2019年度、福祉助成金事業。助成金贈呈式。
応援したい、応援がほしい。その気持ちをつないで。
ヤマトグループの寄付や賛助会費、労働組合からの夏のカンパを活用し、障害のあるかたの経済的自立を目指す福祉施設を応援しています。さらなる給料増額を目指す施設を応援する、ジャンプアップ助成金もそのひとつです。
2019年度は、9施設へ定額500万円の助成を決定。5月23日に、栃木県大田原市にある、社旗福祉法人エルム福祉会の hikari no cafe, ヒカリノカフェ 蜂巣小珈琲店で贈呈式をおこないました。出席されたのは、ヤマト運輸労働組合、栃木支部の田中克明 執行委員長と、ヤマト運輸栃木主管支店、安全推進課の出口孝夫課長のおふたりです。
廃校となった木造校舎を再利用。カフェやパンと、お菓子の工房に。
東京駅から那須塩原駅まで新幹線を使って1時間ちょっと。駅からはバスで約30分ですが、1時間に1本、あるかないかで、乗り遅れると大変です。バス停から10分ほど歩くと、のどかな田園風景が広がる先に、ポツンと旧蜂巣小学校が見えてきました。
この廃校となった小学校を再利用し、障害のあるかたが働くカフェと、パンやスイーツを作る工房へとリノベーションしています。こんな寂しい場所にお客様が訪れるのだろうか。そんな心配を抱きながら、駐車場に整備された校庭に はいっていくと、驚くほどたくさんの車が停まっていました。
「オープンして3年目ですが、今は年間、約3万人のお客様がここを訪れているんですよ」と笑顔で出迎えてくれたのは、施設長の川上聖子さんです。
「築90年になる木造校舎はとても味わい深く、地元のかたの思い出もたくさんつまっていますから、できるだけ形を残すようにしました」。その言葉通りに、外観はもちろん、各教室の机や椅子などを上手に活かし、地元のかたや、子どもたちの絵画や写真などを展示するギャラリー、学校や町の歴史を紹介する資料室など、地域のコミュニティ スペースとして開放しています。○年○組、音楽室、体育館などのなつかしい案内板に導かれ歩いていると、故郷の小学校に帰って来た、そんな、ほっこりとした気持ちになってきます。
カフェに改築したのは、職員室と校長室とその隣の教室です。壁や天井を取り払い、広い空間を作ると、清潔感あるホワイトで統一。大きな窓からは、明るい陽射しが差し込み、その向こうには、お洒落なオープンテラスも設置されています。いまも現役で活躍するオルガン、動かなくなってしまったけれど、かつては児童たちに時を告げていた古時計などをレイアウトし、レトロでモダンな雰囲気を演出。黒板はそのまま残し、イラストも添えた、本日のランチメニューを、手書きで紹介しています。
「内装は、設計担当者と一緒に、私たちが考えました。だから、素人アイデアで一杯です(笑い)。当初は1年かけてオープンする予定でしたが、お店の雰囲気やメニューなどにこだわり、2年間悩み、考え、やっと完成しました」。
6年生の教室を活用した工房では、クッキーやパン作りに勤しむ利用者さんの姿を見学。さらに本助成金で、新たにスイーツ工房へと改築予定の家庭科室を視察したあと、1日約80食の限定メニューのランチをいただくことに。料理を運んでくれたのは、カフェのホールスタッフとして活躍する利用者さんです。
素材には、利用者さんが工房で焼いたパンやスイーツ、地元農家の作る新鮮な野菜に、珍しい古代米も使用しています。メニューの味付けはもちろん、食器などにもひと工夫。給食で使うプレートや、先割れスプーン、サラダやデザートの入れ物はなんとビーカーです。目でも舌鼓を、そんなアイデアがつまった楽しいランチでした。
家庭科室を改装し、スイーツの新工房へ。全体の生産性を上げ、より多くの利用者さんが働ける環境作りに助成金を使います。
栃木県大田原市の廃校となった小学校をリノベーションした hikari no cafe、 ヒカリノカフェ 蜂巣小珈琲店へ。ジャンプアップ助成金を贈呈しました。
カフェと地域のコミュニティスペースにリノベーションした旧蜂巣小学校の中を、川上施設長に案内していただきました。
カフェでは、利用者さんにサーブしてもらい、限定ランチをいただくことに。
