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巻頭特集。ヤマトグループの障害者雇用。

誰もが働きやすい企業を目指して。

法定雇用率が段階的に引き上げられ、2026年には2.7パーセントになります。ヤマトグループでは、2023年2月現在、雇用率2.88パーセント、3,625名の、障害のある社員が働いています。

前半では、山内理事長と、小菅副社長による、ヤマトグループの障害者雇用についての対談をお送りします。後半の、障害者が働く現地レポートからは、どんな仕事があるかを明確にした採用活動をすることが、障害のあるかたの、就活の背中を押すという姿が浮かび上がってきました。

理事長対談。

誰もが分け隔てなくいっしょに働く。より良い企業、社会の実現を目指して、今できること。

障害者の法定雇用率が、段階的に2.7パーセントまで引き上げられます。そうした状況下にあって、ヤマトグループでの障害者雇用の現状と、この先の目指すべき姿について、小菅副社長を招いて、その展望を伺いました。

公益財団法人、ヤマト福祉財団、理事長、山内雅喜。

ヤマトホールディングス株式会社、代表取締役、副社長執行役員、小菅,泰治。

ヤマトグループの障害者雇用、3,625名。

山内雅喜理事長。以下、理事長:ヤマトグループの障害者雇用率は2.88パーセントに達し、引き上げ水準をすでに超えています。実際にはどのような職場、職種で障害のあるかたが働いていらっしゃいますか?

小菅,泰治副社長。以下、副社長:昔は、ハブとなる物流ターミナル、ベース店での採用が中心だったのですが、現在では、町中の営業所で働かれているかたも多いです。

理事長:そう聞くと、一般の方は配達をしているのかなと思うかもしれませんが、実際はどのような業務に携わっているのでしょうか? 具体的な例があれば。

副社長:営業所では、お客様とちょくにやりとりする、ゲストオペレーターと私たちが呼んでいる荷受け業務の仕事に、障害のあるかたがかなり多く働いています。

理事長:すると、お客様に応対する仕事だったり、お預かりした荷物の梱包補助や、それを裏へ運んだり、伝票のやりとりだったり。営業所での業務を細かく切り分けて、その中から、障害のあるかた、ひとりひとりの特性に合った仕事を担当していただいているということでしょうか?

副社長:そうですね。どんな仕事が任せられるのか、細分化した業務の中から、どの部分を担っていただくのかを事前にしっかりと定めて、取り組んでもらっています。昔は、宅急便の業務そのものをひとりのセールスドライバーでこなしていましたが、現在では、稼働別仕分けの分離など、工程別での考え方になっています。

理事長:この工程別は、長時間勤務の解消や、希望する時間で働きやすくなったり、障害のあるかたにとっても、わざわざベース店まで通勤せずとも、地元に働く場が増えるといったメリットが生まれるわけですね。

副社長:健常者か障害者かといったことはあまり意味がなく、細分化された業務の中から、そのかた、そのかたに合った業務に就いてもらう。自身の仕事が明確になると、達成度合いもしっかりと確認できるので、ご本人のやりがいにもつながるようです。

地域と、そこに暮らす人を思う気持ち、共に働こうという意識は浸透している。

理事長:ただ役割分担や連携を考えると、営業所内で理解や、コミュニケーションがしっかりと取れていないと難しいと思うのですが、いかがですか?

副社長:そこは分け隔てなく会話ができていると思います。

理事長:全国で3000超の職場があるわけですから、障害の有無にとらわれず、みんなで働いていこうという気持ちを、社員、ひとりひとりが持つことが大事ですね。

副社長:みんな、それなりに意識を持っていると感じています。ヤマト グループとして経営理念、企業姿勢に謳っているだけでなく、日々、そのような話が口に上りますので、22万人という大きな数の社員ですが、かなり浸透しているのではないかと思います。

理事長:夏のカンパでは労働組合員、ひとりひとりが寄付をしていただき、その支援にとても感謝しています。宅急便は、地域の生活や、経済に根ざして成り立ってきたビジネスなので、地域に対する思いや、貢献という気持ちが強いんですね。

副社長:地域に根ざすという意識は各社員が持っていると思います。全国規模の会社で、日本,国民、すべてのかたがお客様ですけど、そうしたお客様の中には、障害のあるかたをはじめ、さまざまな背景を持ったかたがいらっしゃいます。そうした方々と日々、接していることが、社員のマインドに影響を及ぼしているのでしょう。

理事長:日本全国に965万人の障害者がいて、その割合は13人に1人というのが実態ですから、各セールス ドライバーが担当するエリアの中にも、障害のあるかたが多くいらっしゃるはずなんです。先日、車いすのかたを、町中でお助けしているセールス ドライバーの動画が、エスエヌエスに上げられて、話題になりました。

副社長:多分、あれは、彼の自発的な行動だったのではないでしょうか。とくに会社として、こういうときには何をしなさい、と言っているわけではないので。まったくもって、自然な動きだったんだろうと思います。

障害者雇用の推進者、相談員を、社内のシステムとして整備。

理事長:そういった、心持ちの部分と同時に、それぞれ特性を持つ、障害のあるかたに働いていただけるよう、とくに工夫している部分はありますか?

