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巻頭企画。2021年度、障害者の働く場、パワーアップフォーラム。

テーマ、人は、自立して生活することで、幸せを感じられる。

未だ終息が見えないコロナカですが、より多くの福祉施設に、利用者さんの働く場の拡大と、給料増額の新たなヒントを得てほしい。そんな願いを込めて、本年度のパワー アップ フォーラムは、9月10日に大阪会場編を、10月1日に東京会場編を、オンラインセミナーで開催。両会場で、約460名のかたに参加いただきました。

コロナカだからこそ、挑戦する勇気を持つ。

「障害のあるかたが生き生きと働き、社会参加できる世の中にしていくために、私たちになにができるか。きょうは、一緒に学んでいきましょう」。開会挨拶でヤマウチ理事長は、そう切り出しました。

その参考のひとつに、と、クロネコヤマトの満足創造経営を講演。「宅急便は、荷物とともに、送るかたの思いを大切にお届けしています。そこで気づいたのは、受け取るかたに、より喜ばれるサービスの必要性でした。お客さまからの苦情や、クレームにこそ、改善のヒントが隠されています。そんな、宝物とも言える情報を全職員と共有し、お客さまがもっと満足できる商品や、サービスの開発に役立ててください」と、伝えました。

エヌピーオー日本障害者協議会の藤井克徳代表は、時流講座で、障害のあるかたと、福祉施設を取り巻く環境、制度、就労などの動向を解説しました。

「現在、民間企業の法定雇用率は2.2パーセントですが、完全に達成はできていません。また、福祉施設も、コロナカで、約6割が厳しい経営状況にあります。それでも、働きたい、と願う、障害のあるかたの声を置き去りにはできません。模倣は創造の第一歩。まずは、講演者たちの取り組みから、自分たちにできることを見つけ出し、挑戦をはじめましょう」と、呼びかけました。

講演、実践報告者は、ヤマト福祉財団、おぐら昌男賞受賞者をはじめ、さまざまな事業、支援を進める施設がオンラインで発信。大阪会場編では、高工賃、東京会場編では、高付加価値、のサブテーマに沿い、それぞれの取り組みや、成果などを発表しました。

シンポジウムでは、コーディネーターの藤井氏が、講演者たちの施設の利用者さんたちは、仕事を通してどのように成長しているか、それをどう支援しているか、などを質問しました。生き生きと夢を語る利用者さんたちの姿は、ビデオでも紹介されています。

東京編の会場は、ティーケーピー ガーデンシティー プレミアム 品川です。

大阪編は、千代田区の元中学校をリノベーションした、イベントスペース3331 アーツ チヨダから配信しました。

エヌピーオー日本障害者協議会、藤井代表。コロナカの逆風の中、SDGsの追い風が吹いています。

ヤマウチ理事長。守るのではなく、攻める姿勢。失敗しても、あきらめないことです。

9月10日、大阪会場編。高賃金を目指して。

オンライン会場、3331 アーツ チヨダ。

ペットフードの協業でコロナカを越える。

柴田 智宏 氏。社会福祉法人、けいこうかい、理事長。有限会社ドアーズ、代表取締役。第12回ヤマト福祉財団、オグラ昌男賞受賞。

コロナカだからこそ、挑戦する勇気を持つ。

有限会社ドアーズは、ペットフードの製造、卸売をおこなう会社です。鳥取県に製造工場を、岡山県と兵庫県に物流センターを置き、それぞれの職場で障害のあるかた、シングルマザー、定年退職したかたなどが、自分に適した仕事と働きかたを選び、活躍しています。

私も、かつては、みなさんと同じ、福祉施設の職員として、利用者さんの給料増額を目指し、もがき苦しんだ時代がありました。そんなとき、パワー アップ フォーラムに参加し、目標に向かって進みはじめたら、できない言い訳はしない。どうしたら達成できるのかを考え、取り組むこと、そして、いつ、だれが、どういうことをおこなうかを明確にし、職員みんなで共有して、取り組むことが大事、と学んだのです。

この教えをもとに、製麺事業を開始し、これまで利用者さんに1万円しか払えなかった給料を、月額平均5万円にしました。しかし、ある利用者さんに、「施設で10万円もらうより、もっと安くていいから企業で働きたい」と告げられ、ショックを受けます。職場も仕事も選択できることが、利用者さんの本当の幸せにつながる。そう教えられ、起業の道を選んだのです。

