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瀬戸理事長を囲んで。

見えない、聞こえない人の防災。災害時、障害のあるかたに、私たちができること。

昨今、日本では地震、火山の噴火、豪雪、台風、記録的豪雨など、枚挙にいとまがないほど災害が発生しています。それと同時に、障害のあるかたが置き去りにされている、というニュースも聞こえてきます。ヤマト福祉財団では、定款に規定する事業目的のひとつである、震災など、国内緊急災害発生時には、被災地の、個々の生活、産業基盤の復興と、再生の支援について、今年度より、障害のあるかたを対象として加速させていく計画です。その第一歩として、障害のあるかたが、災害時に、どのようなことで困っているのか、どのようなサポートを望まれているのか、などを、当事者からお話を伺い、参考にしていくことにしました。

今回、お招きしたのは、一般財団法人 全日本ろうあ連盟の、久松 みつじ 常任理事と、社会福祉法人、岩手県視覚障害者、福祉協会の、及川清隆 理事長の、おふたりです。

左より、一般財団法人、全日本ろうあ連盟、常任理事、久松みつじ 氏、社会福祉法人、岩手県、視覚障害者、福祉協会、理事長、及川清隆 氏、瀬戸理事長。

東日本大震災の後でも、防災訓練などに、変化は見られない

瀬戸 薫 理事長(以下、理事長):本日は、お忙しいところ、お集まりいただき、ありがとうございます。まずは、おふたりの自己紹介からお願いいたします。

久松 みつじ 氏(以下、敬称略):一般財団法人 全日本ろうあ連盟の常任理事を務めております、久松です。ろうあ者の生活、人権を守るための活動をおこなうとともに、さまざまな障害者団体などと連携しながら、災害時における、障害者の避難、救援などを改善するために、政策への提言もおこなっています。

及川清隆 氏(以下、敬称略):岩手県の水沢町よりまいりました、社会福祉法人、岩手県視覚障害者福祉協会、理事長の及川です。私は、社会福祉法人、日本盲人会連合の副会長も務め、現在は、災害対策の担当もしております。これまで災害は、予期せぬ時に訪れるもの、という感覚でしたが、いまは、災害は、いつでも襲ってくるものと考え方を変え、早急に対策を整えるため、取り組みを進めています。

理事長:本当に、災害はいつ襲って来るかわかりませんからね。私自身、かつて大阪に勤務していた時に、阪神淡路大震災に直面し、家具など、いろんな物が次々と横倒しになる、恐ろしい経験をしました。これ以上の震災はないだろうと思っていましたら、東日本大震災が発生しました。また昨年は、大阪を偶然、訪れた際に、北部地震にも遭遇してしまいました。昨今は、地震だけではなく、水害などの自然災害も非常に増え、健常者でも、もしもの時はどうしたらよいのか、と不安になりますから、障害のあるかたのご苦労は計り知れません。及川さんは、東日本大震災では被災地で、いろいろと恐ろしい経験もされたと思います。そういった過程を経て、震災前と震災後で、防災訓練などに変化はありましたか。

及川:岩手県では、震災前から、市町村ごとに、防災訓練はおこなわれていますが、震災後に障害者を積極的に参加させる、といった動きは出ていません。東日本大震災では、岩手県で35名、東北地域で119名もの視覚障害者が亡くなられています。それでも残念ながら、あまり状況は変わっていないのです。防災対策は、当事者の意見をあまり反映されずに考えられているのではないか、これで本当に役に立つのか、と不安に感じることがあります。行政には、今後のありかたについて、いろいろとお話をさせていただいてはいますが、なかなか反映できずにいるのが現状です。

理事長:障害のあるかたの災害時の緊急避難は、周りのかたの支援なくしては難しいでしょう。目の見えないかた、耳の聞こえないかた、身体が不自由なかた、それぞれを、どうサポートすべきなのか。実際の訓練で体験していなければ、周りのかたも、どうしてよいのかわかりません。

及川:私たちは、震災での経験などを伝えていく、語りべ活動を全国でおこなっています。学校などからお招きいただくことはあるのですが、行政からは、あまり声がかかりません。障害者の近隣に暮らすかたに、それをサポートできる行政に、私たちの生の声を聞いて、理解していただきたいと願っています。

理事長:ろうあ者の防災訓練は、どうなのでしょう。久松さんのもとには、全国の施設、団体などから情報が集まっていますよね。

久松:ろうあ者も同じ状況です。震災の前も後も、地域での防災訓練は、障害者不在のままでおこなわれています。聞こえない、声が出せない。寝たきりの者は、健常者よりも逃げ遅れて被災しやすいのだ、と、だれもがわかってはいるのに、もうひとつ改善が進んでいかない。でも、それが、いまの日本の実情です。そもそも、「防災訓練をおこないます」と放送をされても、私たちは耳が聞こえないのでわかりません。病院や学校では訓練に参加していても、普段は家にいるのだから勝手が違います。災害に襲われたとき、どう動くべきか、周りはどう支援できるのか。東日本大震災前は、その議論さえもされていませんでした。震災後に、やっと議題にあがるようにもなったという感じです。

