あおぞらのように、ボーダーのない社会を.
あおぞらソラシードがある新潟県阿賀野市は、新潟市内から車で約45分と、新潟平野のほぼ真ん中に位置します。南に日本最大級の水流量を誇る阿賀野川、東に標高1000メートル級の山々が連なる五頭連峰。有名な清水が七ヵ所もある、自然環境に恵まれた地です。
取材をした6月5日は、施設の名前そのままの、美しいあおぞらが晴れ渡っていました。
「あおぞらのようにすっきりと、なんの垣根もないボーダーレスな社会にしていきたい。障害のあるなしに関わらず、地域で働き暮らすことが当たり前の文化を育んでいく。それには働く場所、暮らす場所、遊んだり学んだりする場所を、生まれ育った故郷に作ることが必要です」と、理事長の本多佳美さんと、前あおぞらソラシード施設長で事務局の石井直明さんは話します。20年前の創設時は、農園や自然養鶏と、下請け仕事から開始し、利用者さんの月額給料は、新潟市の施設平均額と同等の3,000円程度。周りも同じようなものだし、仕方ないか。そう思っていた本多さんは、利用者さんのおばあさんの言葉に、激しく心を揺さぶられます。
「障害があるという事で、孫も、私たち家族も、周りから心ないことを言われ、冷たい目で見られている。悔しくて悔しくて、と涙されました。障害のあるかたや、ご家族は、すごく悔しい思いをされたり、つらい思いを抱えて、我慢をしていらっしゃる。私たちが本当にやらなくてはいけないのは、施設のなかだけで楽しい、ではなく、地域で支えていくことだと思ったんです。街に出て、利用者さんが働いている姿を見てもらおう、と」。本多さんたちは、施設外就労に力をいれるとともに、地域に根ざしたいろいろな事業を創出し、仕事を提供していきます。
現在は、間伐した杉で、着火材の製造をおこなっていますが、そこで発生する、おがくずを有効に活用。五頭山麓に湧き出るめいすいを使い、杉の良い香りがする、自社オリジナルの、天然アロマミストや、オーガニック化粧品などを製造販売しています。コロナ禍で売上はダウンしたといっても、2022年度の月額平均給料は約3万5,000円と以前の10倍以上です。
新しい蒸留器で、さまざまな素材から、高品質、大量の原料と、オーガニック化粧品を.
施設のハーブ農園では障害の重いかたも働いています。そこで育てたハーブなども材料に、ミストやバームなどの商品化を進めているのが、あおぞらソラシードです。
「看板商品は、杉のおがくずを蒸留してつくるすぎすいを原料にした、森のクレアミストです。複数の会社とオーイーエム契約を結び、すぎすいを使った化粧品の製造もおこない、売上を伸ばしてきました」。
しかし、コロナ禍で、企業からの注文は次第に減少。仕事量を増やすため、見本市などにも参加し、自社商品の販路拡大と同時に、オーイーエム先へ原料を卸す新規事業を成功させるため、営業努力を続けています。そこで問題になったのが、経年劣化したじょうあつ蒸留器です。
「私たちが使用する機械は、材料から油を搾り取る圧搾機と、杉エキスなどを抽出するじょうあつ蒸留器のふたつです。ところが、じょうあつ蒸留器は、もう10年以上使ってきたため、故障することが多くなってきました。それでも、蒸気漏れが発生した箇所に小麦粉を練ったパテで埋め、なんとか使いこなしていたんです。
じょうあつ蒸留器は、蒸留水や、精油の収量に限界があり、扱える植物の種類も限られています。オーイーエム先から、「この材料で」と、注文されても対応できないこともあります。そこで、いろいろな材料を使うことができ、生産力も約6倍ある減圧水蒸気蒸留器の購入を検討したのですが、中古で約450万円もするため、簡単に手が出ません」。
減圧水蒸気蒸留器は、タンク内の空気を真空ポンプで抜いて、圧力を下げ、40から60度で水を沸騰。ガスを使わない電気式なので、夜間の蒸留作業も安全、効率的におこないます。しかも、じょうあつ蒸留器に比べて香りが良く、さまざまな材料から、良質なアロマウォーターや精油を抽出できるのです。
「扱える植物の種類が増えたので、オーイーエム先の新たな依頼にも応えることができます。施設の農園で自然栽培している、ラベンダー、ローズマリーなどを使って、香水、シャンプー、ボディソープなど、新商品の開発も進行中です」。