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2023年度、ヤマト福祉財団、助成金贈呈式。

障害者給料増額支援助成金を全国39事業所に。働きがいと、自立できる高い給料を。

障害のあるかたが、自分に合う仕事を選び、働く喜びを感じながら、自立して暮らせるように。ヤマト福祉財団は、ヤマトグループの寄付や、賛助会費、労働組合からの夏のカンパを活用し、さまざまな支援をおこなっています。2023年度は、障害者給料増額支援助成金として、全国39事業所に、総額1億1,264万円の助成を決定しました。

6月5日には、新潟県阿賀野市のエヌピーオー法人、あおぞらの就労継続支援B型事業所、あおぞらソラシードで贈呈式を開催。ヤマト運輸、新潟主管支店の西田博信、主管支店長と、ヤマト運輸労働組合、新潟支部の森田一男、支部執行委員長にも、出席いただきました。

新潟県阿賀野市のエヌピーオー法人、あおぞらの就労継続支援B型事業所、あおぞらソラシードに、障害者給料増額支援助成金を贈呈しました。

あおぞらのように、ボーダーのない社会を.

あおぞらソラシードがある新潟県阿賀野市は、新潟市内から車で約45分と、新潟平野のほぼ真ん中に位置します。南に日本最大級の水流量を誇る阿賀野川、東に標高1000メートル級の山々が連なる五頭連峰。有名な清水が七ヵ所もある、自然環境に恵まれた地です。

取材をした6月5日は、施設の名前そのままの、美しいあおぞらが晴れ渡っていました。

「あおぞらのようにすっきりと、なんの垣根もないボーダーレスな社会にしていきたい。障害のあるなしに関わらず、地域で働き暮らすことが当たり前の文化を育んでいく。それには働く場所、暮らす場所、遊んだり学んだりする場所を、生まれ育った故郷に作ることが必要です」と、理事長の本多佳美さんと、前あおぞらソラシード施設長で事務局の石井直明さんは話します。20年前の創設時は、農園や自然養鶏と、下請け仕事から開始し、利用者さんの月額給料は、新潟市の施設平均額と同等の3,000円程度。周りも同じようなものだし、仕方ないか。そう思っていた本多さんは、利用者さんのおばあさんの言葉に、激しく心を揺さぶられます。

障害があるとう事で、孫も、私たち家族も、周りから心ないことを言われ、冷たい目で見られている。悔しくて悔しくて、と涙されました。障害のあるかたや、ご家族は、すごく悔しい思いをされたり、つらい思いを抱えて、我慢をしていらっしゃる。私たちが本当にやらなくてはいけないのは、施設のなかだけで楽しい、ではなく、地域で支えていくことだと思ったんです。街に出て、利用者さんが働いている姿を見てもらおう、と」。本多さんたちは、施設外就労に力をれるとともに、地域に根ざしたいろいろな事業を創出し、仕事を提供していきます。

現在は、間伐した杉で、着火材の製造をおこなっていますが、そこで発生する、おがくずを有効に活用。五頭山麓に湧き出るめいすいを使い、杉の良い香りがする、自社オリジナルの、天然アロマミストや、オーガニック化粧品などを製造販売しています。コロナ禍で売上はダウンしたといっても、2022年度の月額平均給料は約3万5,000円と以前の10倍以上です。

新しい蒸留器で、さまざまな素材から、高品質、大量の原料と、オーガニック化粧品を.

施設のハーブ農園では障害の重いかたも働いています。そこで育てたハーブなども材料に、ミストやバームなどの商品化を進めているのが、あおぞらソラシードです。

「看板商品は、杉のおがくずを蒸留してつくるすぎすいを原料にした、森のクレアミストです。複数の会社とオーイーエム契約を結び、すぎすいを使った化粧品の製造もおこない、売上を伸ばしてきました」。

しかし、コロナ禍で、企業からの注文は次第に減少。仕事量を増やすため、見本市などにも参加し、自社商品の販路拡大と同時に、オーイーエム先へ原料を卸す新規事業を成功させるため、営業努力を続けています。そこで問題になったのが、経年劣化したじょうあつ蒸留器です。

「私たちが使用する機械は、材料から油を搾り取る圧搾機と、杉エキスなどを抽出するじょうあつ蒸留器のふたつです。ところが、じょうあつ蒸留器は、もう10年以上使ってきたため、故障することが多くなってきました。それでも、蒸気漏れが発生した箇所に小麦粉を練ったパテで埋め、なんとか使いこなしていたんです。

じょうあつ蒸留器は、蒸留水や、精油の収量に限界があり、扱える植物の種類も限られています。オーイーエム先から、「この材料で」と、注文されても対応できないこともあります。そこで、いろいろな材料を使うことができ、生産力も約6倍ある減圧水蒸気蒸留器の購入を検討したのですが、中古で約450万円もするため、簡単に手が出ません」。

