ヤマトグループの障害者雇用、3,625名。
山内雅喜理事長。以下、理事長:ヤマトグループの障害者雇用率は2.88パーセントに達し、引き上げ水準をすでに超えています。実際にはどのような職場、職種で障害のあるかたが働いていらっしゃいますか?
小菅,泰治副社長。以下、副社長:昔は、ハブとなる物流ターミナル、ベース店での採用が中心だったのですが、現在では、町中の営業所で働かれているかたも多いです。
理事長:そう聞くと、一般の方は配達をしているのかなと思うかもしれませんが、実際はどのような業務に携わっているのでしょうか? 具体的な例があれば。
副社長:営業所では、お客様とちょくにやりとりする、ゲストオペレーターと私たちが呼んでいる荷受け業務の仕事に、障害のあるかたがかなり多く働いています。
理事長:すると、お客様に応対する仕事だったり、お預かりした荷物の梱包補助や、それを裏へ運んだり、伝票のやりとりだったり。営業所での業務を細かく切り分けて、その中から、障害のあるかた、ひとりひとりの特性に合った仕事を担当していただいているということでしょうか?
副社長:そうですね。どんな仕事が任せられるのか、細分化した業務の中から、どの部分を担っていただくのかを事前にしっかりと定めて、取り組んでもらっています。昔は、宅急便の業務そのものをひとりのセールスドライバーでこなしていましたが、現在では、稼働別仕分けの分離など、工程別での考え方になっています。
理事長:この工程別は、長時間勤務の解消や、希望する時間で働きやすくなったり、障害のあるかたにとっても、わざわざベース店まで通勤せずとも、地元に働く場が増えるといったメリットが生まれるわけですね。
副社長:健常者か障害者かといったことはあまり意味がなく、細分化された業務の中から、そのかた、そのかたに合った業務に就いてもらう。自身の仕事が明確になると、達成度合いもしっかりと確認できるので、ご本人のやりがいにもつながるようです。
地域と、そこに暮らす人を思う気持ち、共に働こうという意識は浸透している。
理事長:ただ役割分担や連携を考えると、営業所内で理解や、コミュニケーションがしっかりと取れていないと難しいと思うのですが、いかがですか?
副社長:そこは分け隔てなく会話ができていると思います。
理事長:全国で3000超の職場があるわけですから、障害の有無にとらわれず、みんなで働いていこうという気持ちを、社員、ひとりひとりが持つことが大事ですね。
副社長:みんな、それなりに意識を持っていると感じています。ヤマト グループとして経営理念、企業姿勢に謳っているだけでなく、日々、そのような話が口に上りますので、22万人という大きな数の社員ですが、かなり浸透しているのではないかと思います。
理事長:夏のカンパでは労働組合員、ひとりひとりが寄付をしていただき、その支援にとても感謝しています。宅急便は、地域の生活や、経済に根ざして成り立ってきたビジネスなので、地域に対する思いや、貢献という気持ちが強いんですね。
副社長:地域に根ざすという意識は各社員が持っていると思います。全国規模の会社で、日本,国民、すべてのかたがお客様ですけど、そうしたお客様の中には、障害のあるかたをはじめ、さまざまな背景を持ったかたがいらっしゃいます。そうした方々と日々、接していることが、社員のマインドに影響を及ぼしているのでしょう。
理事長:日本全国に965万人の障害者がいて、その割合は13人に1人というのが実態ですから、各セールス ドライバーが担当するエリアの中にも、障害のあるかたが多くいらっしゃるはずなんです。先日、車いすのかたを、町中でお助けしているセールス ドライバーの動画が、エスエヌエスに上げられて、話題になりました。
副社長:多分、あれは、彼の自発的な行動だったのではないでしょうか。とくに会社として、こういうときには何をしなさい、と言っているわけではないので。まったくもって、自然な動きだったんだろうと思います。
障害者雇用の推進者、相談員を、社内のシステムとして整備。
理事長:そういった、心持ちの部分と同時に、それぞれ特性を持つ、障害のあるかたに働いていただけるよう、とくに工夫している部分はありますか?
