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第19回、ヤマト福祉財団、小倉昌男賞。

地域の理解が深まるたびに、障害者の働く場も広がっていく。

12月6日、第19回、ヤマト福祉財団、小倉昌男賞 贈呈式を開催しました。本賞は、障害のあるかたの雇用の拡大、労働環境の向上、高い給料の支給などに努められた、2名のかたに贈られます。第19回受賞者は、地元の理解を深め、利用者さんの自立に長年取り組んでいる、上野容子さんと、村上和子さんです。

社会的自立を願う利用者さんに、地域で必要とされる仕事と、働く喜びを。

昨年、12月の障害者週間に、日本工業倶楽部(東京都)で、ヤマト福祉財団、小倉昌男賞 贈呈式を開催。受賞者の仕事関係者や、ご家族、歴代受賞者なども招待し、華やかに催しました。

「歴代受賞者の内訳を見ると、男性が多く、白組が優勢のようですが、今年は、女性 おふたりと、紅組も盛り返しています」と、冒頭挨拶で会場を和ませた、瀬戸 薫理事長。社会福祉法人 豊芯会 理事長の上野容子さんと、社会福祉法人 シンフォニー理事長の村上和子さんの功績を、先月、おふたりの施設を見学した際の感想を交えながら紹介しました。

「上野さんは、支援を必要とする障害のあるかたが、他の障害のあるかたや、高齢者のために、支援する側として働き、地域に貢献できる仕組みを作られています」。

上野さんは、大学卒業後、精神科ソーシャルワーカーとして勤務するかたわら、障害者の自立をサポート。地元との結びつきを大切に、互いに助け合える方法を模索します。25年前、ひとり暮らしの障害者や高齢者に、手作り弁当を手渡しで配達する飲食店、ハートランドひだまりを開店。これにより、精神障害者と、地域のかたの接点を作り、理解を深めることができました。現在は、社会福祉法人 豊芯会として、豊島区の、ひとり暮らし高齢者配食サービス事業を受託。毎日300食以上をお届けする、地域になくてはならないフードサービス事業所となっています。

村上さんは、大分県で、知的障害者の働く場の拡大、また、交通機関の利用に関する支援など、生活環境の改善にも取り組まれています。

学校を卒業した子どもたちに かよう場がない、と涙する保護者の思いを受け、27年前に、わずか6畳のスペースでファンシーショップを開業。これを足がかりに、ケーキショップ、包装センターと、新たな働く場を次々と創り出しました。1998年には、社会福祉法人 シンフォニーを設立し、雇用契約を結びながら、最賃を保証する、就労継続支援 A 型事業所の夢も実現します。

「私が施設を訪れたのは給料日の前日。明日はなんの日、と利用者さんに聞くと、給料日です、と元気に答えてくれました。働いて給料をもらう、この、当たり前の喜びの大切さを、彼らの笑顔が、あらためて教えてくれたのです」と、瀬戸理事長は紹介しました。

おふたりに共通するのは、卓越した行動力。そこには、数字では見えない感動がある。

選考の経緯は、選考委員を代表して、きょうされんの藤井克徳 専務理事が発表。

「おふたりに共通しているのは、先ずはやってみようとする、卓越した行動力。障害者が働くことをとおして、地域に貢献できるように、挑戦を続けられています。そこには、給料などの、数字だけでは計れない感動があり、選考委員の心を強く動かしたのです」。

そんな おふたりの姿勢は、推薦者の言葉からも垣間見えます。

「上野さんは、精神障害者が、地域で生活するために必要な行政支援について、待っているだけではダメだ、と自ら仕組みを考え、提案。ボランティア活動を通じて実績を示し、周りを納得させ、制度化を実現しました」と、社会福祉法人 豊島区社会福祉事業団 理事長の横田 勇さん。

北海道の NPO コミュニティシンクタンク あうるず 理事の菊池貞雄さんは、「私たちは、ソーシャルファームとして、社会的雇用弱者を応援しています。課題は、生産した農産物をどう販売するか。上野さんに相談すると、即決で豊島区役所で販売できるように働きかけてくれたのです」とその行動力を讃えました。

村上さんの推薦者は、社会福祉法人大分県社会福祉協議会 大分県 身体障害者福祉センター 参事の塩﨑政士さんです。

「村上さんは、知的障害者が、一般生活を送るための施設内訓練はもちろん、公共交通機関を楽に利用して、職場にかよえる仕組みまでも創り上げました。その根底に流れているのは、深い母親の愛情です。本賞のブロンズ像の写真を見たとき、これこそ、村上さんにふさわしい賞だと思いました」。