副社長:まずは、そのかたの障害について、しっかりと理解することが大事です。そこで、障害のある社員に寄り添う存在が必要、という話になるんですが、各主管支店に、2名任命されているのが、障害者雇用推進者です。その名の通り、支援学校や、職業訓練所などとも関係を持って、該当地域で、障害のあるかたの雇用を支援していく役割で、定期的に、全国の推進者が集まり、情報共有しながら、切磋琢磨しています。それともうひとつ、障害者職業生活相談員という者が現在、74名います。この連合体で、全国を網羅しています。

理事長:そうすると、各地域の主管支店を中心としながら、雇用をサポートしたり、勤務するうえで、個別に相談に乗ったりできる形になっているわけですか?

副社長:はい。相談員は高齢、障害、求職者雇用支援機構、JEED が実施する認定講習を受けた社員が選任され、現場での支援と相談の窓口になっています。じつは、私も、かつて相談員をしました。ただし、主管支店に、一律的2名の推進者というのは、障害者雇用を促進していくうえで改善の余地があると考えていて、より適切な配置をしたいと思っています。

大切なことは、誰もが働きやすい企業に成長していくこと。

理事長:前述のように、障害者の法定雇用率を2.7パーセントに、国は引き上げます。ヤマトグループはすでにそれを超えているわけですが、今後グループとしては、どのような方向性をお考えなのでしょうか?

副社長:正直言って、法定雇用率自体を強く意識しているわけではありません。法定雇用率に換算されない、20時間未満の、社員の障害者雇用も率先しておこなっていますし、クロネコ ディーエム便の配達も、全国で千人を超えるかたにお願いしていますが、これは、作業所への委託契約で、雇用率に算定されません。でも、クロネコ ディーエム便は、障害のあるかたに非常に向いた、良い仕事だと思っています。むしろ、大事なことは、障害のあるかたと健常者が、意識せずに、共に働きやすい職場を、ソフトとハードの両面でより強固にしていくこと。法定雇用率のような数字は、その結果、ついてくるものだと理解しています。

理事長:具体的にご紹介できることは?

副社長:ユニバーサルデザインのコンサルタントをおこなっている企業、ミライロと協力して、ヤマトグループ独自のユニバーサルマナー検定をおこなっています。検定の前提として、障害のあるかたも含めて、ありがちな困りごとや、適切なサポートを研修で学びます。また、現在は、大都市圏を中心に、営業所の大型化を進めています。新たに設ける営業所では、スロープや、点字ブロックなどユニバーサルデザインに配慮した設計ガイドラインを策定しましたので、これに沿って、より人に優しい施設にしていく予定です。

変化する社会が私たちに求めるもの。真に問われる企業価値とは。

理事長:最後に、小菅さん自身の、今後、こうありたいという社会のイメージがあれば教えてください。

副社長:大袈裟に聞こえるかもしれませんが、日本に限らず、世界中で、人と人との違いを飛び越え、分け隔てを意識しない社会に、どんどん進んでいるように思います。そのためにも、足元から、一歩ずつクリアしていかなければと考えています。

理事長:分け隔てのない、共生が当たり前の社会が理想で、ヤマトグループの目指すべきところというわけですね。

副社長:近年は、経済的な利益だとか、売上だとか、財務的な数字だけで企業は評価されなくなってきました。むしろ、重視される点は、世の中に、その企業がどれだけ貢献しているかにシフトしてきています。地域に貢献したい、みんなでいっしょに働いていこうという気持ちを、社員も十分にいだいていると思いますので、グループとしても、そうした思いを結集して、より良い企業、より良い社会の実現を目指したいと思います。

理事長:今日はありがとうございました。

現地レポート。ヤマトグループで活躍する仲間に聞きました。

業務を明確化し、その役割を果たせるかどうか、障害の有無にとらわれずに皆で働ける企業へ。ヤマトグループで働く、障害のある社員の職場を訪ねました。ご本人に加え、上司や同僚、推進者、相談員の方々にも伺ったお話のエッセンスをご紹介します。

羽田ロジセンター。東京都大田区。

しっかりとした作業設計で、職場が好き、と言える環境に。

医薬品のカタログを在庫管理し、製薬会社のエムアール、医療情報担当者様宛に発送している部署です。製薬会社では、これまで全国に分散していた在庫の一元管理ができ、エムアールかたにとっては、自宅や、最寄りの宅急便営業所で、その日に必要なカタログを受け取って、病院への営業に回ることができます。

