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助成先レポート Vol. 34. 私たちの賛助会費が活かされています。障害者 給料 増額 支援 助成金。

生き残るには、ニンニクしかなかった。

八戸駅から内陸に向かって車で40分ほど、十和田市役所にもほど近いエリアで、カシスのしずくは、ニンニクの生産に注力。給料は2万円の大台に達し、今年度は約2400万円の売り上げを目標にしています。しかも、ニンニクに取り組み始めたのは、わずか6年前。その元気の秘密を探りに訪れました。

Data.
NPO 法人 農楽郷(のうがっこう)ここ カラダ。カシスのしずく。青森県十和田市。

第2の人生に選んだ観光農園。

東北北部にも梅雨の訪れが迫る季節、畑では貴重な晴れ間に、精を出している人たちの姿がありました。

「中心から出てくる、とう(花茎)を摘むんです。とうには栄養を持っていかれるので、今から2週間後の収穫まではこれをやっていきます」と語るのは、理事長の日野口敏章さん。約2.7ヘクタールに渡って、元気に育ったニンニクは、昨秋に植え付けられたもの。6月下旬には収穫を迎えます。

青森県は、ニンニクの生産量日本一。約70パーセントのシェアを誇ります。とりわけ、十和田は青森産の半分を生産するほど、盛んな地域です。

「葉物もやったけど、なかなか難しくてね。それで、地場のもの、価値の高いもの、ということでニンニクを一畝、二畝から始めてね」。

ニンニクの生産を始めたのは、2012年のこと。もともとは、その名のとおり、カシスやブルーベリーを扱っていました。

55歳まで建設関連業界にいた日野口さん。思うところあって、定年を前に退職し、数年前に購入していた草地に、ブルーベリー園を開きました。2001年のことです。

「ブルーベリーは巨木にもならないし、取っつきやすい樹なんです。それを、観光農園にして入園料を取って、お客さんに勝手に採ってもらえばいい、と。この辺の言葉で言えば、からやぎ(怠け者)が発想しそうなことで」(笑い)。

黙っていられず、飛び込んだはいいが。

農園を始めると、地域の保健師から、まったく考えてもいなかった依頼が舞い込みました。それは、「職親を受けてくれませんか」というもの。職親制度とは、知的障害者の生活指導や、職業指導を引き受ける制度です。そうして何人か引き受けるうち、障害者福祉の実情を肌で感じた日野口さんは、自ら、就労支援事業所の立ち上げを決意。2009年に実行に移します。しかし、ブルーベリーは夏しか実が採れません。通年の仕事を求めて、電子部品の解体などの内職にも手を出しました。「解体以外にも、葉物野菜をやってみようとしたけれど、きちんとした技術も、農業機械も持っていない。やはり、農業というのは家庭菜園ではないので、しっかりと収入に結びつけるには、時間と、資金と、技術が必要なんです。スタッフの社会保険料の滞納も、5、6年前までは、あったかもしれません」。

試行錯誤を経て辿りついたのは、やはり地場の産品でした。

事業を安定させて、将来の基盤を築きたい。

「最初は、やっぱり、いいものはできなかったんですよ。よその人の収穫量の、3分の1にしかなりませんでした。でもそれで奮起したというか、やるんなら、徹底してやってやろうと」。

土壌改良に取り組み、ひとたまが800円もする、品質の良い種苗も、覚悟を決めて購入。投資に見合う手応えを得たのは3年ほど前からです。そこからは、作付けを倍々に増やしてきました。その一方で、機械化は進んでおらず、利用者の負担は増すばかり。品質の向上も阻む要因となっていました。そこで、借入と、当財団の助成金で、昨年5月に、ニンニク植付機、仕上機、茎切機、乾燥機、運搬用のトレーラーを導入。大幅な設備投資をおこないました。

「今のスタッフ、利用者、機械を100パーセント活用すれば、作付け面積としては、5ヘクタールくらいも可能ではないか。願望も含めると、給料も、今の倍近くまで、単純計算だと成り立つかな」。まずは、今秋に1ヘクタール増の約3.7ヘクタール、来年度は売り上げ3000万円に挑戦するつもりです。

日野口理事長が想い描くのは、いずれ、6万5000円の給料を支払うこと。

「十和田市で自立を考えると、手取りが12、13万あれば、なんとか生活できます。2級の人の障害年金が6万5000円弱ですから、1日5時間、20日間働くとして、みんなで時給600円強の仕事ができるようになろうよ、と。そうすれば、生活保護を当てにせずにすみます」。

地方の定員20人、 B 型の1事業所で、年間3000万円売ったら結構なものじゃないかな、そう言って、日野口さんは笑いました。

とう(花茎)の部分。ここを摘まないと、養分が取られてしまう。

運転席前の黒い穴に種苗をどんどんセットするだけで作業がすむ、乗用型のニンニク植付機。

収穫前は とう摘み作業がつづく。

仕上げ作業を、三上支部執行委員長も体験。

ニンニクの加工品も販売。

「ニンニク市況は今、右肩上がりです。でも、中国産もどんどん改良されているし、国内競争も激しい。だから、市場単価が4割落ちても耐えられる体力を今つけておかないと」と、先を見据える日野口理事長。

ニンニク乾燥機。大きな口から出る温風で、収穫後のニンニクを約1ヵ月かけて乾燥させると、出荷が可能になる。

助成で整備したトレーラーと一緒に、カシスのしずくのみなさん。

ニンニク仕上機でひとつひとつ、ニンニクの根を削り落とす。

そのままでは出荷できないB級品は、水耕栽培で発芽させ、若芽ニンニク(奥十姫)として、料理店などに卸す。天ぷらなどに使われる。

労働組合支部執行委員長、助成先訪問、Series 29.

ヤマト運輸労働組合、青森支部執行委員長、三上 雅仁さん。

働いている中に、生き甲斐や自分を探す。それは健常者も障害者も変わらない。

私も、小さい畑をやっていますが、自分たちで食べる分だけで、手をかけずにやっています。それに比べると、農業を事業とすることが、いかに大変なことか。そして、利益を、後先 考えずに分配するのではなく、きちんと設備投資などにも回して、5年後、10年後の利用者さんと、スタッフさんの、しっかりとした基盤を作っていくんだ、という理事長の姿勢にも、感銘を受けました。

福祉とは、当たり前の暮らしに幸せがある、ということだと思います。そのために、給料6万5000円という目標を立てられたことも素晴らしい。私たちのカンパは、夢を叶える一助になっている。その意義を強く感じました。

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