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第23回、ヤマト福祉財団、おぐらまさお賞、贈呈式。

周りを動かしたのは、現状を変えると決めた、強い意志でした。

障害者週間の12月7日、第23回、ヤマト福祉財団、おぐらまさお賞、贈呈式を、東京都の日本工業倶楽部で開催しました。今回の受賞者は、社会福祉法人、パレット ミル、常務理事の中山みち代さんと、社会福祉法人、ハイジ福祉会、理事長の山口由紀子さんです。

優しい笑顔に隠された、決してブレない強い信念。

障害のあるかたの仕事づくりや、雇用の拡大、労働環境の向上、高い給料の支給などに功績のあった2名のかたに、毎年、厳正な審査のもと、ヤマト福祉財団おぐらまさお賞を贈呈しています。

主催者挨拶で、やまうち理事長は、「先月、おふたりの施設を訪問し、明るく楽しそうに働く利用者さんたちの姿を見て、まさに本賞にふさわしいかたたちに、お贈りできた、と、うれしく感じています。なんとしてもやり遂げるのだ、と情熱を傾け、数々の苦難を乗り越えてきたお姿は、障害者福祉に関わるかたたちに、英知と、勇気を与えてくれるはずです」と、受賞者を讃えました。

「中山さんは、どんな障害のあるかたにも高い給料を、と、多様な仕事を創出されてきたかたです。地元企業を訪ね歩き、七ヵ所もの施設外就労先を築かれた、行動力も高く評価しました」と、選考委員の、日本社会事業大学専門職大学院、かもはら もとみち、客員教授は話します。

「山口さんは、社会からなかなか理解を得られなかった、精神障害のあるかたたちの就労支援に尽力されてきました。農福連携の先駆者であり、長い年月をかけて、交通機関から精神障害者の交通運賃割引を実現された功績も大きい」と、選考の理由を伝えました。

障害のあるかたに最低賃金を。パワフルなみんなのお母さん。

「中山さんは、地域のみなさんに、お母さんと呼ばれ、慕われているかたです。その温かな人柄のなかには、だれにも負けない芯の強さがあります」と、推薦者のエヌピーオー法人、滋賀県社会就労事業振興センター、理事長の城 貴志さん。

「初めてお会いしたのは、中山さんが小規模作業所としてパレット ミルを立ち上げられた20数年前。アポも取っていなかったのに、中山さんは笑顔で歓迎してくれました。これからフォークリフトで使う木製パレットのリユースを始めるけど、だれもフォークリフトの免許を持っていないので、自分で取ろうと特訓中。やるからには、最低賃金を支払えるだけの事業所にしていきます、と、2時間近くも熱心に語ってくれたのです。私は、たちまち、中山さんのファンになりました」。

中山さんは、どんな壁にぶつかってもくじけることはありません。取引先の都合で、パレットリユースの仕事が減少すると、木工遊具の前処理、焼き菓子の製造、さらに、発泡スチロール減容などの新たな仕事も開拓。施設外就労先も、次々と拡大していきました。

「人を大切にすること。利用者さんの生活を守るために、絶対に給料を下げないこと。なにがあっても、このふたつを貫き通す中山さんの姿を見ていると、みんな、つい、応援したくなってしまうんです」。

精神障害者に寄り添い、農福連携で希望の花を。

「山口さんも、周りが応援したくなる、優しく魅力的なかたです」と、推薦者の、社会福祉法人、八女市社会福祉協議会、総務課長の高山しんいちさん。

社会福祉法人、ハイジ福祉会を設立される前、山口さんは八女市社会福祉協議会が所有する、会館の2階を借りて、活動されていました。

「当時は、精神に障害のあるかたに対する、社会の目はまだ冷たく、国の支援も、身体や、知的障害者が通う事業所と、補助金にも大きな差がありました。それでも、いつも笑顔で頑張る山口さんに、周りの者は勇気をもらい、どんなに厳しいときも、職場の雰囲気は明るく、和やかです。違うフロアで働く私たちまで、元気をいただけていました」。

そんな山口さんの姿に心を動かされた地元企業が、仕事を依頼してくれるようになり、事業所は次第に活気づきます。さらに、ジェイエーを退職し、施設を手伝い始めた現施設長である息子さんが、人手不足に悩む、地元の花卉生産農家と、障害のあるかたを Win-Win でつなぐ、フラワーパッケージセンターを提案。一気に、売上、給料は増額していきました。

いつも前向きな山口さんの姿は、利用者さんと、ご家族に希望を与え続けてくれています。

利用者さんの喜ぶ姿に励まされ、力をもらう。

両施設の紹介動画には、自信にあふれた、利用者さんの姿が映し出されました。「木材を削るのは大変だけど、削れていない箇所を見つけ、仕上げていくのが楽しい」と、パレット ミルの利用者さん。ハイジ福祉会の利用者さんは、「ガーベラの栽培や、収穫も、シイタケのパッケージ作業も、ノルマを達成していく充実感がある」と、話します。

