体得したノウハウを、着実に仕事に生かせる強み.
一枚なら、秋の初風にも揺れる紙も、工場で印刷機にかける大きな紙束ともなれば、その重量は相当なもの。
「重い紙を運ぶには、身体の原理をうまく使ってやるといいんだけど、田中さんはそのコツが分かっている。最初からセンスがありました」と仰るのは、工場長の芹澤真さん。
田中将和さんは3ヵ月のトライアル期間を経て、昨年からせいこうしゃのあさか工場で、紙積みの作業を中心に、日々、汗を流しています。
紙積みは印刷機に用紙をセットする責任重大な仕事です。複数あるサイズ、用紙の中から、指示書に従って、印刷物に合ったものをストックから抜き、整えて並べ直し、適切な枚数を印刷機にセットしなくてはなりません。
田中さんを採用した経緯について、総務管理部,執行役員の中村博幸さんに伺いました。
「以前、聴覚障害のある社員が、校正の仕事で働いていましたが、高齢で退職されました。障害のあるかたの雇用を、弊社としても真剣に考えているのですが、専門性も高く、厳しい印刷の現場です。しっかりと戦力となっていただけるかたを、と探していたんです」
じつは、田中さん、10年以上も前ですが、製本所に長く勤めた経験がありました。工場長も、その点が決め手になった、と語ります。
「印刷と関連するノウハウを、田中さんはすでに持っていた。それと一番びっくりしたのが、きちんと安全確認ができること。印刷も製造業なので、欠かせないところなんです」
田中さん自身は、「最初は難しかったけど、仕事も覚えて、褒められるようになった」と手応えを感じています。いま、同じ職場に、障害者は田中さんだけ。独りぼっちは寂しい面もあるけれど、「穏やかに働けるのはいいところ」と、長く働きたい意向です。
田中さんの安定した仕事ぶりを、芹澤工場長は高く評価しつつ、より自律的な活躍ができるよう、今後の成長に期待しています。