いつかはワイナリー
夏の陽射しを浴び、たわわに育ったブドウの収穫ににぎわうのは、未来ファームの農園です。利用者の手でやがてワインに姿を変える大地の恵み。飲み頃は半年後です。
いわき市は福島の東南部、太平洋に面し、温暖な気候風土で果樹栽培も盛んです。未来ファームは3年ほど前から、いわき市で初めてとなるワイン醸造所いわきワイナリーの立ち上げを準備してきました。
もともと、お弁当の宅配や近隣の草刈り代行などの事業を進めていた同団体は、耕作放棄地を借りて、お弁当やジャムの食材となる作物栽培に励んでいました。東日本大震災の混乱で、活動は一時、停滞しましたが、ようやく2013年よりワイン生産の夢に乗り出します。
とはいえ、まったくの未経験者が一朝一夕にできるものではありません。酒類製造免許の取得というハードルもあります。
幸い、協力してくれるという山梨のワイナリー、東夢 が見つかり、「収穫したブドウを持ち込んで、委託醸造からスタート。その間、我々も何度も駆けつけて」と、語るのは今野 隆理事長。仕込みから瓶詰めまでを実地で学びました。
自分たちのワインへ一歩ずつ
2年目にあたる昨年は、マスカットベーリー A 、メルロー、シャルドネの3種類を仕込み、前回の3倍近い計900本のボトルを生産しました。
するとこれが「みんな、おいしいねと言ってくれて、予約がいっぱいになってしまって、途中で小売を止めました」。赤は若いけれどフルーティな飲み口。白は香り高くエレガントな仕上がりと上々の評価。
そして、ついに念願だった酒類製造免許の取得を果たしたのが今年3月のことです。
取得にあたっては研修や実績、醸造設備の整備が欠かせません。設備投資は建屋を除き、微発泡酒の仕込みも可能な耐圧性のサーマルタンクなども備えたため、2500万円ほどの投資が必要でしたが、うち500万円を当財団の助成で賄いました。いよいよ、自前の設備、自分たちの力だけで醸造する3年目のスタートです。
最初に仕込んだのは8月のデラウェア。「これは山梨から仕入れたブドウでだいたい1トンぐらい。つぎに茨城の農家のあつまりから委託を受けたもので、富士の夢という品種を2トンほど」。
取材に訪れた9月には、自家栽培農園のシャルドネとメルローの仕込みがおこなわれていました。収穫祭と銘打ち、一般のかたや、2月に設立されたサポーター、いわき夢ワインを育てる会の人たちも参加して活気ある雰囲気です。
収穫量アップで基盤の強化を
免許取得後3年間は、国の定める法定製造数量に達しないと免許取り消しとなる決まりがあります。果実酒のそれは年6キロリットル。750ミリリットルのボトルにして8000本がハードルです。「ブドウの搾汁率はだいたい65から70パーセントぐらい。果汁から逆算すると、収穫量で10トンくらいないとダメなんですね」。
まだ、マスカットベーリー A や甲州のブドウの仕込みも控えていますが、それでも総計6.5トンほど。不足分はナシ4トンからつくる微発泡ワインでクリアする計画です。
現在の未来ファームの月給は平均2万215円。本格的なスタートを始めたばかりで、値付けひとつとってみても思案中と課題はありますが、目標は「自分たちで10トンのブドウを生産できるように。そうして軌道に乗れば、今の倍くらいの給料を出せるんじゃないかと思うんです」。
自分たちの手だけで育てたワインが出荷されるのは、11月のヌーボー分から。本格的な出荷は来春以降となりますが、純いわき産ワインの登場に、期待は膨らみます。
収穫したメルローを皮ごと除梗機にかけて絞る。仕込みにはボランティアも多くあつまります。
搾り出された果汁
この日仕込まれたメルロー
ワイナリー全景
果汁からさらに皮などを取り除き透明な果汁にした後、発酵タンクへ仕込む。白ワインや梨の場合
潰したぶどうの皮や種子と共にタンクに入れ、酵母を加えて発酵。赤ワインの場合
使い終わった機器はていねいに洗浄。仕込み作業の8割は洗浄と言っていい
果汁タンクを確認する今野理事長
真新しいサーマルタンクと発酵タンク(右奥)
11月に先出しで出荷される予定の IWAKI 2015 ヌーボー
前日にジュースにしたシャルドネに酵母を入れる
いくつかに畑を分けて、現在8品種を垣根仕立てで栽培中