理事長:まだまだこれからなのですね。

久松:実際に避難警報が聞こえずに、取り残されてしまったかたもいますし、隣に住むかたが気にして、一緒に避難してくれたおかげで、なんとか助かったというかたもいます。

及川:近隣のかたに声をかけていただき、避難所まで、手をつないで、一緒に逃げてもらえたからこそ、命があったのだと話す人は多いです。

普段の生活環境と違う避難所では、ストレスも不具合も増えるばかり。

久松:私たちは、こうした被災地での実体験の報告をもとに、手話で防災という小冊子を制作、販売し、全国各地での防災と災害時の支援に役立てていただいています。

理事長:東日本大震災に直面された、及川さんや、会員のかたは、避難所の生活でお困りになったことはありましたか。

及川:やっと避難できても、刻々と変わる状況を把握できず、ただそこに居続けるしかできなかった、苦しいだけだった、と多くのかたが話しています。トイレの場所も、休む場所すらわからない。貼り紙をされても情報は見えない、食事の配給の列に はいれない。避難所は普段生活している自宅などとは異なる環境のため、そこでの生活についていけず、疲れ果ててしまい、家に戻ってしまったというかたもいます。

理事長:それは厳しい現実ですね。

及川:ここがあなたの休む場所です、と、ダンボールでもよいからスペースを囲んでいただき、手探りで動けるようにしてもらえたら助かります。目が見えない私たちが一番困るのは、広いスペースに、ただ放置されてしまうこと。これが最もつらいのです。

理事長:私はマラソンをやっていますが、ブラインドマラソンのかたは、伴走者と一緒にいるので一目でわかり、もしもの時には、周りも自然にサポートできます。でも避難所で他のかたと一緒にいると、わかりにくいですね。

久松:ろうあ者の場合は、よりわかりにくいと思います。話をして、違和感を感じて、初めて、ろうあ者なのだと認識できる感じです。

理事長:なるほど。避難所では、障害のあるかただ、と、一目でわかる、目印のようなものがほしいですね。

及川:じつは、震災後、私たちは、視覚障害者の防災ベストを作成しました。それを着ていれば、すぐに周りが、この人は目が見えないのだ、と、わかるようにデザインしています。

理事長:それはよいですね。

及川:こういった物も含め、避難所での環境改善に、行政が動いていただけると助かるのですが、対策はなかなか進んでいません。

理事長:いまのままだと、町内会や、ご近所のかた、ご家族に頼るしかなく、負担がどんどん増えていく。それは、当事者にも、支えるかたにも、つらいことですね。地方自治体などが、ハザードマップを作成されていますが、これについては。

及川:視覚障害者でも、触ることで地図を読み取れる、点図、触地図というものも存在しますが、それだけでは、あまり役に立ってはくれません。実際に災害訓練に参加して、避難経路を歩き、避難所までいって、初めて、どう動けば良いのかも実感できるわけです。

理事長:経験が、なによりも大事なのですね。

及川:ハザードマップの作成も、障害者抜きで進んでいる感は否めません。たとえば、避難所は高台に指定されていることが多いですが、一般の人の感覚で歩いて何分と言われても、目が見えないかたは、もっと時間がかかります。

久松:勾配がきつ過ぎたり、段差があっては、車椅子で簡単に移動できません。どこに段差があり、スロープを設けているかなどを示しているようなマップを作ってほしいのです。さらに、避難所が複数指定されている場合、災害によっては、通常使う A の避難所ではなく、 B の避難所に向かえ、と、緊急放送がありますが、私たちにはその放送が聞こえないため、間違った場所へと進んでしまいます。

及川:障害者の立場になって、どうすればその情報を活かすことができるのか、どうすれば正しく伝わるのかをしっかりと考えていただきたいものです。

障害者の安否確認は、災害時の重要な課題のひとつ。

理事長:久松さんは、東日本大震災で被災地の支援に、いろいろと動き回られていたわけですが、そこで感じたことは。

久松:先ほど及川さんも触れられましたが、避難所で私が痛感したのは、情報格差です。震災発生時、私は東京にいたのですが、大きな津波がきているなどのニュースを見て、いままでに経験したことのない大災害が起きているのだと驚きました。しかし、東北三県で被災した多くのろうあ者には、刻々と変化する災害状況は伝わってこなかったようです。また、避難物資が届いたと、周りの人が動き出しても、耳が聞こえないので、なにが起きているのかわからない。状況を理解した時には、もう食料も物資もなくなっていた、などということも報告されています。こうした情報格差をどうやって解消するかは、重要な課題です。

