このページと、以下のページは音声読み上げブラウザに最適化済みです。

2019年度、障害者の働く場、パワーアップ フォーラム

3会場ごとにサブテーマを設定、さまざまな課題を議論

経済的自立力を備えた、新しい福祉を目指して。

本年度は、7月12日、福岡。7月26日、東京。8月23日、大阪の、3会場で開催。

「人がやらないことをやることにこそ、喜びと価値があります」と、ヤマウチ理事長。

「障害者を閉め出す社会は、弱く、もろい」と、きょうされんの藤井専務理事。

人は、自立して生活することで、幸せを感じられる。そのための支援を

障害のあるかたに、やりがいのある仕事と高い給料を、どうやって実現していくか。本年度は、3会場でパワーアップ フォーラムを開催しました。福岡は、より高い賃金を目指して。東京は、共に働き共に生きる、障害者の働く場。大阪は、障害のある人が、働く場に求めていること、と、それぞれ、サブテーマを設け、いま、福祉施設が抱える問題点を、講演者と、来場者が一緒に考えていきました。

冒頭で、ヤマウチ理事長は、「私は、6月に、本財団の理事長に就任したばかりですので、今日は、みなさんと一緒に学ぼう、と、ここに来ました。人は、自立して生活することで、幸せを感じられます。いま、障害のあるかたに一番必要なのは、より高い給料です。それを実現した先輩方の話を聞き、ひとつでも多くのヒントを持ち帰ってください」と、主催者挨拶をおこないました。

時流講座では、きょうされん 専務理事の藤井 克徳 氏が、3年前の、津久井やまゆり園での悲劇を振り返り、「事件の背景にある、歪んだ思想は、いまも根深く残っています」と講演。

旧優生保護法制定から、国内で約48年も続いた優生思想や、第二次世界大戦中にドイツでおこなわれた、ティー フォー作戦(脚注)などの、障害者への、言われなき迫害を説明しました。

「こうした問題を解決するには、実際に、障害者がいきいきと働き、暮らしている姿を、世間に見てもらうしかない、と、私は考えます。ディーセント ワークは、人に与えられた当然の権利です。障害のあるなしに関係なく、だれもが平等に、仕事と、給料を得られる社会を実現していきましょう」と呼びかけました。

来場者の心に響いた、当事者の声

みっつの会場では、サブテーマに合わせ、歴代のおぐら まさお 賞、受賞者が講演しました。さらに、各会場の地元福祉施設で働く6名の利用者さんが、当事者の声を発表。いま、感じている働く喜び、新たに広がってきた夢や目標などを伝えると、会場からは大きな拍手がわきました。

続いて、藤井 氏がコーディネータとなり、シンポジウムへ。来場者がいだく疑問に、登壇者は、それぞれの経験をとおして、その思いを伝えていきました。

2年目の沖縄会場

10月18日、昨年に引き続き沖縄でパワーアップ フォーラムを開催。沖縄の実行委員会が主導となり、3年計画で展開する独自のもので、当財団は段階的に応援をしています。

脚注:治療の見込みがない病人や、障害者、約20万人が虐殺された。ベルリン市内の、ティアガルテン通り4番地に作戦本部があったことから、ティー フォー作戦と呼ばれた。

福岡会場。エルガーラホール

より高い賃金を目指して

一般企業に負けない、強い商品力と、体制作りを

7月12日、パワーアップ フォーラム、本年度最初の開催地、福岡のサブテーマは、より高い賃金を目指して。登壇したのは、夢へのかけ橋 実践塾の塾長の3名です。

「目標は、障害の種別に関係なく、生活できる給料を支給すること。それを可能にするのが、商品力と支援力です」と、社会福祉法人、はらから福祉会の武田 氏。はらから豆腐、牛タンなどは、一般企業に負けない高い品質を誇ります。

「障害が重い人は、個別支援したくなりますが、集団で働くことで、周りのペースに合わせて働けるようになります」。

設備投資も続け、食品衛生法に対応する HACCP も取得。目標の平均給料7万円まで、あと一歩です。

DM の封入、封かんをおこなう、社会福祉法人、武蔵野 千川福祉会の新堂 氏は、「プライバシー マークを取得しているか否かで、受注量は大きく違います。もちろん、働きやすい職場改善や、生産性を上げるための機械化も必要。最も大切なのは、利用者さんの働く力を高めることです」と話します。

「給料が上がるとともに、利用者さんの働く態度も変化します。10万円を超えると、自分だけではなく、周りのサポートも自然にできるようになる。その頼もしい姿を、是非、みなさんにも見てほしいですね」。