副社長:まずは、そのかたの障害について、しっかりと理解することが大事です。そこで、障害のある社員に寄り添う存在が必要、という話になるんですが、各主管支店に、2名任命されているのが、障害者雇用推進者です。その名の通り、支援学校や、職業訓練所などとも関係を持って、該当地域で、障害のあるかたの雇用を支援していく役割で、定期的に、全国の推進者が集まり、情報共有しながら、切磋琢磨しています。それともうひとつ、障害者職業生活相談員という者が現在、74名います。この連合体で、全国を網羅しています。
理事長:そうすると、各地域の主管支店を中心としながら、雇用をサポートしたり、勤務するうえで、個別に相談に乗ったりできる形になっているわけですか?
副社長:はい。相談員は高齢、障害、求職者雇用支援機構、JEED が実施する認定講習を受けた社員が選任され、現場での支援と相談の窓口になっています。じつは、私も、かつて相談員をしました。ただし、主管支店に、一律的2名の推進者というのは、障害者雇用を促進していくうえで改善の余地があると考えていて、より適切な配置をしたいと思っています。
大切なことは、誰もが働きやすい企業に成長していくこと。
理事長:前述のように、障害者の法定雇用率を2.7パーセントに、国は引き上げます。ヤマトグループはすでにそれを超えているわけですが、今後グループとしては、どのような方向性をお考えなのでしょうか?
副社長:正直言って、法定雇用率自体を強く意識しているわけではありません。法定雇用率に換算されない、20時間未満の、社員の障害者雇用も率先しておこなっていますし、クロネコ ディーエム便の配達も、全国で千人を超えるかたにお願いしていますが、これは、作業所への委託契約で、雇用率に算定されません。でも、クロネコ ディーエム便は、障害のあるかたに非常に向いた、良い仕事だと思っています。むしろ、大事なことは、障害のあるかたと健常者が、意識せずに、共に働きやすい職場を、ソフトとハードの両面でより強固にしていくこと。法定雇用率のような数字は、その結果、ついてくるものだと理解しています。
理事長:具体的にご紹介できることは?
副社長:ユニバーサルデザインのコンサルタントをおこなっている企業、ミライロと協力して、ヤマトグループ独自のユニバーサルマナー検定をおこなっています。検定の前提として、障害のあるかたも含めて、ありがちな困りごとや、適切なサポートを研修で学びます。また、現在は、大都市圏を中心に、営業所の大型化を進めています。新たに設ける営業所では、スロープや、点字ブロックなどユニバーサルデザインに配慮した設計ガイドラインを策定しましたので、これに沿って、より人に優しい施設にしていく予定です。
変化する社会が私たちに求めるもの。真に問われる企業価値とは。
理事長:最後に、小菅さん自身の、今後、こうありたいという社会のイメージがあれば教えてください。
副社長:大袈裟に聞こえるかもしれませんが、日本に限らず、世界中で、人と人との違いを飛び越え、分け隔てを意識しない社会に、どんどん進んでいるように思います。そのためにも、足元から、一歩ずつクリアしていかなければと考えています。
理事長:分け隔てのない、共生が当たり前の社会が理想で、ヤマトグループの目指すべきところというわけですね。
副社長:近年は、経済的な利益だとか、売上だとか、財務的な数字だけで企業は評価されなくなってきました。むしろ、重視される点は、世の中に、その企業がどれだけ貢献しているかにシフトしてきています。地域に貢献したい、みんなでいっしょに働いていこうという気持ちを、社員も十分にいだいていると思いますので、グループとしても、そうした思いを結集して、より良い企業、より良い社会の実現を目指したいと思います。
理事長:今日はありがとうございました。