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巻頭特集、2021年度、ヤマト福祉財団助成金、障害者給料増額支援助成金決定施設。

これで給料をアップします。

障害のあるかたがたの給料を増額するために、新事業の立ち上げや、生産性向上に必要な設備や、機器の購入資金を助成する、障害者給料増額支援助成金。2021年度は、14施設へ、それぞれ400万円以上の助成をおこないました。今回、その中から、四つの助成先にオンラインで取材を実施。本助成を活かして、どのような事業に、どういった機材、設備などを購入し、利用者さんの給料増額を目指していくのか、などを伺いました。

多機能型事業所、あさひ。

助成金、470万円。

自主製品、あさひピュアチョコレートの増産、品質向上のため、テンパリングマシーン、メランジャーを購入。

多機能型事業所、あまみん。

助成金、500万円。

奄美群島の特産品を活かしたジェラートの販売店、ジェラテリアを建築。2階には、利用者さんの休憩、宿泊施設を設備。

多機能型事業所、アトリエ モモ。

助成金、500万円。

クッキーなどの菓子製造の増産を目指し、定量分割機、急速冷凍庫、スチームコンベクションなどを購入。

吉備の里、希望。

助成金、500万円。

感染予防の自主製品、ウイルスブロックの製造能力向上と、新製品の開発のため、レーザー加工機を導入。

カカオ豆の皮むきから、チョコレート博士、直伝のプロの技。

社会福祉法人、平成会、多機能型事業所あさひ。広島県竹原市。

主任、岩岡 智之さん。

主な事業。
自主製品、あさひピュアチョコレートの製造販売。
助成金。
470万円。
使途。
チョコレート増産のためのテンパリングマシーン、メランジャーの購入。
2019年度平均給料。
B型、23036円。31人。
2022年度目標給料。
B型、28387円。31人。

自主製品ピュアチョコレートの製造で、利用者さんに、より高く、安定した給料を。

「下請けや、施設外就労の仕事を中心にしていると、景気の変動に受注量が左右され、利用者さんの給料は安定しません。そこで、私たち主導で生産する自主製品を事業の柱にしようと、せんべいや、野菜スープ、チョコレートの開発に挑戦しました」と岩岡さん。しかし、素人のアイデアや技術だけでは、なかなかうまくいきません。さらに、2019年の西日本豪雨で道路が寸断されると、復旧まで下請けの仕事はストップ。頭を抱えながら、ふと見た新聞に、チョコレート博士として世界的にも有名な、広島大学の佐藤清隆名誉教授が、ピュアチョコレートのプロを育成するワークショップを開催、との記事を発見。早速、参加を申し込みました。

「佐藤先生が教えてくれたのは、Bean To Bar という、カカオ豆からチョコレートを一貫製造する方法です。佐藤先生は、私たちが障害者支援施設だと知ると、障害のあるかたも、こうした工夫をすれば、仕事に参加できますよ。自分たちが作ったチョコレートを、多くの人に食べていただく喜び、それを、利用者さんの生きがいにつなげてあげてください、と助言をいただきました。その後も、佐藤先生には、工房まで足を運んでいただき、利用者さんの働く様子を見ながら、もっと、こうした方がうまくいく、など、細かくご指導していただいています」。

機械化で、増産と、品質の向上を図り、参加人数と、給料を大幅にアップ。

助成申請したメランジャー、テンパリングの機械は、8月に導入、稼働する予定です。

「ピュアチョコレートの製造は、カカオ豆の選別と、皮むきからはじまり、利用者さんが、一粒ずつ、丁寧に、手作業していきます。これに砂糖を混ぜ、ペースト状にするコンチング作業の機械がメランジャーです。いまの機械では、1日に〟約3キログラムしか作れませんが、新しい機械なら〟約30キログラムと、10倍になります。次が、チョコレートを結晶化するテンパリングです。温度調整次第で味のよしあしが決まるため、職員が手作業でおこなっていますが、機械化で品質をより向上、安定させることできます」。

現在、1日の板チョコ生産量は、約55枚。機械を導入すると、約400枚に増産できる計算です。

「皮むき作業の人数はもっと必要ですし、機械化で、利用者さんの仕事の幅も広がるので、まずは、全体で、6名を増員する計画です。その分、職員は、営業活動に力を入れていこうと、すでにいろいろと動き回っています」。

竹原市は、安芸の小京都と呼ばれる、美しい街並みが自慢の観光地です。岩岡さんたちは、竹原市の新しいお土産の目玉のひとつとなるように、地元と連携した商品開発にも挑戦。地元デザイナーとコラボし、利用者さんが色付けしたパッケージも好評で、観光協会や、ホテルなどからも良い感触を得ています。動画配信で世界中から注目されるウサギの島、おおくのしま のショップには、すでに納品も開始しました。

