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寄稿、新型コロナと障害者。

きょうされん専務理事、藤井 克徳。

リスクの多い障害者。

私たちの社会では、とんでもないことが起きるものです。東日本大震災と、直後の福島原発事故の衝撃と、傷口が癒えないうちに、今度は、新型コロナウイルスの急襲です。あれよあれよというまに日本列島を覆い、世界中を恐怖と、辛苦の渦に巻き込んでいます。

コロナの問題は、社会の隅々を侵蝕しています。今回もまた、例外ではなく、高齢者や、持病のある人と並んで、障害のある人に、影響が、より強く表れています。東日本大震災で、障害者の死亡率が全住民の死亡率の2倍に及んだことは、記憶に新しいところです。新型ウイルスの問題についても同様です。先の見えないコロナ問題ですが、現段階で表面化している心配事や、実態について報告します。大きく三点で述べたいと思います。

ひとつめは、障害のある人のリスクについてです。自身の例で言いますと、私は、光も感じない全盲の状態です。感染拡大が始まった頃からずっと恐怖しんが付きまとっています。触ることが有力な情報源で、何かと物に触れることが多い、電車内で安定を保つために吊革や、支柱を握らざるを得ない、密接を前提としたガイドヘルパーによる支援など、リスクだらけと言っていいかもしれません。密接や密閉の恐怖は、ガイドヘルプだけではなく、室内でホームヘルプを利用するすべての障害のある人に共通します。

情報面でもリスクはいっぱいあります。問題となっているのは、重要な会見などの報道で、手話や、字幕が十分でないことです。総理の会見はだいぶ改善されましたが、生活に身近な自治体の会見での対応はまちまちです。情報と言えば、機敏に動けない障害者にとって、スーパーマーケットや、ドラッグストアでの、マスクや、アルコールの売り出し情報には、悔しさや情けなさを募らせるだけです。

なお、感染拡大が始まって以来、ずっと横たわっているのが、個々の支援と、密接リスクの関係をどうするのかという問題です。支援を受ける側だけではなく、支援する側も、不安と、緊張をいだくのです。改善策はあります。そのひとつは、双方に対して、抗原検査や、唾液方式を含む、くり返しのピーシーアール検査をおこなうことです。状態を正確に知ることが、その後の的確な医療支援をもたらし、不安や緊張の緩和にもつながるはずです。

後味の悪い社会としないために。

ふたつめは、仕事への影響です。全国的にみられるのは、自粛要請によって、事業所へ通うこと自体が難しくなっていることです。都市部では休業のところが目立ちます。開所しているものの、三密を防ぐために、出勤者を大幅に制限するところも、数多く見受けられます。

共通の傾向は他にもあります。仕事が急減していることです。サプライチェーンの一角を担っている親会社が不調に陥り、影響をまともに受けているところが多くあります。食をテーマにしている作業所も大苦戦です。弁当やパン、クッキー、焼き菓子などの販路が絶たれてしまったところ、休業に追い込まれたレストランや、喫茶店もあります。

影響の表れ方は、地域や仕事の種類などによって異なります。総じて言えることは、利用者給料の財源が確保できなくなっていることです。作業所の多くは、就労継続支援 B型事業です。B型事業は、労働法規の対象ではなく、雇用調整助成金のような、労働者一般に適用される救済制度は使えません。皮肉にも、高工賃のところほど影響が大きいのです。一部の自治体で、工賃補填などの支援策の模索が始まりましたが、ここは、厚労省の積極的な対応が期待されます。

みっつめは、いわゆる命の選別の問題です。具体的には、限られた人工呼吸器や、人工心肺装置の使用順番の序列化をどうするのか、という問題です。今回の新型コロナウイルスとの関連で、欧米の一部では、医療資源の使用順位を明確にしたところが出始めています。これらに共通するのは、救済すべき層のトップランクに医療従事者を位置づけ、後期高齢者や、障害者は一番後回しになっていることです。

日本でも、議論を開始すべき、とする意見が、一部で表面化しています。重いテーマで、簡単に結論が出る問題ではありません。ただし、はっきりしていることがいくつかあります。第一は、医療資源が充足していれば、問題は起きにくい、ということです。第二は、いったん、命の選別が始まると、止まることがないということです。仮に社会の特定の層が無くなったとすると、今度は次に、弱い者を探し出すのです。弱い者探しの連鎖が起こることは、歴史の事実からも明らかです。第三は、コロナ騒動が去った後をイメージすることです。後味の悪さのみが残るようでは、コロナ問題に本当に向き合ったことにはなりません。

コロナ時代にさしかかっている今、忘れてほしくないフレーズがあります。それは、かつて国連が提唱した、一部の構成員をしめ出す社会はもろく弱い、です。

プロフィール。1949年、福井県生まれ。1970年、東京都立小平養護学校教諭。1981年、きょうされん事務局長。1982年、あさやけ第二作業所、精神障害者共同作業所、施設長。2020年現在、エヌピーオー法人、日本障害者協議会代表、日本障害フォーラム副代表、きょうされん専務理事。

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