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2015年度,障害者の働く場パワーアップフォーラム

支援力の違いが、利用者の給料に、暮らしに現れる

夢へのかけ橋プロジェクトの目的は、経済的な自立力を備えた施設へ変わることで、より多くの利用者の給料をアップし、夢をかなえていくことです。その入り口となるパワーアップフォーラムを7月17日に大阪で、24日に東京で開催しました。

しっかりとした助成金と仕組みづくりで応援

今年のパワーアップフォーラムは、瀬戸新理事長の挨拶から始まりました。

「私はこの7月に財団の理事長に就任しました。早速、新堂塾長の千川福祉会を訪れ、福祉の現場を拝見させていただきました。そこでお会いしたのは、自信を持って仕事をし、しっかり稼いだお金を自分の趣味に使い、人生を楽しんでいる利用者たちです。彼らの姿を見て、障害のあるかたたちの給料を3万円、5万円、7万円へと増額することで、世の中全体も明るくなっていくと確信しました。そのためには、福祉施設が経済的自立力をしっかりと備えていかなければなりません。売上を伸ばせる、より多くの利用者が仕事に就ける事業へと改善するには、計画はもちろん、設備投資も必要です。私たちは、いままで以上にしっかりとした助成金を準備し、みなさんを応援したいと考えています。障害者の施設はたくさんありますが、ひとつひとつは弱い存在です。どうやってスクラムを組んで強くしていくか。この仕組みをつくることも我々の大切な使命だと思っています」と挨拶しました。

福祉か雇用かではなく、福祉も雇用も、の支援へ

きょうされんの藤井専務理事は、時流講座で、平成26年に批准された障害者権利条約について解説しながら、今後の就労支援のポイントは合理的配慮イコール個別の支援にあると話しています。

「同じ知覚障害であっても1000人いれば1000人の違いがあります。一般の人と対等に振る舞うためには、1人ひとりに応じた合理的配慮が必要であり、特に労働面では、よりしっかりとした支援が必要です。尊厳ある、人間らしい仕事というディーセントワークには、当然、給料も含まれています。いま福祉施設にできることはなんでしょうか。福祉に比重を置くと雇用が軽くなり、雇用に比重を置くと福祉が軽くなると言う意見は、これまでさんざん出てきましたが、いまやそんなことを言っている状況ではありません。これからは福祉か雇用かで論議するのではなく、福祉も雇用もという、も、でつなぐ関係を進めなければなりません。職員の意識や技術の違いは、利用者の暮らしにそのまま現れています。これからは支援力を問われる時代になると、自覚してください」と呼びかけました。

時流講座の後は、小倉昌男賞の受賞者講演がおこなわれました。

給料が上がれば、利用者の暮らしが変わることを実証

次におこなわれたのは、ジャンプアップ助成金の助成先の代表者による活用事例報告です。大阪会場ではレストラン,ララ ロカレの河原 美和子さん( NPO 法人かたつむりの会代表)が「町家カフェという喫茶店を経営していましたが、もっと利用者の働く場を広げ、給料をアップしたいと、2軒目のレストラン,ララ ロカレを計画して、この開店資金を助成いただきました。現在、計27人の利用者が働いています。中には社会保険に加入し、10万円を超える給料を得ているかたもいます」と報告。東京会場では、ワークセンター日和山の吉川大幹さん(社会福祉法人新潟市中央福祉会,支援員)が「助成では、高齢者施設の私物クリーニング専用の乾燥機を購入しました。さらに、実践塾にも参加し、いかにして仕事の効率と売上を上げるかを学びました。この両輪がかみ合って、現在は、目標にしていた利用者の給料5万円にも到達。利用者は将来への不安も徐々に解消され、暮らし振りも大きく変化しています」と報告しました。

午後の部は、夢へのかけ橋実践塾の3人の塾長による活動報告からスタート。塾生たちの成長と今後の課題をそれぞれ説明しながら、来場者に向かって「大事なのは、一歩踏み出すこと。ためらわずまずは行動を」と呼びかけました。続いて、今年10月から新規開講する熊田塾長が塾の方針などを説明しました。

この感動を忘れないうちに職場でディスカッションを

最後におこなわれたのは経済的な自立力を備えた経営をテーマにしたシンポジウムです。各塾長と講演、報告をされたかたがたをシンポジストに、来場者から質問を求め、活発に意見交換をおこないました。

大阪会場では「給料増額にどのような事業を始めたらよいのか。利用者を積極的に仕事に取り組ませる方法とは。販路拡大のノウハウは」などの質問が出ました。

東京会場では「働くことに疑問を持つ利用者への説得は。どうすれば売れる商品がつくれるのか。また、学生参加者からも、障害のあるかたが社会で活躍する場をつくるにはどうしたらよいのか」といった質問があがりました。

シンポジストたちは、丁寧に質問に回答。互いの意見を出し合いながら会場全体で利用者の仕事の拡大と給料増額という目的と、それを達成するためになにをおこなうべきなのかについて、理解を深め合いました。コーディネータを務めた藤井氏からは「今日学んだことや課題を忘れないように、施設に戻ったら、早速、他の職員に話し、行動を起こしてください」と呼びかけました。

