泣きながら覚えた。今では誰よりも詳しくなって。
「職員さんに間違いを指摘されると、悔しくて何度も泣きました」と、少し照れながら振り返るのは、メイト歴9年になる藤原信一さん。最初は、住所や、ポストの位置などを、なかなか覚えられなかったといいます。しかし、今では、もう職員よりも詳しい大ベテランに。メイトさんの中心メンバーとなっています。
障害福祉サービス事業所、工房パルコは、9年前に、クロネコ ディーエム便配達事業をスタートしました。約10名のメイトさんが手分けして、自転車で近隣のエリアへ配達。今では、このまちにすっかり溶け込んでいます。
「藤原さんは全エリアを覚えているので、誰かが休んでもカバーしてくれるんですよ」と、職員の遠藤隼人さんも、藤原さんを頼りにします。
藤原さんをはじめとするメイトさんたちは、ディーエム便配達が終わると、工房パルコが地域の企業から受託する、ネジの袋詰めなども担当。どの仕事もテキパキとこなしています。
ひとりで配達できた自信が、他の仕事にも生きている。
メイトさんの後藤真耶さんのキャリアは丸3年。「先輩の補助をしながら仕事を覚えました。ひとりで配達するようになって、仕事がすごく楽しくなった」と、話します。
後藤さんは、宮城県大崎合同庁舎の食堂業務委託を受けて開店した、キッチンらぽーる での皿洗いや、段ボール工場での解体作業など、施設外での仕事にも積極的に参加。ディーエム便配達などで得た自信をチカラに、一般就労を目指しています。
好きなヘルメットを選んで、颯爽と町の中へ。
工房パルコのディーエム便配達は、朝、ヤマト運輸のドライバーが届けたディーエム便を、その日、担当するメイトさんたちが仕分けするところから始まります。スムーズに仕分けが終わると、メイトさんたちは荷物と、地図と、端末を持ち、最後は、ヘルメットをかぶって、準備が完了です。
工房パルコでは、安全に、楽しみながら配達してほしい、と、おしゃれなヘルメットを色違いで用意。「初めは恥ずかしがる人もいましたが、今では、さっと好みの色を選んでいますよ」と、職員の遠藤さんは笑います。
管理者の齋藤裕美さんは、「ヤマト運輸のユニフォームを着ると、ドライバーさんと同じ仕事をしているという意識からか、表情が変わります」と、話します。ディーエム便配達を通して仕事の楽しさを知ったメイトさんたち。凛々しい表情で、それぞれ、担当の配達エリアへ、颯爽と向かって行きました。
米粉のパンは、やさしい笑顔の味がする。
工房パルコは、開所時から、米どころという地域性を活かして、ひとめぼれの米粉を使ったパン製造にも取り組んでいます。最初は業者さんに指導してもらいながら、みんなで工夫を重ねていると、やがて、おいしいと評判に。
利用者さんは、パンの袋詰め、シール貼りなどのほかに、卵を塗るなどのパン作りも担当しています。パン生地を伸ばすことも、器用にまるめる、まるめという職人さんのような手仕事も、今ではお手のもの。小さなパンは、両手で2つ同時にクルクルとまるめて仕上げるほど、成長しています。
みんなで作ったパンがいちばんおいしい。
利用者さんたちは、道の駅、学校、保育所などへの納品もおこなっています。
「自分の作ったパンがお店に並んで、売れたときが嬉しい」。「みんなと一緒に作ったパンをおいしいと言われる。この仕事が大好き」。
まちの人に、「おいしい」、「ありがとう」と、直接言われる数が増えるほど、イキイキと輝く利用者さんたち。ひとりひとりが、働く喜びと、自信にあふれています。
ゆっくりと丁寧に、素早く、リズミカルに。ディーエム便配達、パン作り、洋服やネジの袋詰めなどの仕事を、それぞれのペースで進めるメイトさんや、利用者さんたち。マスクを外すと、真面目な表情から一気に笑顔が弾けます。「この仕事が好き」という思いで、今日も元気にこのまちで働いています。