすこと。月額3万円の給料を支払うと計画したら、なんとしても実行する。次に実行状況をチェックし、なにが足りなかったのか改善案を考える。そして次の目標を決めてまた動き出す。この内容とともに月々の決算をまとめて、毎月私に報告すること、これを塾生の義務としたのです。日々の仕事に追われる中で、やりとおすことは大変だったと思いますが、その成果は次第に利用者の給料という数字で現れてきました。現在、5万円には届かなくても3万円近く、2万5000円くらいまで達成できた塾生が半数近くいます。

亀井:うちの塾生は、3万円まで到達した塾生はそんなに多くありませんが、それでも入塾時の倍くらいまで給料をアップできました。でもそれで満足していてはいけないのです。

第2期生を募集し、新体制で実践塾をスタート

新堂:就労事業所にいるのは、働いてもっと収入を得たいと願う利用者と、利用者の力を引き出し、プラスへと支援する義務を持つ職員のふたつだけです。

武田:利用者は、いまの給料が1万円前後だとしても、それを不満だとは口に出しません。でもそれは口にしないだけで、心の中ではだれもが願っています。ですから、次の武田塾では、2年間で必ず5万円を達成するという決意のある者だけを集め、5万円必達塾として再スタートしたいと思います。

亀井:実践塾を巣立っていく第1期生たちの多くは、目標達成の途中です。それを実現するには、今後もやり抜く決意と、時代のニーズを捉え、新しいものを取り入れていく努力が必要です。

理事長:確かに3万円、5万円、7万円の壁を乗り越えていくには、いまのやりかただけではなく新たな発想の転換も必要でしょう。武田塾長は、5万円必達という厳しい目標を掲げられましたが、これに呼応してあつまった塾生たちの頑張りに期待しています。亀井塾長と新堂塾長には、10月から新たに参加される熊田塾長とともに、新しい塾を協働してご担当いただきたいと思います。今後もヤマト福祉財団は、実践塾のようなソフト、設備や機械といったハードを購入するための助成、この両面から応援を続けたいと思います。これからもみなさんどうぞよろしくお願いいたします。

3人の塾長:こちらこそよろしくお願いいたします。

「塾長のみなさんと力を合わせよりよい支援を」。瀬戸 薫理事長

「働きたい利用者を支えるのが私たちの役目」。新堂塾,塾長,新堂 薫氏、社会福祉法人武蔵野千川福祉会,常務理事

「現場の企画をトップは理解してほしい」亀井塾,塾長:亀井 勝氏、社会福祉法人ひびき福祉会,理事長

「利用者は口に出さなくても、高い給料を望んでいる」武田塾,塾長,武田 元氏、社会福祉法人はらから福祉会,理事長

社会福祉法人,武蔵野千川福祉会

DM の封入封かん作業を6つの事業所でおこなっています。事業所ごとに仕事の難易度と給料は段階的に変化。機能分化と呼ぶシステムを採用し、利用者は、能力に応じて事業所を選ぶことができます。

社会福祉法人,武蔵野千川福祉会。7月2日訪問

瀬戸理事長が最初に訪れたのは、社会福祉法人武蔵野千川福祉会の事業所のひとつ、チャレンジャーです。 DM の封入封かん作業に取り組む利用者の姿を前に、新堂塾長より、仕事をどう細分化しているのか、それをスムーズに連携するライン化とはどういうものかの説明を受けました。さらに他の5事業所も視察。能力がアップした利用者は、本人の希望に応えて、自分の実力に適した次の事業所にステップアップできる、そんな機能分化の仕組みも理解していきました。障害の重いかたが かよう千川作業所では、利用者がハイタッチで歓迎。また、グループホームでは、趣味を満喫して充実した生活を送る利用者と歓談もできました。

社会福祉法人,ひびき福祉会

消費者に選ばれる質の高い商品とサービスを目指し、菓子の製造、販売を柱に事業を展開。他にもウエスの製造、冷凍餃子などの製造、全国の福祉施設から商品を仕入れ販売するなど、4つの事業所で利用者は自分の力を発揮できる仕事に従事します。

社会福祉法人,ひびき福祉会。7月16日訪問

菓子の製造、販売は、社会福祉法人ひびき福祉会の売上の柱となっています。その製造をおこなっているハイワークひびきを訪問。瀬戸理事長は「利用者と職員の見分けがつかない」と驚くほどテキパキお菓子づくりに励む利用者の姿に感激しました。ここで製造したクッキーやケーキを、駅前で販売する喫茶店ルタンティールで試食。亀井塾長の目指す、専門店に負けない品質の高い、また食べたくなる商品の実力を、実際にその舌で味わいました。他にもワークセンターひびきでウエスの製造をおこなう利用者の働く姿を、パレットひびき では、他の福祉施設でつくる商品を仕入れ販売している様子も見学しました。

社会福祉法人,はらから福祉会

月額給料7万円を目標に8事業所がさまざまな事業を推進。豆腐や牛タンなどの食品の製造、加工、販売、レトルト加工、喫茶店、ラーメン店の経営、リサイクルショップの経営をおこない、障害の重さに関係なく利用者にトップレベルの給料を支払っています。利用者は自分の力を発揮できる仕事に従事します。

社会福祉法人,はらから福祉会。8月25、26日訪問

いま社会福祉法人はらから福祉会では、食品を扱う全事業所で衛生管理のレベルアップを推進しています。瀬戸理事長は、牛タン加工をおこなう えいむ亘理でその徹底ぶりを実体験。工場にはいる際には、白衣、マスク、長靴を着用し、手洗いの細かな指導も受けました。ここでは福祉施設でものづくりに機械を導入するポイントについても、現場をとおして理解を深めました。他にも練り物、惣菜などを製造する みお七ヶ浜、パン製造、レトルト加工をおこなう くりえいと柴田、油揚げ、味噌漬け油揚げをつくる びいんず夢楽多などの各事業所も訪問。豆腐の製造をおこなう 蔵王すずしろ では、豆腐づくりにも挑戦し、武田塾長と一緒に自分でつくった豆腐を試食しました。

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