やまうち理事長が、おふたりに、正賞の、あめのみや あつし氏作のブロンズ像、愛と、賞状、副賞賞金、100万円の目録を、ご夫君と、ご令息に花束を贈呈すると、会場は温かい拍手に包まれました。

3名の来賓より祝辞をいただいたあと、両受賞者から、フィナーレとなる喜びのスピーチへ。

「こんなに素晴らしい賞をいただけて。これからも、利用者さんと、地域のみなさんと一緒に歩み続けます」。そう話すおふたりの目には、いままで支えてくれた方々への感謝の涙が浮かんでいました。

前列左から、受賞された、山口さんご令息と、山口由紀子さん、中山みち代さんと、ご夫君。後列左より、森下明利 ヤマトグループ企業労働組合連合会会長、山内雅喜 ヤマト福祉財団理事長、辺見 聡厚生労働省 障害保健福祉部長、長尾 ゆたか ヤマトホールディングス株式会社代表取締役社長。

「こんな素晴らしい賞をいただけて」と、喜びを語る、中山みち代さんと、山口由紀子さん。

「中山さんと一緒に、これからも、滋賀県の障害者福祉を盛り上げていきたい」と、推薦者のエヌピーオー法人、滋賀県社会就労事業振興センター、理事長、城 貴志さん。

「お二人の受賞は、全国各地で頑張る、障害者福祉関係者の良い励みになるでしょう」と、日本社会事業大学専門職大学院、客員教授のかもはら もとみち選考委員。

「この受賞でおぐらさんから教えていただいたことを少しでも形にでき、恩返しができたのかな、と、うれしく思います」と、中山みち代さん。

「応援いただいた、すべてのかたと一緒にいただけた賞です。これからも精神障害のある、ひとりひとりの利用者さんと向き合い続けます」と、山口由紀子さん。

「精神障害者のために、地道に支援、活動されてきた努力が認められて、本当に良かった」と、推薦者の、社会福祉法人、八女市社会福祉協議会、総務課長の高山しんいちさん。

「私たちも障害のあるかたたちの働く場、活躍できる場を広げるために、尽力していきます」と、辺見 聡、厚生労働省、社会、援護局、障害保健福祉部長。

「雇用するだけでなく、働く生きがいを見いだせる仕事を創出する術をおふたりから学び、実現していきたい」と、ヤマトホールディングス株式会社、長尾 ゆたか、代表取締役社長。

「一生懸命働いた給料から、心のこもったカンパを出してくれている組合員に、誇りを持って報告できる受賞者です」と、ヤマトグループ企業労働組合連合会、森下明利会長。

受賞者を訪ねて。

高い給料の仕事を自分に適した、いろんな働き方で選べるように。

社会福祉法人、パレット ミル、常務理事、中山みち代さん。

11月11日、滋賀県栗東市の施設外就労先と、そこから離れた山中にあるパレット ミルの事業所を訪ねました。

偶然の出会いが、次々と。神様が後押ししている?

社会福祉法人パレット ミルには五つの事業所があり、2021年度で、A型の月額平均給料は約15万5000円、B型でも7万8000円を超えるところがあります。

「いろんなかたとの出会いに恵まれ、ここまでやってきました」と、中山さん。以前、授産施設で働いていたときの利用者さんの給料は数千円。これでは自立した生活なんてできない、最賃を払える事業所が必要だ、と、中山さんは考えていました。すると知り合いのワーク アドバイザーから、「パレットの仕事があるが、自分で事業所を開いてみては?」と、情報をもらいます。

「土地も、お金もない、一介のおばさんですから、物件探しも大変です。ダメもとで市役所を訪ねると、使われていない木工所があった。早速、管理する森林組合に問い合わせたら、おいでおいで、と、快諾いただけて、胸をホッと撫で下ろしました」。

しかし、重い木製パレットの積み下ろしには、何百万円もするフォークリフトも必要です。

「銀行への福祉基金の申請は無事に通りましたが、まだお金が足りません。どうしよう、と頭を抱えていたら、なんと、寄付してくれる方が現れたんです。なんだか神様に、作れ、と言われている気がしました」。

施設内外のすべてで、やりがいある仕事と、最賃を。

「パレット ミルは、パレットの製造工場の意味ですが、いろんな色を持ち寄り、夢を描いていける場所、という願いも込めています。でも、売上はわずかしかなく、たった100円の給料でスタートしました」。