「昨年6月から、本格的に製造販売をはじめると、新聞に取り上げられ、さらに本助成も決定するなど、なにか大きな力に後押しいただいている感じです。すべてが良い循環で、きていますので、このチャンスを必ずものにし、計画が、絵に描いたモチにならないようにしていきます。大切なのはスピード感をもって進んでいくこと。8月の機械導入とともに、キッチンカーでチョコレート ドリンクや、アイス クリームも販売していこう、と、みんなで盛り上がっています」。

利用者さんが色付けした鮮やかなパッケージがパッと目をひく、あさひピュアチョコレート。材料は、カカオ豆と、てんさい糖、植物油脂のみを使用し、健康食品としても注目されています。写真は、Bean To Bar、エディブルフラワー、カカオニブ。

自家栽培したカカオ豆は、利用者さんが、一粒一粒、丁寧に皮をむき、チョコ工房に届けます。

奄美群島の食材を風味豊かに。農福連携で生まれたジェラート。

株式会社リーフエッヂ、多機能型事業所、あまみん。鹿児島県大島郡龍郷町おおがち。

代表取締役、田中 基次さん。

主な事業。
近隣農家で施設外就労し、対価として得た農作物で、カップジェラートや、ハーブティーを加工、販売。
助成金。
500万円。
使途。
ジェラートの販売店、ジェラテリアを建設。2階には利用者さんの休憩室や、宿泊施設も設備。
2019年度平均給料。
B型、11259円、27人。
2022年度目標給料。
B型、57373円、29人。

施設外就労の対価は、農作物で、互いにメリットのある、農福連携を目指す。

九州本土の南に点在する、トカラ列島と沖縄諸島の間に連なる奄美群島のひとつ、奄美大島にある、あまみん。PC 画面から見える、田中さんの周りの草木は、爽やかな南国の風になびいています。

「私たちは、当初から農福連携をテーマに、地域の方と交流しながら、一緒に、地域活性化と、障害のあるかたの仕事の拡大に努めてきました」と、話す田中さんは、本財団の農福連携実践塾の塾生でもあります。「農福連携は、互いにメリットがあって成立するもので、その仕組みづくりが大事です。あまみんは、施設外就労で人手不足に悩む、近隣フルーツ農家のお手伝いをしています。でも、金銭支払いだと、農家さんは、私たちを雇いづらい。そこで、労働対価として、農作物をいただき、それを材料に、ジェラートを製造販売して、売上を出す、そんな流れを創出しました」。

あまみんは、奄美大島で採れるマンゴー、タンカン、スモモなどを材料に、3年前に建てた自社工場で、ジェラートを製造。フルーツ果汁、50パーセントの贅沢なフルーツ感は、百貨店のギフトにも採用されています。奄美群島観光物産協会の、島一番コンテストで優秀賞を受賞した、ドラゴンフルーツ アンド パッションフルーツは、この地の、龍郷町おおがちという地名にあやかり、中日ドラゴンズ、ナゴヤドームでの販売が内定しました。他にも自家農園で栽培する、バタフライピーなどで、オリジナルのハーブティーを製造。島内外のお店や、ホテル、オンラインショップで販売し、コロナ感染拡大前よりも売上は順調に伸びています。

心地良く働ける環境を整えた、自分たちで販売できる、じつ店舗。

助成金を活用し、商品を販売できる、お洒落なお店、ジェラテリアが8月に完成します。

自分たちのお店ができる。販売員になれる。接客ができる、と、利用者さんは大喜びです。じつ店舗があれば、観光客を呼び込め、メディアにも注目されやすく、効果的に宣伝ができます。人が集まれば、地元の農家さんも、こんな果樹も作って直売してみよう、など、モチベーションが上がり、地域活性化にもつながります。

2階には、利用者さんがゆっくり寝転がって休める休憩室、宿泊室も用意します。

「体調が不安定で、休みがちの利用者さんも安心して通える、心地良く働ける環境を整えたい。今日もきちんと仕事に出ることができた。仲間に会えた、と少しずつでも、働く自信と、喜びを育んでもらいたいのです」。

そんなあまみんには、奄美群島の世界自然遺産登録、という追い風も吹いています。

「コロナ カ でもう少し時間がかかりそうですが、世界が注目するいまこそチャンス。各島の農家さんと連携し、それぞれの魅力ある作物を使ったジェラートづくりを進めています」。