たかばさんは、羽田ロジセンターに5人いる、障害のある社員のひとりです。ウェブ上の発注を確認し、必要な冊子、部数をピッキングして梱包、発送するところまでを、一般社員とまったく同様にこなしています。

採用は別部署でおこなわれていますが、販促チームでは、配属されたかたの能力を見て業務を決める一方で、どの案件においても、帳票や手順を統一化するとともに、機械化を進めて、誰でもシンプルに作業ができるよう設計しています。

たかば優太さんの吹き出し">

入社は2007年です。得意なことは、丁寧にものを持ってきて、検品することです。逆に、梱包はちょっと苦手です。職場の人は、分からなかったら、ちゃんと教えてくれるので優しいです。自分も分かることは教えます。丁寧に作業して、お客様に届けることができる、この仕事が好きです。もっと仕事ができるようになりたいです。

ありがとうの言葉と作業の幅に感じるやり甲斐。

人材採用支援をおこなう企業から委託を受け、採用物流センターとして機能しているチームです。企業の採用や研修で実施する適性検査などのマークシートや、問題集を指定先へ発送。戻ってきた回答シートを採点し、結果報告までおこなっています。同チーム、精鋭30人のうち、3名が障害のある社員です。上長によれば、これまで障害のある社員とともに働いて、困ったようなことはないと言います。

最初は、豊洲の人事課で社内事務をしていたという横倉さんは、2002年入社、社歴21年の大ベテランです。羽田ロジセンターに異動になった6年前から現在のチームでの業務に当たっています。回答済みマークシートの受付業務が横倉さんのおもな仕事。送付元の企業や数量を確認し、採点をおこなう次の部署へと回しています。

以前は豊洲で、ヤマトシステム開発株式会社の社員さんへ、給料明細を分けて発送する仕事をしていました。この部署では、届いた採点シートを確認する以外にも、いろいろな作業があって、やりがいがあります。困ったことがあっても、みんな声をかけてくれますし、「ありがとう」と言ってもらえるので楽しいです。この仕事を続けていきたいです。

採用物流チーム。左から、川端邦彦さん、大木のぞみさん、横倉恵さん、小嶋みどりさん、小山俊幸さん。

販促チーム。左から相談員の高橋秀明さん、たかば優太さん、柴垣 わたるさん。

深作営業所。埼玉県さいたま市。

構内作業の大事な軸だ、と、所長が全幅の信頼を寄せるのは、知的障害のある2人の社員です。

入社して1年9ヵ月と、まだフレッシュな佐藤さんは、就労支援施設で一般就労に向けた訓練を積んできました。当初より勤務を1時間延ばし、現在は5時間勤務。ヤマトが初めての職場です。もうおひとりの服部さんは、入社2年9ヵ月、1日7時間勤務で働いています。2人とも荷物の仕分けなどを中心に、服部さんはディーエム便の配達も担当。佐藤さんはクールコンテナの拭き取りや、構内清掃に自発的に取り組み、励んでいます。

仕事面で太鼓判を押す所長ですが、交番作成に当たっては、1人だけの時間は作らないよう計画しています。特に若い佐藤さんは、トップギアで、ともすれば頑張りすぎる傾向があるからです。万が一、本人が困ったり、体調不良になったときに、誰かが声をかけられるようにとの配慮です。一見、同じ種類の障害でも、人によってそれぞれ。相手のことをよく知ることが重要だと所長は考えています。

早朝アシストや、集荷した荷物の夜の仕分けといった時間帯の人手不足は多くの営業所がかかえる悩みです。所長や推進員を交えたヒアリングでは、こうした時間帯にも働く需要があることが、意欲のある障害者に、十分、伝わっていないのではないかという意見もありました。

重たい荷物を、ボックスにきれいに詰めたときの達成感。

仕事をするのが初めてのことだったので、体力の加減が分からず、早いうちに使い切って、後半、使えなくなってしまうことがありました。今はだいぶ慣れてきました。重さを考えた積み方も分かってきて、得意に。ボックスに、きれいに荷物を詰めるのは楽しいです。

今、5時間働いているんですけど、もっと延ばしたいと思っています。お給料を貯めて、車の免許を取るのが目標です。

仕事は8割がつらい。でも、社会に復帰できた。

荷物を探す作業は得意ですが、指定日の仕分けが苦手で、これをいかに改善するかが悩みです。あと、自転車の運転も事故を起こさないよう気をつけています。

これまでに、時給300円の仕事も経験しました。ヤマトで働くようになって、一人暮らしが叶いました。これ以上のことは考えたことがありません。給料泥棒にはなりたくない。お世話になっている分は貢献したい、と考えるようになりました。

