美味しくて、商品価値の高いサツマイモを育て、給料を増額。
本誌:立派なトラクターを導入されましたね。
山根:自分たちの新品のトラクターを手に入れて、利用者さんも大喜びです。
石倉:これまで農家さんにお借りしていたのは、18馬力のトラクターでしたが、57馬力と大幅にパワー アップしました。今後、次第に農地を拡大していくには、生産効率の高い、馬力のあるトラクターが必要なんです。
正木:現在のサツマイモの収穫量は?
石倉:1反あたり約2トンですので、2ヘクタール作付けして、40トンくらい。今年も50から60トンを想定しています。
青澤:農地を拡大すると、その収穫量は?
石倉:目指すは6ヘクタールですから、約3倍の約150トンの計算になります。
正木:大変な作業になりそうですね。
山根:18馬力のトラクターだと、1反の耕耘や、堆肥散布の作業時間は、約310分。57馬力なら半分以下の120分で済みます。
本誌:助成申請書には、堆肥散布用のマニアスプレッダーなども入っていましたね。
飯田:2トンのマニアスプレッダーを購入しました。これを牽引できる馬力のあるトラクターは、近隣農家さんも、なかなか所有していないのです。
石倉:長年、サツマイモを栽培し続けていた我々のはたけは、地力が落ちて、連作障害や、病気、虫害が発生しやすい状態になっています。そこで、近所の農家から指導を受け、有機物やミネラルを混ぜ込み、耕して豊かな土壌に変え、サツマイモの品質向上を図っているんです。
飯田:うちは養豚をやっているので、堆肥がたくさん出ますから、その堆肥を、マニアスプレッダーで効率よくはたけにまいて、美味しいサツマイモを収穫できる土壌にしていきます。
石倉:それに作業効率が上がれば、収穫したサツマイモを選別する時間的余裕もできてきます。いまは大半を農協に納めていますが、選別した価値の高い商品なら、自社販売も可能になってくるんです。
飯田:美味しくて商品単価の高いサツマイモを作り、店先やネット販売もおこなっていきたいですね。そうすれば売り上げも伸び、利用者さんの給料をより増額できます。
オグラマサオさんの著書が、障害者事業のバイブル。
正木:どんな種類のサツマイモを栽培されているんですか?
山根:私たちは、ベニアズマ、ベニハルカ、ベニコマチ、シルクスイートの4品種を生産しています。収穫したサツマイモの大半は農協に納めていますが、一部を、施設内でペースト状に加工し、スイートポテトとして販売もしているんです。利用者さんは、栽培から収穫、さらに出荷、加工、販売まで、一貫して担当しています。
青澤:今日は、ハウス内でサツマイモ栽培の農作業を、利用者さんと一緒に体験させていただきましたが、私は、障害のあるかたの施設に来たことも、サツマイモの苗切り作業も、初めての体験でした。どうおこなうかを説明いただきましたけど、結構、難しかったです。
正木:それを、利用者さんがテキパキとおこなわれているのを見て、凄いなぁと。また、だれもが、私たちにきちんと挨拶をしてくれる。仕事だけでなく、いろいろな点で指導がいき届いているんだ、と感心しました。
飯田:本当ですか? それができるようになるまでが大変なので、うれしいですね。利用者さんの指導のありかたなども、私はオグラマサオさんの影響をかなり受けているんですよ。
正木:どんな出会いなんですか?
飯田:福祉楽団は、地域とともに歩む高齢者福祉施設として、2001年にスタートしました。その2年後の2003年に、オグラマサオさんが、福祉を変える経営、を出版され、ラジオ番組でお話しされた内容を、たまたま耳にしたんです。「障害のある人が月給1万円で働いている」と聞き、どういうことなんだろう、と、急いで本を買って読みました。そこには、福祉施設こそ普通に商売をやることが大事だ、と書かれていたんです。
正木:それで障害者事業も始めたと?