理事長:誰にもわかりやすく、迅速に伝えていくことは、災害時には大切なことですね。

久松:もうひとつ、大きな問題点が、安否確認です。全国で、耳が不自由なかたは約36万人いると言われていますが、障害者手帳を持つかたは約2万人です。これは、地域性の問題でもあるのですが、東北では、障害者は引きこもって生活している場合が多く、周りのかたたちは、どうもそういう人がいるらしい、といった認識でしかない。そのため、いざ災害に襲われたとき、避難所で安否確認が取れませんでした。

及川:私も安否確認で苦労しました。当協会の会員となっているかたは、避難所に連絡を取り、確認もできましたし、住所もわかっているので、訪ねていって確認を取ることもできます。しかし、会員でないかたはどうにもならない。この地域に住む障害者の情報を教えてほしい、と、行政にお願いしても、個人情報保護のためダメだ、と、断られてしまいました。

理事長:被災地に、障害のあるかたが何人いるのかもわからないということですか。

及川:はい、そこは行政に頼るしかないのですが、マニュアルどおりにしか動いてくれません。原則と書かれているのは、それだけがすべてではないという意味であるはずなのに、臨機応変に対応できない。判断が難しいのはわかりますが、命より重いものはないはずです。

久松:協力をお願いしても、多くのかたが被災して困っているのだから、障害者の個別支援にまでは手がまわらない、ひいきはできないと言う。障害者がどこにいるのかがつかめなければ、私たちも動きようがないのです。

理事長:そうなってくると、日頃の周りのかたとの繋がりに頼るしかなくなってきますね。

久松:結局、東日本大震災では、手話サークル団体など、民間の協力者の力が大きな手助けとなりました。これを教訓に、私たちはネットワークをより広く、強く築くことと、現地でコーディネーターとしてコントロールできる人材の育成に力をいれるようになりました。

及川:現在、私たちは、行政の柔軟な対応を求め、障害者支援の他の団体とも力を合わせて、さまざまな提言をしていますが、なかなか進展はしていません。だからこそ、民間企業を含めて、より多くのかたの協力が必要になるのです。民間企業は、各分野のスペシャリストですから、たとえば、ヤマトさんは、宅急便配達で培われた流通や、情報のネットワーク、専門ノウハウをお持ちです。それを災害時の支援に役立てていただきたい、と、願っています。

久松:今、思ったのですが、ヤマトさんのクロネコメンバーズのアプリに、障害者が自分の情報を登録しておき、災害時に、我々など、関連団体に開示していただくというのはどうでしょうか。

理事長:生き残るための情報開示ですね。

久松:是非、よろしくお願いします。

理事長:東日本大震災では、全国から届けられた救援物資の管理と、配達が問題となりました。そこで、気仙沼では、ヤマトグループの社員が、在庫管理や、仕分けなどのお手伝いをしたのです。おかげで、物資がスムーズに行き渡るようになった、と、感謝されました。

久松:救援物資が山積みのままで、早く必要とする人のもとに届けてほしい、と、切に思った記憶があります。ヤマトさんのような特別なノウハウは、私たちにも行政にもありませんから、是非、お力を貸していただきたいです。

理事長:ヤマトグループでは、東日本大震災の教訓をもとに、スマートフォンを使った、社員の安否確認システムを作りました。昨年9月に発生した、北海道胆振東部地震の際に、その効果も実証されました。

及川:そういった、災害時でのノウハウも、障害者の支援に活用させてほしいものです。

近隣に住む人や、働く人との繋がりこそ、なによりも大切。

理事長:今後、さらに IT 化が進み、顔認証システムなどを活用すれば、安否確認も、よりスムーズになるかもしれませんね。

及川:確かに技術は進化していますが、私たちには不便なことも多々あります。たとえばスマートフォンなどのタッチパネルは、目が見えないと逆に使いにくいものとなります。また、被災地では、ガスや、電気がとまってしまう可能性があり、 IT だけに頼るのは危険かもしれません。

理事長:一番頼りになるのは、周りのかたとの繋がり、コミュニケーションですね。

久松:私は、宅急便をよく利用していますが、集配センターなどの職員の対応にはいつも感心しています。私がろうあ者だと察すると、こちらがお願いしなくても、すっと筆談用のメモを出してくれたり、ファクスで連絡が取れるように手配をしてくれます。いろいろな企業を見てきましたが、こうした対応を自然におこなえるところはなかなかありません。どのような教育をされているのですか。