中山さんは、中小企業家同友会や、商工会で名刺を配り、地元企業とのつながりを作っていきます。そして、木工遊具の加工、蹄鉄のお守りの製作、クッキーやラスクのオーイーエム受託、発泡スチロールの減容、すなわち発泡スチロールを破砕、溶解、冷却して、再生し、新たな原料にする作業など、多岐に仕事を広げ、給料増額に努めました。

「目の前しか見ていない人には釘打ち機を。少し横が見えている人は操作板やコンベア。周りをちゃんと見ている人はフォークリフト。それぞれの仕事に合わせて機械やじぐも用意し、自分の個性に適した仕事を選べるようにしていきました」。

パレット ミルの給料増額の柱となっているのは、施設外就労です。

「ある企業を訪問した際、フォークリフトに乗り、こんなことができる利用者もいるんですよとアピールしたら、ぜひうちで仕事を手伝ってみないかと言われ、施設外就労につながっていったのです」。現在、施設外就労先は7ヵ所に増えています。

「施設外就労では、施設内で働くより高い給料を交渉します。それがモチベーションになり、ステップアップする力になっていくんです。一般のかたたちと一緒に仕事をし、頼りにされると、それが働く喜びにも。施設内だとダラダラしていた人が、突然シャキッと変わったりするんです。

もちろん施設内で働く人も、全員の頑張りを均等に評価します。毎日、職員が提出してくれる個人の日報に目を通し、この人はここまでできるようになった、と確認し、それを評価して、毎月給料を検討。一度昇給したら下がることはありませんよ」。

そう話す中山さんの笑顔は、お母さんのあたたかさに満ちていました。

パレット ミルの仕事の柱は発泡スチロールの減容です。木製パレットの仕事は減りましたが、そこで培った技術を、木製遊具の前処理の仕事に活かしています。

このままで良いはずがない。どげんかせんといかん。

社会福祉法人、ハイジ福祉会、理事長、山口由紀子さん。

11月15日、利用者さんの働く姿を拝見するため、福岡県八女市、旧道沿いにある、八女作業所、田園地帯の中にある、フラワー パッケージ センターを訪問しました。

精神に障害があるかたには、居場所と仕事が絶対に必要。

「私が精神障害者福祉の道に踏み込んだのは、兄がいたからです。東京の会社に勤めに出ていた兄の様子がおかしいと連絡を受け、連れ帰ってきた母の顔は憔悴し切っていました。あんなに優しかった兄はすっかり変わってしまい、家族に暴言、暴力を振るっては入退院を繰り返す日々が13年間も続きました。そんな兄が、地元の作業所に通うようになると、次第に落ち着いてきたんです。精神障害のある兄にとって、外に居場所、仕事があることがとても大切なんだと痛感しました」と、山口理事長は振り返ります。

2001年、お兄さんが通う作業所の所長になってほしい、と、山口さんに話が来ます。当時は、精神障害のあるかたへの国の支援も、地元の理解も、まだ道半ばの厳しい状況でした。

「仕事はタオル折りぐらいしかありませんでした。しかも、一つ仕上げて1円50銭。これでまともな給料を支払えるはずがない。このままではダメだ。どけんかせんといかん、と心に決めたのです。この言葉は、東国原前知事より、私の方が早かったかな」と、山口理事長は笑います。

人手不足で悩む企業、農家と、互いにメリットある関係へ。

「八女市には、お茶屋さんなどの会社がたくさんあるので、ぜひ仕事を、とお願いしてまわると、株式会社武久さんが施設外就労の話をくださったのです。ところが、他のパートさんから、ジャマになるだけとクレームが。そこで、スライスしたシイタケの計量と、袋詰め作業を事業所に持ち帰り、職員がケアしながら働けるようにしたらどうでしょう、と交渉していったのです」。

このような仕事ぶりを認められ、さまざまな受託作業を受注。事業は軌道に乗りはじめ、2007年にハイジ福祉会を設立します。でも、満足いく給料、仕事量にはほど遠い状況でした。

それを変えるきっかけが、2014年に誕生した、八女パッケージ センターです。ここは、地元農家が生産した、ガーベラなどの花卉を、精神障害のある利用者さんが選果、梱包する職場です。元ジェイエーの職員だった山口さんの次男、山口たかみつ施設長が、ジェイエーに提案し、実現しました。

「農家さんは慢性的な人手不足に悩んでいます。特に、花卉収穫後の選果、選別作業は、夜中までかかってしまう。でも、同じ作業の繰り返しなら、精神に障害のあるかたにマッチングするはず。ガーベラは、通年、短期間で栽培収穫できるので、仕事が途切れず、売上が安定する。農家は時間に余裕ができ、農地拡大にも力を入れることができる。互いに Win-Win になれますよ、と話したのです」と、山口施設長は話します。