飯田:実際に開始したのは2012年です。地元の、障害のあるかたの親の会から、「働く場所がない」と聞いたとき、さきほどの言葉が蘇りました。実家は、元々、養豚をやっていましたので、ハムとか、豚肉屋だったらできるかもしれない、と、恋する豚研究所をつくったんです。やるからには、利用者さんが自立して、生活できるだけの給料を受け取れる事業にしなければなりません。スーパーの棚に、大手メーカーの商品と一緒に陳列されても、手に取っていただける品質、ブランドにしていくこと。レストランも、また来店したくなる美味しさと雰囲気になるように、「こんなデザインにできないか」と、いろいろ要望を出して、設計いただきました。大事なのは、福祉施設の商品だからではなく、味とサービスで選ばれること。あのラジオを聞いていなかったら、こんなやりかたはできていなかったかもしれません。
山根:栗源第一,薪炭供給所のサツマイモもそうなっていきたいんです。B型事業所として、うちの月額平均給料は、2万4000円と、全国平均よりは高いのですが、時給だと、200円から300円くらいしかなく、決して威張れるものではありません。もっと高めていくには、売れるもの、売れる仕組みを作ることが大事であり、そのベースとなるのが、生産性の向上と農地の拡大なのです。
青澤:我々には、オグラマサオの DNA が脈々と受け継がれていますが、みなさんもその伝承者なんですね。
地域産業と福祉を結びつけ、みんなの暮らしをもっと楽しく。
本誌:事業所の名前にもある、森林管理の仕事はどうなのですか?
石倉:この辺りには里山みたいな森が多く、昔はそれを建材として利用していましたが、いまは切ってもお金にならないと、放置されている森がたくさんあるんです。小規模林業というスタイルなら、私たちにもできると、管理を引き受けることにしました。
山根:地元の森林を持っているかたたちと、一昨年の台風のあと、持続可能な森つくり協議会を立ち上げ、補助金なども使いながら、森林の整備を進めています。
石倉:良い材料は建築材、壁材、家具とかに、余った材料は薪材などに使っています。薪は、キャンプブームで需要があっても、数百円単位で大きな売上になりません。でも、ちゃんと板に仕上げれば、1万円くらいで売れるんです。
山根:森の輪という、新生児用の木のおもちゃも作っています。「木なのでなめても噛んでも安全。成長したら転がすとか、輪投げにもできます」と、香取市に売り込んだら採用され、今年から、300個を新生児に配る予算を付けてもらいました。
飯田:農業とか林業とか、地域産業と福祉を結びつけることで、地域みんなの暮らしが、少しでも楽しくなっていけたらと考えています。
山根:地元にどんな資源があるのか、それをどのように使っているかを、地域の方からしっかり教えていただくことが第一歩。そのうえで、福祉をうまく媒介し、より価値あるものとして、どう新たに活用できるか。それを、みなさんと一緒に考え、形にしていくことが大事だと思っています。
飯田:20年後、30年後の地域の風景を、福祉の力でつくっていく。それが自分たちの役割なんだ。そんな意気込みでやっています。
現場を見て、体験することで福祉への理解は深まっていく。
青澤:現在、ヤマトグループでは、SDGs や、サステナビリティという非財務領域の分野でも、中期経営計画が組まれています。これまで、いろいろと社会貢献はやってきましたが、経営に組み込んでいくことは初めてです。これは、会社としての意思の表れであり、とても重要なポイントだと思っています。
本誌:今年で2年目になりますね。
青澤:でも、実際に現場で運用していくと、いろいろと悩むことも多いのです。障害のあるかたと、我々との間でミスマッチも発生し、雇用したものの、長く働けずに去ってしまうかたもいらっしゃいます。
飯田:長く働くには、職場だけでなく、家族や周りのかたとの環境にも目を向けないといけないと思っています。
青澤:なるほど。今日は働く現場も拝見させていただき、とても良い勉強になりました。
正木:労働組合では、全国の仲閒から夏のカンパを集め、昨年は、9300万円を善意金としてお贈りしたんです。そのお金がどのように使われているのか、私が代表で、現場を拝見させていただいたわけですが、実際に現場を見ることで、その意義をより実感できました。でも、自分たちの働くエリアに、こんな施設や、お店があることを知らないかたも多いので、みんなに知らせる、宣伝してあげることも大事だと感じています。ひとりひとりが実際に現場を見ることで、これからもずっと続いていく夏のカンパのお願いもやりやすくなるし、善意金を出してくださる組合員のかた、社員のかたが、進んで笑顔で寄付してもらえる環境にもできる。そう考えるようになりました。
青澤:やはり体験は必要ですね。
飯田:私たちは、農林業の体験ツアーを企画しているんです。たとえば、はたけを耕し、一緒にトラクターに乗る。伐木や薪割りにチャレンジする。さらに、この地域でホームステイも体験してみるとか、いろいろと考えています。
正木:なかなか面白そうですね。
飯田:どんな事業でも最初は壁ばかりです。でも、地域のかたに応援いただくことで、乗り越えることができました。たくさんのかたに福祉の現場を見ていただくことで、いままでになかった、新しい道も拓けると思っています。
青澤:私たちも、みなさんからいろいろなことを学び、障害のあるかたたちと地域の発展に、一役買える存在となっていきたいですね。
一同:本日は、ありがとうございました。