瀬戸理事長は「今日、講演いただいたみなさんは、障害のあるかたが自主的に働く仕組みをつくり、利用者それぞれに合ったいろいろな仕事を創出されています。彼らの長所を伸ばし、働く喜びを提供する。給料アップにつなげて暮らしの楽しみを広げる。地域で認められ、貢献していく。そんな利用者の姿を見ることが、みなさんのやりがいのひとつだと思います。我々は、こうした情報をみなさんに紹介したり、あるいは助成金で設備投資の一部を援助させてもらいながら、障害のあるかたたちを、今後も応援し続けたいと考えています」とエールを送りました。

新しい塾生のエントリー

パワーアップフォーラム終了後、10月よりスタートする熊田塾、さらに新堂塾、亀井塾で第2期生となる新たな塾生のエントリーを受け付けました。

利用者の給料増額のヒントを持ち帰りたいと、多くの福祉施設関係者が参加されました

開会の挨拶を述べる瀬戸新理事長

障害のあるかたの就労支援のありかたを問いかける、きょうされんの藤井専務理事

ジャンプアップ助成金の活用について報告する河原さん

同じく報告をおこなう吉川さん

大阪会場のシンポジウムでは多数の質問が飛び交いました

東京会場では、将来は福祉関連で働きたいと言う学生の質問も

農業にチャレンジ。やりがいのある仕事と給料の拡大へ

第15回小倉昌男賞、受賞者講演:大阪会場:農業で築いた協力社会ここではだれもが必要不可欠な存在

農事組合法人,共働学舎新得農場、代表,宮嶋 望氏

世の中には、いろんな悩みを持つ人たちがいます。彼らがどうやって生きていけばいいのか。その解決を農場の現場から考え、日本の社会福祉法の枠にとらわれずに37年間活動を続けています。

共働学舎の原点は、競争社会ではなく協力社会を築き、手づくりの生活をしたいと語り続けた父の思いです。私はこれを受け継ぎ、協力会というものをつくり、一般の人たちから寄付を集めて牧場を開きました。長野県小谷、北海道留萌郡の小平町と新得町、もうひとつは東京の東久留米に かよいのワークショップをつくり、計4ヵ所に140人ほどがメンバーがいます。

いま北海道の新得農場は、110町ほどの土地で74人以上のメンバーが働いています。酪農、チーズ生産、有機野菜栽培、工芸などが収入源です。チーズづくりは、障害があり、ゆっくりと働くリズムの人たちに合った仕事です。私たちの さくら というチーズは世界のコンクールで金賞、グランプリを取りました。

ここには、障害のあるかた以外にも刑務所や少年院から出て来たかたもいます。搾乳をする、チーズをつくる、掃除をする、料理をつくる。メンバー全員が互いの役割を尊重し、だれもがかけがえのない仲間であることを理解して牧場を運営しています。いま世の中が必要とする答えのヒントが、新得農場の中にあると私は信じています。

第15回小倉昌男賞,受賞者講演、東京会場:自然栽培で農業を成功。この方法を全国の施設に広げたい

株式会社パーソナルアシスタント青空、代表取締役,佐伯康人氏

私たちは、農薬、除草剤、肥料を使用しない自然栽培で野菜やお米をつくっています。教えていただいたのは奇跡のリンゴで有名な木村秋則さんです。いま食の安全、安心が問われていますが、JA のお米が1俵60キログラム8000円のところ、うちのお米は1俵60キログラム3万6000円。ネットでも即完売し、商品が足りない状態です。

当初、私は農業の経験などまったくありませんでした。当然土地もないので、頭を下げて周りにある耕作放棄地を借り受け、みんなで力を合わせて雑草を抜き、土地を耕し、ひとつひとつ田畑に変えていきました。いまではうちの土地も使ってほしいと声がかかるようになり、うちの利用者たちが地域の農業を再生することで地域コミュニティを支え、みんなに感謝される存在になっています。わたしには、それが痛快でなりません。

農業をおこなう者を百姓と呼びますが、その言葉どおり、農業には百の仕事があります。同じ仕事をするなら、もっと楽しんでやるほうがいい。利用者それぞれに合った多様な働きかたが広がります。

いま私には全国に自然栽培パーティというネットワークでつながった仲間がいます。ここには、自然栽培のプロ、流通や販売のプロ、食のプロデュースのプロなどもいます。もしも「うちも自然栽培で農業を始めたい」という施設があれば、私はどこにでも出かけていきますよ。

農業と福祉ををつなぐ新塾、熊田塾が開講

熊田塾塾長、社会福祉法人こころん、常務理事,施設長,熊田芳江氏

農業と福祉の連携から生まれる新しい職場づくりをテーマにした塾、それが熊田塾です。熊田塾長の施設社会福祉法人こころんは、農作物の生産だけで売上を伸ばしているわけではありません。廃業する養鶏場を受け継ぎ、そこで生産する卵や鶏肉、また近隣農家が生産する野菜なども材料に、地元の企業などと連携し、地域の新たなブランドとなる新商品の開発もおこなっています。

こころんの利用者は、こうしたさまざまな作業の中からその人の能力に応じた仕事を選び、伸び伸びと働いています。

「いま福祉施設が農業をおこなうメリットは、非常に大きいと思います。行政も農福連携を後押ししてくれています。大切なのは、地域のかたとのネットワークづくりです。それにはいま地元がどのような状況にあるのか、どのような特長を持っているのかなどをしっかりとリサーチすることです。地元のかたにもプラスになる提案ができるように一緒に、いろいろなことを学び、給料増額に取り組んでいきましょう」。

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