安全安心の野菜を観光客向けに。
「昔からの農山村の趣きが残っているのに、奈良市内から車で30分ほどなので、町の近くにある田舎で売り出そうとしているんです」と、山添村を紹介するのは、どうで,で働いて12年目になるという下谷のぼるさん。
村の県立,月ヶ瀬,神野山自然公園は、ウメやツツジの名所にして、関西でも屈指の天体観測スポットとして知られています。コロナ禍で観光客が激減したのは同村も同じですが、売上回復を目指して、夢工房,どうで,は、当財団の昨年度助成事業に応募し、産直施設の整備強化と、農産物加工場の新設に挑みました。
お邪魔したのは2月の末。無駄遣いを避け、利用者の仕事をつくる意図もあって、できるところは自分たちで工事をしてきました。お世話をするされるではなく、さまざまな背景を持った人たちが共に能力を発揮して、地域活動の担い手になることをモットーとする、どうで,らしい考え方です。
厨房となる加工場は建設の大詰めでしたが、産直施設の魅力アップを狙う、動物ふれあいコーナーは立派に完成していました。
夢工房,どうで,の主力事業は、農薬や化学肥料を使わずに、土づくりから取り組む野菜づくり。近隣のスーパーや、2015年に開設した産直施設で販売しています。2年後には産直施設に小さな動物園を設け、訪れたファミリーを楽しませてきました。
動物園の入場料こそ無料ですが、販売していた、紙コップ入り1個100円の餌の販売数アップが、ふれあいコーナーの新設で大いに期待できます。餌は、他の活動で出る野菜くずのため、利益率も高く優秀な収入源です。利用者の仕事も増やせて、いいことずくめ。
2019年度は、農産品や動物の餌など、直売所だけで、約1600万円の売上があったと言います。利用者への給料も月3万円を達成していました。
コロナがリセットしたものは。
当時、「農泊事業を計画して、農水省の助成を取れていたんですが」。そんな矢先のコロナ感染拡大でした。
「都市部のショッピングモールで開催された、飲食店応援企画のお弁当販売会に参加したり、換気のよいガレージでマルシェを開いてみたり。空回りもあったとは思いますが」。
がむしゃらに行動しましたが、それでも売上は3分の2に落ち込みました。しかし、その一方で、コロナ禍は悪いことばかりではなかった、と下谷さんは言います。
「日々のルーティンの仕事がなくなって、さて、何をやろうかと見回してみたら、いろんなつながりができていたのに気づいたんです。
芋掘り体験や、地域の年配の方が先生になっておこなう干し柿づくりのランチ付きイベントを実施したり、外へ出向いて販売する機会が増えたことが、お客さんや、そこに出店する飲食店さん、農家のかたなどと、改めてコミュニケーションを取るよい契機になったんです」。
目指すのは山添村のセールスマン。
そうした繋がりから生まれた変化の象徴が、東京の昭和女子大学の学生プロジェクトとコラボレーションした商品開発です。
環境デザイン学科でデザインプロデュースを学ぶ学生さんたちと企画を練り、パッケージデザインを任せて誕生したのは、大和ほうじ茶ブレンドハーブティー。山添村は、古くからお茶の栽培が盛んで、特産の一つでしたが、5つの,風味を飲み比べできるようにすると、今年に入って日経新聞にも取りあげられました。
村に遊びにきた同大の卒業生と知り合いになり、その関係で研究室のフィールドワークに協力するようになったのがきっかけでした。
「コロナの関係で、しばらくはオンラインでのやりとりでしたが、去年、初めて、村でフィールドワークができるようになって」と、どうで,の商品、企画責任者の夏目さん。
どうで,の看板商品のひとつ、ゆず胡椒も、村の高齢農家との協働が生んだ逸品です。
「育てた唐辛子を塩漬けするまでならできる、というおばあさんがいて、でも柚子の収穫がお年寄りには難しく、加工するにも、実から皮を剥くのが一苦労。そこで役割を分担。仕入れた唐辛子の塩漬けと柚子を調合し、瓶詰めから販売を引き受けることに」と、夏目さん。
下谷さんによれば、現在ではそこから派生して、ゆず胡椒づくり体験も展開しているのだとか。ノウハク用に、と考えていたコ民家を活用して、一昨年から始めたそうです。
村の宝物を掘り起して光を当てる,どうで。今後は、加工などの分野で、外部とも積極的に協力しつつ、商品によっては海外展開にも挑戦したいと展望は膨らみます。
「ひとつテーマがあって、単に商売だけでなく、関係人口を増やしていきたいと思っているんです。山添村と交流を持ってくれるかたたちを増やそうと。それで人口減に直面している村を元気にしたいんです」と、下谷さん。
今年度から本格始動する、動物ふれあいコーナーと、食品加工場。その効果が、どうで,と、村にどんな輝きをもたらすのか。これからにますます注目です。