キャンパスを飛び出して、実社会での体験も交え、学びを深める。
やまうち雅喜理事長。以下、理事長:本日は座談会に参加していただき、ありがとうございます。まずは、自己紹介からお願いします。
ゆだ ゆい さん。以下、敬称略:私は、京都大学の教育学部に所属しています。私は、筋力が徐々に落ちていく、脊髄性筋萎縮症という先天性の難病で、日常生活動作に、ほぼ全ての介助が必要です。公的な介助サービスを利用しながら、10人くらいのヘルパーさんに入ってもらい、ひとり暮らしを続けています。
理事長:昨年は、一年間、休学されたと聞いています。どんな勉強をされていたのですか?
ゆだ:私は3年間、周りの人と同じペースで課題をこなしてきましたが、その中で、体力や時間の有限さを感じ、もっと勉強したい。深めたいことがあるのに、と葛藤していました。そこで、卒論や、大学院の試験勉強に追われる4年生になる前に、1年間休学し、ゆっくり自分の学びを広めたい、深めようと考えたのです。
理事長:どのようなことをおこなったのですか?
ゆだ:関西は、部落や、在日コリアン、セクシュアル マイノリティなどの差別の問題に取り組む活動も、盛んな地域です。休学中の、さまざまな人との出会いや、学びを通じて、差別や、排除といった、社会の問題に取り組みたい、という思いが、改めて強くなりました。
理事長:実社会と接することで、自分の関心の本質をつかむことができた、価値のある経験を積めましたね。た ださんはどうですか?
た だ あきハ さん。以下、敬称略:私は、県立広島大学の保健福祉学部の4回生です。社会福祉の障害分野を専攻し、支援論などを学んでいます。
理事長:特に力を入れている学びは?
タダ:県立広島大学には、尊敬する障害学を専門とする教授がいらっしゃいました。でも、休職されてしまったので、いまは、学内で、同じ志を持つ仲間と、学びのグループをつくり、みんなで研究を続けています。これにより、これまで、障害という枠にとらわれていた自分の考えが、大きく変わりました。障害とは身体の問題でなく、人との関係性の中で生まれてくる、ということもわかってきたのです。
理事長:他にも学外ボランティアなどに精力的に取り組んでいると聞いていますよ。
タダ:高校1年生のときに、広島は大規模な土砂災害に遭いました。私は視覚障害があり、重い物を持つと網膜剥離が進んでしまうため、現場でのボランティア活動に参加することは難しい、と医者に言われました。そんな私でも、なにか役に立てることがあるはずだ、と考え、見つけたのが、周りに呼びかけて人を集めるコーディネーターとしての役割でした。大学でもボランティアサークルに入り、もっと社会のためにできることを見つけていこう、と活動を続けています。
理事長:いろいろな人と、一緒に動くことで、大きな気づきを得て、成長しているのですね。伊藤さんは、なにを学んでいるのですか?
伊藤みずきさん。以下、敬称略:私は、東北大学の工学部、機械航空学科の3回生です。網膜の老化が早く、視野が狭くなっていく、網膜色素変性症で、2年次に、奨学生の申請をしました。制御工学、電気回路を専門的に学び、現在は量子サイエンスコースで、原子炉の研究をおこなっています。
理事長:宇宙に関心があり、惑星探査ローバの研究にも取り組んでいるそうですね。
伊藤:ロケット開発のサークルに所属し、ハイブリッドエンジンでロケットを高度1000メートル以上まで打ち上げるなどの研究も行っています。月面に、探査ローバを送る模擬競技などにも挑戦してきました。コロナ カ で、アメリカの砂漠でおこなわれる予定の大会が中止になりましたが、NASAの火星探査機打ち上げのニュースなどを聞くと、心が躍ります。
理事長:自分がこうなりたいと思う夢を、これからも追い続けてほしいですね。
リモートで解き放たれたのは、行動範囲と障害というバリア。
理事長:4月に、緊急事態宣言が出されたとき、私たちは、奨学生のみなさんが、どのような状況におかれているのかが、心配になりました。せっかく大きな夢や、志をいだいて、努力をしているのに、大丈夫なのか。電話やメールでみなさんの様子を伺ってみると、いままで活動してきたことができない、経済的な不安を抱えている、などがわかりました。そこで、僅かではありますが、自由に使える緊急見舞金をお送りすることにしたのです。コロナ カ で、みなさんの大学生活や、勉学にどのような影響が出ているのか。どう対応しているのかを教えていただけますか?
ゆだ:私は無理の利かない体なので、リモート講義になったことで、通学などによる身体への負担が減り、体力的に楽でした。さらに、教室を使用しないので、教室へのアクセス等の問題は今期はなかったです。部屋でZOOMを使い、先生や、他の学生と話をしているとき、画面に映る私を見ても、重度の障害があるとはわかりません。そんななかで、「あれ? 私は障害者なのか? 障害って何だったんだ?」と、不思議な感覚になり考えさせられます。
理事長:障害のバリアを感じなくなった、との声は、ほかの奨学生からも聞いていました。リモートで通学の負担がなくなる、ネットを介して障害のあるかたの行動制限が解き放たれ、交流範囲も広がっていく、そんなプラス面が生まれていますね。
ゆだ:障害のあるなしに関係なく、いままで、なんらかの形で無理をしていた人も、オンラインが進むことで、楽に学べる状況になったことが、一方ではあると思います。
理事長:我々も、この大変な、この状況をプラス思考で、より良くする契機として、捉えていきたいですね。
タダ:私も、正直、リモートになってくれて良かったと思っています。コロナの前は、片道、約2時間半かけて、通っていましたから。
理事長:往復だと5時間ですか。
タダ:いまは大丈夫ですが、最初はかなり不安であり、かなり負担にもなっていました。
理事長:それは大きいですね。障害のあるかたは、電車での移動も大変でしょう。
伊藤:私は、リモート講義になって、気持ちが楽になりました。視覚障害で視野が狭いため、大講堂などでは、空いた席を探して移動するのも大変だったのです。デメリットとしては、3密を避けるため、ロケット開発など、ひとつの場所に集まり、みんなで一緒に、ものづくりをやりにくくなった点です。でも、考え方を変えて、新しい挑戦も始めています。
理事長:なにを始めたのですか?