同じ方向を向き、可能性を広げ合う関係が協業。

私は、障害のあるかただけでなく、すべての、就労に困窮する人たちを受け入れることを、目指しています。その想いに共感する企業、福祉施設と、協業しています。

協業は、双方にメリットのある関係でなければ成立しません。互いの考え、意見、要望、事情を、腹を割って話し合い、プラスの提案ができる関係が協業です。それには、互いの方向性に相違がないか、意識決定スピードが違い過ぎないか。そして、一緒に仕事をして楽しく感じるか、が大事だと思います。

いま、ドアーズは、いくつかの福祉施設と協業しています。このフォーラムで私の講演を聞いた長野の施設が、翌週には見学に来られました。その熱意に動かされ、私も長野に出向き、状況を視察。いま、どんな事業をおこなっているのか、どんな利用者さんがいるのか、どういった環境なのか。私は、地域特性を生かし、ガイジュウとされる鹿の肉を使ったペットフードの協業を提案しました。最初は、うちにあった製造機械をレンタルし、使いかたや、製造方法などのノウハウを指導。それが、いまでは、施設が自ら機械を購入し、ペットフード メーカーと直接取引を展開できるまでになっています。

ドアーズの社名には、すべての人の可能性を開くためのドア、という想いを込めています。コロナカでも、利用者さんのために新たな未来を拓きたい。そんなかたたちと、ぜひ、協業したいですね。

協業する長野の施設。ほかにも、全国の施設と協業しています。

大阪会場編シンポジウムより。

「10億円の売上目標を達成した。次は新たな事業を興し、成功させたい」と、柴田さん。「コロナカで大変だ、と嘆くのではなく、この機会に、職員も、利用者さんもレベルアップを」と、奥西さん。いまこそ前向きなチャレンジが必要、と、視聴者に呼びかけています。

高工賃を目指して。施設外就労、M.I.E モデル。

障害のある人の多様な働きかたと、ライフデザインを描く。

奥西 利江 氏。社会福祉法人、イガ コウイクカイ、統括管理者。第21回ヤマト福祉財団、オグラ昌男賞受賞。

利用者さんと職員で、ユニットを組み、施設外就労。

1988年に、小規模の作業所からスタートした私たちが、最初に出せた給料は、800円でした。それを手にした、ある利用者さんに、「僕はひとり暮らしをして、結婚もしたい。その夢を、奥西さんが応援してくれるんでしょう?」と、言われたのです。利用者さん、ひとりひとりが人生を楽しみ、生きるためには、高い給料が必要ですが、このままでは、とても実現できません。

三重県伊賀市には、さまざまな大手企業が工場を展開しています。私たちは、各社を回り、施設外就労をお願いしました。そこで出会ったかたが、化粧品を製造する株式会社ミルボンで担当係長を務められていた、現 取締役 生産本部長の村田輝夫さんです。村田さんには、特例子会社にしていただけないかと、他の事例の見学に同行いただきました。しかし、そこで見たのは、障害者に本業は無理だ、と雑用ばかりさせている現実だったのです。村田さんは、「奥西さんはこれでいいの? うちのラインには、利用者さんにできる仕事がきっとある。一般社員と一緒に働きながら、最初は簡単なことから始めて、段々と、いろんな仕事ができるように覚えていっては?」と、応援いただけたのです。

そこで、5、6人の利用者さんに1人の職員というユニットを組み、施設外就労を開始。最初は、失敗して泣いて帰ってくることもありました。それでも厳しく、温かく、指導いただくことで、いろいろな仕事ができるようになり、いまでは、5本以上のラインを、私たちに任せていただいています。さらに、日々の仕事ぶりを評価いただき、正社員にステップアップした者もたくさんいます。そんな姿を見た他の会社からもお声がかかり、現在では、5社で施設外就労を展開中です。

高工賃と、働く選択肢を生む、インクルーシブなモデルに。

施設外就労の良い点は、収益の約90パーセントを給料にできることです。現在、A型で13万円、B型でも多いかたは10万円以上の給料を支給できています。さらに、いま力を入れているのは、一般就労したかたが、定年退職したあとのケアです。退職後は、私たちの施設に戻り、製菓、製パン事業などでゆったり仕事ができる。そんなライフデザインも描けるようになりました。

こうした私たちの施設外就労のありかたを、障害のあるかたが、多様な働きかたと、生きかたを選択できる、インクルーシブな事例、M.I.E. モデルとして、全国に発信中です。それに共感いただける全国の施設や企業とネットワークを作り、ひとりではできないことも、みんなで力を合わせて実現できたらと考えています。

