みっつの自立が実現できてこそ、働きがい、生きがいも生まれてくる。
聞き手:まず、やまうち理事長が就任されたとき、「人は、自立して生活することで幸せを感じられる。これを大切に」と、お話しされていました。やまうち理事長の考える自立とはどういうものでしょう。
やまうち:社員手帳の企業姿勢には、地域社会から信頼される事業活動をおこなうとともに、豊かな地域づくりに貢献します。特に、障害のあるかたを含む、社会的弱者の自立支援を積極的におこないます、と書かれています。この障害のあるかたの自立を具体的に支援していくのが、ヤマト福祉財団です。私は、自立するとは、自分がこの社会で自分としてしっかり存在していることを実感できることだと考えています。これはおぐら まさおさんの考えかたを受け継ぐものです。どんな人も、障害のあるなしに関係なく、周りのかたたちに支えられ、また、支えながら暮らしています。それは相互に必要とし、必要とされる関係です。一方的に、寄りかかり、守られているだけでは得られない大切なものがあるはずです。
聞き手:それを障害のあるかたにも得てほしい、と。
やまうち:それには、みっつのことが必要だと考えています。ひとつは、生きていくため、暮らしていくために必要なお金を自らの力で得る、経済的な自立です。ふたつめは、人に言われたとおりにするだけではなく、自分の意志をもって、したいことを決めることができる、選択できる自立。最後は、通勤したり、買い物や、食事、身の回りのことをひとりでおこなえる、行動的な自立です。このみっつができてこそ、自分の人生を生きているという実感が湧き、そこから、働きがいや、生きがいも生まれてくるのではないでしょうか。それを大切に考え、支援するために必要な環境や、仕組みづくりを整えていきたいと考えています。
経済的な自立のための支援を柱に、私たちにできることをより拡大したい。
聞き手:では本年度は、具体的にどのようなことに取り組まれていくのでしょう。
やまうち:基本的には、これまで焦点を当ててきた、経済的な自立の支援に関わる事業を柱として展開します。たとえば、そのひとつが夢へのかけ橋実践塾です。現在、弁当 配食事業と DM 封入封かん事業で、給料増額などに優れた実績を上げた、ふたりのおぐら まさお賞受賞者が塾長となっています。塾生たちは、塾長の持つ、さまざまなノウハウを自分の施設に取り入れ、生産性や売上の向上を目指しています。また、パワー アップ フォーラムでは、福祉施設を取り巻く最新情報、利用者さんの新たな仕事の創出に結びつく事例などを発信。全国各地の福祉関係者や、一般のかたも多数参加できるように、今年も複数会場での開催を計画しています。
聞き手:強化していく点などはあるのですか。
やまうち:パワー アップ フォーラムでは、サービスをする、経営をする時に考えなければならない、コツやセオリーなど、企業サイドから見たノウハウや、経験も伝えたいと考えています。さらに、会場で出会った施設職員たちが、情報交換し、悩みを相談し合える、そんな内容も取り入れたいですね。互いに、明日への元気や、勇気を共有し合える交流の場としても拡大していきます。
聞き手:利用者さんと職員の両方を応援したいと。
やまうち:職員のみなさんは、利用者さんのために、我々には想像もできない努力をされています。そんな支援を受けて、社会で自立をはじめたかたたちとも、ヤマト自立支援センター、スワン工舎卒業者の集いで、お会いできました。みなさん、とても良い表情をしていますね。話を聞いてみると、つらいときもあるけれど、自分のやっていることをほめてもらえるから頑張れる。そして、一緒に働く仲間と、地域社会に役立っている、この仕事を、今後も続けていきたい、と楽しそうに教えてくれました。それをうれしそうに見守る親御さんの姿も忘れられません。そこで強く感じたのが、働く喜びや、誇りを、利用者さんが、より実感しやすい仕事を広げていく必要性です。自然栽培パーティが進めている農作業は、その具体的な仕事の一つだと思います。クロネコ DM 便配達も好事例ですね。この領域は、この仕事は有効だ、と思えるものを、いろいろな角度から発見し、支援しようと考えています。
聞き手:先ほどお話しいただいた、みっつの自立につながっていく内容ですね。
やまうち:みっつの自立を実現するためには、環境や、仕組みをつくるための支援も必要です。そこで、本年度から、ジャンプアップ助成金の仕組みを変えることにしました。これまでは、生産性を上げるなど、給料を上げるための事業資金の助成に限定していました。しかし、利用者さんが働く喜びを感じるための職場づくりなど、数字には見えない、大切なこともたくさんあります。そこにも、間口を広げて、助成をしていきます。
グループにも、本財団にもしっかりと息づいている、おぐら まさおの DNA 。
聞き手:いろいろと変化していきますね。
やまうち:障害のあるかたを取り巻く社会や、環境は、刻々と変化していますから、柔軟に対応していかなければなりません。しかし、どのように時代が変わろうとも、ヤマトグループの根底にある、みんなが幸せになれる、豊かな社会の実現に貢献する。この方針が揺らぐことはありません。いま、世界中が、持続可能な、より良い世の中を目指すエス ディー ジーズに注目しています。ここでは、性別も、人種も、障害の有無も関係なく、誰ひとり、取り残さないことを国際目標に掲げています。でも、これは、小倉さんが、すでに提唱してきたことだと思いませんか。すべての人が幸せを感じられる社会を目指す、といった考えかたは、私たち、ヤマト グループ社員の心には、すでに、しっかり根付いているのです。
聞き手:そうですね。いまでは、おぐら まさお、初代理事長とともに仕事をした社員は少なくなってきました。
やまうち:あのかたは、弱きを助け、強きをくじく、江戸っ子気質の人でした。私は、かつて、ヤマト グループの企業理念策定プロジェクトのメンバーだった際、当時、相談役だった小倉さんに、内容についてヒアリングしたことがあります。そのとき、社会的弱者の支援という言葉を入れたい、と力強く語られていたのが印象的でした。そして、会社とは、世の中のために、人のために存在すべき公器である。そこでおこなう事業とは、人々が幸せになるために必要な商品や、サービスを考え、工夫し、提供することであり、それを持続し続けなければならない。そこで働く社員は、みんなが幸せになれる社会を築く一員としての手応えや、人生の誇りを持つことができる、とお話しいただきました。さらに、会社が出す利益とは、そのための活動費に過ぎないし、社員の幸せのために使うべきものなのだ、とも。ヤマト グループらしさを創った小倉さんの DNA は、本財団にも、しっかりと息づいています。これからも、私たちの活動を、グループ社員のかたにもご理解いただき、賛助会員として、参加していただきたいと願っています。
みなさんの心のこもった思いを、みなさんが実感できる目に見える形に。
聞き手:最後に読者のみなさんにメッセージを。
やまうち:本財団の活動は、賛助会員や、ヤマト グループからの寄付、労働組合からの夏のカンパなどで成り立っています。だからこそ、みなさんから寄せられた思いをしっかりと受けとめ、それがどのように活かされているのかを、みなさんの目に見える、みなさんが実感できる形にしていくことも大切な使命だと考えています。ヤマトグループは100周年を迎えましたが、地域のかたたちに必要とされる存在意義のある企業として、これからの100年もヤマトらしくあり続けることが大切です。私たち財団も、その一員として、障害のあるかたが自立して生活をすることで、幸せを感じられるように、必要な支援を続けていきます。
今回は、新型コロナウイルスの関係で企画を変更し、やまうち理事長への単独インタビューとなりました。