町を挙げて模索した答え.
すごくいい匂い。いただいたのは、外はカラっと、中はジューシーに揚がった鶏の唐揚げ。かし和の郷が自慢の菜種油、菜の雫で調理したお総菜です。
アルファ リノレン酸と、リノール酸が豊富で、善玉コレステロールを増やしてくれると注目される菜種油。一般のサラダ油より酸化されにくく、揚げ物をしても、油がくたびれにくいのが特徴です。かし和の郷は、2009年から、菜種油の製造に取り組んで、利用者の給料増額の原動力にしてきました。昨年度の平均給料は2万4000円です。それまで草取りや資源回収がもっぱらだった、かし和の郷が搾油事業に乗り出した経緯を、所長の佐々木百合子さんに伺いました。
「当事業所の開所10周年をお祝いする催しを2007年に開いたのですが、出席いただいた町のかたがたから『障害のある人たちがこれだけ頑張っているんだから、工賃を上げるためにみんなで何かやってみないか』という声が上がり」、ひとしきり盛り上がったのだそうです。ふつうなら物語はこれでおしまい。でも雫石町の人たちは違いました。町の農林課、政策推進課、観光商工課、総合福祉課に、営農組合。地元で道の駅を運営する第三セクター、株式会社しずくいし までをも巻き込んだプロジェクトチームが発足したのです。そうして各地に視察に赴き、検討を重ねた結果、辿りついたのが菜の花でした。
題して、しずくいし、菜のテクノロジープロジェクト。菜の花栽培を核にして、地域の農業振興、観光振興、環境負荷の低減、福祉の向上を図ろうとする、一挙両得どころか三得も四得も狙った作戦です。
目指したのは、菜の花を核とした好循環.
菜の花の栽培で、農家は遊休農地の活用ができます。開花すればその景観はもちろん、時期を合わせてイベントを企画することで観光にもプラスの効果が期待できます。
実った菜種からの搾油~瓶詰め作業は、かし和の郷の出番。絞った後の油カスも、肥料として販売できます。
菜種油は第三セクターが全国に販売するほか、町内で消費された分はその廃油を各家庭から回収。これもまた、かし和の郷でバイオディーゼル燃料( BDF )に精製し、町の公用車や小岩井農場の農耕機械の燃料として利用するという仕組みです。いいことずくめとは、まさにこのこと。かし和の郷は1リットルにつき800円で搾油作業を第三セクターから受託する計画でした。
絵に描いた餅にはさせない.
しかし、プロジェクトの実行には紆余曲折もありました。最大の危機は生産を始めて4年が経とうという頃。搾油量は順調に増加していきましたが、販売が比例するようには振るわず、「在庫がだぶつく事態になってしまったのです」と佐々木さん。一時は計画の凍結案も出たほどだとか。今は調整しながらの生産となり、当初より料金も見直して搾油1リットルにつき約420円で請け負っています。
事務局長の下川原幸夫さんは、「私たちも、第三セクターに納めた菜の雫を仕入れて、自分たちで販売する努力もしています」。仕入れた菜の雫は法事の引き物用などに販売するほか、自ら運営する総菜店で調理に生かしています。これが人気で売り上げの大きな柱に育っています。
そして、もうひとつ問題となっていたのが保管庫です。菜種は収穫後3ヵ月ほど寝かせてから絞り始めます。この間の保管状態は品質や歩留まりを大きく左右します。しかし、これまでは温度管理できる保管庫がなく、「カビやネズミに見舞われる年もあった」と佐々木さん。「農家のみなさんが一生懸命、収穫してくださったのに申し訳ないし、それでヤマト福祉財団さんに助成を申請したんです」。
今年2月、待望の温度管理が可能なコンテナが設置されました。10トンの保管ができる優れものです。これで無駄にする菜種を大幅に削減でき、搾油、肥料生産、 BDF 精製の三拍子揃ったさらなる収益向上が期待されます。