設備投資は覚悟の表れ。
「最初に納品された石窯オーブンは、土砂降りの中、降ろされて。600万円もする高価なものなのに」。
常務理事の小畑友希さんらが、心待ちにしていた厨房機器は、納品の不手際で雨ざらしに。結局、交換となり、昨夏の予定だった導入が、完了したのは12月です。同時に購入したスチームコンベクションと合わせて、投資額はおよそ1300万円。当財団の助成を利用して導入しました。
仮に助成申請に落選しても、福祉会の評議員に、「借金をお願いします」と言うつもりだった、と小畑さん。そこには、それだけの覚悟がありました。
2003年の開業時、560万円だった年間売り上げは地道な営業活動によって、右肩上がりに増加していきました。そして2015年度は8600万円を達成。この間に月給は7万5000円に。雇用型、A 型 事業所、大福屋 ひかり も立ち上げて、障害者雇用も30人に至りました。
しかし、ほころびが見えたのはその翌年のこと。前年度の売り上げと比較していると、下期をどうがんばっても、前年度割れすることが見込まれたのです。
振り返ってみれば、売り上げ増には都度、さまざまな要因がありました。たとえば、「卸先となる福祉ショップがオープンしたとか、リニューアルしたとか。とくに、移転したときには、一気に売り上げが伸びました」。しかし、その後は売り上げが徐々に落ち込み、その影響が、2016年度の売り上げにも響いていたのです。
足踏みしていたら取り残される。
だからといって、直販ではない以上、自分たちにできることは限られています。そんな中で浮かんだアイデアが石窯オーブンの導入でした。商品であるパンは十分な好評を得ていましたが、「これまでと違った取り組みをしないと、マンネリ化して先細りする」。そんな怖さが、差別化へ向けた、新たな挑戦を決意させたのです。
「石窯オーブンの良さは、自分たちのパン作りの師匠である、鈴木伸一さんから聞いていました」と語るのは、ゼン ひかり工房施設長の高井賢二さん。
外はカリッと、中はしっとり。食べ比べてみれば、違いがはっきりと分かります。まだ商品価格の見直しがほとんど進んでおらず、利用者の給料アップにもつながっていませんが、いずれ新商品の開発に合わせて、この付加価値分を、お客様の納得できる形で、価格に反映させていきたいと考えています。
さらに、高井さんはこうも語ります。「一流の機械を使えば、それに関わる人が育つんじゃないか。そういう願いもありました」。
より売れ、より愛される店へ。
実際、石窯オーブンの導入に伴い、東京都内で店を構える著名なシェフ、ムッシュイワンの小倉孝樹さんを招いて研修を実施。仕事ぶりや、パン生地に、貴重な指摘をいただいたそうです。
小畑さんも、「石窯は、パンが変わっただけではなく、人との出会いや、次に進歩するきっかけにもつながった」と実感しています。
導入後、ひかり工房では、小畑さんの発案で、店舗売り上げ10倍計画を新たにスタートさせました。まずは、駐車場を拡張して、大きな看板を設置するところから進める予定です。いずれはカフェを併設して、店舗だけで1億円を売り上げたい。でっかい野望ですが、10倍を目指すのは、売り上げだけではありません。
「たくさんの人が あつまってくる、地域の人の拠り所に、このお店をしていきたい。困ったことがあれば、話を伺う相談機能もここにはあります。だから、子どもからお年寄りまで、いろんな人で賑わうお店にしたいんです」と小畑さん。よそに出店して店舗拡大するのではなく、さらに深く地域に根ざす道を選んだひかり工房。「5年ぐらいで達成したいね」。そう意気込む小畑さんたちです。
整備した、3段式の石窯オーブン。釜の内部は、天井も、側面も、床も、継ぎ目のないセラミックで造られ、皮はぱりっと、中はしっとり焼ける。写真は、利用者から職員として雇用された山岡さん。
店に並ぶ焼きたてのパン。
宮阪委員長が利用者さんに教えていただきながら、パン製造に挑戦。
石窯と同じく、助成で整備したコンベクションは、デニッシュ、クッキー類に使用。
「私の頭に計画がストンと、何か、降りて来たんですね」と話す小畑友希さん。「10倍というのは売り上げだけでなく、本当に、法人全体をひっくるめた意味での10倍なんです」。
「給料が上がり、職場が安定してくると、みなさん、いろんな変化があって、職場結婚されたり」。あさかげ生活支援センター、施設長の高井賢二さん。
井上秀勝 町会長、今もさっぽろひかり福祉会 後援会の会長として、ご協力いただいている。
工房に併設された店舗。
成形、具をのせたらオーブンへ。