工場内の1本のラインをそのまま利用者さんたちが担当。

実践報告1。

あきらめない、攻めの姿勢で、より高い給料を。

エヌピーオー、バイタルフレンド マザーワート、理事長。報告者、横石 たまき氏。

夢へのかけ橋実践塾に、入塾時の利用者さんの月給は1万円以下。3万円にするには、売り上げの30パーセントを利益に、と、教えられましたが、達成できませんでした。あきらめず、実力のあるパン職人を雇用し、ヤマトさんの助成金で、生産量を増やす機械も導入。さらに、洋食レストランもオープンし、入塾から8年かけて、3万2000円を超えることができました。この攻めの姿勢で、コロナカに求められるサービスも充実し、さらに上を目指します。

実践報告2。

人手の多い福祉施設の強みを活かし、売り上げ向上。

社会福祉法人、有田つくし福祉会、早月農園、支援員。報告者、大辻 宰氏。

現在、みかん畑は3.5ヘクタール、他にも、山椒や、梅など、この土地の特産品を生産し、月給3万円を超えています。しかし、最初は失敗ばかり。そこで地元農家を農業専門支援員として雇用し、農地管理の方法などを学びました。また、周辺農家はみかんの袋詰めまでは手が回らないと知り、高い単価で多種類の袋詰めを求める取引先を開拓。人手の多い福祉の強みを活かし、売上を増やしました。さらに、規格外ひんのジャム、ジュースの加工などにも取り組んでいます。

10月1日、東京会場編。高付加価値を目指して。

オンライン会場、ティーケーピー ガーデンシティー プレミアム 品川。

農業を面白く、楽しく。

磯部 竜太 氏。一般社団法人、農福連携、自然栽培パーティー、全国協議会、理事長。

自然栽培なら、農業の素人も、高付加価値の作物を作れる。

愛知県豊田市の社会福祉法人、無門福祉会では、12名の利用者さんが、土や自然とふれあいながら、お米や野菜を栽培しています。現在の月額平均給料は、36260円ですが、農業を始めた2014年は、わずか10メートル四方の小さな畑で、年間売上はたったの5万円。どの職員も農業の素人で、なにをどうやって栽培するのか、利用者さんにどんな仕事を任せて良いのか、採れた野菜の販売方法もわからない。地域の農家さんとのおつきあいもうまくいかず、不安な気持ちで一杯でした。

そんな私たちが変わったきっかけは、愛媛県で自然栽培をおこなうパーソナルアシスタント、青空の、佐伯康人さんとの出会いです。また同年に、ヤマト福祉財団さんが佐伯さんをプロジェクト リーダーに開催した、水稲自然栽培チャレンジに参加し、トラクターなどの購入、レンタル費用も支援いただきながら、自然栽培に挑戦できたことが大きかったです。

実践して驚いたのは、自然栽培はだれにでもできるということでした。自然栽培は他の農法と違い、無農薬、無肥料、無除草剤なので、余計な手間もコストもかかりません。もちろん、育苗、雑草を抜く、水やりなどの知識や作業は必要ですが、毎日、手取り足取りで面倒を見なくても良い。肥料をたくさん与え過ぎた作物は、いわゆるメタボ状態ですが、自然栽培は作物が持つ自然本来の力を生かしているので、根も力強く張り、健康的。そんな自然栽培の作物は、他とは違う高付加価値で、予想以上に高く売ることもできました。

自然栽培が生む奇跡を、全国のより多くの施設に。

もっと驚いたのは、利用者さんの変化です。下請け仕事では、いつも逃げ出そうとしていたかたも、引きこもり気味で、週にいっかいしか通所していなかったかたも、青空の下で毎日、笑顔で農作業するようになりました。そんな姿を、最初は遠巻きに見ていた近所の農家さんから、「うちの農地を使っていいよ」と、声がかかり、どんどん私たちの田畑は広がっています。周りに必要とされる喜びは、利用者さんをより生き生きと変え、職員の常識も変えました。かつて、仕事はガマンしてやるもの、各人に合う作業を探すのも大変、と悩んでいたのに、いまはマ逆です。農業には畑仕事以外にも袋詰めや、販売などの多様な作業があり、みんな楽しく取り組んでいます。

そんな利用者さんを、一般社団法人、農福連携、自然栽培パーティー全国協議会では農福師と呼びます。現在、パーティーの参加施設や団体は、約100と全国に拡大しましたが、この奇跡と感動をもっと多くの施設に体験してほしい。利用者さんと一緒に楽しんでみよう、と気楽な気持ちでチャレンジしてみてください。お声がかかれば、農福師と一緒に応援に行きますよ。

最初はたったひとつだった田畑が、いまはこんなにも拡大。

東京会場編シンポジウムより。

「高付加価値の商品を開発するよりも、地域の課題を一緒に解決していくことにこそ意義があります」と、磯部さん。「いろんなかたとつながっていくことで、仕事や、可能性を広げ、新しい価値を創造してください。それが農福連携のしんのありかたですよ」と、熊田さん。