まさに、農福連携の先駆けとなるこの事業は、施設の売上の大きな柱へと成長。2021年の月額平均給料は、A型で約8万3000円、B型で3万円を超えるまでになりました。

「いまの私の仕事は、利用者さん、ひとりひとりに寄り添い続けること。急ぐことはない、そのまま続ければ、いつか、こんなに良くなっとる、と、思うときが必ずくるから、楽しみに頑張りましょう、といつも声をかけているんですよ」と、山口理事長は、話しています。

農家さんから集めたガーベラなどを、選果、梱包する、フラワー パッケージ センター。キャップがけは、機械や、手作業で。

受賞の言葉。

自分が納得できる、やり切った感の日本一に。

社会福祉法人、パレット ミル、常務理事、中山みち代さん。

1989年 、社会福祉法人、湘南学園の養護施設。1993年、同園の知的通所授産施設に勤務。1996年、自立就労センター、パレット ミル、設立。2002年、社会福祉法人に認可。社会福祉法人パレット ミル へ。2005年、グループホーム、パレット ミルの家、開設。2006年、事業所型作業所、パワフル開設。同年、自立就労センター、パレット ミルを就労移行支援事業に移行。2009年、多機能型事業所、パワフルと、就労継続支援B型に組織変更。2014年、 特定相談支援事業所、コネクト、開設。2019年、就労支援事業所、カラフル、開設。

ありがとう、に、込めた、ヤマトさんへの感謝の気持ち。

ヤマト福祉財団、おぐらまさお賞は、私にとって特別な賞です。

開所当時、どう頑張っても最低賃金どころか、わずかな給料しか払えず、悩んでいた私を鼓舞してくれたのが、当時のパワーアップ セミナーでのおぐらさんの教えでした。

「あなたは1万円で生活できますか?」。小倉さんは、働いて高い給料を得る大切さとともに、お金を稼ぐことが下手な私たちに、企業経営のノウハウを、厳しく、丁寧に、指導してくれました。それ以来、「よし、地元企業に何度断られても、利用者さんのために営業し続けよう。私は納得するまであきらめない。やり切った感の日本一になってやる」と、心に決めたんです。

いま、私たちは、コロナや、ウッドショックの渦中にありますが、決して負けません。品質、コスト、納期を向上。発泡スチロール減容などの3R関連で、自分が社会に役立っている意義を感じながら、最低賃金達成を目指していきます。

今回の受賞は、「さらに上を目指しなさい」というおぐらさんからのメッセージ。そんなあたたかな気持ちを、ヤマトのドライバーさんは、荷物と一緒に届けてくれている。だから受け取るときは、いろんな感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と、伝えています。

私がここにいるのは、精神障害者の兄のおかげ。

社会福祉法人、ハイジ福祉会、理事長、山口由紀子さん。

1998年、八女地区、精神障害者家族会、のぞみ会、役員に就任。2001年 、小規模授産施設、八女共同作業所、所長に就任。2003年、福岡県、精神障害者家族会、連合会、理事に就任。2007年、社会福祉法人、ハイジ福祉会を設立し、理事長に。同年、就労継続支援B型事業所、八女作業所、設立。2014年、 就労継続支援A型事業所、フラワー パッケージ センター、設立。 2016年、西日本鉄道株式会社の精神障害者への交通運賃割引適応。2018年、厚生労働大臣賞、受賞。2020年、共同生活援助、ぐるーぷほーむ ハイジ 壱番館、設立。

農家さんと一緒に、八女市を、ガーベラの一大生産地へ。

私がこんな晴れやかな場所に立っていられるのは、いまは天国にいる兄のおかげです。昔は、精神障害者である兄を恨んだこともありました。でも、とても大きな荷物を背負って生きているんだ、と理解できたとき、私のなかでなにかが変わったのです。

以来、知的障害や、身体障害のかたにはいろんなサービスがあるのに、精神障害者にはなぜないのか、と、多くのご家族と一緒に、訴え続けてきました。交通機関の割引では、西鉄様よりアンケートを採ってほしいと言われ、全国から約62万人の声を集めたこともあります。それを実現できたのは、どげんかせんといかん、と、同じ決意をいだいた仲間が、日本中にたくさんいてくれたからです。

いまは、精神に障害のあるかたが、もっといろいろな働き方ができるように農園も作りました。昨年はガーベラ54万本、トマト、14トンを生産しています。自分で定植した苗に花を咲かせたい、と、草取りなどに黙々と精を出す利用者さんの姿は、頼もしい限りです。

ハイジ福祉会は、ジェイエーの正会員にもなりました。地元の農家さんと一緒に、八女市をガーベラの一大生産地にしていくことも、新しい目標になっています。

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