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私たちの賛助会費が活かされています。障害者給料増額支援助成金、ボリューム51。

農業未経験だからこそ、スマート農業で稼ぐ。

尾道は、坂の街の異名とともに、数多くの文学、映画の舞台として、観光業や、商業が盛んです。請負を中心に、就労支援に取り組んできた多機能事業所、コルは、脱請負を一念発起。雑草が生い茂っていた耕作放棄地にハウスを建て、アスパラガス生産に挑んでいます。

エヌピーオー法人、コル 多機能事業所、コル

脱 請負依存へ、舵を切る。

まだ肌寒い圃場に片屋根型の2つのビニールハウスが見えてきました。間口、約6メートルかける奥行き40メートル。昨年2月に完成したばかり。2棟で、総工費は1,150万円ほどを要しましたが、アイティーを駆使した、スマート農業に対応した最新の設備です。この投資の一部に、当財団の助成を活用して、実現に漕ぎ着けたのが多機能事業所コルです。

広島県尾道市。2014年の設立以来、引きこもりや、障害者の就労支援に力を注いできたコル。古物の清掃や、部品加工といった請負、仕出し弁当店の洗い場など、施設外就労を通じて、利用者の適性を探りつつ、能力と就労意欲の育成をサポートしてきました。

しかし、事態を一変させたのがコロナです。

「全部、影響を受けたんですよね。工場の仕事も半減くらいポンと落ちて。もうほぼ全滅でしたね」と、理事長の上田信之さん。工賃支払の収支は2020年度、赤字に陥りました。

独自の事業を持たないといけない。そこで下した決断こそ、農業事業への参入でした。

「コロナの2、3年くらい前から、これからどういった産業が良いのか、少しは調べていたんですね」と、明かしてくれたのは看護師資格も持つ、管理責任者の佐々木真実さん。

「これからはアイティーと食だと思っていたんですけど、今から私たちがアイティーに入っていくのは難しい。農業は食料自給率の面でも貢献できますし、多種多様な仕事があるので、利用者さんが分担しながら皆が関われる。すごく魅力的だなと。工業に比べれば、経済動向に左右されることも少ない、と思い、決めました」。

正解選びが初心者には難しい。

情報を集めるうちに、狙いを定めたのがアスパラガス。収益性が高く、24センチメートル以上は切る、といった具合に収穫基準が明解。運搬も軽くて、作業者を選びません。また、一度植えると、10年以上も収穫できる永年作物で、毎年耕起する必要がないことも魅力でした。

「理事長と私とで、ジェイエーや、県の農林水産課など、さまざまな窓口に話を聞きに行ったり、研修に行きました。最初は全然相手にしてもらえなかったんですけど、次第に親身に相談に乗ってくれるようになりました」。

ハウスが建つ圃場は、ジェイエーの営業職員が仲介してくれた耕作放棄地です。農林水産課に紹介されたのは県の農業技術センター。

「博士号を持った先生方が何回も指導に来てくれました。初めのうちは、身近で尋ねやすいジェイエーかたや、近隣の農業経験者を頼っていましたが、意見が一致しませんでした。するとジェイエーかたが、『佐々木さん、農業には人それぞれ、独自のやり方がある。初心者は全部を聞いていたらダメですよ。まずは、農業技術センターの方法に徹することが、成功への近道ですよ』とアドバイスをくれました」。

2020年、練習として、まずは玉ねぎに挑戦。翌年からアスパラガスを始めました。

絆で育つ、絆が育つアスパラガス。

県ではちょうど広島アスパラ800プロジェクトを掲げています。これは温度かん水施肥を、アイティーも駆使して管理し、露地物の生産量を800パーセントに引き上げようという野心的な試みです。

当財団の助成を活用した2棟のハウスでも、農業技術センターの指導によるスマート農業が採り入れられています。センサーが、温度や土壌の水分を計測。自動的に、換気や水やりの機械が作動します。

「井戸のポンプが真夏に故障したのですが、センターから、『異常はありませんか』と、電話をいただき、事なきを得たこともあります」と佐々木さん。データはセンターへも送信されているため、生育や病気について、いち早くアドバイスが受けられます。

ハウス内で、アスパラガスは2列の枠板式たかうねで栽培されており、作業負担の軽減はもちろん、幅広にとった畝の間は、車いす移動もスムーズと、独自の工夫も施しました。

収穫したアスパラガスは配食事業者に納入するほか、産直で販売。2023年には、駅近くに店舗を開いて、採れたてアスパラガスと、収穫野菜をつかった日替わり弁当の販売も始めました。お弁当は、日に80食も売れる盛況ぶり。地道に農作業に励む姿は、次第に周囲の方々に認知され、お祭りへの出店なども含め、請負事業だけでは味わえなかった地域との交流も、全員で実感しているそうです。

現在の月額平均給料は約3,2000円ですが、売上は右肩上がりで推移中。今後は、らくうるカートを利用したネット販売も手がける予定です。

生産活動に手応えを感じる佐々木さんは、「今年とは行かなくても、再来年には5万円を実現したい」と意気込みます。

団体名のコルはラテン語のに由来します。「利用者さんの就職先が決まると、その家族が明るくなるんです。それを見て、いい仕事だと思った」と上田理事長。そのためにも永く継続させることを大前提に、取り組んでいきたい、と語ってくださいました。

ハウス内は枠板で囲んだたかうねが2列設けられており、あいだの通路は、車いすもラクラクの広さを取ってあります。

3月になって、いよいよ伸びてきた若茎。春、夏秋の2季採りが可能で、初物はシーズンを通して品質も最高。

助成を活用して完成した片屋根型ハウス2棟。温度制御が可能な、片屋根式の普及を進めていた香川県農研機構に協力を仰ぎ、無償で設計図面を作成していただいたという。

「一番苦労したのは、環境制御技術を採り入れ、強度の高いハウスを整備するための資金繰り」だった、と口を揃える左の上田理事長と、管理者の右の佐々木さん。

新倉敷の駅そばに、2023年1月、オープンさせた、アスパラや玉ねぎ屋。目指したのはマルシェ。収穫した野菜と日替わり弁当を販売しています。

アスパラの収穫を、利用者さんの指導を受けて体験した、中央の今岡委員長と、右隣の佐原書記長。

土壌センサーの情報を元に、水と液肥を自動調整、温度管理も自動でおこない、データは県の農業技術センターにも送信されています。

労働組合支部執行委員長、助成先訪問、シリーズ46。

ヤマト運輸労働組合、三次支部執行委員長、今岡 稔さん。

人の成長に貢献できるやりがい

障害者さんたちが楽しく仕事される姿はやっぱりいいな、と思いました。引きこもった人が外に出ていくのは簡単ではないけれど、農業を通じて自信をつけ、次のステップへと進んでいく。成長をしていくことがしみじみと分かり、カンパを通じて、やりがいをもらった感覚を得ました。

同時に夏のカンパが、障害者のみなさんのお役に立っている、と組合員の皆さんには広くお知らせしたいですね。

夏の時期、収穫したアスパラガスが余ることがあるという話をお聞きしました。支店内で相談しないといけないアイデアですが、主管で社内販売できたら良いな、と。これからもさまざまな形で貢献していきたいと思っています。

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