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在宅支援中に育ててきた野菜の苗を、その手に。

約50日ぶりに、おもやの田畑へ、利用者さんたちが帰ってきました。

「やっぱり畑は、気持ちいい」。6月1日、エヌピーオー法人、縁活、おもやの利用者さんたちは、青空の下で、約50日ぶりの農作業に戻ることができました。おもやは、新型コロナウイルスの感染から、利用者さんとスタッフを守るため、4月14日より休所していました。利用者さんは、土を入れたポットに、自分が担当する野菜の種を植え、自宅で大切に育てながら、農作業再開の日を心待ちにしていたのです。

早く、つうしょしたいと願う利用者さんと、つうしょに不安を訴えるスタッフの狭間で。

おもやが休所に踏み切ったきっかけは、ひとりの利用者さんのご家族が、仕事先で新型コロナウイルスに感染されたとわかったからです。

「ご家族に陽性反応が出る前日まで、その利用者さんは、おもやで元気に働いていました。保健所から、2週間は、おもやの全員が自宅待機で様子を見てほしいと要請されましたが、幸い新たな感染者は現れず、ホッとしています。感染されていた利用者さんも、ご家族も、無事に退院されました」。

おもやでは、その後も、利用者さんの安全を守るため、自発的に休所を続ける決断を下します。

「じつは、休所する数日前から、電車でつうしょされているかたを在宅勤務にしてはと、いろいろ調べていたのです。事業所を止めながら在宅支援する方法は、それぞれの市町村によって異なります。それを事前に確認していましたので、ご家族にも安心、納得いただける、スムーズな対応ができました。しかし、本当に大変だったのは、働きに来てくれているスタッフ、ひとりひとりの不安を払拭することだったのです」。

もしも、自分が新型コロナウイルスの感染者になってしまったら、家族の仕事にも影響してしまうし、幼い子どもや、年老いた親などの世話はどうしたら良いのか。「だれが悪いわけでもない」と頭ではわかっていても、目に見えない敵への不安は、どんどんふくらんでいきます。「いまは、私たちも自宅待機を」と希望するスタッフも多く、杉田さんは限られたスタッフと連携し、毎日、午前と午後に、利用者全員へ見守りの電話をかけ、在宅支援を続けます。

「利用者さんは、作物の様子が気になって仕方ありません。畑に戻りたくてうずうずしています。その気持ちを我慢してもらい、スタッフと力を合わせて、草刈りや、定植準備をおこないました」。

こんなときだからこそ、私たちも、地域の農業も、変わらなければならない。

おもやが年間に栽培する作物は、約50品目。「その一部で、これだけ大変だとは」と、苦笑いする杉田さん。今回、スタッフだけで作業をおこない、いろいろ再認識できたこともあった、と話します。

「利用者さんの力にどれだけ頼っていたのかが良くわかりました。そして、利用者さん、ひとりひとりが力を発揮できる支援をするためには、スタッフを守ることも大切なのだ、と痛感したのです。早速、在宅待機しているスタッフと、ネットでリモート会議。利用者さんの自宅支援をどのように続けるか。再開できた際に、全員が安心して働けるにはなにが必要か。意見を出し合い、感染防止マニュアルも作りました」。

コロナウイルスは、杉田さんと一緒に働く仲間であるスタッフの間に、いつしか、雇う側と雇われる側、という溝までつくっていました。

「必要なのは、雑談でも良いから、気軽に話せる時間だったのです。そこで出てきたアイデアを実行することで、話して良かった、そんな雰囲気に戻りました」。

これまでも、さまざまな苦労や失敗を乗り越えて、おもやのいまがあります。なかなか土地を貸してもらえず、施設から遠く離れた山中にしか農地を開墾できなかったこと。朝から日が暮れるまで、ひたすら草むしりを続けたこと。新たに自然水稲栽培をはじめたときは、いくびょう、土づくりすら上手くいかずに、試行錯誤を繰り返しました。他にも害虫、がいじゅうの被害などもありました。

「でもね、イノシシが作物を食い荒らすからと、アクの強いコンニャク芋を植えたおかげで、新たにコンニャクづくりもはじまったわけです」と、杉田さんは笑います。どんな逆境もバネにして成果を出すのは、おもやの十八番です。

杉田さんは、2年前に認定農業者となり、さらに、今後の地域農業のあり方を考え、活性化する農業委員にも選ばれています。

「いまは、だれもが大変なときですから、私たちも、地域の農家も、互いに知恵と力を出し合い、変わっていかなければなりません。人と人とのつながりの大切さは、自然栽培パーティーに参加し、実感しています。収穫の喜びをわかち合い、どんな苦労も笑い話に変えてしまえる仲間が全国に広がったこと。困ったときにはなんでも相談でき、協力し合える頼もしい仲間を得たことこそが、最大の収穫だと思っています」。

6月1日、利用者さんとスタッフは、ソーシャル ディスタンスを考え、午前と午後のグループに分かれて、久しぶりに農作業を再開しました。

「みんな良い顔をしていますよね。今回は、利用者さんやスタッフが、働く意味を改めて考える、良い機会にもなりました。お金を稼ぎ、生活することはとても大切ですが、働く目的、喜びはそれだけではありません。それを共有できたら、みんな、もっと豊かな気持ちになれるはず。そのために、おもやにできることとはなにか。まだ、その答えを発見できていませんが、みんなと一緒なら、きっと見つけられると思っています」。

利用者さんが育てた野菜の苗の定植や、田植えの準備、キュウリやトマトの夏野菜も、これからが本番。今年の夏も忙しくなりそうです。

待ちに待った農作業に、みんなの笑顔があふれています。おもやに元気が戻ってきました。

エヌピーオー法人 縁活、おもや。滋賀県栗東市。杉田 健一 代表理事。

Zoom で聞きました。

事業形態。
就労継続支援B型。
事業内容。
農業。自然栽培、水稲、50品目以上の野菜、ドライイチジクや、コンニャクなどの加工品。
耕作地。
200エーカー。内訳は畑150エーカー、田んぼ50エーカー。
利用者人数。
定員26名。
2019年度売上見込み。
1,500万円。
2019年度月額平均給料。
28,000円。

2011年、滋賀県では先例の少ない農業を事業の柱にした福祉事業所へ。農家である、父の影響もあり、自然と向き合い、汗を流し、作物を育てる喜びを、利用者さんとわかち合いたい、と、おもやを立ち上げた杉田代表理事。当初は、農地すら思うように借地できない厳しいスタートでした。やがて、自然栽培と出会い、商品価値の高い農作物を育てることで、売上も次第に上向きに。毎日、土に触れ、笑顔で働く利用者さんの姿を見てきた周りの農家からも、地元でともに農業に取り組む仲間、と認めてもらえるようになり、農地も拡大。現在は、自分たちが栽培した作物を調理し、提供する、オモヤキッチンも運営し、地産地消の促進にも貢献しています。

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