東京大会は、多様な人たちとの協働運営の道を選びました。
聞き手:まずはデフリンピックの歴史から教えていただけますか?
くらの 直紀:100年前の1924年、フランスの、ろう者スポーツ連盟のアルケ会長が、第1回パリ大会を開きました。当時は、きこえない人に対する偏見が厳しく、この状況を変えたい、と、国際スポーツ大会を、きこえない当事者が運営することで、きこえなくても、こんな立派な大会を実現できることを社会に示そうとしたのです。
聞き手:では、ボランティアも障害のあるかたしか参加できないのですか?
くらの:東京大会は過去の歴史に縛られず、あえて、きこえる人とともに協働運営する道を選びました。デフリンピックの認知度があまり高くないのは、きこえない人だけで運営してきたことで、逆に、社会との間に壁を作ってしまったからかもしれません。こん大会は障害のあるなし、日本人、外国人などいろいろな壁を取り払い、「共生社会と運営の新しいモデルを形にしよう」と、みんなの意見が一致しました。
聞き手:東京大会の参加者や、規模は、どれくらいになりそうでしょうか?
くらの:今回は約80ヵ国が参加し、選手、スタッフ数は約6,000人と、過去最大の規模を想定しています。そこで約3,000人のボランティアを募集したんです。
聞き手:手話ができなくても大丈夫ですか?
くらの:こだわっていません。より多様な人に関わっていただくことで、きこえないことや、手話言語に対する理解を、世の中に広めるきっかけにしたいんです。
聞き手:どれくらい集まりましたか?
くらの:去年の11月中旬から募集を始め、1月末の締切までに、なんと1万9000人近く、申し込みがあり、私たちも驚いています。
全21種目を12日間で。メダルたいこく、日本の活躍に注目。
聞き手:どんな競技があるのですか?
くらの:団体、個人を含めて21種類の競技がおこなわれます。
聞き手:くらのさんが期待されている競技は?
くらの:私は運営側ですし、全競技、全選手の活躍に期待していますよ(笑い)。
マスコミが注目しているのは、過去2大会連続で金メダルを獲得した女子バレーや、複数のメダル実績がある陸上、水泳、卓球。さらに今回、新たに日本人の選手が参加することになった射撃、テコンドー、ハンドボール、レスリング。射撃の選手は、きこえる世界の中でもメダルを獲得した選手がいます。
聞き手:射撃選手の濱谷秀平さんは、ヤマト運輸の社員です。2年前に偶然、職場で日本パラ射撃連盟のコーチと出会い、競技を始めて、選手に選ばれたと聞いています。
くらの:そうなんです。彼は、上達が早いですね。 日本はメダルたいこくと言われていて、現在の世界ランキングは6位。それが、東京大会でどう変わるかにも注目しましょう。
競技の感動以外にも、人々に多くのことを考えさせてくれる。
聞き手:パラリンピックには独自の競技ルールがありますが、デフリンピックは?
くらの:まったくきこえない選手にも、目でわかる視覚保障を工夫し、フェアに戦えるようにしています。陸上や水泳では、ピカッと光るスタートフラッシュを、サッカーなどでは審判は笛とともに旗を揚げたりしているんです。
聞き手:いろいろ工夫されていますね。
くらの:でも基本的な競技ルールはオリンピックとほぼ同じ。だからデフ競技には特別な審判資格はなく、一般競技の国際審判の資格で良いのです。世界中から、きこえない審判員に集まっていただき、日本人のきこえる審判員と力を合わせ、運営する姿にも注目ください。
聞き手:日本では、きこえないかたが国際審判資格を取るのは難しいのでは?
くらの:日本では福祉の手話通訳制度を、病院や市役所での手続きなど、日常生活の範囲でしか利用できないことが多い。しかし、世界は違う。たとえば、国際サッカー連盟は、多様性の考え方に基づき、障害のある審判員や指導者を増やす取り組みを進めています。
聞き手:デフリンピックの開催は、改めて多くのことを考えさせてくれますね。
くらの:選手たちは、プレイヤーとして純粋に競技を楽しみ、高みを目指し努力しています。それは、芸術でも、仕事でも同じです。障害の有無など関係なく、社会や企業が正しく評価できるか。選手たちの姿を見て、そんな問いかけもできたらと思っています。