風味豊かな餅生地と、餡がウリ。
岐阜県の南端に位置する海津市。揖斐川が市の中央を流れ、西は養老山地を隔てて、三重と隣接します。その養老山地のふもとに、青々とした2000坪の畑が広がっていました。茂るように元気に育つ、よもぎです。
この地で、障害のあるかたの就労をサポートしてきた、やろまいかは、当財団の助成を活用して、2020年10月に、よもぎの加工場を整備しました。畑で自家栽培した よもぎを加工して作る草餅は自慢の一品。
「この辺りは、昔から草餅が有名なんです。市内に、おちょぼ稲荷というのがあるんですけど、お参りに行ったら、みんな買って帰る、みたいな」と、施設長の小山亜希子さん。
おちょぼさんの愛称で親しまれる千代保稲荷神社は、商売繁盛で知られ、遠方からも、年間200万人が参拝に訪れます。天然よもぎの香り高い草餅は、参詣の定番土産です。
後継者がいない和菓子店から、技術や機械を譲り受け、やろまいかは、2005年から、本格的に草餅の製造に参入しました。
「最初は小さいプレハブで始め、夏場は傷むのが早いので、休んだりもしていたんですが、サービスエリアなど、温度管理をしていただけるところにも徐々に商品を置いてもらえるようになって、通年で作るようになりました」。
衛生的な製造環境の整備を痛感。
2011年には、製菓工場も完成し、製造も大規模に。横井治子課長は、「2019年の10月には、月4万6000個ほど作っていました」と語ります。休むのは元旦だけ。毎日、製造しているそう。ただ、生産数が増えるに従い、品質面で問題が生じてきました。
収穫されたよもぎは、洗浄し、茹で、一晩置きます。翌朝、もう一度、洗って、脱水、冷凍します。草餅を製造するときには、冷凍保管されたよもぎを解凍。改めて異物をチェック、太い茎なども取り除き、もちごめや米粉といっしょにせいろで蒸して、餅つき器にかけるという流れです。
「よもぎの前処理を事務所の食堂でおこなっていたんですけど、人の出入りも多いですし、衛生的とは言えませんでした。それで、よもぎ加工場の整備を目標に、助成の申請をお願いすることにしたのです」と横井さん。
完成したよもぎ加工場は10坪ほど。昔、お菓子づくりに利用していたぼろぼろの建物を、ないがいそうは天井から床まで張り替え、業務用のシンクや、コンロ、換気扇等を導入しました。稼働以来、異物混入の苦情もなくなり、利用者さんの作業に取り組む熱意もぐっと上がったと言います。
総売上は、ピークの2022年度で約7600万円を達成。現在は、遠方で納品に経費ばかりかかる販売先の見直しを進めた結果、売上こそダウンしましたが、利益率は上昇。施設への入所希望者が多く、利用者も、助成申請時の85名から、延べ120名にまで増えましたが、平均給与は月に約2万円をキープしています。
一本足打法からの脱却。
年間を通して、同じ色合いや、硬さを保つのが難しく、苦労もあったという草餅ですが、販売を通して地域と交流したり、「美味しかった」と感想をもらうことで、やりがいと達成感を利用者にもたらしてくれました。
ですが、これまでのやりかたに満足していてはいけない、とも感じているのだそう。
「正直、草餅に頼りすぎるのを、今、脱却しようとしています」と、小山さん。「よもぎ自体は、とても良いものなので、使っていきたいんですけど、あまりにも、生ものに頼りすぎていたので。364日、作らなきゃいけないこととか」と、続けます。
草餅が売上に占める割合は8から9割。そこで、積極的に6次産業化を図り、ここ数年は新商品の開発に挑んでいます。
温活ブームを狙い、2020年度に商品化したよもぎの入浴剤をはじめ、ハーブや、花、柑橘類をブレンドしたバスソルトを、関ヶ原古戦場の売店や、楽山ヤフーショッピング店を中心に、昨年から販売。
「今年は生姜糖を作ろうと、畑に生姜を植えました。失敗したときのことも考えていて、そのときは入浴剤にする予定です。
青臭さがどうにも取れなくて一度は諦めた よもぎ茶も、今年の6月に、やっと美味しいものができたので、今、検査に出しています」と、横井さんは期待をにじませます。
草餅に代わるヒットを打ち出すべく、毎年1つは新商品を出すことを目下の課題にしている やろまいか。
やろまいか は、地元の言葉で、やりましょう、を意味します。そして、楽しく楽しくやろまいか、が、事業所の活動のモットー。その言葉どおり、ともすれば、自己肯定感が低くなりがちな利用者さんに自信をつけてもらい、「もう一回、外に行って就職しよう、とか、前向きになってもらいたい」と、小山さん。
そのためにも商品開発にチャレンジして、次の展開をつかみたい。穏やかな雰囲気のなかにも、地域のニーズに応えたいと願う、強い気持ちが伝わってきました。