第2の人生に選んだ観光農園。
東北北部にも梅雨の訪れが迫る季節、畑では貴重な晴れ間に、精を出している人たちの姿がありました。
「中心から出てくる、とう(花茎)を摘むんです。とうには栄養を持っていかれるので、今から2週間後の収穫まではこれをやっていきます」と語るのは、理事長の日野口敏章さん。約2.7ヘクタールに渡って、元気に育ったニンニクは、昨秋に植え付けられたもの。6月下旬には収穫を迎えます。
青森県は、ニンニクの生産量日本一。約70パーセントのシェアを誇ります。とりわけ、十和田は青森産の半分を生産するほど、盛んな地域です。
「葉物もやったけど、なかなか難しくてね。それで、地場のもの、価値の高いもの、ということでニンニクを一畝、二畝から始めてね」。
ニンニクの生産を始めたのは、2012年のこと。もともとは、その名のとおり、カシスやブルーベリーを扱っていました。
55歳まで建設関連業界にいた日野口さん。思うところあって、定年を前に退職し、数年前に購入していた草地に、ブルーベリー園を開きました。2001年のことです。
「ブルーベリーは巨木にもならないし、取っつきやすい樹なんです。それを、観光農園にして入園料を取って、お客さんに勝手に採ってもらえばいい、と。この辺の言葉で言えば、からやぎ(怠け者)が発想しそうなことで」(笑い)。
黙っていられず、飛び込んだはいいが。
農園を始めると、地域の保健師から、まったく考えてもいなかった依頼が舞い込みました。それは、「職親を受けてくれませんか」というもの。職親制度とは、知的障害者の生活指導や、職業指導を引き受ける制度です。そうして何人か引き受けるうち、障害者福祉の実情を肌で感じた日野口さんは、自ら、就労支援事業所の立ち上げを決意。2009年に実行に移します。しかし、ブルーベリーは夏しか実が採れません。通年の仕事を求めて、電子部品の解体などの内職にも手を出しました。「解体以外にも、葉物野菜をやってみようとしたけれど、きちんとした技術も、農業機械も持っていない。やはり、農業というのは家庭菜園ではないので、しっかりと収入に結びつけるには、時間と、資金と、技術が必要なんです。スタッフの社会保険料の滞納も、5、6年前までは、あったかもしれません」。
試行錯誤を経て辿りついたのは、やはり地場の産品でした。
事業を安定させて、将来の基盤を築きたい。
「最初は、やっぱり、いいものはできなかったんですよ。よその人の収穫量の、3分の1にしかなりませんでした。でもそれで奮起したというか、やるんなら、徹底してやってやろうと」。
土壌改良に取り組み、ひとたまが800円もする、品質の良い種苗も、覚悟を決めて購入。投資に見合う手応えを得たのは3年ほど前からです。そこからは、作付けを倍々に増やしてきました。その一方で、機械化は進んでおらず、利用者の負担は増すばかり。品質の向上も阻む要因となっていました。そこで、借入と、当財団の助成金で、昨年5月に、ニンニク植付機、仕上機、茎切機、乾燥機、運搬用のトレーラーを導入。大幅な設備投資をおこないました。
「今のスタッフ、利用者、機械を100パーセント活用すれば、作付け面積としては、5ヘクタールくらいも可能ではないか。願望も含めると、給料も、今の倍近くまで、単純計算だと成り立つかな」。まずは、今秋に1ヘクタール増の約3.7ヘクタール、来年度は売り上げ3000万円に挑戦するつもりです。
日野口理事長が想い描くのは、いずれ、6万5000円の給料を支払うこと。
「十和田市で自立を考えると、手取りが12、13万あれば、なんとか生活できます。2級の人の障害年金が6万5000円弱ですから、1日5時間、20日間働くとして、みんなで時給600円強の仕事ができるようになろうよ、と。そうすれば、生活保護を当てにせずにすみます」。
地方の定員20人、 B 型の1事業所で、年間3000万円売ったら結構なものじゃないかな、そう言って、日野口さんは笑いました。
とう(花茎)の部分。ここを摘まないと、養分が取られてしまう。
運転席前の黒い穴に種苗をどんどんセットするだけで作業がすむ、乗用型のニンニク植付機。
収穫前は とう摘み作業がつづく。
仕上げ作業を、三上支部執行委員長も体験。
ニンニクの加工品も販売。
「ニンニク市況は今、右肩上がりです。でも、中国産もどんどん改良されているし、国内競争も激しい。だから、市場単価が4割落ちても耐えられる体力を今つけておかないと」と、先を見据える日野口理事長。
ニンニク乾燥機。大きな口から出る温風で、収穫後のニンニクを約1ヵ月かけて乾燥させると、出荷が可能になる。
助成で整備したトレーラーと一緒に、カシスのしずくのみなさん。
ニンニク仕上機でひとつひとつ、ニンニクの根を削り落とす。
そのままでは出荷できないB級品は、水耕栽培で発芽させ、若芽ニンニク(奥十姫)として、料理店などに卸す。天ぷらなどに使われる。