弁当と高齢者食の製造、配食サービスで成果を上げる、社会福祉法人、キャンバスの会の、楠元 氏。

「お弁当を写真で残し、日々の商品改善を繰り返しています。食材の仕入れ交渉、原価計算、日々の売り上げ管理など、やるべきことは、たくさんある」と話します。

「高齢者食は、すでに利用者さんの、刻み食、とろみ食などを作っている福祉施設が有利です。いっかしょにまとめて配食するので、効率も良くなります。必要なのは、利用者さんの給料増額のために、なんとしてもやり遂げる、強い覚悟です」。

シンポジウムでは、「給料増額に挑む中、悩んだことや、失敗もあったのでは。それをも乗り越え、進んできたモチベーションとは」といった質問が挙がりました。

社会福祉法人、はらから福祉会、理事長。第3回ヤマト福祉財団賞受賞、武田 はじめ 氏

障害の重い軽いは、支援の差だけで、準備さえ整えれば、なんとかなるもの。悩んだときは、なぜ、この施設を立ち上げたのか、原点に立ち返ります。

社会福祉法人、武蔵野千川福祉会、常務理事。第9回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、新堂 薫 氏

やってできないことはない、いずれはできるようになる、と、利用者さんの力を信じて、焦らずにやってきました。その姿勢は、今後も変わりません。

社会福祉法人、キャンバスの会、理事長。第13回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、楠元 洋子 氏

私も、最初は普通の主婦。ただ商いに興味があり、いろんなかたと出会い、連携し、可能性が広がりました。みなさんも挑戦あるのみです。

当事者の声。働く本人からのメッセージ

社会福祉法人、つくしの里福祉会、第2つくしの里、A さん

11年間も在宅生活だった私が、いまは つうしょし、仕事もしています。仕事をすることで、私は、私の存在価値を知ることができ、一人暮らしを始める決意もできました。作業所は、私の大切な居場所なだけではなく、生きていく自信を与えてくれるところ。これからはもっと高い給料を、さらに、一般就労もできる力を身に付けていきたいと考えています。

社会福祉法人、さざなみ福祉会、さざなみ Aloha、中西 昌夫さん

昔、私自身が障害を受け入れられず、一般就労に失敗。しかし、家族の支えと、 Aloha との出会いで、いまは得意な仕事を、落ち着いておこなえています。もっと趣味を増やし、楽しみたい、そんな心の余裕も生まれました。

東京会場。全社協 灘尾ホール

共に働き共に生きる、障害者の働く場

働く選択肢を広げれば、働く喜びも広がっていく

7月26日に開催した、東京会場のサブテーマは、共に働き共に生きる、障害者の働く場、です。「最初は苦労の連続でしたが、それでも、うちは、働く施設だという信念を貫き、いまがあります」と、社会福祉法人、共生シンフォニーの中崎 氏。クッキーの製造販売で成功し、OEM 受託でさらに売り上げは加速し、多い時の売り上げは、年間約1億9000万円に。しかし、バブル崩壊で、経営難に陥りました。「だれの、なんのための仕事か。原点に立ち帰り、オリジナル商品を柱に、事業を建て直しました。利用者さんが、他の得意な仕事もできるように、事業を広げ、現在は七つ、来年は、10事業所に増やします」。

働く選択肢を広げるという考え方は、有限会社、ドアーズの柴田 氏も同じ。「施設で10万円、もらうより、9万円で良いから企業で働きたい、と、利用者さんに言われ、働き方を選べることの大切さに気づきました」。ドアーズの名は、人の可能性を開く、複数のドアという意味があります。ここでは、シングルマザーや、高齢者など、就職で悩む人たちも雇用しています。いまや、ペットフードの OEM ビジネスで、売り上げは年間、約8億円。現在、近隣の福祉施設と協働するとともに、より多くの施設と、ビジネス ノウハウを共有できる、地域 働くセンターも開始しています。

Endeavor Evolution の松浦 氏は、元刑事という異色の経歴です。福祉の世界に踏み込んだのは、罪を犯した少年たちも、障害のあるかたと共に働くことで、社会復帰の道を開くことができる、と考えたからでした。「障害者が企業で働くための職能や、社会的能力を、段階的に身に付けるステップアップ システムを考え、共感いただいた五つの会社と一緒に仕事をしています。やれること、やれないこと、いろんな経験をして、これが好きだ、という仕事を見つけることこそが大事です」。

シンポジウムでは、「美味しい商品なのに、なぜ、うちは売れないのか」、「障害の種別に関係なく、同等の給料にすべきか」などの質問も。講演者は、自らの経験を例に出しながら、回答していきました。

社会福祉法人、共生シンフォニー、常務理事。第10回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、中崎 ひとみ 氏

自分たちの商品は、つい、ひいき目に見てしまう。本当に売り上げや、利用者さんの給料を伸ばせるのか、経営者として、冷静に判断してください。

有限会社、ドアーズ 代表取締役。社会福祉法人、慶光会 理事長。第12回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、柴田 智宏 氏