屋久島からは お茶、与論島は塩、喜界島はゴマ、世界的なコーヒーベルト北限の沖永良部島からはコーヒー豆など、個性はいろいろです。

さらに、果樹を栽培できる自分たちの農園も持ちたいと、新たな農業法人を立ち上げました。地元の耕作放棄地を買い上げ、私も、農業がやりたいと希望する利用者さんが、ひとりでも多く働けるようにしていきます。また、ジェラートは冬場の売上が落ちるので、島の食材を生かした、おせんべいも作ろうと開発中です。他にも、ジェラテリア限定のフレーバーや、軽食も提供し、売上を拡大。まずは、利用者さんの給料を3万円に、さらに5万円の目標も達成していきますよ」。

トロピカルフルーツを贅沢に使ったジェラート、Tropica Amami は、ギフトでも大人気。

利用者さんは、グループに分かれて、近隣果樹園農家の農作業や、ジェラートづくりを担当。無理のないローテーションを組んで、暑い日中も快適に働いています。

人との出会いで広がる、アトリエ モモ、お菓子作りの物語。

有限会社、福祉ネットワークさくら、多機能型事業所、アトリエ モモ。埼玉県さいたま市。

代表取締役、横山 由紀子さん。

主な事業。
クッキーのブールドネージュ、マドレーヌなどの菓子製造販売。
助成金。
500万円。
使途。
菓子増産のため、定量分割機、急速冷凍庫、スチームコンベクションを購入。
2019年度平均給料。
B型、16672円。9人。
2022年度目標給料。
B型、25667円。25人。

有名パティシエが師匠。設立時から、本格的な製菓事業を開始。

サクサクとした食感とともに、パウダーシュガーが滑らかに溶け出し、上品な甘さが口中に広がるブールドネージュなど、本格的な やき菓子を製造するアトリエ モモ。その実力を認められ、ムーミン バレー パークと契約しています。

「私たちは、本当に、人との出会い、縁に恵まれているんです」と、代表取締役の横山さんと、管理者の佐藤さん。アトリエ モモのお菓子づくりの師匠は、埼玉県のスイーツ好きで知らない人はいない、と言われる有名パティシエ、朝田晋平さんです。「朝田さんと知り合えたのは、朝田さんがボランティアで参加された、2018年のお菓子づくりプロジェクトでした。障害のあるかたが生きがいを持って働き、自立できる給料を得られるようにと、アトリエ モモを開所した翌年のことです」。朝田さんから、簡単で、美味しく製造できる お菓子のレシピをいろいろと教えてもらい、さいたマドレーヌの製造をスタート。でも、これだけでは、目標の給料支給にはほど遠い。そう考えていたとき、ムーミン バレー パークが、品質の高いお菓子を製造できる福祉施設を探していると知ります。

ムーミンの物語は、主人公をはじめ、ミイや、スナフキンなど、個性豊かなキャラクターが、互いを理解し、補い合い、美しい谷で一緒に暮らしていくお話です。「このコンセプトが、障害者の福祉施設とマッチしている。美味しくて、また食べたくなる お菓子を作れるところに依頼したい、とのことでした。ドキドキしながら、朝田さんレシピのブールドネージュを試食いただくと、ぜひお願いしたい、と、話がまとまったのです」。

最初は、納期に間に合わせることがやっとだった職員と利用者さんも、経験を積むことで、お菓子づくりと梱包の技術を向上。もっとたくさん納めてほしい、と、評価されるまでになります。

これからは受け身だけではなく、自分たちで新商品の開発や、販路も開拓していこう。

ところが、新型コロナウイルス感染拡大で、ムーミンバレーパークが一時休園し、注文はゼロに。

「どうしたら良いのか、と、悩んでいたとき、ヤマト福祉財団さんが開催するパワーアップフォーラムの配信を発見しました。一緒に視聴した利用者さんが、私たちもあんな風に働きたい、お金を稼ぎたい、と、目を輝かせる姿を見て、弱音を吐いている暇はないのだと奮起。どうすれば生産性を上げ、販路を拡大できるかを考え、申請書を提出しました。助成が決定した、と聞いた利用者さんは、こんな立派な機械を買ってもらえるなんてすごい、と大喜びしています」。

助成金で導入する定量分割機、スチームコンベクション、急速冷凍機が稼働するのは8月になります。現在は、私たちもここで働きたい、と入所希望するかたが急増しているため、大勢でも快適に働ける環境を整えようと、工房スペースを広げている真っ最中です。

「いままで、ブールドネージュは、週4000粒の製造が限界でしたが、機械の導入で、2倍以上にアップします。また急速冷凍することで、おやきや、マドレーヌを作り、保存しておく〟そんな効率的な作業も可能です。

これで、ムーミン バレー パークが開園し、大量の注文が来ても対応できます。しかし、いつまでも受け身の姿勢ではいけません。朝田さんのレシピと、プリントクッキーの機械を活用し、渋沢栄一クッキーや、埼玉県 150しゅうねん クッキーなどを考案。市のお土産品に採用いただき、市役所のピアショップでも販売するなど、販路も自ら開拓しています」。