長年にわたり、信念を貫いてきた姿に、敬意と、これからの期待を込めて。

続いて瀬戸理事長が、推薦者の言葉にもあった、正賞の、雨宮 淳 氏 作のブロンズ像、愛 と賞状、ならびに、副賞賞金100万円を おふたりに贈呈。上野さんを陰で支えるご夫君と、病気のため欠席された村上さんのご夫君の代理で出席したスタッフに、花束を手渡しました。

来賓祝辞には、厚生労働省、社会、援護局障害保健福祉部の橋本泰宏部長が登壇。

「共生社会は、障害者の社会参加と自立なくして実現できません。おふたりの、長年にわたり信念を貫き築かれてきた実績に 敬意を表すとともに、これからのご活躍に期待をしています」と、お祝いの言葉を贈りました。

贈呈式のクライマックスは、両受賞者のスピーチです。これまでの苦労と、今日の喜びをかみしめて お話しされる姿に、会場は、感動と祝福の拍手で包まれました。

その後の祝賀会でも、受賞された おふたりの周りには、終始、お祝いの言葉を伝えるかたたちが集い、笑顔が絶えることはありませんでした。

写真前列左より、森下明利 ヤマトグループ企業労働組合連合会会長、受賞された上野 氏 ご夫君、上野容子さん、村上和子さん、瀬戸 薫ヤマト福祉財団理事長。後列左より、金森 均 ヤマトホールディングス株式会社代表取締役副社長、神田晴夫ヤマトホールディングス株式会社代表取締役副社長、 木川 眞ヤマトホールディングス株式会社取締役会長、山内雅喜ヤマトホールディングス株式会社代表取締役社長、森 日出男ヤマト運輸株式会社代表取締役会長、長尾 裕ヤマト運輸株式会社代表取締役社長。

祝賀会会場では、おふたりの事業所をご紹介するパネルが、飾られました。

受賞された おふたりのご家族や、関係者もお招きし、盛大に執りおこなわれた贈呈式。

受賞者に贈呈したのは、正賞として、雨宮 淳 氏 作のブロンズ像と賞状、副賞として賞金100万円の目録です。

「上野さんは、地域福祉の最前線に立つ一方、大学で日本の福祉を担う、新たな人材も育成してきた」と、上野さんの推薦者、社会福祉法人 豊島区社会福祉事業団の横田 勇理事長。

「私たちのソーシャルファームの活動が広がっているのも、賛同いただいた、上野さんの行動力の賜物です」と、 NPO コミュニティシンクタンク あうるず の菊池貞雄理事。

「こんな素晴らしい賞をいただけて、新たな目標に向かって動き出すためのよいきっかけになりました」と上野容子さん。

「村上さんは、障害者福祉の夢を奏でるシンフォニーのコンダクター」と村上さんの推薦者、社会福祉法人大分県社会福祉協議会 大分県身体障害者福祉センター の塩﨑政士参事。

「おふたりの活躍の中心には、いつも利用者さんがいる、それがなにより大事なこと」と、選考委員を代表して、きょうされん の藤井克徳専務理事。

「今後も障害のあるかたに働く喜びと、尊厳ある生活を提供してほしい」と、厚生労働省 社会、援護局、障害保健福祉部の橋本泰宏部長。

「利用者さんの働く姿を見ることで、地域のかたの障害者への理解は深まり、いろいろな形で、私たちの活動を応援いただけるようになりました」と村上和子さん。

受賞者を訪ねて: 社会福祉法人豊芯会、理事長、上野 容子さん.

精神障害者の夢や希望に寄り添い続けた47年.

東京都豊島区で、先駆的に精神障害者支援に取り組んできた、上野容子さんを訪ねました.

社会福祉法人豊芯会.

フードサービス事業所。配食部門。就労継続支援 A 型。2017年平均工賃、15名、86,699円.

ふれあいファクトリー。喫茶部門。就労継続支援 A 型。11名.

他に B 型、地域活動支援センター、生活介護等、総勢149名が利用している。

豊島区の精神障害者とともに。

働けるようになりたい。クリニックに かよう 精神障害の人たちの体調が良くなるにつれ、自立への希望が生まれてきました。みんなで話し合って、北大塚の商店街の中に喫茶と、お弁当のお店をオープン。ひとり暮らしの障害者や、高齢者にお弁当の配達を始めました。この日、訪れた豊芯会のビルは、当時の場所から移転していますが、喫茶ふれあい としてその思いを引き継いで、地域のかたがたに、精神障害者への理解を深める活動をつづけています。