理事長:特別な教育はしていませんが、ヤマトグループの社員は、賛助会員として、また、労働組合のカンパ活動などで、障害者を支援しています。自分でお金を出しているからこそ、障害者への関心も高く、このヤマト福祉財団 NEWS もご家族と一緒に読んでもらっています。普段から障害者の声や、事情を知る機会があるので、お話しいただけたような対応も、自ら考え、行動に移すことができるのだと思います。

及川:やはり私たちのことを、もっと、理解していただくことが、より多くのかたや、企業に、ご協力いただく第一歩となるのでしょうね。

理事長:最後に、私たちになにかできること、ご要望はありますか。

及川:社員のみなさんは、担当されているお客さまの中に障害者がいることは把握されているでしょうから、災害時には、どうぞお声がけしてください。

久松:災害が発生すれば、社員のみなさんも同じ被災者ですので、大変だと思いますが、手話ができるかたがいらっしゃいましたら、是非、お力を貸していただきたいと思います。

理事長:我々としても、みなさんのご期待に添えるように、ヤマトグループとして、ひとりの社員として、今後、なにができるかを、研究、検討していきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。

おふたり:こちらこそありがとうございました。

もしも災害が襲ってきたら、障害のあるかたの不安は計り知れない。

瀬戸 薫 理事長。

障害者不在のまま、訓練や対策が進んでも、本当の改善にはならない。

久松 みつじ 常任理事。

民間企業の専門ノウハウが、被災地の障害者を救う大きな力に。

及川 清隆 理事長。

一般財団法人 全日本ろうあ連盟。

ろう者の人権を尊重し、文化水準の向上を図り、その福祉を増進することを目的とする、一般財団法人、全日本ろうあ連盟は、全国47都道府県に傘下団体を擁する、全国唯一の、ろう者の当事者団体です。その基本的な取り組みは、次のみっつとなっています。

  1. 手話通訳の認知、手話通訳事業の制度化。
  2. 聴覚障害を理由とする、差別的な処遇の撤廃。
  3. 聴覚障害者の社会参加と、自立の推進。

また、もしもの災害時に、ろうあ者への支援をスムーズにおこなえるように、被災した、多くの ろうあ者や、ご家族、支援にあたったかたたちからの経験や、意見をもとに、手話で防災、という小冊子を制作。さらに、東日本大震災では、各避難所での安否確認などの支援もスムーズにおこなえるように、急遽、チラシを作成し配布するなど、ろうあ者の支援に努めています。

聴覚障害者の災害時支援のための小冊子、手話で防災。避難所に配布したチラシ。

詳しくは連盟のホームページへ。https://www.jfd.or.jp.

社会福祉法人、岩手県視覚障害者福祉協会。

目の見えない者の立場を、気持ちを多くのかたに理解いただき、本人が社会的に自立できるように支えていく。社会福祉法人、岩手県視覚障害者福祉協会は、岩手マッサージセンターを設置経営し、視覚障害者のかたがたの自立更生と、 地域のかたの治療と、健康維持の一翼を担っています。その活動目的は、次のいつつです。

  1. 視覚障害者の自立支援。
  2. 視覚障害者本意の生活支援。
  3. 開かれた経営。
  4. 障害者福祉の一体活動。
  5. 地域と共生の福祉活動。

災害時の支援活動としては、東日本大震災で被災地となった岩手県だからこそわかる避難や、避難所での支援のありかたなどを県に提言。視覚障害者用防災ベストを制作、販売するなど、より具体的な支援を進めています。

詳しくは協会のホームページへ。http://www.iwate-sfk.com/.

背中と胸に、盲人のための国際シンボルマークをデザインした、視覚障害者用防災ベスト。

視覚障害者防災用品に関しては、日本盲人会連合ホームページへ。http://nichimou.org/.

ヤマト福祉財団は胆振東部地震で被災した施設、2ヵ所に復興再生助成金を贈呈しました。

2月21日、ヤマト運輸株式会社、千歳主管支店にて、胆振東部地震で震源地にあった、厚真町、むかわ町の施設2ヵ所に、復興再生助成金を贈呈しました。

胆振東部地震、被災施設への助成は、11月に贈呈した札幌の施設と合わせて、総額8,973,200円となりました。

松井、北海道支社長から、社会福祉法人、愛誠会、横山宏史 理事長へ贈呈。

左より、奈良岡、千歳支部執行委員長、厚真福祉会の岩筋雅弘 理事長、愛誠会の横山宏史 理事長、松井 支社長。

災害時、障害者はこんなことで困っています。

聴覚に障害のあるかたは。

視覚に障害のあるかたは。

私たちにも、できることがあります。

他にも、私たちにできることは、いろいろとあります。コミュニケーションを取りながら、必要な場合は、一緒に行動してあげてください。

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