見た目にもこだわったメニューは、食事も飲み物もすべてが一級品。
本誌:見学された感想はいかがですか。
田中:こんな田園風景の真ん中に お洒落なお店と工房が現れるとは、驚きです。
出口:ここに向かって来るとき、周りには田んぼや山しか見えなくて、その先にあったのが廃校になった古びた校舎。ところが一歩、中に はいると、素敵な空間が広がっていたので、とても感動的でした。
田中:お店の雰囲気には、ここを作られたみなさんの人柄がにじみ出ている気がします。
出口:どこか、やさしさを感じますね。
川上:そういっていただけるとうれしいです。
本誌:社会福祉法人エルム福祉会が、カフェ事業をはじめたきっかけはなんだったのですか。
川上:35年前、私たちは、大田原市で初の障害者の作業所を開所しました。当時は、受託作業ばかりで売り上げが伸びず、給料も月額、平均2万円程度。自分の力で働いて稼いで、自立した生活をというのが私たちの考えでしたが、このままでは難しい。そこで2005年に作業所を改装し、hikari no cafe をオープンしました。16席の小さなカフェですが、障害者のお店だからこんなもの、などとは言われたくありません。私たちが目指したのは、他店より値段が高くても買ってもらえる価値のある商品を提供すること。クッキーの味付けなどに試行錯誤を重ね、利用者さんの接客サービスも、より上を目指して指導していきました。さらにこだわったのは、利用者さんが自分のお店を自慢できるカフェ作りです。内装や商品の展示の仕方などを工夫し、レトロでモダンなお店にしました。
出口:1号店から同じコンセプトなのですね。
川上:現在ある、3店舗のカフェはすべてを統一しています。スイーツなどの評判も良く、お客様は徐々に増え、給料は4万円を超えるまで増額できました。次は2号店だ、と考えていたとき、廃校となった蜂巣小学校の再利用計画案を大田原市が公募していると聞いたのです。
本誌:それでプロポーザルに挑んだと。
川上:ここを下見にきたとき、木造校舎の雰囲気と、田園風景がとてもいいな、と感じました。
地域の大切な思い出の場所を、障害のあるかたが守ってくれる。
川上:学校は学びの場です。利用者さんは、仕事や、人とのコミュニケーションなど、いろいろなことを学び、やがては一般就労して卒業していく、そんな流れもぴったりきます。
田中:学校というのは、人生の中でも特別な時間を過ごした思い入れの強い場所です。この小学校を卒業したかたは、はいった瞬間にいろんなことが頭に浮かんでくるでしょう。そんな場所を取りこわさずに、障害のあるかたたちの手でしっかりと守り、役立ててくれている。これは地域のかたにとって、非常にありがたいうれしいことだと思います。
本誌:オープンして周りのかたの反応は。
川上:「たくさん車が停まっていて、毎日が PTA 総会みたいだ」なんて(笑い)。知らない間に、近所のかたが校庭の除草をしてくれていたり、餅つき大会などの恒例イベントも毎年、楽しみに、参加いただけるようになりました。
出口:すっかり地域の一員ですね。
川上:最初は、障害があるということで、お年寄りの中には少し引かれていたかたもいたと思います。でも、いまは孫を見守るように接してくれています。「今日も頑張ってるね」と気軽に声をかけてくれて、利用者さんは元気に手を振って応える。そんな感じで、自然にコミュニケーションできているのがうれしいです。
田中:みなさんカフェに来ているのですか。
川上:それだけでありません。定休日の月曜には、校庭を地元のグラウンド、ゴルフを愛好するお年寄りに開放しています。音楽室や教室の一部は、無料で使えるギャラリーにし、ミニ音楽会や、講演会など、いろんな形で利用いただいています。体育館や、校庭では、スポーツ関連の大会も開催されています。それぞれ自由に楽しまれたあと、カフェでお茶や食事をしたり、パンやお菓子を直売所で購入されていきますので、売り上げは順調に伸びています。
また来たいと思わせてくれるおもてなしと美味しい料理。
本誌:これまで苦労されてきたことは。