農福連携という、高付加価値がもたらすもの。

熊田 芳江 氏。一般社団法人、空、代表理事。一般社団法人、日本農福連携協会、理事。第14回ヤマト福祉財団、オグラ昌男賞受賞。

地域のさまざまな課題解決に、農家と福祉施設が手を結ぶ。

私が理事を務める、一般社団法人、日本農福連携協会では、地域が抱える課題を解決していくために、農家と福祉施設の双方にメリットある展開を考えていきましょう、と呼びかけています。

日本の農家は、深刻な後継者不足に悩んでいますが、それを利用者さんたちとどう補っていくか。農業には、百姓と呼ぶくらい、たくさんの仕事があり、さらに細かな作業に切り分けできます。それを、障害や、年齢、経験や、技能に合わせて配置していけば、利用者さん、みんなが農業に従事できます。利用者さんは、自然とふれあいながら、伸び伸びと、健康的に、地域のかたに喜ばれる、働きがいのある仕事で給料を得ることができるのです。

一方、農家は福祉施設と一緒に仕事をすることで、人手不足を解消し、収益も向上。それは、障害者の働く場を広げるという、農業とは違った社会貢献の喜びにもつながっています。この流れが、農家の生産物を使い、福祉施設が加工品の製造、販売をおこなう、そんな次の連携にも発展。さらに、耕作放棄地を減少させ、新たな人の動き、交流も生まれているのです。

このように、地域全体へとメリットを広げることができるのも、農福連携の魅力だと考えています。

福祉施設の目的を忘れずに、農福連携の次のステップへ。

以前、私は、ヤマト福祉財団の夢へのかけ橋実践塾で、地元の農家や企業などとネットワークを構築し、新しい可能性を広げていく取り組みを、塾生たちと実践してきました。その卒業生4名を含めた13名の新塾生たちに、昨年9月から、農福連携実践塾を開講。農業の技術指導には、エヌピーオー ピアファームの林 ひろぶみ氏が講師として、商品開発や販路拡大、ブランディングには、株式会社エススリー ブランディングの川田勝也氏がアドバイザーとして参加しています。

コロナカで、全員があつまっての研修会は難しいため、塾生のもとに講師たちと出向き、ひとつひとつ実践的に指導。まだ半年しか経っていませんが、それぞれに独自の工夫を凝らした農福連携を展開しながら、月額平均給料を約1万円近く伸ばしています。

ある塾生は、耕作放棄地を次々と引き取り、田畑をどんどん拡大。観光地にいる塾生は、コロナカで人が集まらなければ、外に販路を広げるだけだと、大手百貨店や、ネット販売で成果を上げています。また、肉まん、いち商品だけに力を注ぎ、塾生の中で一番の売り上げを出している者もいます。

これからの福祉施設には、認定農業者、GAP、HACCP、アニマルウェルフェアーなど、農業や、六次化で必要とされる資格も求められるでしょう。しかし最も大切なのは、利用者さんのことを第一に考える福祉の目的です。それを決して忘れることなく、それぞれに合った農福連携を実践してほしいと願っています。

農福連携の目的は福祉だけでなく地域を元気にすること。

実践報告1。

地元特産品にんにくを栽培、加工し、売上アップ。

エヌピーオー、ノウガクキョウ、ここ カラダ、理事長。報告者、日野口 敏章氏。

最初はブルーベリーを栽培していましたが、売り上げが伸びず、青森県の特産品、にんにくに着眼しました。十和田市に2ヘクタールの農地を確保。ヤマトさんに助成いただいた耕作機械などを、利用者さんと一緒に使いこなし、生産性は一気に向上しています。さらに、チップやパウダー、黒にんにくなどの商品にも加工し、高付加価値で取り引きすることで、昨年の平均月額給料は、約33000円に。今後も、農地拡大と、給料4万円超えを目標に、みんなで力を合わせて頑張ります。

実践報告2。

牧場やカフェで、自分に合う仕事を伸び伸びと。

エヌピーオー EPO、EPO FARM 理事長。報告者、高橋 智氏。

障害のある子どもを持つママ友が、「私の子どもは、やがてみんなと違う学校に通うでしょう。でも、一緒に楽しめる場所があったら」と、話すのを聞き、ホースセラピーの牧場を作りました。現在、地元の方の賛同を得て、その規模は約8万平方メートルに。ヤマトさんに助成いただいた、羊事業の食材を使ったカフェも人気となり、1日100人以上のかたがここを訪れています。利用者さんは、馬の飼育や、カフェでの接客など、それぞれに合った仕事で、毎日伸び伸びと働いています。

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