伊藤:私は、星を観察する天文同好会にも入っているのですが、コロナ カ で、それもできなくなっています。そんなとき出てきたのが、がくさいでやったプラネタリウムを、ステイホームで楽しめる、VR プラネタリウムとして実現してみないか、というアイデアです。早速、担当を分けて、各人が自宅でスマホアプリを開発。いつでもどこでも、まるで宇宙空間にいるように、360度、自分の見たい向きの星を眺めることができる、そんな世界を、みんなでつくっています。この、コロナ カ でも、発想を変えることで、自分の培ってきた力を発揮できる手応えも感じています。
ニューノーマルの良い面も悪い面も、両方を大切に見つめ考えていきたい。
ゆだ:私は、技術面のことはわかりませんが、これまでも、ZOOM などを活用して、学びや、働き方などを変えることができる、と言われてきました。いま、こうして、じっ体験していく中で、いろいろなことを、みなさんが感じていると思います。距離も、時間も気にしないで、多くのかたと話ができる良さ。でも、対面でしか伝わらない、人の息づかいや、感情がわからないもどかしさなど、良い面も、悪い面もありますね。
理事長:両面から見直していきたいですね。
タダ:現在、私は福祉相談員を目指して、就活の真っ最中ですが、広島では、福祉相談員になるには、自動車免許が必須です。でも、私は、視覚障害のため、取得が難しく、免許がなくても働ける、関西方面にまで範囲を広げて、就活をしています。
理事長:面接はリモートですか?
タダ:現地面接です。これまで、移動は、料金の安い高速バスにしていたのですが、コロナ カ で利用できなくなり、新幹線を使わなければならず、困っていました。この交通費に、緊急見舞金を、ありがたく使わせていただいています。
伊藤:私は、VR 技術の研究費用に使わせていただきました。緊急見舞金をいただいたことが後押しとなり、思い切って今回のチャレンジもできました。
理事長:夢に向かうみなさんに、私たちの緊急見舞金が役に立っているお話が聞けて、とてもうれしく思います。
社員のみなさんの声援に、夢を追いかけることでお応えします。
理事長:では最後に、みなさんの将来の目標について教えてください。
ゆだ:目の前の目標は、卒論を無事に書き上げることと、大学院への合格です。長期的な目標は、障害者を含めた、さまざまなマイノリティの存在や、彼らが経験する困難を人々に伝え、彼らの権利を守られる社会を実現していくことです。
私は、障害のある人が地域で暮らすための制度や、資源が比較的豊かな京都市で暮らし、親元を離れて、問題なく大学生活を送れています。しかし、全国を見ると、いまだに多くのハードルにぶつかり、苦しい状況に置かれている人々がたくさんいます。それは、社会の構造的な差別と関係しています。
今後、どのような形で自分が関われるか。社会運動を通じてなのか、大学のようなアカデミックな場なのか、両方なのか。いずれにせよ、障害のある人の権利保障のための活動に貢献していきたいのです。そして、多くの人が、より生きやすくなるように、私なりに発信をしていきたいと考えています。
理事長:1年間の休学で得た結論ですね。
ゆだ:はい。自分が本当は何に取り組みたかったのかを、原点に立ち返って、見直すことができた、意義ある1年でした。
タダ:いま、私は、自分が本当にやりたい活動をおこなえる職場を求めて、社会福祉協議会などへの就活を進めています。就職後は、大学生活を通して学んできた専門知識や、経験を活かして、ひとりでも多くのかたの役に立ちたいと思っています。障害は、身体的なものでなく、人と人との関係性の中で生まれてくるものです。だからこそ、人と人のより良い関係性を築いていける、そんなプログラムも、つくりあげたいと考えています。
理事長:大変なことも多いと思いますが、その志を忘れずに、就活を続けていけば、きっと良い職場と出会えるはずですよ。頑張ってください。
伊藤:私は3回生ですから、進路を決めるには、もう1年あります。いま学んでいる原子炉関係は、とても意義ある学びで、やりがいもあるのですが、あこがれていた宇宙工学の分野ではありません。
本当にこのままで良いのだろうか、と迷っていたとき、奨学金の贈呈式でかけていただいた、夢を追いかけなさい、という言葉を思い出しました。私がいただいている奨学金は、ヤマトグループの社員のみなさんが給料の中から出されているものだと聞いています。そんな大切なお金で応援していただいているのですから、夢を追いかけ続けていきたい。
1年後、大学院に進み、宇宙工学関連の研究を続けていくことで、みなさんに恩返しをしていけたら、と考えています。
理事長:クロネコヤマトの社員は、約220000人います。ご家族を入れると約400000人が、みなさんを応援しています。この声援を、未来を拓く力としてください。
奨学金というつながりではじまった、みなさんとの関係ですが、卒業して終わりではなく、これから先も、ずっとつながっていきたいと願っています。なにか困ったり、悩んだときは、いつでも相談してください。自分がこうなりたいと描いた夢をあきらめることなく、いつまでも追い続けてください。そんなみなさんを、私たちは、応援し続けていきますよ。きょうはありがとうございました。また、お会いしましょう。
三人:ありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。