川上:やはり人を育てることですね。料理のメニューと、レシピ開発は、シェフに協力いただき、パティシエとブーランジェ(パン職人)はプロを雇いました。接客サービスや、店舗経営などは、自分たちの役割ですが、私はもちろん、職員みんなが未経験者です。中には、障害者の支援も初めてという人もいましたので、すべてをいちから学び、さらに教えていかなければならなかったわけです。
本誌:カフェでは、利用者さんのサーブで食事をいただきましたが、いかがでしたか。
出口:本当に素晴らしい料理でびっくりしました。これだけのものをプロだけでなく、障害のあるかたも一緒に作っているのですから、指導がいかに良いのかわかります。これだけ美味しく感じるのは、材料やレシピだけでなく、木造のやさしい雰囲気と、心がこもったおもてなしがあるからでしょうね。
川上:利用者さんの、お客様への気遣いには、びっくりさせられることもあります。たとえばプリンをテイクアウトされるお客様に、彼らは車まで商品をお持ちしてお見送りします。感激したお客様から、「とても温かい気持ちになりました」とメールが届くことも。利用者さんは、単に仕事ではなく人として接している。厨房での仕事ぶりもそうですが、自然で何気ない思いやりこそ、相手の心に響きますね。
田中:栃木主管にも、障害のあるかたが働いているので良くわかります。まずは、ひとりひとりのことを知る、知ろうとすることが大事ですね。
出口:当社の企業理念の中に、地域社会から信頼され、社会にとって存在意義のある企業へ、と書かれています。それを実現する取り組みのひとつが、障害のあるかたの自立支援ですが、具体的にどうしたら良いか、ピンと来ていない人も多いのです。でも、ここで障害のあるかたの働く姿を見れば、いろいろなことが見えてくると思います。それを周りに伝え、自分たちにできることを一緒に考えていく。それが、障害のあるかたの自立支援に繋がる一歩になるのではと感じました。
本誌:現地に来ていただければ、みなさまの支援が、どのような目的でどう使われているかも、より、ご理解いただけますね。
福祉と宅急便、立場は違っても、地域を盛り上げていく同じ仲間。
田中:カフェの売り上げの柱はランチですか。
川上:お客様の一番の目的はランチですが、限定数のため売り切れたあと、たくさんのかたが、パンやスイーツを買っていかれます。
田中:提供している商品は。
川上:フォカッチャ3種類、スコーン4種類、ケーキ8種類です。食事パンの予約も多く、生産が追いつきません。そこで、工房で働く人数を増やしましたが、ひとりあたりの作業スペースが狭くなり、思ったほど生産性は上がりませんでした。
出口:それで、先ほど見学した家庭科室をスイーツの工房に改装することにしたのですね。
川上:はい、スイーツとパンを別々の工房で作れば作業効率も良いですし、より広く、安全に仕事ができます。実は助成申請後に、テイクアウト中心の大田原市庁舎店をオープンしたのですが、ここが想像以上に反響が大きかったんです。飲み物以外の売り上げは月10万円程度と考えていたら、口コミで評判が伝わり、職員以外にも多くのかたが来店され、テイクアウトだけで売り上げは月、約28万円と予想の約3倍に。申請が通って本当に良かったとホッとしています。パン工房には新しいオーブンも導入する計画ですし、生産性はぐっと向上します。また、うちで働きたいと希望される障害のあるかたもまだたくさんいますので、その点でも早急に新工房が必要です。
出口:スイーツ工房の完成はいつですか。
川上:7月に着工し、9月末には完成します。
これを機に hikari no cafe のブランドも構築していきたいですし、利用者さんから、パティシエや、ブーランジェとして、一般就労できるかたも育てていきたいと考えています。
出口:これからがますます楽しみですね。
田中:夏のカンパは、何十年と続いていますが、こちらのような施設に役立てられていることを知れば、組合員もきっと喜ぶと思います。宅急便と福祉、立ち位置は違いますが、地域を一緒に盛り上げていく仲間として、お互いに頑張っていきましょう。
川上:ありがとうございます。新工房が完成したら、是非、またいらしてください。