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2024年度、ヤマト福祉財団、助成金贈呈式。

障害者給料増額支援助成金を、全国34事業所に。

新規事業や生産性向上に必要な支援を。

障害のあるかたが、働く喜びを感じながら、自立して、生活できるだけの給料を得ることができるように。ヤマト福祉財団は、ヤマトグループの寄付や、賛助会費、労働組合からの夏のカンパを活用し、さまざまな支援活動をおこなっています。

そのひとつ、障害者給料増額支援助成金では、新規事業立上げや、生産性向上で、給料増額に挑む福祉施設が必要とする設備や、機器などの資金を助成。2024年度は、全国34事業所に、総額1億1182万円の助成を決定しました。

5月21日には、秋田県大館市比内町の一般社団法人、敬友の事業所、比内ヒルズ、ふもとの家へ。ヤマト運輸秋田主管支店の佐藤賢吾、主管支店長、ヤマト運輸労働組合、秋田支部の赤川裕之、支部,執行,委員長にも出席いただき、贈呈式を開催しました。

比内ヒルズ、ふもとの家。

住所。
郵便番号 018-5701 、秋田県大館市比内町扇田あざ長岡 45
形態。
就労継続支援B型事業所。
利用者。
10名。
事業内容。
地元農家の委託を受け、六次化事業として、いぶりがっこ、黒ニンニクを製造販売。自らも農作物を生産し、カフェも運営。
助成金。
500万円、プラス、自己資金180万円。
使途。
トラクター購入費。

だれもが、としを重ねると、障害者となる可能性がある。

秋田県大館市は、ちゅうけんハチ公生誕の地として有名で、名物には、天然記念物の比内どり、きりたんぽ、天然鮎、はたけのキャビアといわれる,とんぶり、伝統食品の,いぶりがっこがあります。

比内町へは、大館能代空港から車で約30分。しばらく続いていた雨が上がり、田んぼでは、田植えの真っ最中です。のどかな田園風景のなかを車を走らせていくと、比内町のシンボルである、おにぎりがたの小山、達子森が見えてきます。大館市役所、比内総合支所の近く、国道から小高い丘を上がると、そこに一般社団法人、敬友の、就労継続支援B型事業所、比内ヒルズ、ふもとの家があります。事業所の横には、いぶりがっこを生産する、いぶり小屋、黒ニンニクを蒸して熟成するハウス、その奥には畑が続いています。

我々を歓迎してくれたのは、同法人理事の麓 幸子さんと、ご主人で、事業所の管理者、サービス管理責任者の田中伸夫さん。麓さんは、「日経ウーマン」という、働く女性向け月刊誌の編集長として、田中さんはフリーのテレビディレクターとして、東京で、ご夫婦それぞれ活躍されていました。そんなおふたりが、奥様が生まれ育った大館市にユーターンし、障害者福祉に携わるようになったのは、なぜなのでしょうか。

「私たちは、それぞれの仕事を通して、シングルマザーや、高齢者、障害のあるかたなどを取り巻く厳しい現実を目の当たりにしてきました。そこで気づいたのは、障害のあるかたが尊厳を持ち、自立して生活できる社会は、社会的に弱い立場にあるかたたちが、心安らかに暮らせる社会でもあるのだ、ということです。そしてもうひとつ、だれもが年齢を重ねれば、障害者になる可能性がある。だからこそ、ノーマライゼーションが大切だと考えました」。

最初に始めたのは、認知症のかたへの介護サービス。

比内町には、麓さんの父親が残してくれた、いくばくかの土地と家がありました。

「それを活用し、自分たちの手で、比内町に福祉の新たな灯りをともし、地域起こしの情報発信者になっていこう」。

キャリアチェンジを決意したおふたりが、最初に始めたのは、認知症対応型、通所介護サービスです。きっかけは、田中さんがテレビ番組で認知症を取材した際、当事者も家族も、いかに大変な思いをしているかを痛感したからでした。

「まだ東京にいるころでしたが、こちらに住む、志を同じくする仲間と共同で、2008年によりあいたっこ森を開設しました」。

田中さんは、東京で社会福祉士、介護福祉士の資格を取得。2013年に比内町へ移住するまでに、言語聴覚士の資格も取得しています。さらに、小さな畑を使って、認知症のお年寄りのリハビリのために、農作業をおこなえるようにもしました。しかし、障害者福祉施設の開設には、まだ至りません。

「B型事業所も開設したかったのですが、作るからには、きちんと仕事を用意して、高い工賃を支払えるだけの売上を出せる事業プランにしなければ、と決めていたのです」。

いぶりがっこの六次化を事業の柱に、B型事業所を開設。

そんなある日、収穫したダイコンを前にこれを使って、秋田県の伝統食品、いぶりがっこを作れないだろうかと思い立ちます。いぶりがっこは、燻製干しのたくあん。製造方法は、収穫したダイコンを小屋のなかに吊るし、2昼夜、いぶり続けるというもの。早速、農協に紹介してもらった生産者を訪ねた田中さんは、強い感銘を受けます。