豊島区の高齢者や障害者を支えるフードサービス事業。

現在は、1日300食を製造、配達し、12名の障害のある人に、就労継続支援 A 型事業所として雇用契約を結んでいます。高齢者や障害者が毎日、健康でいられるように、一般のお弁当では はいらない煮物などを豊富に取り入れたお弁当は、評判も上々。10時過ぎにはでき上がり、みなさん、手分けして配達に向かいました。手作り感満載のお弁当を、毎日、お届けする仕組みが評価され、豊島区から、ひとり暮らし高齢者、障害者の配食事業も請け負っています。また、豊島区役所新庁舎の喫茶、レストラン、カフェふれあい本店、および、北区十条にある、東京都障害者総合スポーツセンター内喫茶コーナー、カフェふれあい十条店の経営も任されて、働く場が大きく拡がってきています。

障害のある人が事業所の責任者に。ソーシャルファームの世界を具現化。

障害のある人に寄り添いながら活動をつづけてきた豊芯会は、ソーシャルファームの活動に賛同して、障害者を職員として抜擢する動きが活発です。豊芯会ビル1階の、喫茶ふれあい、豊島区役所、カフェふれあい本店では、障害のある人が店長として、お店を取り仕切っています。上野さんら、支援者が障害のあるかたと話し合いながら活動してきた豊芯会。障害のある人もない人も、分け隔てなく働く、真の共生社会がそこにはありました。

具材をふんだんに使った八宝菜のお弁当。

豊芯会ビルの前で。

お弁当の盛り付け作業を見学。

別フロアでは軽作業もおこなっています。

配達は徒歩と自転車。

受賞者を訪ねて: 社会福祉法人シンフォニー、理事長、村上 和子さん。

知的障害者に対する、手厚い支援が特徴。

大分県の知的障害者の支援で実績をあげた、社会福祉法人シンフォニーを創設した村上和子さんを訪ねました。

社会福祉法人シンフォニー。

多機能型事業所コンチェルト。就労継続支援 A 型、2017年平均工賃: リサイクル部門、10名、89,166円。喫茶、レストラン、ネバーランド部門、21名、2017年平均工賃: 62,353円。

他に B 型、地域活動支援センター、居宅介護、生活介護等、総勢230名余りが利用している。

毎日の通所は、路線バスで。

村上さんは、マニュアルを整備し、支援を繰り返すことで、知的障害者の公共交通による通所に取り組んでいます。訪問した日は、朝8時過ぎに、近くのバス停で待つことにしました。やがて、各方面から到着する路線バスから、利用者のみなさんが降車してきました。朝の挨拶を身振りでしてくれる人もいます。「施設の都合ではなく、社会と接する大事な機会を作る、ということを大切にしています。丁寧に経験を重ねていくと、できることが増えるんです」。そこには、自立した大人に成長した姿がありました。

喫茶、レストラン。ネバーランド。

シンフォニーの最大の特徴は、ネバーランドという喫茶、レストランの仕組みにあります。共通しているのは、自動券売機を活用して、会計の手間を解消していることです。この日は、大分市役所稙田支所喫茶コーナー、県庁別館食堂、大分中央警察署地下レストラン、大分市コンパルホール喫茶、計4カ所のネバーランドを巡り、みなさんの働きぶりを見学しました。現金を扱う必要がないため、どのネバーランドでも、支援スタッフは厨房で調理に専念し、知的障害者のみなさんが接客、配膳を立派にこなしていることが印象的でした。県庁別館食堂では、館内のデリバリーもおこなっていて、忙しい県庁職員のみなさんを支えていました。

ファンシーショップ、ネバーランド1号店の思い。

村上さんの活動の原点は、ログハウスのネバーランド1号店。現在も、本部に移築されて大切に保存されています。「仕事をするというのは、社会との接点をもつということなんですよ」。本部には、野菜の直売所も併設して、社会との接点を実現。知的障害者への理解を深めることも重視して始めたファンシーショップ開店時の思いは、シンフォニーにかよう人たちに寄り添いながら後々まで伝えられることでしょう。

移築保存されている、ファンシーショップ、ネバーランド 1号店の前で記念撮影。

発語が苦手な帆足さんは、自宅での出来事を、身振りで教えてくれました。

大分県庁別館でランチをデリバリーする様は、堂々としたものでした。

素早くランチの配膳準備をする、本川康平さん。

路線バスから降りてきた、帆足吉朝さん。

大分市役所稙田支所喫茶コーナー、ネバーランド わさだ店のみなさん。

上野さんの受賞の言葉: それぞれの事情に寄り添うソーシャルワークを。

社会福祉法人豊芯会、理事長、上野 容子さん。

1948年、栃木県宇都宮出身。1971年、日本社会事業大学卒業。高崎健康福祉大学で保健福祉学博士の学位なども取得。医療法人白十字会松見病院などで精神科ソーシャルワーカー、PSW として勤務。1982年、若草の家 開設。1993年、作業所 ハートランドひだまり 所長。精神障害者の働く場作りを掲げ宅配事業と飲食店を開始。1995年、社会福祉法人の認可を取得し、豊芯会の副理事長へ。2001年、豊島区の ひとり暮らし高齢者配食サービス事業 を受託事業として契約。2008年、障害者自立支援法に基づく事業に移行し、就労移行、就労継続支援 A / B 型の多機能型事業所を開設。 A 型事業はフードサービス事業所。2012年に相談支援事業を、2013年に自立訓練、2016年に生活介護事業を開始。