利益をどう追求するか、スピーディな経営判断が必要です。施設運営と、企業経営、両方の視点を養い、いまの状況を見直してほしい。

NPO 法人、Endeavor Evolution 理事長。第18回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、松浦 一樹 氏

努力した者が正しく評価されるのが平等な職場です。月給以外に、特別手当や、ボーナスを出し、全員が前向きに進めるようにしています。

当事者の声。働く本人からのメッセージ

社会福祉法人、ネット、仲間の家。芝田 実さん

私は仕事を失ってから、アルコール依存症になりました。しかし、いま断酒できているのは、安心して通える場所、働く場所があるからです。働くということは、人生の質を上げる大切なことなのだ、と、改めて感じています。

社会福祉法人、武蔵野千川福祉会、チャレンジャー。遠藤 智大さん

チャレンジャーで働くことが私の夢でした。ここは、他より、働く力を求められますが、お給料も、たくさんもらえます。親元を離れて暮らし始めました。もっと仕事を覚え、給料を上げ、自分の力で暮らしていきます。

大阪会場。マイドームおおさか

障害のある人が、働く場に求めていること

自由に仕事を選びたい気持ちは、障害者も同じ

8月23日、大阪会場で最初に講演した、社会福祉法人、ぷろぼの の山内 氏は、東京で IT 企業を経営していましたが、喉頭がんで声と職を失いました。「働くことは、人らしく、日々を生きる大切なおこないだと、身をもって知りました」。その後、奈良県で、障害者の就労を IT で支援する事業所を開設。「私たちは、社会人スキルの修得と、魅力的な働く場の提供の、2方向を同時に進めています。現在は、ソフトバンクと提携したロボテックス事業、また、在宅や、テレワークなど、働き方の多様化も進めています」。

大分県で、喫茶、レストランなどを経営し、知的障害者の自立に取り組む社会福祉法人シンフォニーの村上 氏。「利用者さんには、地域で働き、生活していくためにも、ひとりでバスに乗る、お金を使うことなどができるように、ひとりひとりに合わせた訓練をおこなっています」。さらに行政、交通機関などの理解と協力を得て、実際に社会の中で、さまざまな経験を積めるようにもしました。地域のかたの、利用者さんや職員を見つめる目はあたたかく、いつも感謝していると村上 氏は話します。「それに甘えず、商品の品質や、サービスを高めていくこと。それが、安心して働ける、暮らせる生活環境を築くことにつながるのです」。

東京都内で精神科ソーシャル ワーカーとしても長年、活躍されていた上野 氏が大切にしているのは、利用者さん、ひとりひとりに寄り添う姿勢。「収入がない、家族と一緒でなければ暮らせない、将来が見えないと言うかたでも、なにか特技を持っています。それを生かせる仕事作りと、支援を目指しています」。それを妨げるのは、人々の無関心。「ソーシャル インクルージョンという言葉には、ともに行動するという意味もあります。ボランティアなど、多くのかたがオープンに参加できる場を広げています」。

シンポジウムでは、「利用者さん、職員の働く意欲を底上げするには」、「制度の変化に、どう対応すべきか」などの質問に、3人は、それぞれの経験から回答していきました。

社会福祉法人、ぷろぼの、理事長。第18回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、山内 たみおき 氏

職員の、福祉の捉え方は微妙に違います。それを伝え合い、反映した、新しい就労支援の仕組みを作ったことで、離職率を改善できました。

社会福祉法人、シンフォニー、理事長。第19回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、村上 和子 氏

制度に振り回され、本来の目的を見失わないでください。 A 型でも、移行支援でも、大切なのは、利用者さんの夢を叶える事業所であり続けることです。

社会福祉法人、ほうしん会、顧問。東京家政大学、名誉教授。第19回ヤマト福祉財団おぐら まさお賞受賞、上野 容子 氏

制度ありきで事業を考えるのではなく、目の前にいる利用者さんの、「こういう仕事をしたい」を、形にしていく。制度は、そのために活用するものです。

当事者の声。働く本人からのメッセージ

社会福祉法人、かがやき神戸、ぐりぃと。仲井 真紀子さん

私の仕事はパフォーマー。イベントなどでクラウン、道化師を演じます。不安障害があり、見えない車椅子に乗る私は、怖くてバスに乗れません。送迎のある、ここなら安心してかよえ、私らしく働くことができています。

社会福祉法人、亀岡福祉会、第三かめおか作業所。廣瀬 美咲さん

クッキーなどのお菓子を作っています。もっと給料をもらって、貯金したいです。

鈴木 すなお さん

草刈りや、清掃担当です。趣味はテレビゲーム。ジムに通い、目指すは細マッチョ。

目次へ戻ります。
公益財団法人 ヤマト福祉財団 トップページへ戻ります。