左から推進員のいなはし淳一さん、所長の倉橋慎太郎さん、服部直弘さん、佐藤 亘さん、作業リーダーの半田明美さん。

赤坂1丁目営業所。東京都港区。

互いに意見を出し合える、改善に前向きな職場だからこそ。

ビジネス街のセンターで、G.O.P. として勤務する濱谷さん。聴覚障害がありますが、周囲が静かであれば、会話に困ることは概ねありません。週3日で、15時から、1日5時間勤務。先輩の西浦菜穂子さんが退勤する17時以降は、ほぼ一人でお店を守っています。

同センターは、相談しやすい雰囲気があり、困ったことがあれば話し合い、改善策を実際に試してみる点が、前職他社と違い、働きやすい、と濱谷さん。主管支店の推進者も、月1回の面談を、希望する障害のある社員に実施しています。

お客様から感謝の言葉をいただくと、気持ちも前に進み、励みになります。逆に悔しいのは、うまくいかなかったときに、もっとできることはなかったかと。僕はデザイン学を学んでいたこともあり、説明パネルの設置など、思いつく改善策は提案するようにしています。それを、周囲の方が前向きに聞いてくださるのは有り難いです。

お客様にとって分かりやすくするのは、障害があったり国籍が異なる働き手にとっても利点があります。僕は、息子たちの世代が大人になったときに、誰もが安心して働ける社会だと感じられる、ユニバーサルデザインな社会の実現に、ヤマトは貢献できる存在になっていると信じています。

左から、先輩の西浦菜穂子さん、濱谷秀平さん、相談員の松川じゅりさん。

ヤマトコンタクトサービス株式会社、関東マザー第一コンタクトセンター。埼玉県川口市。

障害の有無を越えて、正社員にぜひ挑戦したい。

2017年からパート社員として働く川崎さん。かつて、旧,さいきょう主管支店で同業務を5年ほど担当していた経験者です。通勤距離と、体力的な問題で退社しましたが、通いやすい川口駅前のコンタクトセンターでの採用をネットで見つけ、再応募しました。このコンタクトセンターは、宅急便をはじめとする荷物の集荷、再配達や、その他、お問い合わせの電話に応対する専門部署です。

昨年3月からは、センター勤務は月に数日ほどで、基本は自宅でのリモート勤務による受電に挑戦しています。上司や同僚の顔が見えない点は不安ですが、気軽に電話したり、チャットで相談できるため孤立感はないそう。むしろ、利点としては、電話に集中できるほか、通勤による身体への負担も少なく、午前と夜といった、分割したシフトも組めるのは、本人にも会社にもメリットとなっています。

足が悪く片杖なので、悪天候に傘を差して通勤するといったことの負担が大きくありました。この仕事は、幅広い年齢層からご連絡をいただき、言葉遣いを学べ、クレームも、最後には、「分かったよ、ありがとう」と言って、電話を切っていただけると、やりがいを感じます。当時、女性のセンター長が親身に相談に乗ってくださり、この会社だったら、また同じ業務でも良いかなと思えました。自分は恵まれているなと感じますが、障害のある人でも、正社員に気軽に挑戦できる環境や、キャリアアップのモデルがあったらうれしいです。

できることは限られていても、会社にはしっかりと貢献したい。

出版の仕事をしていた荒川さんは、26年前、過労で駅ホームからの転落事故に遭い、両足が義足に。その後、義足生活者向けの情報誌発行を計画していましたが、東日本大震災の影響を受け、企画は頓挫してしまいます。

気を取り直し、同年、ネットで見つけた、北東京コールセンターのアルバイトに応募し、入社しました。

2年後には、新たに発足した、川口のコンタクトセンターへ。現在は、リーダーエキスパートとして、各オペレーターのサポート、管理を担当しています。勤務は、ほぼ椅子に座ることなく、受電状況につねに気を配り、指示出しや、エスカレーションしたクレームの対応に当たっています。

約款の細部までしっかり覚えて、確認をしておかないと、対応できませんので、クレームも時には大変ですが、肉体的にはそれほどでもありません。周りからも、「座っていいよ」と、気をつかっていただいたりしています。

個人的には、せっかくヤマトグループに働かせてもらっているのに、身体に障害があって、限られた仕事しかできない。そんな状況下で、この業務に正社員として働くことができ、有り難いです。昨年に還暦を迎え、あと5年です。アシスタントマネージャーの試験を受け、いまは結果待ちですが、会社には、できるかぎり貢献したいと思っています。

前列左から川崎りかなさん、荒川よしゆきさん、後列はリーダーのみなさん、後列右から2番目が愛甲まさふみセンター長。

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