減圧水蒸気蒸留器は、タンク内の空気を真空ポンプで抜いて、圧力を下げ、40から60で水を沸騰。ガスを使わない電気式なので、夜間の蒸留作業も安全、効率的におこないます。しかも、じょうあつ蒸留器に比べて香りが良く、さまざまな材料から、良質なアロマウォーターや精油を抽出できるのです。

「扱える植物の種類が増えたので、オーイーエム先の新たな依頼にも応えることができます。施設の農園で自然栽培している、ラベンダー、ローズマリーなどを使って、香水、シャンプー、ボディソープなど、新商品の開発も進行中です」。

助成先.
あおぞらソラシード.
住所.
新潟県阿賀野市ハタエ75.
形態.
就労継続支援B型事業所.
利用者定員.
14名.
事業内容.
自社製オーガニック化粧品の製造販売、オーイーエム事業.
助成金.
445万円,プラス,自己資金50万円.
使途.
中古電気式減圧蒸留器の購入費.

旧蒸留器。

設置されたばかりの減圧蒸留器を試運転。

あおぞらソラシードから歩いて5分ほどのところに湧き出る天然すい、秋取りの清水を使っています。

障害者給料増額支援助成金贈呈式、特別座談会。地域の一員として、自立できる支援を.

不思議な人の縁で始まった、オーガニック化粧品事業.

本誌 . 11年前、化粧品の製造、販売をはじめたきっかけを教えていただけますか?

本多佳美理事長(以下、敬称略) . 当時は下請け仕事が中心でしたが、東日本大震災で激減してしまいます。これからは、なにか自主製品を作って販売しなければ、と考えていたとき、新潟県が、 Special mix という、障害のあるかたたちの自立を支援する、オリジナルブランドを作る会をつくり、私も参加しました。そこで、石井さんたちと出会えたことが、すべてのはじまりです。

石井直明(前あおぞらソラシード施設長、以下、敬称略) . 当時、私は、廃油石鹸を製造する、別の福祉法人で、より付加価値の高い化粧品石鹸を作り、利用者さんの給料増額を目指していたのです。でも、なかなか実現できずにいました。そんなとき、Special mix のネットワークで、奈良の化粧品メーカー、株式会社クレコスのくれべさんとお会いするチャンスを得たのです。

本多 . それを聞いて、「私もっていいですか?」と、気軽な気持ちでご一緒させてもらいました。石井さんのお話が終わり、「ところで、本多さんはなにをやっているの?」と、くれべさんに聞かれ、間伐した杉で木工もやっている、と答えたんです。すると、「おがくずを水蒸気蒸留して、ミストが作れるよ。試しに、うちに送ってみたら」と言っていただきました。とにかく、新しい仕事のきっかけがほしくて、すぐにお送りすると、1週間後に、杉の良い香りのするウォーターが届いたんです。それを嗅いだ当時の理事長が、「これはいける」と即決。早速、くれべさんに、「蒸留器を購入します。ご指導ください」と、連絡しました。

石井 . 私の化粧品石鹸は、許可が降りず、断念することになりました。ところが本多さんの話は順調に進み、自社工場も建て、事業化していくことに。だったら、私も参加したい、と転職することにしたのですから、本当に人の出会い、縁って不思議なものです。

福祉施設という甘えを捨て、消費者を惹き付ける商品へ.

西田博信主管支店長(以下、敬称略) . 最初から順調に進んだのですか?

本多 . とても大変でした(笑い)。化粧品の現場責任者として、石井さんを、奈良のクレコスさんの工場に何度も派遣し、商品開発や、テスト販売など、ご指導いただきました。

石井 . とにかく化粧品作りのために、勉強すべきことが多くて。たとえば表示法、やっきほうがあることすら、我々は、まったく知りませんでしたから。

本多 . くれべさんに、「化粧品を作り、販売するというのは、こういうことなんだ」と、一から十まで、丁寧に教えていただいたんです。

石井 . 企業は、商品の出口があるかどうか、売りかたとセットで商品開発をしているのに、我々は、作ることしか頭にない。しかも、これならみんなで作れるとか、得意な職員がいるからとか、福祉施設の枠から抜け出せないでいる。そんな甘えから脱却しなければ、成功はできない、と教わりました。

森田一男支部執行委員長(以下、敬称略) .  初めて化粧品を作り、しかも、自分たちで売るのは大変だったでしょう?

本多 . はい、なかなか売上に結びつかなくて。そこで、くれべさんにご紹介いただいた会社と、オーイーエム契約を結んだのです。

石井 . オーイーエム先には、蒸留したすぎすいれたミストなどを提供しています。ひとつの原料で、10種類以上のアイテムを依頼される会社もあり、売上は1,800万円くらいに伸びました。さあ、これから自社商品も、と勢い込んでいたとき、コロナ禍で、オーイーエムの仕事が激減。2022年度は、前年より400万円近くも落ち込んでしまったのです。

本多 . このままではいけない、とあれこれ考えたのですが、答えが見つかりません。くれべさんに相談すると、「オーイーエム先から、化粧品だけではなく、原料の製造も受けてみてはどうだろうか」と、アドバイスをいただきました。原料だけの依頼は受けていませんでしたから、収益を増やすチャンスになる、と挑戦することにしたのです。

新蒸留器で、柑橘系も上手に品質を高め、卸価格をアップ.