マスター制度で利用者さんの技能をアップ、職員しかできなかった工程も、いまでは利用者さんが担当。

ふと、町で目にした光景が、ピンチをチャンスに変えた。

社会福祉法人、吉備の里、希望。岡山県加賀郡吉備中央町。

支援員、技師、冨田 敦子さん。

主な事業。
自動車部品の加工、組立、岡山県産ヒノキを使った木製のグッズ、看板などの自主製品の製作など。
助成金。
500万円。
使途。
自主製品ウイルスブロックの製造力向上と、新製品の開発に、レーザー加工機械を導入。
2019年度平均給料。
B型、20800円、40人。
2022年度目標給料。
B型、24206円、42人。

自らのアイデアがヒット作に。コロナカでも、利用者さんの技能も、給料も、同時にアップ。

コロナカで多くの福祉施設が苦戦する中、売上アップに成功し、令和2年度、厚生労働省のりんふく連携事業の先進事例として取り上げられた事業所があります。それが、岡山県加賀郡にある吉備の里。注目されたのは、地元岡山県産のヒノキを贅沢に使った、木製の自主製品です。

「材料は、厚さ4.5ミリメートルかける2メートルの立派な板材です。これを50センチメートル四方に裁断し、現在保有している、1台のレーザー加工機を使い、ストラップ、コースター、看板などを製作します。これらは、地元企業などの注文を受けて、作っているもので、岡山県の女子サッカーや、バレーのクラブチームのグッズも手がけています」と、冨田さん。

イラストやデザインは、すべて職員が考案したオリジナルです。それを、パソコンの得意な利用者さんがスキャンして、板材にプリント。その絵に沿って、レーザー加工機でカット、造形します。形ができると、印刷した文字などが消えないように注意しながら、利用者さんがひとつひとつ、丁寧にヤスリがけ。さらに、より滑らかな手触りに仕上げるため、固く絞った布巾で磨き上げ、最後に、印刷した商品台紙を袋詰めして、完成です。「ところが、コロナカで、イベントが次々と中止となり、注文が激減。これからどうしよう、と頭を悩ませていたとき、直接、手で触れずに、エレベーターのボタンやドアを開閉できるツールを作ったら、と、山ざき所長が提案してくれました」。

ざきさんは、バスに乗ったとき、降車ボタンを傘のエで押そうと、悪戦苦闘している人を見かけ、このアイデアを閃きます。

「確かにそんな人をよく見かける、このツールは必要とされるかも、と、みんなの意見が一致。そこで、使いやすくするにはどんな形が良いか。ボタンを押しやすい先端の形状は。ドアをスライドさせるなら、引っかける把手も必要。壊れにくくするための、丈夫な木目の角度は。と、アイデアを出し合い、30種以上、試作品を作り、テストしました。最終的に、コロナだけでなく、インフルエンザなどのウイルスにも対抗できる、ウイルスブロックの名称にし、形もウイルスの ウ の字を模した形にしました」。

レーザー加工機をもう1台導入。全国からの注文に応えながら、新規仕事にも積極的に挑戦。

販売を開始すると、「木のぬくもりが良い。200円と手軽な価格だから、家族全員の分を購入できる。いまは帰省しづらいので、故郷の両親に送ってあげたい」など、評判に。テレビや新聞も取材に訪れると、全国各地から注文が届き、多いときは、1日に1500個以上にも。これまでに、総数1万個以上を製造販売してきました。

「仕事をたくさんこなすことで、利用者さんは着実にレベルアップしています。中には、1日30個しかできなかったけど、いまは100個はできる、と、自慢するかたも。しかし、1台のレーザー加工機だけでは、これ以上の注文に対応できません。また、先のことを考えると、ウイルスブロック以外の製品開発のご依頼にも、積極的に応えていくことが必要になります」。

サイトを見た全国のかたたちから、こんなものはできないの?、と、問い合わせが相次ぎ、昨年末は、ふるさと納税や、クラウドファンディングの返礼品に、新しいコースターを製作。いまも、大手企業から、返礼品公募の話が届いています。

「8月には、助成で申請した新しいレーザー加工機が入りますから、製造体制は万全です。これからは、みんなで力を合わせ、新しいビジネスチャンスを、どんどんつかんでいきます」。

レーザー加工機で切り出した製品を、木工作業班の利用者さんが、丁寧にヤスリがけし、仕上げます。

新しいレーザー加工機が入ると、生産量は約3倍に。お客様からの注文を待つだけではなく、絵馬などの提案営業もしています。

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