「雪が降り積もった冬の早朝、いぶり小屋が白いもやに包まれていく風景は、実に幻想的でした。この景色を、利用者さんと一緒に見ながら仕事をできたら素晴らしい。ダイコンの編み込み、燻製、漬け込み、袋詰めなど、いぶりがっこなら、利用者さんにいろいろな仕事を提供できます。すべて、自分たちで加工し、販売に中間業者を入れなければ、余計なマージンを取られない。良い商品さえ作れば、利用者さんの生活を安定させるだけの給料を支払うことができる、と考えました」。

作り方はなんとか理解できましたが、肝心なのは、漬け込みのレシピです。しかし、秘伝の技は簡単には教えてもらえません。それでも、厳しい冬場の作業を無償で手伝い続けること3年目。熱意が伝わり、「地域の伝統技を絶やさないためにも」と、作り方を伝授いただくことになりました。

こうして2020年、いぶりがっこの製造販売という、六次化事業を柱にした比内ヒルズ、ふもとの家が、一般社団法人、敬友の事業として誕生します。

「でも、いざ始めてみると、いぶりがっこの製造はかなりの重労働でした。なかでも、漬け上がったダイコンを輪切りにする作業は、利用者さんと職員が力を合わせても、予定通りに終わらなくて」。

生産量は、予測よりまったく少なく、初年度の売上は、わずか21万円ほど。このままでは、とても高い工賃を払えない、なんとか改善したい、と田中さんはジーアイの取得に動き、いぶりがっこの組合にも加入しました。そこで組合のみなさんは、手作業ではなく、機械でダイコンをカットし、大量生産していることを知ります。

「思い切った機械化が必要だと痛感しましたが、それには資金が必要です。そこで、私が認定農業者になり、利用できる制度をフルに活用して、対応していこうと決断しました」。

機械が入ると作業効率は格段に上がり、生産量は一気に増加。袋詰めに人員をあてることもできるようになり、それまでは100グラム入りしか作っていませんでしたが、手軽に購入できる50 グラムサイズも用意して道の駅などに置いてもらうことにしました。これが観光客に受け、コロナ禍明けもあり、2023年度の売上は、一気に20倍を超える、年間約540万円に。

手応えを得たおふたりは、端境期に新しい仕事を、と黒ニンニクの製造販売にも着手。利用者さんが通年で働ける仕事を確保するとともに、新商品で、売上をより伸ばしています。

助成でトラクターを導入。みんなで野菜を作るぞ。

六次化事業を軌道に乗せたおふたりの次の目標は自分たちの手で、材料のダイコン、ニンニクをすべて栽培し、農業を事業のもうひとつの柱にしていくことです。利用者さんが自主的に作った、比内ヒルズ通信には、「野菜作るぞ」と、農作業への意欲あふれる声が掲載されていました。

「しかし、比内町は、よねしろがわが流れ、山々に四方を囲まれた盆地にあり、寒暖差が激しく、冬は雪がたくさん積もります。利用者さんが無理なく農作業をおこなえるようにするため、除雪、肥料、種蒔き、マルチの敷設、荷物の運搬などを、機械の力でサポートできるトラクターと、アタッチメントを購入したい、とヤマト福祉財団さんの助成に申請したのです」。

助成通知が届くと、利用者さんも、職員も、手を取り合い、大喜びしたそうです。5月2日には、待望のトラクターが到着しました。

「それを見た近隣の農家が、『立派なトラクターだね』と話しかけて来ました。そこで、より、畑を広げたい、と相談すると、『荒れてしまっているが、お宅の畑の隣の土地を使ってみるか』と、言っていただけたんです。これで、うちの畑は計1ヘクタールになりました。利用者さんもやる気満々なんですよ」。

脚注:ジーアイとは、地理的表示保護制度。その地域ならではの産品を、地域の知的財産として保護する制度。

一般社団法人敬友の、就労継続支援B型事業所、比内ヒルズ、ふもとの家に、障害者給料増額支援助成金を贈呈しました。

右が理事の麓 幸子さん、左が管理者の田中伸夫さん。

上は自家製ダイコンをいぶす、いぶりがっこ製造ハウス。下は黒ニンニクの包装作業。

地域のコミュニケーションの場として、カフェふもと も併設。

職員と一緒に、ニンニク畑で間引き作業をする利用者さん。

六次化事業に加え、農業にもより力を入れていく。

助成で導入したトラクター。何種類ものアタッチメントを使って、農業の効率化、生産性が一気にアップ、除雪もできる。

農業は楽しい。

障害者、給料増額支援、助成金、贈呈式、座談会。

気持ちよく受け入れてくれた地元のみなさんに恩返しを。

本誌:まずは、見学されたご感想からお聞かせいただけますか?