石井 . ところが、じょうあつ蒸留器だと対応できない材料がいくつか出てきたのです。

本多 . 状況を知ったくれべさんが、「減圧蒸留器にすれば、対応幅が広がる」と、教えてくれました。これが、今回、助成申請させていただいたいきさつです。助成が決まり、オーイーエム先に、「減圧蒸留器を導入できます」と報告すると、まだ機械が届いていないのに、どんどん材料を送ってくれるところもあって(笑い)。それだけ、私たちに期待されているのだと、ありがたく思っています。

森田 . 原料販売を本格的に始動できますね。

本多 . はい。扱える植物の幅を広げられたところが大きいです。特に、柑橘系は、減圧蒸留器でないと難しくて。

石井 . じょうあつ蒸留器だと、柑橘の香りがうまく取れません。何度かやってみましたが、どうしても、焦げたような香りになってしまうのです。

西田 . 柑橘類はそのまま使うのですか? それとも皮だけですか?

石井 . 皮だけです。皮に芳香成分とか、精油成分とかが含まれているので。

西田 . 先日、三重県でオレンジ生ジュースという商品が流行っていることを知りました。皮は全部捨てているそうですから、それを使えば、持続可能な開発目標とも結びつきますね。

石井 . まさに減圧蒸留器の得意分野だと思います。現在、県内外の小売業者を招いた、製造現場の見学ツアーを企画し、新規オーイーエム先の拡大に力をれていますので、そういった点からも、アピールしてみます。

本多 . 減圧蒸留器で製造する高品質な原料なら、5から10パーセントと、卸価格をアップできそうです。化粧品事業部として、来年度は1,990万円の売上目標を立てました。新商品開発も進め、5年間で売上3,500万円、平均月額給料は、長年の目標である5万円を達成する計画です。

利用者さんの自立のために、私たちにできることを.

本誌 . 本日は、化粧品だけでなく、間伐した杉の着火材製造、さらに、ハーブ園や、生活介護事業所、熊と森の湯などで働く利用者さんの姿も拝見させていただきました。西田支店長は、どんな感想を持たれましたか?

西田 . ここでは、いろいろなやりがいのある仕事を提供する一方で、地域の一員として認めてもらうため、ゴミ拾い運動など、社会貢献活動にも取り組まれています。その上で、障害のあるかたたちが、自立して暮らせるだけの高い給料を、と頑張っている姿に感激しました。私たちにも、そのお手伝いがなにかできたら、と感じています。弊社には約22万人の社員がいますから、ひとりひとりが本多さんたちの考えをしっかり理解することで、なにかお手伝いができるかもしれません。戻りましたら、具体的に検討してみたいと思います。

本多 . ぜひよろしくお願いいたします。

本誌 . 森田委員長はいかがですか?

森田 . 本多理事長は、ここで働いているみんなのお母さんのように見えました。そして、全職員が、強い信念を持って働いていることに、とても感銘を受けています。

阪神淡路大震災のあと、宅急便を作った小倉昌男が福祉施設を訪問し、1ヵ月働いても1万円しかもらえない現状を知り、なんとかしたい、とセミナーや、支援活動を始めました。あれから何十年も経ちますが、我々も、小倉昌男の遺志を受け継ぐひとりです。私たち、労働組合は、今年も、6月から夏のカンパを開始します。昨年を上回る金額を集め、障害のあるかたのために頑張るみなさんのフォローを、少しでもおこなっていきたい。そのためにも、今日、伺った話を、組合員にしっかりと発信しようと思っています。

もうひとつ感じたのは、障害のあるかたたちが自立していくためには、ただの慈善事業で終わってはいけない、ということです。

西田 . 地域共生の一環として、私たち企業と、福祉と、行政のみなさんがともに力を合わせ、事業を進めていけると理想的ですね。

本多、石井 . そのためにも、私たちの活動を、地域のみなさんに、しっかりと、理解、認知いただけるように頑張ってまいります。

西田、森田 . 私たちは、みなさんをずっと応援していきますよ。

ラベンダーを栽培するハーブ園で、主管支店長、委員長も、草取りをお手伝いしました。

ミストや、アロマウォーターの原料づくりから、瓶詰め、ラベル貼り、包装まで、利用者さんが活躍しています。

間伐した杉のおがくずを集めて、着火材を製造するチーム。

あおぞらソラシードで製造する、森のクレアミスト、杉や、ラベンダーなど、5種類の香りで販売。手前は、熊と森のおでかけバーム。

座談会に出席されたみなさま.

写真左手前から、ヤマト運輸株式会社、新潟主管支店、西田博信、主管支店長。ヤマト運輸労働組合、新潟支部、森田一男、支部執行委員長。写真右手前から、エヌピーオー法人あおぞら、本多佳美、理事長。事務局で、前あおぞらソラシード施設長の石井直明さん。

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