ようしゃ、圃場を大幅拡張。
富士山の麓、森に囲まれた牧場で、障害のあるお子さん向けの自然体験や、ワークショップ、乗馬体験といったアニマルセラピーをサービスしているのがエポ ファーム、以下、エポです。同時に就労継続支援 B 型事業として、その運営、整備には20名の障害者たちも携わり、1万6000円の平均給料を実現しています。
約5000坪というエポの牧場には、たくさんの動物たちがいます。馬が7とう、ニワトリが20羽、ウサギ4羽、犬、猫、それと羊が40から50とうほど。餌やりだけでもかなりの手間です。これは利用者さんたちの主な午前中の仕事。餌作りから始まって、水替え、清掃、定期的なワラ出し。加えて牧場内の整備も大切な役目です。壊れてしまった設備を都度、直さなくてはいけません。
また一昨年、隣接する7000坪の牧場と廃養豚場を借り受けました。これを新しい羊圃場として整備を進めています。これは、利用者さんの給料増額計画を担う重要なプロジェクトのひとつです。
ようしゃの屋根修理や、ぼくさく工事、サイレージと呼ばれる餌の保管スペースの整備に、当財団のステップアップ助成金200万円を充当しましたが、それだけでは賄えない部分、自分たちで整備できるところは、利用者さん自ら整備しているのです。
必要なもの、欲しいものは作っちゃえ。
始まりはママさんたちのボランティア グループでした。保育士の資格も持ち、エポの発足から関わる、高橋さとり、理事長に訊ねました。
「本当は児童館が欲しかったんです」。地域には児童館がなく、新設を模索しましたが、それは資金的にも、手続き的にも難しいことでした。そこでハードルを下げて、「学童保育をみんなで始めることにしました。それを開放して、児童館のようにして遊んでいたんです」。
移動動物園を呼んだのは、翌2002年のお祭イベントでのことでした。これが大好評。以後、毎年の恒例になりましたが、ねん1回じゃ足りないという声に押され、「それならいっそ飼えばいいじゃん、みたいな」(笑い)。
土地柄、かつて馬を飼っていた家も多く、協力を申し出た建設会社の社長は、「じゃー、小屋を作ってやる」と、ユンボを持ってきて、半日で小屋ができて、「わあ、すごい」。あっというまに即席の牧場ができあがったそうです。この牧場がエポの原型になりました。
二兎を得る、ソーシャルファームの誕生。
当初は必ずしも障害児、障害者を意識していたわけではありませんでしたが、「お母さんの中には障害のあるお子さんを抱えているかたもいて、障害の有無にかかわらず一緒になって互いに理解しながら育っていくのが大事だなって。そのうちに自閉症の子と馬はとても相性がよいこともありありと分かってきました」。加えて、こんな話を聞くことになります。障害のあるお子さんのお母さんから、「高校を卒業したあと働く場がない。朝、お馬さんの世話をして、時々は乗せてもらって、息子にできることもあるから、お金は要らないので牧場に通わせてもらえないか」と。
そこで初めて障害者の就労の場が不足している実態を知った高橋さんたちは、牧場とは別に、障害児、障害者のホースセラピーに特化して事業にする、就労支援事業所を立ち上げました。こうして、2010年に誕生したのがエポです。その後は、当財団のパワーアップフォーラムにも参加し、刺激を受け、カフェを併設したり、ようにくの出荷や、羊毛を生かしたクラフト作品の販売など、活動の幅を広げることで給料アップを図ってきました。
ようしゃが完成すれば徐々に羊を増産し、出荷数のアップが見込めます。また、これまでのかん牧草から保存の利くサイレージに切り替えることで餌代を5分の1に抑制。2020年度にも給料を2万円の大台に乗せる手筈です。
「これからも周りの人たちと、地域を耕せていけたら」。エポの取り組みは皆の思いに後押しされてますます広がっていきそうです。