佐藤賢吾、主管支店長(以下、佐藤):いぶりがっこの製造を見るのは初めてで、こんな製法で作られているのか、ここまで手間をかけているのかと、正直驚きました。燻製する際、何本ものダイコンを編み込み、棚にかけていく作業はかなり重労働ですね。これからは、いぶりがっこも黒ニンニクももっと食べて貢献しなければ、と思いました(笑い)。

赤川裕之、支部執行委員長(以下、赤川):私の地元でも、いぶりがっこを生産していますが、高齢化や、衛生管理の難しさから、辞められるかたが多いんです。でも、おふたりは、そんなことにもめげずに、地元の伝統商品を開拓し、受け継いでいこうと、前に進んでいる。その姿がすごくいいですね。生産者も、先祖から継承して来た技や知恵を秘密にしないで、伝えていこうとしているのが素晴らしい。

田中伸夫、管理者(以下、田中):私たちは新参者ですので、何度も通って、お手伝いをしながら地の利を生かした、伝統的で、高価値の商品づくりを事業にし、障害のあるかたに、少しでも多くの給料を支払えるようにしたいという想いを伝えました。すると、快くご協力いただけたのです。

赤川:そんな秘伝も教えてくれたのは、おふたりの人柄もあるでしょうね。地域のかたとのつながりの強さも、素晴らしいと思います。

佐藤:ジーアイ取得では苦労されましたか?

麓 幸子理事(以下、麓):基準に即して作っていることを組合に認めていただき、発行いただきました。

田中:組合に入り、衛生、品質管理や、生産性向上のための機械化なども学べました。本当にいろんなかたたちに支えられて、教えられて、いまがあります。絶対に恩返ししていかなければ、と思っているんです。

除雪もできるトラクターで仕事を楽に、生産性をアップ。

本誌:利用者さんは、どんな仕事をしているのですか?

田中:ダイコンの収穫、編み込み、吊るし、つけ込み、出荷作業など、すべての工程に関わっていただいています。これらの作業を適材適所に割り振るのが、私たち職員の役割です。それでも、品質管理で、一部、ミスが発生しました。 そこで、利用者さんに任せるところと、職員が担当するところをきちんと分けるようにしたんです。失敗から学ぶこともたくさんありますね。

麓 :商品開発もトライ アンド エラーで試行錯誤しながら、毎年、改良し続けています。

赤川:50グラム詰めを作り、販売数を伸ばしたと聞きましたが、他にもどんな工夫を?

田中:いぶりがっこは、歯の弱いお年寄りも食べやすい、みじん切りの新製品を作りました。みじん切りだと、ポテトサラダに混ぜてもいいし、おにぎりにも混ぜられます。

佐藤:売上がさらに伸びて、利用者さんの給料が上がっていくと良いですね。

麓:そこで今後は、農業にもっと力を入れていこうと、ヤマトさんに、トラクター導入の助成を申請したんです。

田中:農業は体力のいる仕事です。それを、トラクターでカバーできれば、と。特に、この辺りは、雪も積もりますので、除雪もできるトラクターは重宝します。少しでも長く働くことができれば、生産量、売上、そして、給料も上がっていきますからね。

いろんなことが動き始めて、奇跡のようです。

佐藤:私たちは、宅配を通じて、秋田を元気にしていこうと考えています。さらに、先ほどお聞きした、いつかだれもが障害者になるかもしれない、という言葉も強く心に残りましたので、その点でも、私たちにできることを、ひとつずつ、実践したいですね。

赤川:私たち、労働組合が集めた夏のカンパや、賛助会員の会費などは、ヤマト福祉財団に有効に使ってもらっています。これにより、障害のあるかたとか、健常者とか、そんな区別をしないで暮らしていけるお手伝いができたら、と願っています。今日、見聞きした、実際に助成金が活用されている姿を紹介したら、組合員もきっと喜びますよ。

佐藤:そうですね。ひとりひとりの善意がどう活かされているかを拝見でき、私もうれしかったですし、誇りにも感じました。小倉昌男さんが、福祉財団を立ち上げてから、ずっと続いているヤマトのディーエヌエーを、今後も、広げていかなければと改めて思います。

田中、麓:今回の助成には心から感謝しています。じつは、トラクターが届いてから、いろんなことがうまく動き出し始めているんです。いつも水がたまる圃場にめいきょを作ったら、偶然地下水が湧き出て来ました。この湧き水を使って、キリタンポに欠かせないセリの栽培も始めようと計画しています。お隣の土地を使って良い、とお声がけもいただきましたし、まるで奇跡みたいだね、とみんなで話しているんですよ。

左奥が、ヤマト運輸株式会社秋田主管支店、佐藤賢吾、主管支店長。左手前が、ヤマト運輸労働組合、秋田支部、赤川裕之、支部,執行委員長。右手前が、比内ヒルズ、ふもとの家、サービス管理者、田中伸夫さん。右奥が、比内ヒルズを運営する一般社団法人、敬友、理事、麓 幸子さん。

真空パックの作業を説明する利用者さん。

いぶしに使用する桜の木。桜の木を使うとほんのり甘くなる。

いぶりがっこ製造ハウスを見学。

黒ニンニクの包装作業をお手伝いする、佐藤主管支店長と、赤川委員長。

ニンニクの間引き作業も、利用者さんに教えていただきました。

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