はじまりは障害者の社会参加。

私は、昨年3月に大学の教壇から離れ、今は、地元での活動に専念しています。本日、この、栄えある賞をいただいたことで、初心にかえって、また頑張りなさいと、後押ししていただいている感じがしています。

私の原点は、地域でのソーシャルワーカーとしての活動にあります。障害のあるかた、ひとりひとりをしっかりと見つめ、支援していくこと。人それぞれに合った訓練などをおこなえば、一緒に、対等に、仕事をしていけます。どんな障害があるかたでも、仕事をとおして社会の大切な役割を担い、誇りを持って生きていくことができるはずです。そんな思いで開設したのが、手作り弁当を配食するハートランドでした。

もっと多くのかたと次の一歩を。

現在は、社会福祉法人として、区より、ひとり暮らしされる高齢者の配食サービスを任され、事業規模は広がっています。しかし、それは、簡単な道のりではありませんでした。限界を感じて、やめてしまおうかと思ったこともあります。そんなとき、「あなたの思いはそんな程度か」と叱りとばしてくれたのが、地元の婦人会のかたでした。

地域のかたに支えられて、私たちの活動は、福祉の仕事は成り立っている、私はそう実感し、ずっと感謝をしています。

いま、私は、ソーシャルファームという活動にも賛同し、新たに出会えたかたたちと力を合わせ、前に進もうとしています。これからは障害のあるかただけではなく、シングルマザー、さらに、法を犯して、働きたくても働けないかたなど、それぞれの事情を理解し、寄り添ったソーシャルワークが必要です。そのためにも、かつて、私が周りのかたに支えていただいたように、今度は、私が若い人たちのアイデアや、自主性を大切に引き出してあげたいと思っています。

村上さんの受賞の言葉: 利用者さんの夢が広がるシンフォニーを奏でたい。

社会福祉法人シンフォニー、理事長、村上 和子さん。

1952年、兵庫県神戸市生まれ。1974年、大分大学教育学部卒業後、公立学校に8年間勤務。1990年、長男の養護学校入学を機に、母親たちと施設建設を検討。1991年、ネバーランド森町店を開店、現在は9店に拡大。1996年、市の公共施設内喫茶レストランの運営を任され、知的障害者が公共施設で働くモデルへ。同年、大在店が隣家への放火で全焼。翌年市民や団体からの支えで再開。1998年、社会福祉法人シンフォニー設立。1999年、知的障害者ホームヘルプサービスを県下初開始。その後、身体障害者および児童のヘルパー事業、自立生活促進事業、デイサービス、グループホームも開始。2006年、障害者自立支援法施行に伴い、新事業体系へ移行。2007年、就労継続支援 A 型事業、コンチェルト開始。

火事になって残ったものは。

この、晴れやかな席に立ち、これまでを振り返って感じるのは、地域のかたに、障害のある者たちが働く姿を見知っていただく重要性です。

1996年12月、みんなで苦労を重ねて、やっと軌道に乗りはじめたケーキショップ、ネバーランド大在店が、隣家への放火のため焼失しました。現場に駆けつけると店内は真っ黒に。買ったばかりのショーケースも、クリスマスの飾り付けも、すべて焼けこげていました。被害は数百万円になったでしょうか。私の足はガクガクと震えていましたが、一番の心配は金額よりも、「障害者は火を起こす」と噂されることでした。

落胆し、家に戻ると、早速、電話が鳴り響きます。電話からは、「近所の者だ」と高齢者の男性の声。申しわけありませんと、ひたすら謝り続ける私に、「あんたがたは悪くない、みんなわかっちょるよ。元気出しい」と、やさしく声をかけていただいたのです。

その後も、多くのかたから、励ましの電話や、お手紙をいただき、中には、お子さんが貯めてきたであろう、小銭の詰まった貯金箱まで送られてきました。

若い世代と力を合わせて。

地元のかたの援助のおかげで、大在店は翌年に再開できました。私たちは火事で多くのものを失いましたが、本当に大切なもの、地域の信頼はしっかりと残っていたのです。それもすべては、町に出て、地元のみなさんに、利用者さんが働く姿を見ていただいていたからこそだと思います。

本日いただいた賞の名に恥じないように、これからも、障害者が自分にあった働きかたができる環境作りと、支援を目指していきます。私が学んできたことを、若い職員に伝え、みんなで力を合わせ、利用者さんの夢を広げていく、そんなシンフォニーを奏でていきます。

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